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一章
プロローグ
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「むかしむかし、遥かむかしのこと。
天界に一柱の女神様がおりました。
その方は大変好奇心旺盛で、下界に強い興味を持っていました。
ですが、天界のルールでは下界に介入することは禁じられておりました。
長い間我慢を続けていた彼女でしたが耐えきれなくなってしまい、遂にはこっそりと下界に降りたってしまいました。
下界のことを何も知らなかった彼女は何も口にすることは出来ませんでした。
道の端でうずくまり、もう帰ろうと思ったその時、通りがかったある一人がそっと彼女にパンを分け与えました。
彼女が顔を見上げると、美しい顔をした少年がそっとこちらに優しい笑みを浮かべていました。
彼は彼女を受け入れ、供に暮らすようになりました。
次第に二人は惹かれ始め、やがて結婚しました。
子宝にも恵まれ、とても幸せな日々が続きました。
しかし、終わりはやって来ました。
少年は人間。
もう既にお爺さんへと変わり果ててしまっていました。
それに対して、女神である彼女には寿命がありませんでした。
彼女は彼を死なせまいと、様々な策を練りますが、奮闘虚しく亡くなってしまいました。
やがて彼女は天界の神々に見つかってしまい天界へと強制的に飛ばされてしまいました。
そして彼女は……………
はい、おしまい」
「えー、こんな中途半端な終わり方なのかよー」
まだ僕のへそくらいの背丈しかない男の子がそう僕に文句を言った。
それに回りの子どもたちも同調して、
「ねーねー、ミゼルおにぃちゃんならもっと知ってるんじゃないの?」
「いいから教えてよー」
とせがみ始めた。
「いや、本当に分からないんだ。言い伝えている内に、いつの間にか忘れられちゃったって神夫様から言われていて……」
「「「「うそつきー! 絶対知ってるくせにー!!」」」」
だだをこね始めて、これは困ったなーと思っていると、後ろからおばさんが子どもたちの頭にポカンと叩いた。
「こりゃ! ミゼル様を困らせるんじょないよ! それにお兄ちゃんじゃなくて神夫様だっていつも言ってるだろ!!」
「わぁーー! やまんばばばぁだー! みんなにげろー!!」
その剣幕に押されて、蜘蛛の巣を散らすようにきゃーと騒ぎながら子供たちは走り去った。
「はぁ、全く困ったもんだねぇ」
「いえ、僕は一向に構いませんよ。それにまだ正式に任命されたわけでもありませんし……」
神夫とは、先程子供たちに語った昔話と深く関係している。
簡単に言えば、天界で夫の死を悲しむ女神を慰めるという仕事だ。
それは物語に登場した女神と少年の血を引くこの里の人々にとって、憧れの対象であり、誰よりも敬うべき対象だ。
村長でさえも神夫には何も口出しは出来ない。
「今さら何を言っているんだい。ミゼル様以外に適任者なんていないよ!」
「ははは、そう言って頂けると嬉しいです」
その時、村の昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響いた。
もう修行に戻らねばならない。
「すみません、それでは行ってきます」
「頑張ってきなさいよー!」
おばさんの激励に手を振って答え、神殿へと歩き始めた。
その道中で、何かが上からちらちらと降ってくることに気づいた。
「これは……雪? もうそんな時期かぁ」
恐らく初雪だろう。
そう認識してからは急に肌寒く感じてしまい、歩みを早めた。
*******
「今日の修練はここまでだ」
現神夫、アーシアがそう言った。
「ありがとうございました!」
頭を下げてそう返す。
僕の修練することは儀式の作法、神夫としての立ち振る舞いなどだ。
小さい頃から続けているからか、昔はよく激を飛ばされたものだが、今ではすっかり板につき神夫は修練をする僕を見ているくらいになっていた。
それに……神夫、アーシアはもうかなりのお爺さんになってしまっていた。齢は300を超えているらしい。この里の平均寿命200歳を大幅に上回る年齢だ。だからかすっかり元気を無くしてしまっていて、それが少し寂しく感じた。
