Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生

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サバイバル島9

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「誰だ!?」

 ケンちゃんの声が墓地に響く。

「別に名乗るほどの者じゃねぇよ。まぁ「さすらい」って呼ばれてはいるがな。全く似合わねぇ名前だぜ!ギャハハハハ!!」

 二つ名「さすらい」。その名は聞いたことある。掲示板で「その男に会ったら逃げろ」とまで言われているソロのPKプレイヤーだ。まさかこのタイミングでPKプレイヤーが増えるとは。

「「さすらい」?あんたがそうか。だったら話は早い。あんたもPKプレイヤーだろ?だったら一緒にこいつら痛めつけようぜ?コインたんまり奪って服を脱がすんだ!楽しいぜ!?」
「ギャハハハハ!そいつはいいなぁ」

 「さすらい」はゆっくりと「デスペラーズ」の輪に加わる。

 状況はさらに悪化してしまった。

 これはさすがに死に戻りを覚悟しないと助けられないかもしれない。

「はっは!!これで仲間も増えたことだし、え?」

 ケンちゃんが再び「鏡花水月」に向き合った時、その腹から剣が突き出していた。仲間に加わったはずの「さすらい」が背後からケンちゃんの腹を剣で貫いていた。

「ギャハハハハ!!仲間か!!だが断る!!俺はソロPKプレイヤーの「さすらい」様だぜ!?俺様は誰とも組まねぇんだよ!!」
「ぎ……ぎさま」

 ケンちゃんのHPがどんどん減っていき、ケンちゃんは痛みで動けないようだ。流石に痛みが軽減されているとしても、腹を剣で貫かれる感覚に冷静でいられるはずがない。

(今よ!!!)

 エリザベスの合図が頭に響く。

 一瞬あまりの事態に固まってしまったが僕らは一気に飛び出す。

「おいてめぇ!!ふざけん……がはっ!!」
「なんだ!?敵襲か、がっ!!」

 事態に気づいたプレイヤー二人の頭に「インパクトショット」と「アイスアロー」が刺さる。

(皆人質を囲んで戦闘よ!!エリーゼは人質のロープを切って!!)
「「カンパニー」よ!!人質は返してもらうわ!!」

 エリザベスは指示を出した後叫ぶ。

 その声に驚き固まっていた「鏡花水月」の皆も反応し、走り出す。

(全員3秒後にプチボムを投げて!3、2、、1、今よ!!)

 僕らは走りながら素早くプチボムを取り出し取り巻きに投げる。

「何か投げてきたぞ、ぎゃぁああああ!!」
「なんだ!?爆発したぞ、ぁぁぁぁあああ!!??」

 派手な爆発音とともに取り巻きたちは吹き飛んでいく。

 その周囲には砂ぼこりが舞い、相手の視界を奪う。

(敵を通り過ぎながら「スパイダーネット」!!)

 エリザベスの指示は続き、僕らは素早く砂ぼこりの中を進みながら、「スパイダーネット」に魔力を込め投げる。

 その結果を見ずに捕まっていた皆の周りに集まる。僕が到着してすぐ後に「鏡花水月」も周りに集まり、最後にエリーゼが到着。僕は腰のナイフを抜くとエリーゼに投げ、それを渡す。エリーゼは頷きながらナイフを受け取り人質のロープを切る。

 ギィィィィン!!

 どこかで金属音が何度も鳴り響く。

 次第に砂ぼこりが晴れ、周囲の状況が見えてくる。

 「スパイダーネット」により確保できたのは8人ほど。そいつらはまだ網をに絡まっており身動きが取れない状況だ。

 2人は先ほどのエリザベスとクリスの攻撃によって死に戻りしたようだ。

 残るは14人。

 僕は先ほどの金属音の元を探す。

 すると尻もちをついているケンちゃんの喉元に剣を突き付けている「さすらい」の姿があった。恐らくあの砂ぼこりの中二人は戦い、そして「さすらい」が勝利したのだろう。

 しかしあの爆発の中、そして砂ぼこりのが舞った中、戦っていたはずの「さすらい」のHPは少しも減っていなかった。

「なんだなんだぁ!?またまた楽しくなってきやがったじゃねぇか。強そうなやつらがこんなに居やがるぜ」

 舌を出し唇をなめながらしゃべる「さすらい」に、僕は背筋が寒くなるのを感じた。この感覚は試練の塔のリムル以来だ。人を簡単に殺しそうな感覚。人を人として見ていない、そんな感覚。
僕は体が震えそうになるのを堪えた。

