Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生

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ばあちゃんとの出会い

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「お早うジィジ」
「うむ。お早う」

 木曜日。

 いつものように早朝のランニングでジィジのお寺に行くとジイジは険しい顔で掃除をしていた。
何かあったのだろうか?

「ジイジ、どうしたの?何か険しい顔してるよ?」
「うむ。弥生。今日の放課後は時間あるか?」
「まぁ、強いて言えばAOLして家事して勉強するっていういつもの予定だけだけど」
「そうか。なら今日はAOLを休みなさい。そして学校が終わったらうちに来なさい」
「……わかった」

 僕何かしたかな?

 ジイジは険しい表情を崩さないまま再び掃除に戻る。一体僕が何をしたというのか。

 そして放課後。

 僕は皆に断りを入れてからジィジの家に向かう。

「ジイジ。来たよー!!」

 玄関から入ると出迎えてくれたのは、ばあちゃんだった。

「あら弥生いらっしゃい。あの人なら道場の方にいるわよ」
「道場?なんだろ。掃除の手伝いかな?行ってみるよ」
「ふふっ。後でお茶持っていくわね」

 僕はばあちゃんに教えてもらった通りに道場に向かう。道場の扉を開くと、道着を着たジイジが部屋の中央に正座していた。
 ジィジからはただならぬ気配を感じることがでいる。その表情からは怒っている様にも見える。

「来たか弥生。まぁ座りなさい」
「わかった」

 僕は恐る恐るジィジの正面に正座する。
 気温が熱くなってきているので、道場の床はひんやり冷たく気持ちよかった。

「弥生よ。今日はなんで呼ばれたかわかるか?」
「わからないよ。僕何かしちゃったかな」
「そうか。わからないか。お主、AOLで勝負に引き分けたらしいな。確か「さすらい」というプレイヤーじゃったかな?」

 僕の心臓の音が大きくなる。何故ジィジがそれを?

「その反応からしてそうか。それにあと少しで死ぬとこだったらしいな」
「誰に聞いたの?」
「ユイじゃよ」
「だよね」

 あのバカ妹。

 何でもかんでもジィジに話しやがって。

「で、でも死ななかったよ?家族ちゃんと守れたし」

 まずい。

 非常にまずい。

 この流れは完全に説教からの稽古だ。

 稽古という名の地獄の特訓をさせられる流れだ。

「ちゃんとだと?だがその後もし敵が他に潜んでおったらどうじゃ?お主はちゃんと家族を守れたか?」
「い、いや。ほらでも辺りに誰もいないことをちゃんと確認したし!右見て左見て右見て!!安全確認はばっちりだったよ!!」
「甘い!!左右の確認だけで満足するな!!伏兵というのは背後からも、空からも500m離れた先からでも、いつでも狙っておるものじゃ!!」
「で、でも「でもじゃない!!」!?」
「よいか。神代家男児たる者、いついかなる時も油断してはならぬ。どんな時でも家族を守り切らねばならぬ。お主ならそれがわかるじゃろう!?」
「わ、わかるけど「稽古じゃ!!稽古をするぞ!!」そんなぁ~」

 ああ。

 これは逃げきれないやつだ。

「いいか?弥生。何故神代家は強くならねばならないかと言うと」
「ジィジ。それもう200回くらい聞いたよ」
「ん?そうか。なら儂が2万人いる敵を全員ぶっ飛ばした話でも」
「それも聞いたよ。最後に「儂に喧嘩を売るなら核兵器でも持ってこい!」って叫んだんでしょう?敵本陣の中心で」
「ぬ?その話もしたか。なら儂がアリゾナで大蛇の群れと戦った話でも」
「聞いた聞いた。100匹くらい素手で引き裂いたんでしょ?」
「ううん。その話もしたか。あとはそうじゃのう」
「あのさ。無理にそんな話をしなくても」
「いいじゃろう別に!!儂のかっこいい武勇伝を孫に聞いて欲しいんじゃ!!儂孫に褒められたじゃ!!尊敬されたいんじゃ!!」

 ジィジが駄々を捏ねだした。

 はぁ、こうなると話長いんだよなぁ。

「じゃあばあちゃんとの出会いを教えてよ」
「ぬ?そんな話でいいのか?わしが戦車部隊相手にナイフ一本で勝った時の話でも」
「それも聞いたよ。最終的に相手の司令官泣かせたんでしょ?」
「う。その話もしとったか。まぁいいじゃろう。ならばあさんとの話をしようか」