「それでは失礼いたします」
「待て」
修練が終わったので、神夫の邪魔にならぬよう速やかに立ち去ろうとしたところを呼び止められた。振り返ると近頃は感じていなかった生気を感じさせる神夫の顔があった。
思わず姿勢を正して目の前に再び正座した。
「ミゼル、お前はよくやってくれている。儀式の手伝いやら私の身の回りの世話までな……」
「至極光栄の至りでございます」
「だが、流石にもう私は限界が近いようだ。村の者に認められるならばお前を次の神夫へと推そうと思う」
「はい」
予想していなかった……なんてことは無かった。この世に生を受けた時から女神にこの一生を捧げる為に出来ることはなんでもしてきた。
「お前が村の者に認められないなどということはまず無いだろう。安心せぇい」
「はい」
「決まれば、一週間後に継承の儀式を行う。それまでは自由だ。いいか、最後の自由時間だ。この時を決して無駄にはしないようにせよ」
「……? それはどういう意味でしょうか?」
「神夫とは言わば神に仕える者。これからの人生、休暇などない。神夫となれば、外部との接触はほとんど減る。そういうことだ」
「私には特にやり残したこともありません」
僕がそう言うと神夫はしばしこちらを見つめた後、残念そうに声を漏らす。
「そうか、それならいいが……」
「それでは失礼します」
静かに神殿を出た。
********
「それではこれより次の神夫を決定しようと思う!」
神殿の前に集められた里の人々を前に外界から持ちこんだマイクを握りしめて、村長が宣言した。
「現神夫のアーシア様は後継にミゼル様を推薦された。これに異議があるものは!」
それを聞いた村人は当然だろうと驚くこともなく、いよいよ正式に決定かと思っていると……。
「異議あり! 次の神夫にはこの俺が相応しい!!」
村人の中から茶色の髪の青年が飛び出した。
そのまま憎々しげにこちらを睨みつけて、指を指す。
「こんな奴よりも俺の方が適任だ! なぁ親父、普通に考えてみろよ? こいつに神夫が務まるわけがねぇ!!」
その発言にその場が静まり返った。
村長は呆れた顔で諭すように青年に言った。
「考え直すのはお前だ、ユーガ。周りを見てみろ、お前にまともな目があるのならな……」
あちらこちらから、「あんな半端者が何を言っているのだ……」「やはり甘やかされて育つとああなっちゃうのね……」という声が聞こえてきて、彼もそれに気づくと音の方に射殺さんばかりの表情を向けていた。
「それに比べ、ミゼル様は女神様と同じ美しい白銀の髪と翡翠の眼を持っておられる。加えて幼少の頃より神夫としての修行を積まれている。お前如きとは話にならん!」
そう自分の息子、ユーガに吐き捨てると群衆に声を張り上げた。
「それでは満場一致と見做し、ミゼル様を正式な神夫の後継者とする!!」
その宣言に群衆から大きな歓声が聞こえた。
手を打ち鳴らして祝福する人やはやし立てる人など様々だが、皆が僕を祝福してくれていた。
その声に応えるように手を振っていた僕は気づかなかった。
この中でただ一人、反対した人物が顔を憎悪に歪めこちらを睨みつけていることに。
その者の憎悪が生半可なものではなかったということに。
***********
次の日の朝、久しぶりの休暇なのでゆっくり起きようと考えていたのに、日々の修行に出ていた時間に起きてしまっていた。
昨日から降り始めた雪はあれからずっと続いているが、今の所はそれ程勢いがなくまだ積もるくらいには至っていない。
起きてしまってはしょうがない。寒いのを我慢して、少し外に出て運動しようと箪笥を開けると比較的厚めの服に着替えた。
着てみると、思ったよりも薄く少し寒いがこれで我慢することにする。
外に出て、少し準備運動をしてから軽くジョギングをこなし、汗が出てきたくらいで家に戻る。
家には僕しかいない為、自分で朝食を作る。僕に家族はいない。
父親は外界へ行ったっきり戻ってこず、母親は僕が生まれて直ぐに亡くなった。
だから家事は今までずっとこなしてきたし、この家にも一人でずっと暮らしていた。
でも、僕が正式に神夫を継承すれば、ここを出なければならない。
