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待ち伏せ
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アレクサンドラ次期国王との話も終わり、二人はそろそろ城を出る支度をしようと考えていた。報酬内容はすぐに揃うだろう。それにアドルフの物は、直接カプリ伯爵家に届くことだろうし。二人が部屋から出て、与えられていた客間に戻ろうと角を曲がると、そこには彼らが待っていた。
「遅かったな。俺様を待たせるとはいい度胸だ」
アドルフは彼らが待っている事を予想していたのだろうか。表情一つ変えずに、相手の眼から視線をそらさず言葉を返す。
「待たせるも何も、ここで会う約束をした覚えはないな。チェスター兄さん」
無機質なアドルフの言葉に、チェスター・ダンベルは顔を顰めアドルフを睨む。隣にいるマリー・アドルフは相も変わらずただ微笑み、だがその眼の奥には何が映っているのかは、テツには分からなかった。
二人の後ろには、それぞれ年配の執事が一人に騎士が二人。どちらもかなり地位が高いため、それくらいは当たり前なのだろう。アドルフとチェスターが暫く睨みあっていると、埒が明かないと判断したのだろう。マリー・ダンベルが痺れを切らしたように口を開く。
「お兄様方。折角久しぶりの再会を、紅茶やクッキーのないこんな冷たい廊下で話し合うおつもりですか?宜しければ皆様、私の家へお越しくださいませ。少なくともここよりは話しやすい環境を調えますわ」
兄弟の睨みあいに茶々を入れな、そんな感情を込めてアドルフとチェスターがマリーを睨むが、痺れを切らして少し苛立っているマリーの丁寧な言葉とは裏腹の強めな言葉に、二人は視線を伏せる。どうやらこの勝負は妹の勝ちらしい。
「アドルフ、マリー嬢の仰る通り久しぶりに兄妹水入らずで話をしてきたらどうだ?俺は先に旅の支度でもしているから」
テツの言葉に、アドルフは捨てられた子犬のような目でテツに振りかえる。だがテツはアドルフにただ優しく微笑む。その顔には「早く行け、俺を面倒な兄妹喧嘩に巻き込むな」と書かれてあるのをアドルフは理解し、一層瞳を潤ませてテツを目を見つめ続ける。何故おっさんに潤んだ瞳で見つめられなければならないのか。テツは額に青筋を浮かべながらアドルフに無言で微笑み続ける。
「あら、何を言っているのかしら?貴方も来るのですよテツ。私は貴方の話も聞いてみたいのですよ」
その言葉にテツは固まり、更に先ほどとはうって変わってアドルフがこれ以上ない程のしたり顔を自分に向けている事にテツは更に額に青筋を浮かべた。何故自分がこんな面倒事に巻き込まれなければならないのか。何故いつも面倒事を持ってくるのがこのおっさんなんだ。何故このおパンツ野郎は先ほどまで泣きそうな顔をしていたのに、何故今は勝ち誇ったような表情を浮かべているのか。一瞬込み上げた不満も、年のせいだろうか長くは続かず、テツは小さくため息をつき肩をすくめる。
「分かりました。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
一瞬の間はあったものの、マリーはテツの返答に満足そうに頷き、傍にいた執事にアイコンタクトをとるとすぐに近くの階段を降りて行ってしまった。テツにはその後ろ姿がどこか、先ほどまでの優雅な女性とは違い、嬉しそうにはしゃぐ少女の様に感じてしまった。
マリーが階段を降りていくのを確認し、チェスターは一度アドルフを睨みなおし、直ぐにマリーの後を追っていった。
未だテツにドヤ顔をするアドルフに腹が立ち、テツはアドルフの尻を蹴り上げ歩き出そうとする。
「いやぁ。悪いな、なんか巻き込んだみたいで。ドンマイ、ドンマイ」
