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人攫いとアジトと

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 次の日はエマと共に街に出ることになった。流石にエマの付き人が俺だけでは不安だという伯爵の考えで執事も一緒にだ。

 あの時魔物一匹倒せず逃げていた爺さんが一緒でもあんまり変わらないだろうと思ったが、そこは黙っておく。

「さぁ!!今日は沢山買い物をするわよ!!」

 エマは張り切り大通りをどんどん進んでいく。俺と執事は彼女に着いていくだけで一苦労だった。エマは何を買うわけでもなく店に入っては服を試着し、装飾品を付けては外し、見て回っていた。

「きっとお嬢様はチャールズと一緒に色々見て楽しみたいのですよ」

 執事さんがこっそり俺に教えてくれる。確かにエマは友達がいないと言っていたから、俺と買い物を楽しみたいのかもしれない。

 だが俺はそんな彼女を、死んでしまったビビと重ねてしまってみている。もし彼女が生きていたらこうして楽しく買い物が出来ていただろう。そう言えば彼女と一緒に買い物をしたことがなかったな、何もプレゼント一つしたことがなかったな、と色々思い出してしまう……。

「ズ!!チャールズ!!大丈夫?」

 呼ばれる声にハッとし気が付くと執事とエマが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。また俺は泣いていたようだ。全く最近は涙もろくて駄目だな……。

「すみません。大丈夫です。」
「そう、気分でも悪くなった?」
「いえ……。こうして色々な店を見て回ると、昔家族とそうしていた事を思い出してしまって」
「そう……」

 俺は商人の子共だった設定を思い出しながら嘘をつく。

「でも安心して!これからは私達が家族なんだから!!もうチャールズは一人じゃないわ!!」

 俺を抱きしめながらエマはそう耳元で囁いてくれる。この子は元気で、真っ直ぐでいい子だ。そう言う所もビビに似ているかもしれない。

 俺は「ありがとうございます」と言って笑顔をつくり二人を安心させる。

「チャールズ!!貴方笑えるのね!!キャーどうしよう!!笑顔がとっても可愛いわ!!」

 エマはピョンピョン跳ねながら再び俺を抱きしめる。いや、そんなこと言われても嬉しくないのだが、と言おうとしたのを何とか堪えてエマを引き離し再び買い物を再開する。

「それにしてもチャールズの体は筋肉質なのね。まるで男の子みたいだわ!それほど商人の仕事は大変だったのね。服装も男の子みたいだし。もう少し可愛らしい服を着た方がいいわよ?」
「いえ、お気遣いなく」

 本当にお気遣いなく、と心から思いながら自分が女装をした格好を想像する。いや、やはり止めておこう。本当に気分が悪くなってくる。

 だがエマと長く一緒にいると本当に女性の格好をさせられそうだ。早めに消えた方がいいな。

「ぶー。そんなこと言ってると彼氏の一人もできないわよ?ってきゃ!?」

 エマは体つきのいい男に手を引かれ無理やり近くの路地に連れていかれる。俺と執事は慌ててその路地に入り男を追いかけると路地の少し開けた所でナイフを持った男5人に囲まれてしまう。

「な?ガキと執事だけだろ?」
「けっけっけ。本当だな。おい爺さん有り金全部出せや。そうすればこのお嬢さんは悪いようにはしないぜ?」
「そ、そんな!お嬢様……」

 男たちは金目当てだったようだ。だが金を渡して本当にエマを返してくれる保証尾はどこにもない。

 執事さんは戦えない。となるといざと言うときは俺が出るしかないな。そう思っていた時執事さんがおとなしくお金の入った袋を渡す。

「おお!!さすが!!こんなに入ってるぜ兄妹!!」
「けっけっけ!!今日は大儲けだな!!」
「は、早くお嬢様を返してください!!」
「はー?「悪いようにはしない」とは言ったが「返す」とは言ってねぇだろ!!ギャハハハハ!!」

 男たちは笑いながら執事を壁際まで突き飛ばす。今だな。

「お嬢様は大事に俺たちが……あれ?」

 俺は素早く剣を抜きエマを掴んでいた男の腕を切り落とす。男は一瞬何が起きたか気づかずにいたが何が起きたかわかると叫び声をあげてもだえ苦しみだす。他の男たちも一瞬固まるがすぐにナイフを構え戦闘態勢に入る。こうなるとエマが邪魔になってくるな。