神夫が他の者の様な平凡な家に住んでは、威厳が損なわれてしまうからだ。だから代々、神夫は神殿に住むことになっている。
農業を営む人達からのお裾分けのジャガイモやニンジン、レタス等を煮込んでスープを作り、それで朝食を済ませる。
食器洗いも終わった所でほっと一息つく。
その時、ガバッと後ろから腕を掴まれ、羽交い絞めにされる。
「だ、誰だ!」
拘束から逃れようと抵抗しようとしたが、口に何かを押し付けられて、意識が遠のいていってしまった。
********
頭がぼんやりとする。
まるで思考回路が泥沼に嵌ったように鈍い。
薄っすらと目を開けると薄暗い部屋だった。
そして手足は動かせない。
鎖で手足を壁に貼り付けられいるようだ。
鎖が擦れる音に気付いたのか、こちらに歩いてくる人影が一つ。
「よう、やっと起きたか」
「やっぱり君か、ユーガ」
どす黒い感情が表情に現れていて、おぞましく感じた。
彼はどうやら僕に復讐するつもりらしい。
だが、恐らく村の人達も僕がいなくなったことに気づくだろう。
そうすれば、僕は助かる筈だ。
少しの傷は負うかもしれないが、殺されることはないだろう。
そう考えていた。
それ故に強気の態度で言葉を放った。
「まさか、こんなことまで起こすとは……。そんなことをすればますます村の皆からの信用が堕ちると考えなかったのか!」
僕がそう叫ぶと、ユーガは少しの間を開けて、大きな声で笑い始めた。
「…………ククク、ハハハハハハハ、ハハハハハ!!!」
邪悪に笑う、嗤う、哂う。
「ハハハハハ!! ば、馬鹿だろてめぇ! 俺が神夫になれねぇのなんかとっくに知ってんだよ!!」
「なっ……!」
「俺にはもう何も失う物なんてねぇんだよ!! だから、こうして……」
ポケットから鋭い刃物を取り出す。
そのままそれを握りしめて僕の胸目掛けて振り下ろす。
「ぐはっ!」
どすっという鈍い音と共に、深く突き刺さった。
今までに受けたことのない痛みが全身に広がる。
「な、ナイフ……」
「こうしてお前を殺すことになんの躊躇いもねぇんだよ…………。なぁミゼル。だからさぁ…………」
簡単に……死んでくれるなよ?
*********
ここから僕にとっての地獄が始まった。
全身の至る場所を切り付けられ、鞭を打たれた。声を上げるのを防ぐために喉も潰された。
全身を切り刻まれた後は、切り付けた場所の上から切り付ける。
こちらが苦しんだ様子を見せると、一層喜んで盛んに痛みつけられる。
それでも、僕は希望を持ち続けた。
きっと誰かが僕を助け出してくれる筈だから。
必ずユーガには断罪を受ける日が訪れる筈だから。
そう信じて待ち続けた。
そうして…………そう信じてどれ程の時が経っただろうか。
「…………がはっ! げほっげほ」
「テメェ、まだ希望持ってやがんのか……チッ。もう2日経ってんのに助けてなんて来るわけねぇだろうがあああぁぁぁ」
そう叫んでユーガはナイフを思い切り、右腕に振り下ろした。
もはや感覚の無くなっていた右腕は驚く程簡単にすぱーんと切断された。
真っ赤な液体が腕から吹き出す。
右腕が燃えるように熱い。
「ぐっ、あああああああああああああああぁぁぁ!!」
そして狂いそうになる程の強烈な痛みが僕を襲った。
叫ばなけば痛みだけで失神してしまいそうだ。
その中に残った僅かな理性で神に祈った。
『どうか……どうかこの哀れな私をお助け下さい。我等の女神アルテナよ!! 私の名はミゼル、私に手を差し伸べ給え!!』
そう心で叫んだ。
すると、意識は揺らいで視界はぐるりと回転して…………。
気が付けば、真っ白な世界に一人で立っていた。
そこにはユーガもいなくて、何も無かった。
本当に何も。
やがて名にも見えない果ての水平線にうっすらともやがかかり始めた。
それは徐々に存在感を増していき、膨れ上がっていく。
圧倒的なまでの存在感。あれは……。
「……女神様!」
客観的に見ればあれはただの霧にしか見えないが、信仰を捧げていた僕から見ればすぐに分かった。
それはずっとこちらを見つめているようだった。
とれくらいの間、そうしていただろうか。
やがてそれは何か言葉を発した。
『…………………………』
