退廃の未来に飛ばされたおっさん、ロボ乗り傭兵になる

冴吹稔

文字の大きさ
2 / 37
episode1:ここは現実――止しといて欲しかった

第2話 全兵装、全弾発射!(なお)

しおりを挟む
「とにかくなんだ、要するにこりゃあ――戦争なのか?」


 間近に降り立ったさっきの人型ロボが、ガトリング機銃を何かに向けて二秒ほど連射した。その恐ろしげな轟音が、俺を目の前の現実に向き合わせる。よく分からないが――ここが何処なのかすらよく分からないが、戦争かそれに類することが行われているのだ。

 ニュースで見た東欧やら中東やらの、紛争や武力衝突が頭に浮かぶ。こんな恐ろしい状況でよくも何カ月も持ちこたえられるものだ、人間というやつは。

 それはそうとして、早急に身を守る必要があった。このまま当てもなくうろついていては、間違いなく死ぬ。
 

「冗談じゃないぜ、まったく!」


 まず手回り品を確認する――会社から強要されて持ち歩いている酷い型落ち品の携帯端末。スーツのスラックスの上に、社名ロゴの入った薄いモスグリーンの長袖ブルゾン。少しすり切れたスニーカーと、小銭入れ一体型のかさばる折り畳み財布。胸ポケットにはボールペンと免許証。それに軍手。

 生存の役に立ちそうなものは特にないが、持ち運びで頭を煩わせるほど余計な荷物もない。よし――

 襲撃者の人型ロボはこちらに背中を向けているようだ。今がチャンスとばかりに、俺は瓦礫の間から抜け出して、別のもっとましな隠れ場所を探そうと駆け出した――が。

 足元がぐにゃりとしてバランスを失い、尻餅をついた。手に何か濡れた感触。すぐそばの路面に、何かの制服らしいブルーのツナギにシールド付きヘルメットをつけた男が倒れていた。あの機銃で撃たれたものか、下半身は原形をとどめていない。

 遺体から少し離れた所には、全高4mほどのダチョウめいて二本の足だけが生えた、シンプルな形のロボットが横倒しに転がっていた。地面に接した破損部分からは漏電による電気火花がバチバチと点滅している。

 そして不意に、前方の路地から小柄な人影が飛び出してきた。ひっ、と息を飲む音がやけにはっきりと耳に届く。

 服というには少々疑問のあるボロボロの布地を体に巻き付けた、十代に差し掛かったくらいの少女が、俺が見ているものと同じ惨状を目にして凍りついていた。

「ひ……ひゃあッ!!」

 少女ががっくりと膝をついて座り込む。薄汚れた頬には絶望の表情。

 最悪だ。俺一人が死ぬ分にはあきらめもつく。何もしなければ程なくあの巨大ロボが、踏みつぶすか瓦礫ごと蹴飛ばすか、いずれ無造作に殺してくれるだろう。

 だが、目の前であんな年頃の女の子が。普通に家庭を持っていたら俺にも恵まれたかもしれない、そんな子供が。訳の分からない暴力に巻き込まれてみすみす目の前で死ぬ――俺が何もしなければ、恐らく確実に。

(ええぃ、クソッタレがぁッ!!)

 やり場のない苛立ちと情けなさが沸騰した、その時だ。

 ――サクラギ! そちらへ一機降りた、何とか対応してくれ! サクラギ!

 転がっているロボットの機体から、ノイズ混じりの音声が聴こえてきた。どうやら死んだ男には、連絡を取り合う仲間がいたらしい。
 

(あー。ええと、こういうの何とかって言ったな……そうだ……「僚機」! 僚機って言うんじゃないか、確か)

 その時、天啓のように何か突拍子もない考えが頭に降りてきた。あの機体はずっと漏電でスパークしている。通信も生きている。つまり――まだ動かせるのでは?

(そうだ、あの胴体の部分から突き出てる筒……あれ、もしかして武装じゃないか?)

