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山岳編後編
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「それでは行くぞ!!」
ガクの掛け声と共にクライミングが始まる。
サンガクの二人はすいすいと登っていく。まるで地面をハイハイしているみたいだ。
「じゃあ、僕から行くね」
「わかった。きつくなったら早めに言うんだぞ」
「うん。わかった」
僕はロープにカラナビをつけ、登っていく。道順はサンガク夫婦が先に進んでくれているので、真似するだけでいい。
先ほどのアドバイスを心掛け、進んでいく。
10分くらい経っただろうか。ゲームのアバターだからできるスピードだろう。
気づけば地面は遠くなり、かなり高いところまできた。そこで、岩が飛び出て休憩できる場所にたどり着いた。
「ところで二人は戦闘はできるの?」
「あまり得意ではないなぁ。今習得している職業は「登山」「見習い鎖鎌」「見習い武道家」の3つだけだからな」
「見習い鎖鎌って何?」
「こういうやつよ」
そう言ってサンは、ロープの先に金属の重りをつけ振り回し、近くの岩に当てる。岩は軽く削れ、サンがロープを引くと重りはサンの手の中に納まる。
「「おお~~!!」」
「ふふっ。素直に感心されると照れるわね」
「これで上っている最中に出てきたモンスターを倒すんだ」
「ここではどんなモンスターが出るんだ?」
「今のところ「隠居した山蛇」っていうのがいたな」
「それにびっくりしてロープを離しちゃって、ガクを落としちゃったんだけどね。あっはっはっは!!」
いや、笑えないから。リアルだったら死んでいたからね。
「因みにここまではどうやってきたの?そのLVじゃまだここまでは来れないでしょ?」
「それはギルドで依頼を出したのよ。ここまで運んでくださいって。案外すぐにプレイヤーが来てくれたのよ」
そんなやり方もあるんだな。
「あとは街でモンスター避けの除草剤を買って体につけてきたのよ。まぁあんまり利かなかったみたいだけれど」
そんな物もあるんだな。後でフランジェシカに作ってもらおう。彼女もこういった人の為になるものを造ってくれればいいのに。
「しかし、まだまだ先は長いな」
上を見ると山の頂上はまだここからは見えなかった。
「まぁ、山は目的地にたどり着くのも大事だが、その道中を楽しむことが一番大事だ。山登りは人生と同じだからな!!ガッハッハッハ!」
人生と同じか。確かに道中を楽しむことは大事だな。僕はその言葉を心に刻み込んだ。
その後、僕らの進行速度に合わせて進んでいった。きっと進行速度は速くはなかったはずだ。むしろ遅いとも言える。
だがサンとガクはそれに付き合ってくれた。僕は高校1年生。身長は他の人より低い。
その為、つかんだ場所から、次の掴む所までが届かずに、何度か引き戻し、コースチェンジを余儀なくされた。
山登りはPSが大きくかかわっている様に感じた。ステータス上では僕らの方が高いはずなのに、何故か夫婦の方が速く、体力もあるように感じた。
僕らはたまに、ロープに身を預け休んだりと、休憩を何度かもらっていた。それでも二人は微笑んで、まるで我が子を見るように僕らに合わせてくれた。
何故そんな優しいのか思い切って聞いてみた。
すると、「俺たちにとって山は遊園地みたいなもんなんだ。遊園地は一人で行っても楽しくないだろ?皆で行って、皆で楽しむから遊園地は楽しいんだ。」と、言われた。
山人達は心が大きいらしい。
僕だったら見知らぬ誰かに、こんなに優しくできるだろうか。
いや、きっとここまではできないだろう。
僕はマイペースだから。
きっと他人のペースには耐えられない。Mr.もなんだかんだコツを掴み、僕のペースに合わせてくれているようだった。
そんな大人たちに囲まれて、なんだか申し訳ないような、嬉しいような、不思議な気分になった。
少しこの人たちがかっこよく見え、こんな大人になりたいと思った。ふんどし姿は嫌だが。
クライミングはとても楽しかった。が、上へ行けば行くほどに掴むところは少なく、皆の支えがなければ登れなかった。
僕は戦闘では任せてくれと意気込んでいた。
そこでロープを二つに分け、二組で進むことにした。
僕とガクが、先に行き、これから出会うであろうモンスターを殲滅。残り二人には後ろを頼んだ。
しばらくするとモンスターが出始めた。
・隠居した山蛇 LV35×4