くぐもっていて巧く聴こえなかったが、何やら優しい口調であったことは分かった。
でもその直後、刺々しい雰囲気を発していた。
それは僕に対してではなくて、いつの間にか白い世界に映し出されていた郷に向けられていた。
「な、何を!?」
再びこちらに向いて、何かを呟く。
「…………」
一体何をしたんだ、そう思った時意識がまた揺らぎ始めた。
彼女はこちらにまた何か言葉を発した。
意識が不安定な中最後の部分だけは何故かハッキリと聞こえた。
「…っ………ね。……ら…迎えにいくから」
それは美しい声だった。僕が今までに聞いたことのないほどの美しい声。
でも僕はその声に一抹の恐怖を感じずにはいられなかった。
******
気がつけばまたユーガが目の前に立っている。
「なあなあ、意識飛ばした感想はどうだ? ヒャハハハハハ!!」
「お前にはもっと苦しんでも……」
ぐしゃ
「え?」
異変はそこで起きた。
ユーガは上から降ってきた光の柱に押し潰されてしまっていた。
そして僕の体は不自然に光だす。
一瞬の内に右腕が再生した。拷問の傷すらも。余りの出来事に目を剥く。
気がつけばユーガを殺した光も消えていた。
「ぎゃぁ」「な、なんだこれは!?」「うわぁ」
続けざまに外から激しい悲鳴が聞こえてくる。
「ぐ、待って……いてくれッ!」
再生した右腕は拘束が無いことを利用し、直ぐ様拘束を急いで解いていく。
二、三分かけて漸く外に出ると、そこは地獄だった。
いつの間にか積もり始めていた雪に遺体があちらこちらに倒れている。
「なんなんだこれは……」
人気は全くなくなっていて、もう廃村のようだった。
もう悲鳴は聴こえなくなっていて。
「だ、誰か! 誰かいませんか!?」
そう叫んで、郷の奥へと走る。
走っても走っても、そこには遺体しかなくて、気が付けば神殿の前で息を切らして立っていた。
神殿に目を向けると、天井に穴が開いている。
「まさか……ッ!」
「せんせいッ!」
いつの間にか神父と言うのも忘れて、幼い頃の呼び名が口から飛び出る。
中に駆け込むと、老人は血を抑えて床に蹲っていた。
すぐに駆け寄り、その手を取る。
「よかった! まだ息がある! 先生! しっかりしてください!! お願いします! だからどうか……」
「げほっげほっ……そ、その名で呼ぶなと言っていたじゃろう…………」
「せ、せん……神夫様! ご無事ですかッ!」
「そんなことよりも……村は……全滅か?」
その問いに首を横に振る。
「そうか……やはり皆の神気では、あの女神様の神力に耐えることは出来なかったか……」
「神気? 神力? それは一体?」
「それよりも大事なことがある…………儂も長くは持たんだろう」
神夫は自分から流れ出た血の量を見て言った。
「やめてくださいッ! あなたに生きてもらわねば……どうすると言うのです!!」
「だが、紛れもない事実じゃ。時間が無い。要点だけ話そう。本当なら継承の儀の時に伝えようと思っていたのじゃがな…………。
この村に伝わる昔話……あれを覚えているじゃろう。忘れられてしまったと言われているが、あれは嘘じゃ。
その続きは……
******
そして彼女は暴走しました。
夫を亡くした哀しみと夫の愛した土地を離れてしまった悲しみを力に変えて。
天界の全てを破壊し、全てを消し去ろうとした直前。
何とか生き残った神の一柱が全力を注ぎこみ、彼女は封じられました。
最初は封印を打ち破ろうと激しく暴れていましたが、それも次第におさまり、遂には何の反応もしなくなってしまいました。
彼女が中で何をしているのかは彼女のみぞ知る。
*********
「そんな……」
余りにも聞いてきた話と違っていた。
「ショックではあろうが、続きを話そう。夫を亡くされた女神様は一つの力を使われたと言われている。その力は未来予知。そして……輪廻転生という言葉は聞いたことがあろう」
「ということは…………まさか……」
「女神様はずっと待っておられるのじゃ……自分の夫が生まれ変わり現れるのを。
女神様は封印されてからありったけの力を使い、この里へそう連絡を取ってきた。……その生まれ変わりは神夫から生まれるとのことじゃ。そして分かり次第直ぐに連絡を取るようにとも伝えてきた」