 襲撃者の機体はまだこちらに気付いていない。サクラギとやらが使うはずだったダチョウ型を転倒させて安心しているのか。頭部を左右にゆっくり降って、何かを探しているようでもある。

「二本足ってぇのは……バランスが崩れやすいんだよな」

 ゴクリと唾を飲み込む。現に俺もさっき転んだ。人型機体の膝裏、関節部のパーツはここからだと丸見えだ。サクラギの血でべとつく路面に手をついて犬のように這い進み、少女の耳元で声を潜めて叫ぶ。

「おい……嬢ちゃん! 俺がいまから一発バクチを打つからな、その間に何とかここを離れろ」

 えっ、と我にかえったように表情を動かし少女がこちらを見た。よろしい。

 彼女の背中をポンと叩いて、俺は姿勢を低くしてサクラギの機体へ走った。乗降用のハッチは空いたまま、中からは変わらずさっきの通信が聞こえる。

 ――サクラギ! 応答しろ、サクラギ!

「あー。『サクラギ』は死んだ……たぶん」

〈誰だ、お前は!? い、いや誰でもいい……! そこはどうなってる?〉

「俺は近くでたまたま瓦礫に埋まり損ねた……まあ、通行人だよ。この機体は今、横倒しで転がってて、敵――そう、あんたらの敵も全然油断してる」

 自分の声がひどくざらついているのが分かる。

「近くで女の子が逃げ遅れててな、何とか助けたい。あんた、俺にこいつの武器の操作を簡単に説明できるか? あいにくと、トラックや建機しか動かしたことが無くてな」

〈ふざけ……いや、ちょっと待て。サクラギのメットは無事か?〉

 どうやら、なんとか脈がありそうな気配だが。

「メットはサクラギ――推定サクラギが被ったままだが、血まみれだしバイザーは割れてた。かぶるのは気が進まん」

〈そうか……くそ、じゃあその制御盤コンソールの左側にある、緑のレバーを起こせ。予備の照準器がせり出してくる、そいつが機体のカメラと車載銃に連動してるんだ。メットのやつより使いにくいが仕方ない〉


「ふむ。何だあんた、結構余裕か?」

〈まさか。ひでえ状況だが後で説明出来たらしてやるよ。で、操縦レバーが二本あるな? 右レバーのグリップに赤いボタンがある。そいつを握った状態だと、右レバーで銃を左右に三十度、上下に四十度振れる。それで狙いをつけて、人差し指のとこのトリガーを引け。引きっぱなしだと二秒で連射が停まるから、撃ち続ける時は一回軽く離せ〉

「だいたい分かった。やってみる」

 襲撃者の機体は探し物を諦めたらしく、どすどすと脚部を動かして不細工な動きで向きを変えた。その頭部カメラがこちらを捉えた――そう感じた刹那。

「死ねやオラァアアアア!!」

 怒号と共にトリガーを目いっぱい引き絞る。ダチョウ型の機体に装備された、銃身の口径だけはおそらく敵のガトリング機銃と同格な機関砲が、咳き込むように火を噴いた。

 指でトリガーを切りながら撃ち続ける。普通ならこんなことをすれば反動で狙いも狂い機体はバランスを失うに違いないが――こっちは既に寝ているし、周囲は瓦礫でふさがれていてずれる余地がなかった。
 

「立ってるやつは膝を攻めりゃ倒れる! 学生のころ読んだ護身術の本に書いてあった!! 全兵装、全弾発射じゃあ!!」

 言うても武装はこの車載銃だけなのだが――威力は申し分ない。

 敵機体は、最初の何発かを装甲で弾いていたようだったが、執拗な銃撃でその抵抗は間もなく潰えた。

 背部の推進器を吹かして空に逃れる暇もなくそいつは傾いで崩れ落ち、なおも続く銃撃でボロボロになって――最後にドン、と大きな爆炎を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...