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王都ギルドと冒険者達と

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「ドラゴンの売買をしに来た。さっさとしてくれ」
「は、はい!!」

 受付嬢は俺の言葉で慌てて動き奥の方へ消えていった。

「はっはっは!!最年少ドラゴンスレイヤーと聞いてまさかと思ったがやっぱりそうか!」
「ん。私の予想通り、チャールズだった」
「そりゃ私達のチャールズだもん!当然よ!」
「しかしこの短期間でドラゴンを狩っちまうとはな。こりゃ俺たちもうかうかしれられないな……」

 ギルドの酒場から現れたのは以前パーティーを組んだ「血の誓い」の四人だった。

「おいおい、あのガキ「血の誓い」と知り合いなのかよ……」
「おい、そう言えば「血の誓い」は以前子供とケロべロスを倒したって噂なかったか?」
「あ、ああ、あったなそんな噂。……は!?じゃああのガキがその時の……!?」
「マジかよ……。そりゃ強ぇわけだ」

 酒場の方から俺たちの話が聞こえてくる。やはりA級冒険者の彼らの情報は皆が知っていたようだ。

「久しぶりだなチャールズ。なんか機嫌悪そうだな」
「イーサン……。別に」
「おいおい、なんか知らんが折角「ドラゴンスレイヤー」なんて名誉ある二つ名を手にしたんだ。もっと喜べよ」
「別に。そんなこと言われても嬉しくない」
「はぁ。いいチャールズ。ドラゴンスレイヤーってのは冒険者の中でもかなり名誉ある二つ名なのよ?」
「ん。でも本当に嬉しくなさそう。何かあった?」

 アグネスの疑問に答える前に受付嬢が奥から慌てて戻ってくる。

「あ、あの!今回の討伐でチャールズさんのランクはCからBに上がることになりました……」
「「「「はぁあああああ!?」」」」

 受付嬢の言葉に酒場の冒険者達が驚きの声をあげる。「血の誓い」の四人は当然だという顔をしているが、チャールズには皆の驚きの意味が分からなかった。

「あ、あれ?なんかチャールズさん冷静ですね。10歳でBランクなんて、歴史上で最年少記録何ですが。現王都ギルドマスターの最年少記録を更新してるんですが……」

 そこでチャールズはなぜ皆が驚いているのか理解した。が、そんなことは興味がないチャールズは未だ不機嫌そうな顔をしたまま受付嬢の次の言葉を待っていた。

「あ、あれ?それでも驚かれないんですね。流石大物は違いますね。お、おっほん!!兎に角、チャールズさんは今回ドラゴンの単独討伐により審査差なしで文句なしのBランク昇格になります!おめでとうございます!!それと今回のドラゴンの金額ですが、外装は余り傷ついていませんでしたし首をしっかり斬り落としていた為かなりいい金額で取引させて頂きたいと思います。その金額は……白金貨150枚でいかがでしょう!?」
「うん。それでいいよ」
「はい。ではそれで……ってええええ!?驚かれないんですか!?10歳で白金貨150枚を手にするんですよ!?驚きましょうよ!私はこんなに驚いているのに!?」

 受付嬢はドヤ顔で金額をいい恐らくチャールズを驚かしたかったのだろうが、チャールズのリアクションのなさに逆に驚いてしまっていた。
 チャールズからしたらこの人何を騒いでいるんだという疑問しかなく、とりあえず受付嬢に対して少し引いていた。

「はっはっはっは!!白金貨15枚でも驚かないか!チャールズは本当に大物だな!!」
「本当よ。そんな金額があれば一生遊んで暮らしていけるっていうのに」
「まぁチャールズだからな」
「ん。早くうちのパーティに入ってほしい」

 「血の誓い」の話を無視して俺は嬉しく受付嬢の持ってきた書類にサインをし、ギルドカードを提出。戻ってきたカードには確かに「冒険者ランクB」と記載されていた。

「ねえお姉さん。お金って特定の人に送金ってできないの?」
「へ?ああ、ご家族の方に送るのかな?相手がギルドカードを持っている人だったら誰にでも送れるわ」
「そう。なら白金貨100枚くらい「フェラール」の街の村長さんに送ってくれない?」
「はい。わかりました。白金貨100枚を「フェラール」の街の村長さんに……ってええええええ!?そんな大金をですか!?」