「まさか……本当に……」
「容姿は白に近い銀色に翡翠の眼」
「はぁはぁ……」
胸が苦しい。
「身体の線は細く、女顔で……」
「はぁはぁはぁ……」
それが本当なら……僕は……。
「名はミゼル……と」
「はぁはぁ……それは……僕のことなんでしょうか?」
「儂は昔からそう見ておった。げんに無傷なのはお前だけじゃ……。そしてこの村への攻撃は、お前の存在を教えなかったことへの罰なのだろうな……」
自嘲するように神夫はそう言った。
「それならばッ! 教えていればよかったでしょう!」
「それは出来んかった、教えていればお前は連れていかれ、何もすることが出来ず永遠に女神に取りつかれた人形になってしまっていただろう」
「それでもいいです! こんな皆が死ぬ必要なんて無かったッ!」
「そうじゃな……。儂の身勝手な行動のせいで皆を死なせてしまった。そのことには悔いが残る。……見つかる筈は無かったのじゃがなぁ……」
「それは……私のせいです。私が神に助けを求めてしまったから……ッ!」
「気にせんでいい……お前はよくやっていた。だからあまり自分を……なんじゃ!」
神殿の天井の穴から見える空には幾重もの光の矢がずらりと並んでいた。
「そんな……第二射!」
「女神様は我らに対して未だにお怒りのようだ……恐らくあの矢とお前の神気から鑑みるに、お前には効かんように出来とるのじゃろう……何をしておる」
僕は神夫を背負っていた。
「何って決まってるじゃないですか! 逃げるんですよ!」
「無茶するな……もうあれからは逃れられん。よくやった……」
そうこうしている内に空から矢が降り始めた。
「いいから行きます! おおおおおぉぉぉぉ!!」
上を見ながら、避けるように走る。
「あと……もう少し!」
もう矢の範囲から逃れられる。そう思った時。矢が鎖へと変化し、僕の手足を凄まじい速度で縛った。
「なッ!」
上空からさらに大きい鎖がこちらに舞い降りてきていた。
「いかん! 烈火砲!」
神夫はとてつもない覇気を纏い、エネルギーを上へ放出する。先ほどまでの死にかけていた様子とは正反対だ。でも、これが彼にとって限界を超えた最後の力であることを僕は感じていた。
「くぅぅ!」
力は拮抗していたが、やがて押され始める。
「もうやめてください!!」
そう叫んでもやめる事はなかった。
「まだだ! はぁぁぁぁ!!」
勢いを取り戻した、神夫の力は鎖を消し飛ばした。
しかし……、
「せん……せい?」
しわがれていて、雪と血に汚れたその身体はピクリとも動かなかった。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
僕は、いや俺は叫んだ。
「お前を絶対に許さない!! 女神メリアぁぁぁ!!!!」
*********
「ああ、ああ、やっと! やっと! あなたが! あなたがそこにいるのね! ミゼル! 何千年と待ち続けていたわ! ……あなたが生まれ変わるのを、ずっと…………」
「だからもう少し待っていてね! 直ぐに迎えに行くから! ……………………………今度こそは絶対に」
離さないから……
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遅くなってしまって申し訳ありません。
これが改稿した第一話になります。
かなり情報を入れて組み込んだような気がします。(気づけば時数がすごいことに……)
天界に一柱の女神様がおりました。
その方は大変好奇心旺盛で、下界に強い興味を持っていました。
ですが、天界のルールでは下界に介入することは禁じられておりました。
長い間我慢を続けていた彼女でしたが耐えきれなくなってしまい、遂にはこっそりと下界に降りたってしまいました。
下界のことを何も知らなかった彼女は何も口にすることは出来ませんでした。
道の端でうずくまり、もう帰ろうと思ったその時、通りがかったある一人がそっと彼女にパンを分け与えました。
彼女が顔を見上げると、美しい顔をした少年がそっとこちらに優しい笑みを浮かべていました。
彼は彼女を受け入れ、供に暮らすようになりました。
次第に二人は惹かれ始め、やがて結婚しました。
