最強料理人~三ツ星フレンチシェフの異世界料理道~

神城弥生

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獣人との遭遇

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「だいたいこんなもんか」
「だいぶ遠くまで来てしまったな。さっさと帰ろう。今日こそベッドで寝たい」

 クラーケン戦から二日が経った。ヤシの実は至る所になっていたが、いかんせん依頼の数が多い。テツがその実の熟成具合を見て、最高の状態の物だけを採取していた為、二人は二山も越えて歩き回っていた。

「お前さんのこだわりは大事だが、こんなところで生かさなくても……」
「馬鹿言え。これを楽しみにいしている人が居る以上手抜きは出来ん。全て最高の状態の物を届けなくてはコックとしての名が廃る」

 テツのこだわりにアドルフは呆れながら、二人は帰路に着こうとしていた。その時小さく響く金属音が二人の耳に届いた。こんな自然の中でありえないその音に二人は反応し、そして駆け出す。

 山を少し下り運河沿いに出るとその音の原因がすぐにわかった。先日騎士達が戦っていた上半身人間の魔物と一人が戦っていた。その近くには木片に捕まった人も何名か見られた。恐らく漂流してきたのだろう。

 アドルフがすぐさま腰に据えていたナイフを取り出し魔物に投げつけ、同時にテツが駆け出す。ナイフは真っすぐ魔物の肩に吸い込まれるように刺さり、出来た隙にテツが包丁で魔物の首を切り落とす。

 この世界に来てテツは何度も魔物と戦ってきた。その動きにもう迷いはない。

 戦っていた人は突然の援軍にあっけにとられたが、自分が助かったとわかると安心したのか意識を手放し倒れてしまった。

「獣人だな。先日のクラーケンにやられたのか?」

 アドルフの言葉にテツは驚き、彼らを観察する。確かに皆耳に犬のような、猫のような耳が付いている。腰の部分にふさふさとした尻尾まである。地球だったらコスプレイヤーだが、こっちにはそんな文化はないらしい。

 そんなテツの気持ちを察したのか、アドルフが苦笑しながら促す。

「今日町まで運ぶのは得策じゃない。こいつらの体力が持たないだろうからな。」

 アドルフの指示通り、二人は山の中腹まで彼ら4人を運び、テントを張ることにした。

 その間アドルフは凍えていた4人を温めるため焚火を用意し「光魔法」という回復魔法で彼らの体力を戻す。テツは彼らが起きた時用に暖かく胃に優しい料理を用意する。

「今日は何にするんだ?」
「異種族の人たちはヤシの実が好きなんだろ?だから今日はヤシの実を使ったリゾットにするよ」
「ヤシの実のリゾット!?うめぇのか?まぁお前さんが作るんだから美味いんだろうな」

 獣人達の為に作るのに、それ以上に喜んでいるアドルフにテツは苦笑しながら調理に取り掛かる。

 作り方は以前作ったフルーツのリゾットと似たようなものだ。だが今回獣人の人達は数日間漂流し、ろくに食事をとっていないだろう。なので米は出来るだけ柔らかくし、胃に優しいものを作る。

 ヤシの実は所謂「ココナツミルク」になる。調理のコツとしては火にかけすぎるとココナツの香りが飛んでしまうという事への配慮だろう。

 鍋に早めに入れるなら弱火で、出来れば後から入れ最低限煮込んで完成を目指す。ココナツミルクで気を付ける事はその一点に限る。

 テツが調理を開始し、アドルフが懸命に彼らの治療にあたり2時間。日も陰ってきた頃、匂いに誘われたのか、4人とも起きてテントから起き出してきた。

「こ、ここは?」

 警戒しているのだろう。一人の獣人がそう呟き、残りの3人はその一人の獣人を守るように剣の柄に手を置き辺りを警戒していた。

「お。起きたか。体調はどうだ?」

 そんな彼らに気づき、焚火に気をくべていたアドルフが敵意を抱かせないように優しく語り掛ける。

 彼らはしばらく黙り辺りを警戒し、そしてテツとアドルフが敵か味方か判断するために睨みつけていた。が、その沈黙を彼らが守っていた真ん中にいる女性の獣人の腹の音が破る。