 僕はこの話は初めてだったので少し楽しみになってきた。

「そうじゃのう。どこから話そうか。あれは儂が任務を終えてロシアから日本まで歩いて帰ってきた時の話じゃ」
「うん。初めからめちゃくちゃだね。なんでそんなことしたのさ。海はどうしたの?」
「海はもちろん泳いださ。なぜしたのかと言うと、当時儂の部隊の隊長だった儂の爺さんがいきなり「お前には気合が足んない!!ここから家まで歩いて帰ってこい!!」と言ってナイフ一本だけ渡されて歩かされたんじゃ」
「もうDVって枠をはるかに超えてるね。それで?」
「うむ。それでじゃな」

 ジィジは目をつむり昔を思い出しながら語りだした……。

「儂は近道をしようと立ち入り禁止の山越えをしている最中じゃった。もちろん食料も取らねばならんかったしな。そして山の中腹までさし掛かったそんなある晩、水の音が聞こえてな。儂は水分補給をしようと水の音が聞こえる方に進んでいった。そして儂は見たのじゃ」
「突っ込みどころは多かったけど。……見たって何を?」
「うむ。精霊をじゃ。……いや。正確には精霊のように美しかった美女をじゃ」

 ジィジは目をつむったまま懐かしそうに微笑み語り続ける。

「そこだけ不思議と木のない開けた場所があっての。満月の綺麗な晩じゃった。そこの湖で裸で水浴びをしていた美女がおっての。それがばあさんじゃった。……儂は一目ぼれじゃった。この世にこんな美しい女がいるとは思わなんだ。……あの時の光景は今でも夢なんじゃないかと思ってしまうほど見事じゃった。まるで名画のような光景じゃった」

 ジィジは伸ばしている髭をさすりながら懐かしんでいるようだ。

「儂は思わず見とれ固まってしまっての。そんな時反対の森から大きなクマが出てきての。儂は思わず彼女に駆け寄ったんじゃ。「危ないっ!!」と叫びながらな。……するとその美女は一度こちらを振り向き微笑み、次の瞬間クマは宙を舞っておった。儂は何が起きたかわからなんだ。だがクマは宙を舞うときにはすでに気絶しておった。その後儂があまりの出来事に固まっておると彼女が話しかけてきた。「よかったら一緒にこのクマを食べませんか?」とな。儂は何度も頷いた。頷きすぎて何回頷いたかわからないほどに。そんな儂を見た彼女はまた微笑んでの。そこで儂は決めたんじゃ。この人と結婚しようと」

 それはまるでおとぎ話のようだった。まぁよく考えるとクマを投げ飛ばした美女の時点でロマンティックとはいいがたいが。

「服を着た彼女と一緒に食事をして、儂はその場でプロポーズをしたんじゃ。すると彼女はクスクス笑いながらこう言ったんじゃ。「私は諜報機関を抜け出した身。今は追われて隠れているのです。もし私と結婚したいんだったらあなたも私を探してみなさいな。」とな。彼女は夜更けと共に消えていた。儂は一年という時間を貰い、仕事を休ませてもらい、世界中を探し回った。一人の女性を探すためにな。山を、川を、ジャングルを、海を探し回ったのじゃ」

 何故街を探さなかったのだろう。まぁ探したんだろうけど。

「すると一つの情報がわしの耳に入り、彼女は日本にいることが分かったんじゃ。儂はすぐさま日本まで帰ってきての。そこからは案外早く見つかったんじゃ」
「どこにいたの?」
「ここじゃよ」
「……ここ?」
「儂の家じゃ。儂の実家じゃよ。あろうことか儂の両親と仲良くここで暮らしていたんじゃ。まさに灯台下暗しというやつじゃな!!ガッハッハッハ!!彼女は儂の住所を探し出し、儂の経歴、人生、家族などを調べるために堂々とここに住んでおったんじゃよ。そして一年以内に見つけた儂にこう言ったんじゃ。「じゃあ結婚しよっか。」とな」