子宝にも恵まれ、とても幸せな日々が続きました。
しかし、終わりはやって来ました。
少年は人間。
もう既にお爺さんへと変わり果ててしまっていました。
それに対して、女神である彼女には寿命がありませんでした。
彼女は彼を死なせまいと、様々な策を練りますが、奮闘虚しく亡くなってしまいました。
やがて彼女は天界の神々に見つかってしまい天界へと強制的に飛ばされてしまいました。
そして彼女は……………
はい、おしまい」
「えー、こんな中途半端な終わり方なのかよー」
まだ僕のへそくらいの背丈しかない男の子がそう僕に文句を言った。
それに回りの子どもたちも同調して、
「ねーねー、ミゼルおにぃちゃんならもっと知ってるんじゃないの?」
「いいから教えてよー」
とせがみ始めた。
「いや、本当に分からないんだ。言い伝えている内に、いつの間にか忘れられちゃったって神夫様から言われていて……」
「「「「うそつきー! 絶対知ってるくせにー!!」」」」
だだをこね始めて、これは困ったなーと思っていると、後ろからおばさんが子どもたちの頭にポカンと叩いた。
「こりゃ! ミゼル様を困らせるんじょないよ! それにお兄ちゃんじゃなくて神夫様だっていつも言ってるだろ!!」
「わぁーー! やまんばばばぁだー! みんなにげろー!!」
その剣幕に押されて、蜘蛛の巣を散らすようにきゃーと騒ぎながら子供たちは走り去った。
「はぁ、全く困ったもんだねぇ」
「いえ、僕は一向に構いませんよ。それにまだ正式に任命されたわけでもありませんし……」
神夫とは、先程子供たちに語った昔話と深く関係している。
簡単に言えば、天界で夫の死を悲しむ女神を慰めるという仕事だ。
それは物語に登場した女神と少年の血を引くこの里の人々にとって、憧れの対象であり、誰よりも敬うべき対象だ。
村長でさえも神夫には何も口出しは出来ない。
「今さら何を言っているんだい。ミゼル様以外に適任者なんていないよ!」
「ははは、そう言って頂けると嬉しいです」
その時、村の昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響いた。
もう修行に戻らねばならない。
「すみません、それでは行ってきます」
「頑張ってきなさいよー!」
おばさんの激励に手を振って答え、神殿へと歩き始めた。
その道中で、何かが上からちらちらと降ってくることに気づいた。
「これは……雪? もうそんな時期かぁ」
恐らく初雪だろう。
そう認識してからは急に肌寒く感じてしまい、歩みを早めた。
*******
「今日の修練はここまでだ」
現神夫、アーシアがそう言った。
「ありがとうございました!」
頭を下げてそう返す。
僕の修練することは儀式の作法、神夫としての立ち振る舞いなどだ。
小さい頃から続けているからか、昔はよく激を飛ばされたものだが、今ではすっかり板につき神夫は修練をする僕を見ているくらいになっていた。
それに……神夫、アーシアはもうかなりのお爺さんになってしまっていた。齢は300を超えているらしい。この里の平均寿命200歳を大幅に上回る年齢だ。だからかすっかり元気を無くしてしまっていて、それが少し寂しく感じた。
「それでは失礼いたします」
「待て」
修練が終わったので、神夫の邪魔にならぬよう速やかに立ち去ろうとしたところを呼び止められた。振り返ると近頃は感じていなかった生気を感じさせる神夫の顔があった。
思わず姿勢を正して目の前に再び正座した。
「ミゼル、お前はよくやってくれている。儀式の手伝いやら私の身の回りの世話までな……」
「至極光栄の至りでございます」
「だが、流石にもう私は限界が近いようだ。村の者に認められるならばお前を次の神夫へと推そうと思う」
「はい」
予想していなかった……なんてことは無かった。この世に生を受けた時から女神にこの一生を捧げる為に出来ることはなんでもしてきた。
「お前が村の者に認められないなどということはまず無いだろう。安心せぇい」
「はい」
「決まれば、一週間後に継承の儀式を行う。それまでは自由だ。いいか、最後の自由時間だ。この時を決して無駄にはしないようにせよ」