僕はガクに壁にしっかりとボルトとカラナビを打ち付けてもらい、体を左右に振り遠心力で壁を駆け上る。
バランスは下で逆さづりで練習済みなので問題ない。
壁を駆け上り、蛇に近づいたら剣に雷をエンチャント。かまいたちで次々に蛇を切り裂いていく。
「ガッハッハッハ!!可愛い顔して結構やるな!!俺達だけでは苦戦していただろう」
「そうね。やっぱり君たちを連れてきて正解だったわ!」
この言葉は嬉しかった。やっと役に立てるから。なんだか褒められたくてたまらなくなった。
普段家に両親のいない僕には夫婦に甘えたくなってしまったのかもしれない。普段はこんなことないのに。
命を預けている状況がそうさせているのか。
もし、この事をガクに言ったら「山がそうさせているんだろう。」とか言いそうだ。確かに山は僕の心を裸にさせてくれているのかもしれない。
山とは不思議なところだ。
それから何度も休憩や戦闘を繰り返し、いつの間にか夜になっていた。
懐中電灯代わりに、光魔石というものがあるらしい。
それを帽子に無理やり括り付けたものを頭に巻いて夫婦は進んだ。僕とMr.は夜目スキルがあるため問題なく進むことが出来た。
だんだん気温も下がり、登るのが困難になってくる。
「ウィル!!山とは精神力との戦いだ。征服すべきは頂上ではなく、自分自身!!自分に負けずしっかりついてこい!!」
「オス!!」
「そうよ!!私の後ろにはこんな寒い中、ふんどし姿で頑張っている人がいるんだから!大丈夫?Mr.」
「問題ない」
問題ないらしい。
変態の体感温度はすでに壊れているのだろう。でなければ、こんな手のかじかむ気温であの姿はあり得ない。まぁ普段でもありえないが。
「今晩はここいらが限界だな」
「そうね。二人ともよく頑張ったわ」
現在標高1000m。頂上まではまだまだだ。それでも僕らは夢中で上ってきた。
ここはかなり広い広場のようになっていた。
僕らは夢中で上っていたため今が何時なのかもわからなかった。
「ウィル。悪いが火を出してくれないか?」
Mr.が僕にお願いしてくる。
「ついに寒くて限界が来た?」
「いや、体は大丈夫なんだが。ふんどしが凍ってしまった。」
よく見るとMrのふんどしは横になびいたまま固まっていた。
僕らは笑った。
盛大に笑った。
「ガッハッハッハ!!な、なんだ?」
「あっはっはっは!!な、何かしら?」
「くそ!!こんなところで」
「皆。戦闘準備だ」
景色が歪む。エリアボスの登場だ。
・隠居したての大蛇 LV50
「おぉ!!エリアボスなんて初めてだ!!」
「ほんとね!記念にスクショ撮っときましょう!」
「言ってる場合か!?二人は下がってて!!」
「俺たちがやる」
結果から言って蛇はあまり強くなかった。登山家用のボスだからあまり強くは設定されていないのだろう。
だがかなり苦戦した。ここは山の中腹。落ちたら確実に死に戻りだ。
僕が牽制し、Mrがハンマーでたたきつぶす。この連携で勝てた。
が、時間をかなり浪費してしまった。体感では1,2時間くらいだろう。
蛇が何度も隠れて出てこなかったためだ。戦闘中に隠居してんじゃないと何度叫んだか。
「二人ともご苦労様!いや、ほんと二人がいて助かったよ!!ガッハッハッハ!!」
「ほんとね。私たちだけだったら今頃蛇の腹の中よ!!あっはっはっは!!」
二人は最後までマイペースだった。
「あ、見てみろ」
気づけば日が昇り始めていた。
「もう日の出の時間か」
「綺麗」
「ほんとだね」
「これを見るだけで来てよかった」
壮大な自然に囲まれ、登る日の出は格別な景色だった。
遠くに小さく王都やじゃぶじゃぶの里が見えた。
「こんな景色、人生で何度も見れるもんじゃないね」
「百の頂には百の喜びがある。ある人の言葉だ」
「人生も同じよ。頑張って困難を乗り越えた人には、必ずこの景色のような喜びがあるのよ。山はそれを教えてくれているのよ」
「山はすごいな」
僕らは日が昇るのをただじっと見つめていた。
「ところでこれ、どうやって降りるの?」
「あら、私たちは一度ダイブアウトして、そのあと山頂まで登るわよ?」
「ところでウィル。学校はいいのか?」
「あ!!まずい!!どうしよう!!」
もう朝だ。
昨日の夕飯も朝ごはんも作ってない。みんなに怒られそうだ。
「これを使え。俺は山頂まで行ってみたいからこれは必要ない」
Mr.の手には簡易転移石があった。僕はありがたくそれを貰い転移し、ダイブアウトした。
その後、皆に怒られたことは言うまでもない。
