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ホームと必要悪と

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「「ハント」ですか?いえ、この街に来たのは最近なのでその名は聞いたことないですね」
「そうか。「ハント」最近活躍している奴隷商でな。儂もよくお世話になっているんだ」
「ゴンザ様が指揮っているのですか?」
「ああ、そうとも言うしそうじゃないともいう。兎に角だ。お前も入れ。その仲間に」
「ゴンザ様の鶴の一声で入れるものなのですか?それにそう言ったところは少し怖くて」
「大丈夫だ。儂に任せろ!おい!契約書を持ってこい!」

 ゴンザが近くにいたメイドに一言掛けるとメイドは綺麗な姿勢のまま一枚の書類を持ってくる。

「これは「ハント」に入る奴全員に書かせている契約書だ。これにサインしろ」

 その内容を確認すると、「「ハント」の命令は絶対」「「ハント」で行った仕事の内容は他言してはならない」などかなり厳しい内容が書かれている。そしてそこには沢山の名前が書かれていた、恐らく「ハント」のメンバーだと推測できる。さらにこれは「誓いの契約書」の紙に書かれたものだった。

「すみません。俺は冒険者です。すぐに契約は……」
「ああ、そうだったな。流石に一度ギルドをやめてくる必要があったな。すまんすまん。では後日また来なさい」
「わかりました。ありがとうございます」

 俺は再びゴンザの与太話を聞きながら食事をしその日はお開きになった。俺はその足で「ホーム」のアジトに向かう。

「あ?どうした?何かいい情報でもあったか?」
「実は……」

 俺は「ホーム」のリーダーに先ほどの事を話す。

「そうか、やはり領主は繋がっていたか。だがその書庫となる書類があると分かったのはでかい。恐らく奴は臆病なのだろう。だから書類を用意した。裏切られないようにな。だがそれが自分の足かせになるとは思っていないだろう。割と馬鹿なんだな、領主ってのは」
「これからどうする?領主館でもおそう?」
「お前結構血の気多いのな、まぁそう言うのも嫌いじゃねぇが遅いはしない。まぁそっちは任せろ。あとは「ハント」のアジトを突き止めるだけだ」

 その時アジトに一人の男性が駆け込んでくる。

「兄貴!「ハント」が動いた!ターゲットはやっぱりメロンの店だった!親子共に攫われた!」
「チッ!見張りは何やってやがる!?」
「すみません。見張りは全員やられちまいました」

 俺たちは頷きあうと急いでメロンさんの店に向かう。そこで「ハント」を追跡している仲間と合流し急いで駆けつける。

「お前戦えるんだよな?」
「勿論。舐めるなよ?そっちは?」
「ハッ!そっちこそ舐めるな!俺は荒事は大好物なんだよ!それと今更だが俺の名前はジャッジだ!名前で呼べ」

 ジャッジとその仲間と共に夜の街を駆ける。ジャッジは仲間数名に何か指示を出し、仲間は頷くと別の方向に走っていく。何か作戦があるのだろう。俺はジャッジの手腕を信じることにした。

「チッ、こんな所に居やがったか」
「はい。これは見つかるわけありませんでしたね」

 辿りいた先は領主の別館だった。先ほどいた街の郊外にある本館とは違い、領主が街の中で仕事をするときに使う別邸らしい。どうやらこの中に「ハント」のアジトがあるようだ。

「どうすっか?見張りも居やがるし、入るには骨が折れそうだな」

 見張りは二人、門の中に立っている。だが声をあげられたら中からすぐに仲間が出てくるだろう。

「俺に任せて」
「あ?どうするんだ?」
「こういうのは得意なんだ」

 俺はそう言うと屋敷の側面まで走り「ブースト」を使い高い塀を飛び越える。「ブースト」を使えば長くはないが空を駆けることが出来る。そのまま闇に乗じて門のそばまで行き後ろから門番を殴りつけ気絶させる。

「ほら、得意って言ったでしょ?」
「お前……。本当に仲間にならないか?幹部として迎えてやるぞ?」
「仲間にはならないよ。ほら、行こう」

 屋敷に裏口から入ると屋敷の中にも厳重に警備がされていた。俺が再び剣を抜くとジャックに止められる。

「お前ばかりにかっこつけさせられるか。おい、行くぞ?」

 ジャックは数名の仲間に合図をした後一瞬のうちに6人の警備兵をかたずけてしまった。

「俺たちもこういうのは得意なんだ」

 ジャックたちはドヤ顔でこちらを見る。子供相手に何闘争心を燃やしてるんだか、と思ったが口にせず先へ進む。

「クソ、どこにいやがる」
「こっちだよ」

 俺は貴族の館には何度も足を運んでいる。大体の構造は同じだろう、地下への入り口を探すと似たような場所に入り口を見つけた。

「お前、本当は貴族のボンボンか?」
「そんなわけないでしょ、ほら、行くよ」

 地下に続く階段をお降りていくとだんだんと大人数の笑い声が聞こえてくる。どうやら「ハント」の仲間が相当数いるようだ。

「ギャハハハ!!いいぞ!もっとやれ!」
「おいおい売りもんなんだからあんまり傷つけんなよ?ゴンザ様に怒られるぞ?」
「あー、売り物じゃなかったら味見したかったのによ。ゴンザ様もいい趣味してるぜ」

 陰から除くとそこは酒場のような作りになっていて奥にはいくつもの牢屋があり中には何人もの女性がうずくまっていた。そして酒場には30人を超える男たちが酒を飲み、その中心にはメロンさんとモモが身ぐるみをはがされて座り込んでいた。