「……? それはどういう意味でしょうか?」
「神夫とは言わば神に仕える者。これからの人生、休暇などない。神夫となれば、外部との接触はほとんど減る。そういうことだ」
「私には特にやり残したこともありません」
僕がそう言うと神夫はしばしこちらを見つめた後、残念そうに声を漏らす。
「そうか、それならいいが……」
「それでは失礼します」
静かに神殿を出た。
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「それではこれより次の神夫を決定しようと思う!」
神殿の前に集められた里の人々を前に外界から持ちこんだマイクを握りしめて、村長が宣言した。
「現神夫のアーシア様は後継にミゼル様を推薦された。これに異議があるものは!」
それを聞いた村人は当然だろうと驚くこともなく、いよいよ正式に決定かと思っていると……。
「異議あり! 次の神夫にはこの俺が相応しい!!」
村人の中から茶色の髪の青年が飛び出した。
そのまま憎々しげにこちらを睨みつけて、指を指す。
「こんな奴よりも俺の方が適任だ! なぁ親父、普通に考えてみろよ? こいつに神夫が務まるわけがねぇ!!」
その発言にその場が静まり返った。
村長は呆れた顔で諭すように青年に言った。
「考え直すのはお前だ、ユーガ。周りを見てみろ、お前にまともな目があるのならな……」
あちらこちらから、「あんな半端者が何を言っているのだ……」「やはり甘やかされて育つとああなっちゃうのね……」という声が聞こえてきて、彼もそれに気づくと音の方に射殺さんばかりの表情を向けていた。
「それに比べ、ミゼル様は女神様と同じ美しい白銀の髪と翡翠の眼を持っておられる。加えて幼少の頃より神夫としての修行を積まれている。お前如きとは話にならん!」
そう自分の息子、ユーガに吐き捨てると群衆に声を張り上げた。
「それでは満場一致と見做し、ミゼル様を正式な神夫の後継者とする!!」
その宣言に群衆から大きな歓声が聞こえた。
手を打ち鳴らして祝福する人やはやし立てる人など様々だが、皆が僕を祝福してくれていた。
その声に応えるように手を振っていた僕は気づかなかった。
この中でただ一人、反対した人物が顔を憎悪に歪めこちらを睨みつけていることに。
その者の憎悪が生半可なものではなかったということに。
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次の日の朝、久しぶりの休暇なのでゆっくり起きようと考えていたのに、日々の修行に出ていた時間に起きてしまっていた。
昨日から降り始めた雪はあれからずっと続いているが、今の所はそれ程勢いがなくまだ積もるくらいには至っていない。
起きてしまってはしょうがない。寒いのを我慢して、少し外に出て運動しようと箪笥を開けると比較的厚めの服に着替えた。
着てみると、思ったよりも薄く少し寒いがこれで我慢することにする。
外に出て、少し準備運動をしてから軽くジョギングをこなし、汗が出てきたくらいで家に戻る。
家には僕しかいない為、自分で朝食を作る。僕に家族はいない。
父親は外界へ行ったっきり戻ってこず、母親は僕が生まれて直ぐに亡くなった。
だから家事は今までずっとこなしてきたし、この家にも一人でずっと暮らしていた。
でも、僕が正式に神夫を継承すれば、ここを出なければならない。
神夫が他の者の様な平凡な家に住んでは、威厳が損なわれてしまうからだ。だから代々、神夫は神殿に住むことになっている。
農業を営む人達からのお裾分けのジャガイモやニンジン、レタス等を煮込んでスープを作り、それで朝食を済ませる。
食器洗いも終わった所でほっと一息つく。
その時、ガバッと後ろから腕を掴まれ、羽交い絞めにされる。
「だ、誰だ!」
拘束から逃れようと抵抗しようとしたが、口に何かを押し付けられて、意識が遠のいていってしまった。
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頭がぼんやりとする。
まるで思考回路が泥沼に嵌ったように鈍い。
薄っすらと目を開けると薄暗い部屋だった。
そして手足は動かせない。