 ジィジは話し終えゆっくりと目を開け、髭をさすりながら思い出話の余韻に浸っているようだ。

 思ったより壮大な話だったな。

 もっと甘酸っぱい話かと思ったのに、クマを倒したり、地球全体でかくれんぼしたり、実は相手の実家に隠れていたり。

「……でもよくお互いの事何も知らないで結婚出来たね」
「まぁな。と言ってもお互い一年近く探し隠れながらお互いの事を調べておったから大体の事はわかったがな。まぁ性格まではわからなんだが。まさかクマにやったように儂の事も日常茶飯事投げ飛ばすとは思わなかったわ。儂は追いかけている間にあ奴に理想を抱きすぎたのかもしれん。蓋を開けてみればただのバケモンじゃったからな!!妖怪じゃあれわ!!人間の皮を被った破壊神じゃ!!ガッハッハッハ!!」
「はは、ばあちゃんには聞かせられない話だね。でも僕には考えられない話だな」
「ん?なんでじゃ?」
「だって結婚する時点でお互いの経歴はわかってもお互いの性格はわかってないんでしょ?」

 僕にはそこが理解できなかった。もし一緒になった時性格が合わなかったらそれでお終いな気がする。

 僕は一番大事なことはお互いの性格の一致だと思っているから。

「まぁそこは人それぞれじゃろう。正解なんてものはないし、うまくいけば全てが正解とも言える。ただ儂がその時に思ったことは性格の問題より、考え方の問題より、お金や宗教の問題なんかよりただ一緒にいたいと思ったんじゃ。ただ彼女の隣にいたい。ただ彼女と一緒に人生を歩みたい。儂の人生の隣にいつも彼女の笑顔があったらどれだけ幸せなんだろう。儂はそう考え、そう感じて彼女を追いかけ、そして結婚したんじゃ」
「性格の不一致とか怖くなかった?」
「もちろん不安はあったさ。じゃがそんなもの儂にとって些細な問題じゃった。むしろ結婚してから彼女の色々なところを探して知ることが出来る。不安よりも楽しみの方が大きかったかもしれん」
「そっか」

 隣にいたいだけ。か。

 確かにそれが一番大事な事なのかもしれない。

 僕は色々と難しく考えすぎてるのかな。

 根拠のない不安を抱えているのかもしれない。

 答えはもっとシンプルなものなのかもしれないな。

「まぁじゃが弥生はもう少し穏やかな女と付き合った方がよいぞ?もう遅いかもしれんがな!!ガッハッハッハ!!」

 はは、笑えないよ。

「あらあら。二人で楽しそうな話をしてるじゃない。私も混ぜてもらおうかしら」
「ば、ばぁちゃん」

おばあちゃんがお茶を持ってきてくれたようだ。
だが何故か道着を着ている。そして顔が怖い。

「ぬ?茶か。ありがたい。ちょうど喉が渇いておったところ。なぁばぁさんや。何故湯呑が一つ粉々になっておるんじゃ?これもしかして儂の湯飲みか?」
「ば、ばあちゃん。もしかして話聞いてた?」
「ふふっ。もちろん。弥生が「さすらい」って人と引き分けたところからばっちりと」

 ばあちゃんは微笑んだままゆっくりとお盆を端に置く。

「な、なぁばあさんや。儂のお茶は?」
「あらあら。この人は何を言っているのでしょう?破壊神がわざわざお茶を持ってくるわけないじゃないですか。それとも妖怪ですか?」
「あ、……あれはじゃな。言葉の綾というか。ま、待て待て。顔が怖いぞお主!!弥生助けにゃぁぁぁぁぁああああ!!??」

 爺さんはばあさんに胸倉をつかまれた瞬間道場の外まで飛んで行ってしまった。

「ば、ばあちゃん。僕はこの辺でお暇させてもらうよ」
「あら、せっかく来たんだからあなたも稽古してあげるわ。可愛い孫がどれほど成長したか見せてみて?」
「ば、ばあちゃん待って!!僕は何も悪くないじゃん!!まってくださぁああああああ!!??」

 ばあちゃんが近づいてきたかと思ったら次の瞬間、僕はジイジと同じく道場の外まで飛ばされていた。

「ふふっ。二人とも寝ている場合じゃないわよ?これじゃ汗もかけないじゃない。さ、日が暮れるまでやるわよ?」
「「ご、ごめんなさぁああああ!!??」」

 僕とジィジはこうして日が暮れるまで何度もばあちゃんにお稽古をつけてもらったのだった。
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