最強料理人~三ツ星フレンチシェフの異世界料理道~

神城弥生

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一連の騒動

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 二人が歩くたびに、白い砂浜は音を立て、二人の足跡を残していく。小島には岩や草花なども生えているが、その周りは綺麗な白い砂浜となっている。運河は穏やかで、水面は太陽の光を浴びキラキラと輝いていた。この風景を見ていると、ここが地球なのか異世界なのか分からなくなるな、とテツは思う。

「……こんな事、お前さんに頼むつもりはなかったんだが」

 皆からある程度離れた所で、二人は砂浜に座り運河を眺め、そしてアドルフが話しをきりだした。

「色々と博識なテツの知恵が借りたくてな。だがこの話を聞いたら、もしかしたらお前さんも危険に巻き込んでしまうと思ってやめていたんだが……」

 なんだか煮え切らないアドルフの言葉に、テツは苦笑する。これじゃまるでカップルの会話だ。

「なんだよ、らしくない。とりあえず話してみろよ」

 運河に小石を一つ投げ入れ、テツがアドルフに話を促す。アドルフは頭をガシガシ掻き、小石を一つ運河に投げ入れ、そして「ああ、そうだな」と切り出す。

「お前さんに聞きたかった事は、まず前提として、始まりの街の地竜のように、クラーケン、サーペントもまた、人為的なものによる出現だったとしてだ。お前さんならどういうつもりでそれをやる?」

 小石を投げようとしたテツの動きが止まる。あまりにもおおざっぱな話に、テツはどう答えていいか分からなかったからだ。それを察したのか、アドルフは話を続けることにした。

「メアリー王女が王国に来ることは非公式だった。だから一部の人間しかそれを知らない。今回騎士隊長ケイトや俺たちが、クラーケンやサーペントに対し対処したのは、彼女が関わっていたからだ。彼女がいたから、騎士は素早く行動し、そしてそれを見た俺たちも協力した。つまりメアリー王女が居なかったら、まだ魔物に対して対処できておらず、恐らく王国と異種族は分断されていた」

 確かに、メアリー王女が居なかったらそういうことになっていただろう。だが何故そんな事をするのか、何が目的でそれをしたのか。恐らくアドルフの聞きたいところはそこだろう。

 アドルフは、小石を運河に投げ入れ、そして言葉を続ける。

「実は俺はずっとその犯人を追っていた。恐らく組織的なものがあるのだろう。そしてその途中でテツと出会った」

 アドルフとの出会いは、アドルフが騙され置き去りにされる所から始まる。しかしそれは偶然会った商人に騙されたものではなく、アドルフは初めから消えた護衛対象の商人を狙っていたという。

「組織については未だ何も分かっていない。だが確かにそいつに対し、俺は何かを感じたんだ。こいつは危険だと。そこで俺は無理やり奴の護衛の仕事をしたんだが、まぁ結果として警戒されたのだろう。あの草原に置き去りにされたってわけだ」

 テツが一か月間宿の手伝いをしている間、アドルフはずっとその消えた商人の行方を追っていたという。

「だが奴の居場所は分からなかった。そして地竜が現れた。結果としてお前さんとギルマスが倒してくれたが、俺はもしかしたらそれが何かの始まりなんじゃないかと感じたわけだ」

 だが次の目的地が定まらないアドルフは、とりあえずテツと行動を共にすることにした。俺の勘も捨てたもんじゃなかったな、とアドルフは小石を投げながら言った。

「つまりだ。俺はこの一連の流れが、その組織によるものだと思っている。そしてそれはまだ続くだろう。だが狙いがわからない。もし王国と異種族達を分断させたとして、何がしたいのか」

 テツは小石を一つ取り、運河に投げる。目を瞑り、一度頭の中を整理してから口を開いた。

「もし、もしメアリー王女が居なかったら。騎士隊長ケイトが来なかったら、クラーケンやサーペントの対処にはどれくらいかかるんだ?」
「そうだな。速くて一月、もしかしたら三カ月はかかっていたかもな」

 この運河は国と国を結ぶ唯一の道であるが、だからといって三月塞がったとしても、両国にとってそれほど大きな損害はない。寧ろ慎重に魔物の動向を伺い、そして対処するのが国だろう。まぁその前に、物好きな冒険者が倒すかもしれないが、とアドルフは答えた。

 早くて一か月。一か月で何ができるのか。アドルフの話から、国の経済を混乱させているわけではなさそうだ。ただの嫌がらせ?ならアドルフはわざわざこんな話をしないだろう。テツは色々考えてみるが、答えが見つからない。

「質問を変えようか。もし国を混乱させる気でいるなら、王国と異種族の国、どっちだと思う?」

 悩むテツに、アドルフは質問を変えてきた。これまでの経緯を考えるなら、とテツは悩むことなく答える。

「王国だろうな。それに遅くて三カ月と言ったが、俺はもっとかかる可能性もあると思う」
「どういうことだ?」

 慣れない考えを纏め、テツは答える。

「まず地竜の件。あれもその商人からすれば想定外だったんじゃないか?確かに召喚魔法のスクロールを渡した時点で、それをいつ使われるかは分からない。だがまさか一月以内に使われるなんて思ってもいなかったろうさ。もしそこまで考えていたとしても、まさか早々に討伐されるとは思わなかったはず」

 簡単に討伐されるものだったら、初めからそんな物に何かを期待しないし、そもそもそんなものを使うはずがない。

「だとしたらだ。本来なら、地竜発生と、クラーケン、サーペントの出現時期は被る予定だったんじゃないか?スクロールを持っていたあいつ等なら、いつまでもそれを持ち歩かず、ある程度時間が経ったら我慢できず使いそうな気がする。そうすれば国の対応はさらに遅れる。何せどちらも放っておけば、国にとってかなりの損失になるからだ」

 もし異種族の国を狙うなら、初めからそっちで事を起こすはず。メアリー王女が行動したように、そちらの国でも魔物の出現には敏感になっており、かなり警戒しているはず。もし他国でその被害が出たのなら尚の事。国を狙うのが難しくなってしまうだろう。

「だからこそ、組織の狙いは王国とみていいんじゃないか?次に何故それをするのか。それはまだ分からないが、一連の共通点は「国境付近、国の外れ」で起きているという事だ。現に騎士隊長ケイトがそうであるように、もし国境付近で問題が起き、地方で対処できなければ、王都からわざわざ兵を出さなければならなくなる。逆に言えば、王都の兵が離れ、そして暫く返ってこられなくなるだろう」

 だから狙いは王国、そしてその中心に位置する王都だと思う。そう締めくくり、テツはゆっくりと息を吐いた。こういう考えはやはり得意ではないな、と自分で苦笑する。

 アドルフは暫く無精ひげの生えた顎に手を置き、そして思考する。

「確かにそうだ。異種族の国を狙うなら、警戒させる前に叩いた方がいい。敢えてそうしているのかもしれないが、リスクが大きすぎるな。そうか、王都か」

 ぶつぶつと人独り言をいい、納得したのか。テツの方を向き、そして頭を下げた。

「ありがとうテツ。おかげで考えが纏まった。それからここでお別れだな」

 テツは運河の水の音が遠くなっていく気がした。突然のアドルフの言葉に、テツは顔を顰めることしかできなかった。
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