「お嬢様、ちょっと失礼します」
「え?きゃ!?」

 俺はエマを執事が座っている壁際まで押し、魔法で氷の壁を作る。これで二人の心配はしなくていい。

「くそ!!こいつ魔導士か!!」
「しかも「氷魔法」かよ!!結構高度な魔法だぞ!!」

 相手は残り四人。

 俺は殺せる。人を殺せる。こいつらは悪だ。俺は殺せる。こいつらを殺す。ここで殺す。

 軽い深呼吸の後、地を這うように走り、まずは二人組の間に入る。

「なめんなクソガキ!!」

 一人の男がナイフを突き出して来るがそれを体制を低くして躱し片足を切り落とす。もう一人の男がナイフを投げてくるのをギリギリで躱し一気に近寄り横腹を切り裂く。

 あと二人……。

 男たちが何かわめき散らかしてるが今の俺には聞こえない。足に魔力を流し「中級土魔法」の「サンドニードル」を使い二人の足元から鋭く尖った土の槍を発生させ突き刺す。一人の男はそのまま串刺しになるが、もう一人には躱されてしまった。

「くそが!!」

 残った男は魔法を躱した後そのまま逃げ出してしまった。ここで追いかけてもいいがあまり魔法を見せすぎるのもよくない。俺が伯爵を襲った犯人だとばれてしまう恐れもあるから。

 執事とエマを覆っている氷の壁を砕き二人を起き上がらせる。

「……貴方がこれを一人で?氷のせいであまり見えなかったけど凄いのね」
「助かりました……。私一人ではお嬢様を助けることが出来ませんでした。しかしこの街も物騒になったものです」

 二人は大したけがもなく掠り傷だけで済んだようだ。直してあげたいが「光魔法」は使わないでおこうと思う。俺達は今日は素直に帰宅することにした。執事さんは帰り際ちゃっかりお金の袋を奪い返していた。

「本当にありがとう。一度ならず二度も娘を救ってくれて」
「いえ。従者なら当然の行為かと」

 屋敷に帰り執事が伯爵に伝えたのだろう。客間で休んでいた俺とエマの元に伯爵が飛んできてお礼を言われる。

「そう言ってもらえると助かる。そして済まない。エマの言っていた通りだった」
「でしょ?だからパパは心配症なんだって!!」

 聞けば伯爵は俺の事を疑っていたようだ。先の街で伯爵を襲ったのはもしかしたら俺なんじゃないかと疑っていたらしい。だがエマがそれを否定。そして街で買い物をし俺の動向を探っていたようだ。実は俺たちの背後には兵士が紛れて様子を見ていたようだ。だったら助けろよな、とも思ったがああいう緊迫した状況になってこそ本性をさらけ出すと思ったらしい。もちろんあの男たちは仕込みではなく正真正銘の人さらいだったらしいが。

「だがこれで君の事を心から信用できるよ。そして改めてありがとう。」
「チャールズ。私からも助けてくれてありがとう。やっぱり私の目に狂いはなかったわ!!」

 大いに狂っているがそれは言わないでおく。俺の目的はこの伯爵だ。

「一つ聞いてもいいですか?この街も物騒になったってどういうことですか?」
「うむ。実はこの街を収めるものとしては恥ずかしい話だが最近特に人攫いの類が増えてな。困っているのだよ」
「昔はこの街もこの国も平和だったみたいなの。でも鋳物国王になってから」
「こらエマ。そう言うことを言うんじゃない。どこで誰が聞いているかわからんぞ?」
「そうね。ごめんなさい」
「んん。それに最近起きたスタンピートのせいでこの辺りは物騒になってきているのだ。盗賊たちがアニの街の廃墟を縄張りにしているという話もあるし少しずつこの辺りにそう言った輩が集まりだしていることは明白だ。二人もくれぐれも気を付ける様に」