一人では心細かったのか、ただテツを道ずれにして喜んでいるのか。アドルフのその全く反省のない弾んだ声にテツはイラっとし、テツは追い抜きざまにもう一度アドルフの尻を蹴り上げ、そして二人はマリーの後を追って階段を降りていった。
「遅かったな。俺様を待たせるとはいい度胸だ」
アドルフは彼らが待っている事を予想していたのだろうか。表情一つ変えずに、相手の眼から視線をそらさず言葉を返す。
「待たせるも何も、ここで会う約束をした覚えはないな。チェスター兄さん」
無機質なアドルフの言葉に、チェスター・ダンベルは顔を顰めアドルフを睨む。隣にいるマリー・アドルフは相も変わらずただ微笑み、だがその眼の奥には何が映っているのかは、テツには分からなかった。
二人の後ろには、それぞれ年配の執事が一人に騎士が二人。どちらもかなり地位が高いため、それくらいは当たり前なのだろう。アドルフとチェスターが暫く睨みあっていると、埒が明かないと判断したのだろう。マリー・ダンベルが痺れを切らしたように口を開く。
「お兄様方。折角久しぶりの再会を、紅茶やクッキーのないこんな冷たい廊下で話し合うおつもりですか?宜しければ皆様、私の家へお越しくださいませ。少なくともここよりは話しやすい環境を調えますわ」
兄弟の睨みあいに茶々を入れな、そんな感情を込めてアドルフとチェスターがマリーを睨むが、痺れを切らして少し苛立っているマリーの丁寧な言葉とは裏腹の強めな言葉に、二人は視線を伏せる。どうやらこの勝負は妹の勝ちらしい。
「アドルフ、マリー嬢の仰る通り久しぶりに兄妹水入らずで話をしてきたらどうだ?俺は先に旅の支度でもしているから」
テツの言葉に、アドルフは捨てられた子犬のような目でテツに振りかえる。だがテツはアドルフにただ優しく微笑む。その顔には「早く行け、俺を面倒な兄妹喧嘩に巻き込むな」と書かれてあるのをアドルフは理解し、一層瞳を潤ませてテツを目を見つめ続ける。何故おっさんに潤んだ瞳で見つめられなければならないのか。テツは額に青筋を浮かべながらアドルフに無言で微笑み続ける。
「あら、何を言っているのかしら?貴方も来るのですよテツ。私は貴方の話も聞いてみたいのですよ」
その言葉にテツは固まり、更に先ほどとはうって変わってアドルフがこれ以上ない程のしたり顔を自分に向けている事にテツは更に額に青筋を浮かべた。何故自分がこんな面倒事に巻き込まれなければならないのか。何故いつも面倒事を持ってくるのがこのおっさんなんだ。何故このおパンツ野郎は先ほどまで泣きそうな顔をしていたのに、何故今は勝ち誇ったような表情を浮かべているのか。一瞬込み上げた不満も、年のせいだろうか長くは続かず、テツは小さくため息をつき肩をすくめる。
「分かりました。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
一瞬の間はあったものの、マリーはテツの返答に満足そうに頷き、傍にいた執事にアイコンタクトをとるとすぐに近くの階段を降りて行ってしまった。テツにはその後ろ姿がどこか、先ほどまでの優雅な女性とは違い、嬉しそうにはしゃぐ少女の様に感じてしまった。
マリーが階段を降りていくのを確認し、チェスターは一度アドルフを睨みなおし、直ぐにマリーの後を追っていった。
未だテツにドヤ顔をするアドルフに腹が立ち、テツはアドルフの尻を蹴り上げ歩き出そうとする。
「いやぁ。悪いな、なんか巻き込んだみたいで。ドンマイ、ドンマイ」
一人では心細かったのか、ただテツを道ずれにして喜んでいるのか。アドルフのその全く反省のない弾んだ声にテツはイラっとし、テツは追い抜きざまにもう一度アドルフの尻を蹴り上げ、そして二人はマリーの後を追って階段を降りていった。
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