「くくく。俺たちが敵かどうか判断するのは、その腹を満たしてからでも遅くないんじゃないか?」

 くつくつ笑いながらテツが彼らに言うと、4人の腹の虫は連動するように次々に泣く。だが顔を赤くしながらも、彼らはその警戒を怠らず動かない。

 仕方ない、とアドルフが先に皿に盛った料理を受け取り、がつがつと食べ始める。

「うめぇなこりゃ。優しい味付けに鼻から抜けるヤシの実の香りがたまらん」

 まるでグルメリポーターのようなアドルフのコメントに彼らは我慢できなくなったのか、剣の柄から手を離し尻尾をぶんぶんと振りながらテツの方を見ていた。

 まるでペットのような光景にテツはくつくつ笑いながら、さらに料理を盛りつけ彼らに差し出す。

「俺は料理だけは自信あるんだ。良ければ食べてみてくれないか?せっかく作った物が冷めてしまっては悲しいからな」

 先頭にいた女性の獣人がゆっくりと近づき、そして乱暴にその皿を受け取る。くんくんと匂いを嗅ぐとスプーンでゆっくりそれを口に運び、そして目を見開く。

「ひ、姫様!!どうぞこれを!こんな美味しいリゾットは初めてです!!」

 辺りを漂う甘い香りに耐えられなかったのか、既によだれを垂らさんばかりに料理を見ていた女性がそれを受け取り口に運び。

 その幸せそうな顔を見て、残りの三人もすぐさま動き、そしてテツから奪うように料理を受け取り次々に口に運んでいく。

「ほら、そんなに慌てては胃が驚いてしまうぞ?水もあるから飲んでゆっくり食べなさい」

 用意しておいた簡易テーブルに水を置くと彼らは座り、目の前の料理を食すことに全神経を注いでいた。

 テツとアドルフはそんな彼らを微笑みながら見守ると自分達も食事を始めた。

「かたじけない。名も知らぬ貴殿らに助けてもらったばかりかこんな美味しい料理まで提供してもらい感謝しかない」

 そう語る彼らをテツは改めてよく観察する。

 今は話すのは女性の獣人だ。犬のような茶色く可愛らしい耳が頭から生え、同色の尻尾が腰の所から垂れていた。だがそれ以外は人間とほぼ変わりないように見える。そして兎に角美人だ。出るところは出て、スタイルはとてもいい。地球なら間違いなくモデルにスカウトされているだろう。

 他3人も女性の獣人だ。二人は狐の獣人だろうか。とてもふさふさした耳と尻尾をしていて、彼女たちも背は小さいがとても綺麗だ。そして何より二人は同じ顔をしていた。恐らく双子なのだろうとテツは推察する。

「私からも。助けていただき本当にありがとうございます」

 そして先ほど3人に守られていた『姫様』と呼ばれたこの女性。まだ15かそこらだろう。初々しさも残しながら将来絶対美人になるとテツは思った。そしてどこか気品を感じる所作で二人にお礼を述べている。

「いや、構わねぇよ。たまたま見かけたから助けただけだ。丁度ここらで休もうとしてたしな」

 嘘つけ、さっき腰が痛いから宿で寝たいと言っていただろう。と思いながらもテツはその事を言わずアドルフに同意するかのように頷く。

「とりあえずお互い腹も膨れたことだし少し話をしよう。単刀直入に聞くが何があった?まぁ予想はついているが」

 そう問いただすアドルフに、彼女らはゆっくりと語りだした。

 と言ってもそんなに壮大な話ではない。ただ獣国からこちらのギガ王国に渡る途中でクラーケンに会い、そして船は大破。何とか砕けた船の木片に捕まった4人は先の所に流れ着いたそうだ。

「あれから3日は経ったでしょうか。飲まず食わずでいたので、先ほどの下級の魔物にさえてこずってしまっていたところを貴殿らに助けられたのだ。本当に礼を言う」

 そう言い頭を下げ話を締めくくる。

 それは大変でしたね。とテツは言いつつ納得する。3日も飲まず食わずでいたから、10人前も用意したリゾットが無くなったのか、と。

「成程。話は分かった。だが肝心なところを話していないな。あんた、獣国の第二王女のメアリー王女だろ」

 アドルフの一言にテツは目を見開き、王女を除く3人は素早く立ち上がり剣を抜く。だがメアリーは一瞬驚いた素振りを見せるが、すぐに表情を戻し微笑み答えた。

「あら。私の事をご存知でしたとは光栄ですわ。貴方方のお名前も教えて頂けると嬉しいですね」

 メアリーは護衛の三人を手で制しながらアドルフに問いただす。流石にこのような状況でも堂々としている、アドルフはその事に感心しながら質問に答えた。

「俺たちはただの冒険者だ。言葉使いが無礼なのは勘弁してくれ。俺がアドルフ、こっちがテツだ。それとそっちの姉ちゃん。いくら飯を貰って安心したからって、見知らぬ相手お前で「姫様」呼ばわりはまずいと思うぜ?」

 剣を向けられながらもアドルフはその事を気にしていない様子で堂々と答える。テツは何が何だか分からないといった表情だ。

 この世界が王政だという事は以前旅の道中でアドルフに聞いていた。だが地球とは違い、貴族や王族の持つ権力は絶大だ。王族が「死ね」と言えば平民はそれに従わなければならない。それほどの権力があるらしい。

 アドルフに指摘された女性は顔を顰める。確かにこんな見知らぬ男性二人の前で正体を晒すのは得策ではなかった、その通りなので彼女は何も言い返せないでいるのだろう。

「ふふ。あまりこの者たちを責めずにおいていただきたい。確かに命の恩人に正体を隠していた事は謝ります。ですがこのような状況なのでそこはご理解いただけるとありがたいです」

 15歳かそこらで部下を庇い、自身の状況も冷静に見れている。その頃は料理の事しか考えていなかった自分とは大違いだとテツは驚く。

「別に構わないさ。あんたが王族だろうと貴族だろうとな。ただ『他国のお偉いさんを助けました。町まで連れて行ってじゃあさよなら』って訳にもいかないだろ?トラブルの匂いがするのさ。それを知らずに渦中に巻き込まれたくないわけよ。俺たちみたいなその日暮らしの冒険者には」

 「チッ」と舌打ちする部下を再び手で制しメアリーは再び微笑む。

「ご心配なく。お礼は必ずしますし、私達は町にさえ連れて行っていただけるなら後は自分達で何とかします」

 お互い思う所があるのだろう。アドルフとメアリーは微笑みあいながらもその眼は笑ってはいない。緊迫した空気の中、意外にもそれを破るのはテツだった。

「お話し中申し訳ありません。お一つ伺ってもよろしいでしょうか?」

 ここで口を開いたテツに対し、警戒心を怠らず微笑みながらメアリーは「私にお答えできることならば」と返す。

「王族ってどんな料理を召し上がっているのですか?」
「……は?」

 緊迫した状況でも料理の事しか考えていない料理馬鹿に、メアリーは驚き、アドルフは顔を手で覆いながら天を仰いだ。
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