「おい、あの二人を連れだせるか?」
「勿論」
「よし、そのあとは任せろ」

 俺達は合図をして一気に駆けだす。俺は「ブースト」を使い男たちの隙間を縫って走り二人を「身体強化魔法」を使い抱えて階段まで戻る。

「「「「な!?」」」」」
「おい!テメェら「ハント」だな?頭はどいつだ?」

 俺は二人にローブを渡し着させながら振り返る。男たちは何が起きたか理解するまでに時間がかかったがすぐに立ち上がり武器を手に取る。だがその亜子は余裕に満ちていた。俺たちの人数は8人。

「ああ、俺だ。そう言うアンタは誰だ?」
「俺は「ホーム」の頭をしているジャックってもんだ」
「「ホーム」だと!?よくここまでたどり着いたもんだ。だがここがどこだか分かってんのか?」
「ああ、領主館だろ?」
「分かってんのか、流石巨大奴隷商の頭だな。いかれてやがる。で?その二人をどうするつもりだ?」
「ああ?決まってんだろ。返してもらうさ」

 ジャックがそう言うと「ハント」の仲間は顔を見合わせ大笑いする。

「馬鹿かお前は、そいつには「奴隷の首輪」がしてある。鍵はここにはねぇ。だがこの屋敷からそいつらを連れだせばその首輪が締まってそいつらは死ぬぜ?」
「チッ、お前らの余裕はそう言うことか……」

 奴隷の首輪は様々な制約をかけることが出来る。そしてそれに反すると奴隷は首輪が締まり最悪死に至る。勿論無理やり外そうとしても結果は同じだ。

 だが俺には「結界破壊魔法」がある。奴隷の首輪に使いうのは初めてだが構造は似たようなものだ。早速二人の首輪に手をかけ、そしてあっけなく首輪を外す。

「奴隷の首輪ってこれの事?」
「「「「な!?」」」」

 今度はジャックも敵と同じく驚く。まぁ当然の反応だろう。

「お前、本当になんなんだ?」
「だから普通の冒険者って言ってるだろ?」
「いや、普通じゃなねえよ……。だが助かる。これで憂いがなくなったわけだ!」

 敵は奴隷の首輪が外れたことに驚き固まっている隙にジャックたちは素早く動き敵を瞬殺していく。彼らはどう見ても奴隷商の動きではない。

「待て待て待て!こんなことをしてお前達どうなっても知らないぞ!?こっちには強い見方がいるんだからな!」
「あ?それは領主の事か?それなら……」
「リーダー、持ってきましたぜ」
「おう、ご苦労。早かったな」

 敵を瞬殺し残るは敵の頭だけになった時、階段から先ほどジャックが耳打ちして離れた仲間が戻ってきた。そしてその手にはなんと先ほど領主館で見せられた契約書が握られていた。

「な!?それは!一体どうやって!!」
「あ?こっちにも色々伝手はあるんだよ。領主館には俺の部下が何人も入り込んでいたからな。まぁ中々その書類を見つけるのに手間取っていたがな。最後にいい勉強になっただろ?世の中には絶対敵に回しちゃいけない存在って奴がいるんだよ。」

 ジャックはそう言うと敵の首を跳ねる。

「でも大丈夫なの?いくら書類があったって貴族を捌くにはそれなりの地位の人間の伝手がないと」
「ああ、大丈夫だ。俺たちは「ホーム」だぜ?こう見えて貴族様のお得意様は沢山いるんだ。まぁ話は戻ってからしようや」

 俺たちは檻にいた女性たちを全員助け出し屋敷から出てアジトに戻る。

「さて。俺たちはな、それこそ王族の伝手だってあるんだ」
「王族の!?」
「ああ、俺達奴隷商は裏の仕事を引き受けることもあるんだ。勿論それは犯罪者に対してだけだけどな。奴隷商ってのはその存在自体がクリーンじゃねぇ。いや、元々はクリーンな存在だったんだが、今の世の中危ない奴が増えてな。元々それを止めるために俺達「ホーム」が存在するんだ。まぁ必要悪ってやつだな。だが奴隷商の仕事では俺たちは絶対に法を犯さない」
「必要悪か」
「ああ、どんな時代にもはみ出し者ってやつはいるんだ。それを全て防ぐことはできない。もし全て防いだとしてもまた新たな悪が生まれる。それは歴史が証明している。皆が同じ方向を向くなんざ不可能な事なんだ。だから防ぐのではなくコントロールする。それが「ホーム」の裏の顔なんだ」

 奴隷商は隠れ蓑ってことらしい。確かに適役かもしれない。

「俺たちは皆孤児だったんだ。だがこの「ホーム」ぬ拾われてな。だから俺たちは皆この「ホーム」を絶対に裏切らない。どうだ?お前も入りたくなったか?」

 彼らはこの国全体の悪を背負って生きている。国から依頼を受けてることもあるそうだ。確かに彼らなら俺の街の事をどうにかできるかもしれない。だが王族とも繋がっているともなれば話は別だ。

「すまない。話は分かった。だがあんた隊と組むことはできない」
「そうか……。まぁまだ若いからな。いつでもここを訪ねに来い。お前ならいつでも大歓迎だ」

 数日後、領主は王都から来た騎士に捕まり死刑になった。「ホーム」は中々仕事が早いらしい。俺はメロンさん達からお礼を言われ街を出る。

 必要悪。確かに必要な事なのかもしれない。だがその為に「アニ」の街の皆が犠牲になったというなら俺は億人にだってなってやるつもりだ。

 俺は再び王都を目指して旅に出る。
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