だが僕は心の中で、あの景色が目に焼き付き、頑張って登って良かったと心から思ったのだった。
ガクの掛け声と共にクライミングが始まる。
サンガクの二人はすいすいと登っていく。まるで地面をハイハイしているみたいだ。
「じゃあ、僕から行くね」
「わかった。きつくなったら早めに言うんだぞ」
「うん。わかった」
僕はロープにカラナビをつけ、登っていく。道順はサンガク夫婦が先に進んでくれているので、真似するだけでいい。
先ほどのアドバイスを心掛け、進んでいく。
10分くらい経っただろうか。ゲームのアバターだからできるスピードだろう。
気づけば地面は遠くなり、かなり高いところまできた。そこで、岩が飛び出て休憩できる場所にたどり着いた。
「ところで二人は戦闘はできるの?」
「あまり得意ではないなぁ。今習得している職業は「登山」「見習い鎖鎌」「見習い武道家」の3つだけだからな」
「見習い鎖鎌って何?」
「こういうやつよ」
そう言ってサンは、ロープの先に金属の重りをつけ振り回し、近くの岩に当てる。岩は軽く削れ、サンがロープを引くと重りはサンの手の中に納まる。
「「おお~~!!」」
「ふふっ。素直に感心されると照れるわね」
「これで上っている最中に出てきたモンスターを倒すんだ」
「ここではどんなモンスターが出るんだ?」
「今のところ「隠居した山蛇」っていうのがいたな」
「それにびっくりしてロープを離しちゃって、ガクを落としちゃったんだけどね。あっはっはっは!!」
いや、笑えないから。リアルだったら死んでいたからね。
「因みにここまではどうやってきたの?そのLVじゃまだここまでは来れないでしょ?」
「それはギルドで依頼を出したのよ。ここまで運んでくださいって。案外すぐにプレイヤーが来てくれたのよ」
そんなやり方もあるんだな。
「あとは街でモンスター避けの除草剤を買って体につけてきたのよ。まぁあんまり利かなかったみたいだけれど」
そんな物もあるんだな。後でフランジェシカに作ってもらおう。彼女もこういった人の為になるものを造ってくれればいいのに。
「しかし、まだまだ先は長いな」
上を見ると山の頂上はまだここからは見えなかった。
「まぁ、山は目的地にたどり着くのも大事だが、その道中を楽しむことが一番大事だ。山登りは人生と同じだからな!!ガッハッハッハ!」
人生と同じか。確かに道中を楽しむことは大事だな。僕はその言葉を心に刻み込んだ。
その後、僕らの進行速度に合わせて進んでいった。きっと進行速度は速くはなかったはずだ。むしろ遅いとも言える。
だがサンとガクはそれに付き合ってくれた。僕は高校1年生。身長は他の人より低い。
その為、つかんだ場所から、次の掴む所までが届かずに、何度か引き戻し、コースチェンジを余儀なくされた。
山登りはPSが大きくかかわっている様に感じた。ステータス上では僕らの方が高いはずなのに、何故か夫婦の方が速く、体力もあるように感じた。
僕らはたまに、ロープに身を預け休んだりと、休憩を何度かもらっていた。それでも二人は微笑んで、まるで我が子を見るように僕らに合わせてくれた。
何故そんな優しいのか思い切って聞いてみた。
すると、「俺たちにとって山は遊園地みたいなもんなんだ。遊園地は一人で行っても楽しくないだろ?皆で行って、皆で楽しむから遊園地は楽しいんだ。」と、言われた。
山人達は心が大きいらしい。
僕だったら見知らぬ誰かに、こんなに優しくできるだろうか。
いや、きっとここまではできないだろう。
僕はマイペースだから。
きっと他人のペースには耐えられない。Mr.もなんだかんだコツを掴み、僕のペースに合わせてくれているようだった。
そんな大人たちに囲まれて、なんだか申し訳ないような、嬉しいような、不思議な気分になった。
少しこの人たちがかっこよく見え、こんな大人になりたいと思った。ふんどし姿は嫌だが。
クライミングはとても楽しかった。が、上へ行けば行くほどに掴むところは少なく、皆の支えがなければ登れなかった。
僕は戦闘では任せてくれと意気込んでいた。
そこでロープを二つに分け、二組で進むことにした。
僕とガクが、先に行き、これから出会うであろうモンスターを殲滅。残り二人には後ろを頼んだ。
しばらくするとモンスターが出始めた。
・隠居した山蛇 LV35×4
僕はガクに壁にしっかりとボルトとカラナビを打ち付けてもらい、体を左右に振り遠心力で壁を駆け上る。
バランスは下で逆さづりで練習済みなので問題ない。