 またしても受付嬢は驚きの声を上げ固まる。この人リアクションでかすぎるな。というか煩い。

「え?え?理由をお聞きしても?」
「今回「フェラール」の街はドラゴンの被害で半壊しているんだ。その修復費用に充ててほしい」
「はぇー。その為に白金貨100枚も……。君は本当に大物になりそうね。私もう驚かないわ。もう驚かない。わかりました。ギルドが責任をもって「フェラール」の村長さんに街の修復費用として白金貨100枚を送金させて頂きます。残りのお金はどうされますか?」
「残りはギルドで預かっててください」
「わかりました。ではこれで手続きは終わります。またのご利用お待ちしています」

 手続きが終わり俺はギルドから出ようとしたところで「血の誓い」に止められる。

「なぁチャールズ。そろそろ俺達「血の誓い」に入らないか?」
「そうだぜ!Bランクにもなるとクエスト一つこなすのも大変になってくるぜ?」
「そうよ。それに一緒にいた方が楽しいわよ?」
「ん。パーティ組も?」

 「血の誓い」の皆は俺をパーティに誘ってくれる。その気持ちは嬉しい。だけど、だけど俺にはまだやらなきゃいけないことがある。

「ごめん。気持ちは嬉しいけど俺にはまだ一人でやらなきゃならないことがあるん「ええええええ!?「血の誓い」の誘いを断ったあああ!?」

 俺の言葉は受付嬢の声によってかき消された。というかやっぱり煩い。もう驚かないとか言ってなかったかこの人……。

 俺はギルドの酒場に移動し「血の誓い」から「最年少ドラゴンスレイヤー」のお祝いに食事をおごって貰うことになった。Aランク冒険者の誘いを断りその理由を知りたいのか、又はただの好奇心なのか分からないが俺たちの周りには冒険者が集まり皆酒を呑みながらもこちらに耳を傾けていた。

「それじゃとりあえず、最年少でBランク昇格おめでとう。乾杯!」
「「「「乾杯」」」」

 皆でジョッキで乾杯をし、俺は「血の誓い」の最近の仕事について聞いていた。

「でな?その討伐の最中にアンドレアが昼飯の食いすぎで腹をう出してな!?本当にあの時のこいつは使い物にならなかったよ」
「な!?その話はもういいだろ!?それを言ったらその食事を作ったウエンディがいけねぇんだよ!あんなまずい食事を作ったから俺は腹が!」
「何よ!バクバク食べてたじゃない!」
「ん。確かにウエンディは料理はおいしくない」
「ちょっと!!アグネスまで!!」

 四人は楽しそうにこれまでの討伐の話を話し、そして周りの冒険者たちもそれを笑いながら聞き酒のつまみにしてた。

「もう、それよりもチャールズ!今度は貴方の話を聞かせて頂戴!!ドラゴンをどうやって討伐し、たの、か……。チャールズ?」
「お?おいおい!これ酒じゃねぇか!誰だよチャールズに酒を呑ませたのは!?」
「ん。私。名づけて「酔わせてパーティに誘い込もう作戦」どう?偉い?」
「馬鹿野郎!チャールズはまだ10歳だぞ!」

 俺が飲んでいたのはどうやらワインだったらしい。どうりで世界が揺れているわけだ。だが俺は数少ない信用できる人達というからか、気分が良くなったからか、その事があまり気にならなかった。

「ん?ドラゴンを倒した時の、話し?ライトニングで落として戦って首を落としたんだよ~」
「だ、大丈夫かチャールズ?」
「というか「水王宮魔法の「ライトニング」」まで使えるのかお前は……。すげぇな」
「本当に貴方10歳?一体どんな修行をしたらそんな年で」
「ん。私達のチャールズなら不思議じゃない」

 周りからも「10歳で王宮魔法だと?」「いや、流石に嘘だろ」「でも「血の誓い」が信じてるぞ」という声がちらほら聞こえてくるが酒に酔った俺の耳にはあまり入ってこなかった。