「おい。その切ったロープをよこせ。こいつらを縛ってやろうぜ?」

 「さすらい」はそんな僕らを無視してしゃべる。エリーゼは素直にロープを投げて渡す。

「ありがとよ。お嬢ちゃん。よし。これでいい。あとのやつらもやっちまうから、ちょっと待ってるや」

 そう言うと「さすらい」は再び剣を構え、今だ怯えている残りの「デスペラーズ」に向き合う。

「待って、僕もやるよ。こいつらは一発殴らないと気が済まないんだ」

 僕は思わずそう言う。

 それは自分に言ったのか、「さすらい」に言ったのか、はたまた自分が今感じている恐怖に打ち勝つために言ったのかわからなかった。

 が、それは本心だと悟る。

 こいつらは仲間を痛めつけたんだ。何かしなければ許すことはできなかった。

「あぁ?まぁ別にいいんじゃねぇか?足引っ張んなよ?お嬢ちゃん。」
「僕は男だよ」

 そう言うと僕らは同時に動き出した。

 僕らが動くと「デスペラーズも慌てて武器を構えだす。

 が、そいつらは僕らの敵ではなかった。

 あまりの事態に浮足になっているのかわからないが、武器を振るうスピードが遅すぎた。僕は相手の振るった剣や槍を躱し、捌き、次々に斬りつけていく。スキルは「俊足」しか使っていない。それでも十分倒せる相手だった。

 それにこいつらの後は「さすらい」が待っている。こいつとは相いれない存在な気がする。

 体力を温存しておかなくては。

「ギャハハハハ!!弱い!!弱すぎるぜてめぇら!!もっと本気出せや!!」

 彼は戦闘狂なのだろう。その笑いながら相手を斬る姿は、まさにその言葉が似合うと思った。

「よそ見してんじゃねえ!!」

 僕の背後から斬りかかる男。だが「空間把握」を使うまでもなく。僕はしゃがみそれを躱し、振り向きざまに腹を斬る。次に飛んできた矢を、斬った男を盾にして防ぎ、男を突き飛ばして捨てる。

 そのまま矢の射った男の方に走り、再び来た矢を剣で叩き落し、驚き固まっているその男の首を切り落とす。

 背後から来るファイアーボールを躱し、再び走る。が、そいつは先に「さすらい」に斬られてしまった。

 僕らは背を向けあいお互いの視覚を補うように戦う。飛び掛かってくる相手を斬る、斬る、斬る。

 戦闘時間は10分かからなかったと思う。

 「デスペラーズ」は壊滅した。


 その瞬間背中に殺気を感じ、僕は「空間把握」を使い背後から来る剣を受け止める。

「ギャハハハハ!!いい!!いいね!!やっぱお前は強いな!!今まで出会ったやつの中で一番強いな!!」

 「デスペラーズ」が壊滅した瞬間「さすらい」が僕の背後から斬りかかってきた。二人の刃が交わり、ギリギリと音を立ててこすれる音がする。

「何のつもりですか?もう敵はいないはずです」
「ギャハハハハ!!勘違いすんな!!俺はこいつらを助けたわけじゃねぇ!!俺はただ弱い者いじめが嫌いなだけだ!そして強い奴が好きなんだ!より強い奴と戦いたい!!殺しあいたい!!ただそれだけなんだよ!!」

 そう言うを僕らは後ろに飛びのき距離を取り合う。

「今中で一番強いのはお前だろ?俺様の「威圧」スキルに耐えられて動けたのはお前だけだ。なら俺様と戦え!!」

 横目で皆を見るとまだ固まっていた。本当にリムル戦の時のようだ。

 そしてこいつはなんてわがままな奴だ。僕はできればみんなとゆっくりとお茶でもしてたいんだが。

「それは断ることはできますか?」
「できねぇな」
「僕は戦いたくないのですが」
「俺は戦いたい。俺様がお前と戦いたい。理由はそれで十分じゃねぇか」
「ずいぶんわがままなのですね」
「ギャハハハハ!!まぁな。さっきそこのアホも言ってただろ?「この世は弱肉強食。」ってよ。弱い奴は死に場所も選べないんだよ。俺様は強い!だから全てを選ぶ権利があるのさ」
「……」
「なんだ?それでもやる気にならねぇか?ならやる気にさせてやるよ。もしここでお前が戦えば他のお前の仲間には手を出さないと約束してやるよ」
「それは信じていいんですか?」
「あぁ。俺のAOLの中でのルールってのがあってな。一つは弱いものいじめをしない。一つは一度言葉にした約束は絶対に守る。一つはPKプレイヤーは容赦なく殺す。その3つだ」

 今まで楽しそうに笑っていた「さすらい」はルールを口にした時だけ真剣な顔つきになる。


 これは信じてもいいのか?

 しかし、信じる以前に確かに今こいつを野放しにしたら仲間を、家族に斬りかかってくる可能性がある。

 なら僕ができることは一つだ。

「ならもう一つ約束してください。もしあなたが勝っても仲間には手を出さない、と」
「いいぜ。その代わりお前も約束しろ。全力で戦うと。さっきのは全力じゃねぇだろ?」
「よくお分かりで。約束します」
「それともう一つ。お前の名前を聞いていいか?」
「ウィルです」
「そうかウィル。いい名前じゃねぇか。俺は「さすらい」のキルだ!よろしくな!!」

 そう言うと、キルは剣に両手の剣に魔力をめぐらし「威圧」を使ってくる。彼は初めから全力でやるようだ。すごいプレッシャーを感じる。

 僕も負けじと体に魔力をめぐらし「雷神衣威」を使う。全力でぶつからないと一瞬で負けてしまいそうだ。

 こうして僕はAOLでの最大のライバルとなるキルとの戦闘が始まった。
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