壁を駆け上り、蛇に近づいたら剣に雷をエンチャント。かまいたちで次々に蛇を切り裂いていく。
「ガッハッハッハ!!可愛い顔して結構やるな!!俺達だけでは苦戦していただろう」
「そうね。やっぱり君たちを連れてきて正解だったわ!」
この言葉は嬉しかった。やっと役に立てるから。なんだか褒められたくてたまらなくなった。
普段家に両親のいない僕には夫婦に甘えたくなってしまったのかもしれない。普段はこんなことないのに。
命を預けている状況がそうさせているのか。
もし、この事をガクに言ったら「山がそうさせているんだろう。」とか言いそうだ。確かに山は僕の心を裸にさせてくれているのかもしれない。
山とは不思議なところだ。
それから何度も休憩や戦闘を繰り返し、いつの間にか夜になっていた。
懐中電灯代わりに、光魔石というものがあるらしい。
それを帽子に無理やり括り付けたものを頭に巻いて夫婦は進んだ。僕とMr.は夜目スキルがあるため問題なく進むことが出来た。
だんだん気温も下がり、登るのが困難になってくる。
「ウィル!!山とは精神力との戦いだ。征服すべきは頂上ではなく、自分自身!!自分に負けずしっかりついてこい!!」
「オス!!」
「そうよ!!私の後ろにはこんな寒い中、ふんどし姿で頑張っている人がいるんだから!大丈夫?Mr.」
「問題ない」
問題ないらしい。
変態の体感温度はすでに壊れているのだろう。でなければ、こんな手のかじかむ気温であの姿はあり得ない。まぁ普段でもありえないが。
「今晩はここいらが限界だな」
「そうね。二人ともよく頑張ったわ」
現在標高1000m。頂上まではまだまだだ。それでも僕らは夢中で上ってきた。
ここはかなり広い広場のようになっていた。
僕らは夢中で上っていたため今が何時なのかもわからなかった。
「ウィル。悪いが火を出してくれないか?」
Mr.が僕にお願いしてくる。
「ついに寒くて限界が来た?」
「いや、体は大丈夫なんだが。ふんどしが凍ってしまった。」
よく見るとMrのふんどしは横になびいたまま固まっていた。
僕らは笑った。
盛大に笑った。
「ガッハッハッハ!!な、なんだ?」
「あっはっはっは!!な、何かしら?」
「くそ!!こんなところで」
「皆。戦闘準備だ」
景色が歪む。エリアボスの登場だ。
・隠居したての大蛇 LV50
「おぉ!!エリアボスなんて初めてだ!!」
「ほんとね!記念にスクショ撮っときましょう!」
「言ってる場合か!?二人は下がってて!!」
「俺たちがやる」
結果から言って蛇はあまり強くなかった。登山家用のボスだからあまり強くは設定されていないのだろう。
だがかなり苦戦した。ここは山の中腹。落ちたら確実に死に戻りだ。
僕が牽制し、Mrがハンマーでたたきつぶす。この連携で勝てた。
が、時間をかなり浪費してしまった。体感では1,2時間くらいだろう。
蛇が何度も隠れて出てこなかったためだ。戦闘中に隠居してんじゃないと何度叫んだか。
「二人ともご苦労様!いや、ほんと二人がいて助かったよ!!ガッハッハッハ!!」
「ほんとね。私たちだけだったら今頃蛇の腹の中よ!!あっはっはっは!!」
二人は最後までマイペースだった。
「あ、見てみろ」
気づけば日が昇り始めていた。
「もう日の出の時間か」
「綺麗」
「ほんとだね」
「これを見るだけで来てよかった」
壮大な自然に囲まれ、登る日の出は格別な景色だった。
遠くに小さく王都やじゃぶじゃぶの里が見えた。
「こんな景色、人生で何度も見れるもんじゃないね」
「百の頂には百の喜びがある。ある人の言葉だ」
「人生も同じよ。頑張って困難を乗り越えた人には、必ずこの景色のような喜びがあるのよ。山はそれを教えてくれているのよ」
「山はすごいな」
僕らは日が昇るのをただじっと見つめていた。
「ところでこれ、どうやって降りるの?」
「あら、私たちは一度ダイブアウトして、そのあと山頂まで登るわよ?」
「ところでウィル。学校はいいのか?」
「あ!!まずい!!どうしよう!!」
もう朝だ。
昨日の夕飯も朝ごはんも作ってない。みんなに怒られそうだ。
「これを使え。俺は山頂まで行ってみたいからこれは必要ない」
Mr.の手には簡易転移石があった。僕はありがたくそれを貰い転移し、ダイブアウトした。
その後、皆に怒られたことは言うまでもない。
だが僕は心の中で、あの景色が目に焼き付き、頑張って登って良かったと心から思ったのだった。
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