書簡体小説集、綴

穏人(シズヒト)

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純白

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 もうお察しのことと思いますが、この手紙を差し上げた理由は息子の翔太でございます。私の、可愛い可愛い、大事な大事な、たったひとりの息子である翔太のことでございます。
 ところで、あなたは翔太のことをどれほどご存知でございましょうか。あなたと翔太は小学校の頃のクラスメイトで、二年生の頃に翔太が転校してからの付き合いであったと思います。ですから、小学校二年生以降の、学校での翔太のことはよくご存知とは思うのですが、それ以前、それ以外の翔太のことは詳しくはございませんでしょう? ですから、どうかあなたのためにも、息子のことをもう少し詳しく紹介したく存じます。
 息子の翔太は、幼い頃からそれはもう繊細で内気な子供でした。物心がつく前にはもう内気の兆候が出ておりまして、常に私か夫の後ろに隠れて、私達の後ろからそおっと顔を覗かせるような、それはそれは繊細で、とても可愛い子供でした。目に入れても痛くないということわざがございますけれど、翔太はまさにその通りの、本当に可愛い子供でした。それでこの可愛い姿を見続けられると言うのなら、喜んで目玉の中に押し込みたいと思いました。
 しかし、幼い頃は可愛いで済んでいましたけれど……もちろん、翔太はいつまで経っても可愛い可愛いままでしたけれど、長じてくると、世間というのはおかしなもので、可愛い翔太を受け入れてはくれなかったのでございます。まったく本当におかしな話で、どうしてそんなことになったのやら今でも理解ができないのですが、幼稚園に入った翔太は、友達というものができなかったのでございます。翔太は本当に内気な子で、他の幼児に声を掛けようと頑張りはするのですけれど、口を小さくまごまごとさせて、伸ばし掛けた手を途中で止めて、代わりにスモッグを握り締め、瞳いっぱいに涙を浮かべて、そのままじいっと押し黙ってしまうような子供でした。その様だってもちろん、食べてしまいたいぐらい可愛らしいものでしたけれども、可愛い我が子が悲しんでいる様はやはり痛ましいものでございました。
 ところが、そんな可愛い翔太がひとり健気に耐えているのに、周りは何の手助けもしてやらなかったのでございます。普通であれば、こんな可愛い子が理不尽に、可哀想な目に遭っているのだから、なんとかしてやろう、手を貸してやろうというのが当然ではございませんか。それなのに誰も、翔太と友達になってやろうともしなかったのでございます。私はあまりにも堪りかねて、即座に園の職員に訴え出たのですけれど、愚鈍の極みなのか、はたまた性根が腐っていたのか、大丈夫ですよ、きっと友達ができますからと、何の意味もないおためごかしで煙に巻かれたのでございます。それでも人の良い私は、愚かにもその言葉を信じて待っていたのですけれど、待てど暮らせど一向に翔太の友達は現れません。それで、ある日直接、私自ら他の園児達に、翔太のお友達になるように頼み込んだのでございます。私が頼むと幼児達はその時ばかりは快諾し、翔太は笑顔で幼児達の中に入っていきましたけれども、夕方翔太を迎えに行くと、翔太は可愛い顔を真っ赤に腫らして私を待っておりました。驚いた私が慌てて翔太に泣いている訳を聞きますと、舌っ足らずに「仲間外れにされた」と、訴えてきたのでございます。私はそれはもう憤慨しました。こんな可愛い、天使のような、何の非の打ち所もない翔太を虐めるとはどういうことだ。私は即座に残っている幼児達に詰め寄ったのでございますが、こともあろうにあの餓鬼共は、「だって翔太はとろい」「馬鹿だ」と、口汚く罵りさえしてきたのでございます。なんという言い草、なんという横暴、なんという恥知らずの餓鬼畜生でございましょうか。一応幼児でございますから、翔太と歳の頃だけは変わらなかったはずですが、天使のように清らかな翔太とは似ても似つかない、本当に生まれた価値のない糞餓鬼共でございました。しかも園の職員共もやはり役立たずの集まりで、餓鬼共を罰していると「何をしているんですか」と私を怒鳴り、私のことを羽交い締めにして妨害したのでございます。なんと愚かな連中でしょう。どう考えても悪いのはあの糞餓鬼共の方なのに。私は翔太を虐めるあの小汚い餓鬼共を、愛と正義の鉄槌で凝らしめてやっただけなのに、正しい私に味方せず、むしろ追い出すとはどういう了見だと、お優しいあなた様もきっとお思いですよねえ? きっとあの保育士共も、グルになって翔太を虐めたに違いないのです。だから正しい私の妨害をしたに違いないのです。ああ人の良い私は、どうしてそのことに早く気付いてやれなかったのでしょうか。私は翔太のためを思い、翌日即座にあの糞の吹き溜まりに退園届けを叩き付け、翔太のために、翔太に相応しい別の幼稚園を探してやることにしました。しかし腹立だしいことに、色々な幼稚園、保育園を訪れましたが、翔太を受け入れてくれる所は見つからなかったのでございます。本当におかしな話です。子供は国の宝だろうに、その子供を大事にしないとは一体どういう了見でしょうか。私はただ、翔太のことが可哀想で仕方がありませんでした。
 とは言え人間の形をした糞共の傍に翔太を置いておく訳にもいかず、悩んだ末に仕方なく当時働いていたパートを辞め、家で翔太をつきっきりで見てあげることにいたしました。朝はゆっくり寝かせてあげて、好きな物を作ってあげて、おもちゃも欲しいものを買ってあげて、翔太がねだってくるままにめいっぱい遊んであげました。翔太は本当に可愛い子供で、こんなに可愛い生き物は他にはいないだろうと思いました。夫はそんな私を見て過保護だとか言っておりましたが、聞く価値もない言葉でしたので徹底的に無視をしました。だって、我が子を思う親の愛に間違いなんてないでしょう?
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