「だけど。だけど。「フェラール」の街が壊れたのも、ドラゴンが来たのも。全部、全部遊びだったんだよ。くそっ!」

 俺がテーブルを叩いたことによってそれまでと雰囲気が変わり酒場は一気に静かになる。

「あ、遊び?どういうこと?」
「貴族の遊びだよ。ブクブクって伯爵が最近落ちぶれてきたから名誉挽回の為にドラゴンを討伐しに行った。だけど失敗した。そして逃がしたドラゴンがフェラールに……。でもその事を反省していなかった!!それどころか城で、王も!他の貴族たちも!その事を気にもしていなかった!それどころか笑ってた!まるで皆でその事で予想して遊んでいたかのように!……結局この国で起きてる事は、全部、全部!!貴族たちの身勝手な遊びだったんだ……」

 そこまで言い終えるとドン!と俺の前に水の入ったコップが置かれる。

「ったく子供にお酒を呑ませるんじゃないよ。ほら、あんたもこれでも飲んで落ち着きな」

 酒場の店員だろうか。恰幅のいいおばさんが水を飲ませてくれる。それを飲みきるとだんだん世界がはっきりと見えだした。

「どうだい?落ち着いたかい?それには解毒剤も入れといたから酒はもう抜けているはずさ」
「……うん。ありがとう」

 意識がだんだんはっきりとしてきた時、おばさんは頭をガシガシと乱暴に撫でてくる。

「貴族の話とか、滅多なことを口にするもんじゃないよ?たとえ酒に酔ったとしてもね」

 俺はハッとなる。確かにこんなところで貴族の話をするべきじゃなかった。辺りを見回すと「血の誓い」の皆は悲しそうな顔でこちらを見ていた。他の冒険者も俯き、誰も言葉を発さない。

「ねえお姉さん。ここの酒場を貸し切ったらいくらくらいになる?」
「ん?そうさね。金貨5枚ってところかね?それがどうした?」
「ん。なら金貨10枚払うよ。ここにいる皆にお酒を飲ませてくれたら、そしたらお酒に酔って今まで話した事とか忘れちゃうかな?」

 俺の意図が分かったのかおばさんは一瞬ぽかんとした後ニヤッっと笑い声をあげる。

「聞いたかい皆!今日はこの「最年少ドラゴンスレイヤー」様のおごりだ!一日中好きなだけ酒を呑むがいい!全員今日あった記憶が無くなるまで飲まないと帰さないからね!」
「「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」

 おばさんの言葉の意図が分かった皆は目の前にあったグラスの中身を一気に飲み干すと次々に酒を注文する。

「ごめん皆。折角食事に誘ってもらったけど俺もう行くよ。この後予定があるんだ」
「そうか。なら引き留めはしないが。だがチャールズ。忘れないでくれ。君のやったことは立派になことだ。例え原因が何であれ、街を救ったことも、そして復興支援のためにお金を送ったことも。誰でもできるわけじゃない立派な行いだ。俺たちは君を誇りに思う」

 イーサンが俺の頭を撫でながらも目を見てしっかりとそう告げる。

「そうだぜ小さなドラゴンスレイヤー!!お前は立派だ!何もまちがっちゃいねぇよ!!」
「そうだそうだ!!貴族のくそ野郎共なんかに負けんな!俺達王都の冒険者は皆お前の味方だぞ!!」
「おいおい!貴族のくそ野郎なんて言っていいのか!?」
「ギャハハハ!!おい誰かこいつに酒を飲ませろ!まだ記憶があるらしい!!」
「そうだそうだ!今日は何言ってもいいんだぜ!どうせみんなこれから今日の記憶が無くなるまで呑まなきゃならねぇんだからよ!!」

 周りの冒険者たちは皆俺に「立派だ」「よくやった!」と言ってくれる。

「チャールズ。俺たちはいつでもお前の味方だ。そしていつでも俺たちのパーティはお前を歓迎するぞ」
「そうよ。辛くなったらいつでも来てね。待ってるから」
「ん。貴方はもうあなたの仲間だから」
「……うん。ありがとう。またね」
 
 俺はフードを被り皆に見えないように涙を拭きギルドから出る。

 ギルドを出た後も背中にかけられる温かい言葉を心にしっかり刻み込み、王都の教会を目指して足を進めた。
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