 伯爵はそう言い残すと部屋から出ていく。今日もあまり体調がすぐれないようだ。

 この日はエマは勉強をし、俺はそれを眺めるだけで終わった。だが俺の頭の中にはアニの街に盗賊が入り込んだという話が残っていた。アニの街はそう言う風にならないように金品を持ってきて焼け野原にしたはずだ。だが完璧に全ての家を壊したわけではないし城壁も残ってる。盗賊にとっては都合のいい状態になって知ったのかもしれない。

「はい!!チャールズ!!これ今日のお礼!!」

 勉強を終えたエマが突然振り返り綺麗な一輪の花が彩られた髪留めを俺に渡してくる。

「貴方綺麗な髪してるのにぼさぼさでみっともないわ!!だからこれを使いなさい!」

 そう言うと俺の髪を束ねて髪留めをつけてくれる。

「ふふ。やっぱりよく似合うわ!可愛いわよ!!」

 嬉しくないんだが……。だがまぁ今は貰っておこう。

「それとね、お願いがあるの……」

 月が上り街が静寂に包まれる頃、エマと俺は屋敷を抜け出し外に出る。屋敷には地下通路があり街の外に出る道と、街の中にある空き家の床下につながる二つがあるらしい。俺達は空き家から慎重に出て夜の街を駆ける。

「いいですか?絶対に約束は守ってくださいね?」
「わかってるわよ。チャールズはパパと同じくらい心配性ね。絶対貴方から離れない。いう事をちゃんと聞く。でしょ?」

 エマのお願いとは最近この街で悪さをしている人攫いのアジトを見つけたから確認しに行ってほしいとの事だった。最初は断ったがあまりにもしつこく言われ続けたので仕方なく了承したのだった。アジトを見つけるだけ。突入はしない。そう言う約束だ。

「しかしアジトなんか見つけましたね」
「昨日襲ってきた男のポケットにこれが入っていたのよ。このメモ書きが!!」

 見ると確かに攫った後の集合場所、合言葉などがしっかりそこには記されていた。よくあの状況でそんなこと出来たなと感心する。

「止まって!!」

 路地裏を抜けメモに記されていた薄暗い道の先にある一軒家の前には用心棒と思われる男たちが4人立っていた。建物は街のはずれにある4階建ての石造りの建物だ。男たちは武器を持っていて何か雑談している様子だった。

「やっぱりメモにあった場所はアジトだったのね」
「そうですね。もうここまで確認出来たらあとは兵士に任せましょう。我々はここで……」
「おや?もう帰っちちゃうんですか?ゆっくりしていきなさいな」

 背中から聞こえる図太い声に驚き振り返るとそこには背の高い痩せ程った男が立っていた。彼は杖を持っている事から魔導士だとわかる。

「こんなところに可愛い猫ちゃんが二匹も。さ、可愛がってあげるから素直にこっちにいらっしゃい」
「だ、誰が行くもんですか!!」

 エマは俺の後ろに隠れるが、先ほど建物の前にいた4人組もすでに俺たちのすぐ背後に来てニヤニヤ笑っていた。

 いつから付けられていたんだ?全く気付かなかったことからこの魔導士は相当腕が立つのかもしれない。どうにかエマだけでも逃がさないと……。

「あら?貴方も魔導士ね。「ウォーターカッター」」

 俺が魔力を練った瞬間それを見破られ俺とエマの間に魔法を放ってくる。それを避けるためにエマは俺から離れてしまい、その隙に男に捕まれて建物の中の方へ連れていかれてしまう。俺は必死にそれを阻止しようと剣を振るうが男たちの剣に阻まれて中々進むことが出来ない。

「クソ!!「ファイアーボール」!!がっ!?」

俺はできるだけ沢山の「ファイアーボール」を空に打ち上げ爆発させる。これに兵士が気づいてきてくれるといいんだが。そう考えた矢先に後頭部に強い衝撃を感じ一瞬意識が飛ぶ。どうやら魔法を使った隙に背後から襲われてしまったようだ。

「全く、「詠唱短縮」が使えるなんて。この子は高い値が付くわ。丁寧に扱いなさい」

 魔導士の声に従い男たちに連れられ俺も建物の中へ運ばれてしまった……。
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