鎖で手足を壁に貼り付けられいるようだ。
鎖が擦れる音に気付いたのか、こちらに歩いてくる人影が一つ。
「よう、やっと起きたか」
「やっぱり君か、ユーガ」
どす黒い感情が表情に現れていて、おぞましく感じた。
彼はどうやら僕に復讐するつもりらしい。
だが、恐らく村の人達も僕がいなくなったことに気づくだろう。
そうすれば、僕は助かる筈だ。
少しの傷は負うかもしれないが、殺されることはないだろう。
そう考えていた。
それ故に強気の態度で言葉を放った。
「まさか、こんなことまで起こすとは……。そんなことをすればますます村の皆からの信用が堕ちると考えなかったのか!」
僕がそう叫ぶと、ユーガは少しの間を開けて、大きな声で笑い始めた。
「…………ククク、ハハハハハハハ、ハハハハハ!!!」
邪悪に笑う、嗤う、哂う。
「ハハハハハ!! ば、馬鹿だろてめぇ! 俺が神夫になれねぇのなんかとっくに知ってんだよ!!」
「なっ……!」
「俺にはもう何も失う物なんてねぇんだよ!! だから、こうして……」
ポケットから鋭い刃物を取り出す。
そのままそれを握りしめて僕の胸目掛けて振り下ろす。
「ぐはっ!」
どすっという鈍い音と共に、深く突き刺さった。
今までに受けたことのない痛みが全身に広がる。
「な、ナイフ……」
「こうしてお前を殺すことになんの躊躇いもねぇんだよ…………。なぁミゼル。だからさぁ…………」
簡単に……死んでくれるなよ?
*********
ここから僕にとっての地獄が始まった。
全身の至る場所を切り付けられ、鞭を打たれた。声を上げるのを防ぐために喉も潰された。
全身を切り刻まれた後は、切り付けた場所の上から切り付ける。
こちらが苦しんだ様子を見せると、一層喜んで盛んに痛みつけられる。
それでも、僕は希望を持ち続けた。
きっと誰かが僕を助け出してくれる筈だから。
必ずユーガには断罪を受ける日が訪れる筈だから。
そう信じて待ち続けた。
そうして…………そう信じてどれ程の時が経っただろうか。
「…………がはっ! げほっげほ」
「テメェ、まだ希望持ってやがんのか……チッ。もう2日経ってんのに助けてなんて来るわけねぇだろうがあああぁぁぁ」
そう叫んでユーガはナイフを思い切り、右腕に振り下ろした。
もはや感覚の無くなっていた右腕は驚く程簡単にすぱーんと切断された。
真っ赤な液体が腕から吹き出す。
右腕が燃えるように熱い。
「ぐっ、あああああああああああああああぁぁぁ!!」
そして狂いそうになる程の強烈な痛みが僕を襲った。
叫ばなけば痛みだけで失神してしまいそうだ。
その中に残った僅かな理性で神に祈った。
『どうか……どうかこの哀れな私をお助け下さい。我等の女神アルテナよ!! 私の名はミゼル、私に手を差し伸べ給え!!』
そう心で叫んだ。
すると、意識は揺らいで視界はぐるりと回転して…………。
気が付けば、真っ白な世界に一人で立っていた。
そこにはユーガもいなくて、何も無かった。
本当に何も。
やがて名にも見えない果ての水平線にうっすらともやがかかり始めた。
それは徐々に存在感を増していき、膨れ上がっていく。
圧倒的なまでの存在感。あれは……。
「……女神様!」
客観的に見ればあれはただの霧にしか見えないが、信仰を捧げていた僕から見ればすぐに分かった。
それはずっとこちらを見つめているようだった。
とれくらいの間、そうしていただろうか。
やがてそれは何か言葉を発した。
『…………………………』
くぐもっていて巧く聴こえなかったが、何やら優しい口調であったことは分かった。
でもその直後、刺々しい雰囲気を発していた。
それは僕に対してではなくて、いつの間にか白い世界に映し出されていた郷に向けられていた。
「な、何を!?」
再びこちらに向いて、何かを呟く。
「…………」
一体何をしたんだ、そう思った時意識がまた揺らぎ始めた。
彼女はこちらにまた何か言葉を発した。
意識が不安定な中最後の部分だけは何故かハッキリと聞こえた。
「…っ………ね。……ら…迎えにいくから」
それは美しい声だった。僕が今までに聞いたことのないほどの美しい声。
でも僕はその声に一抹の恐怖を感じずにはいられなかった。
******
気がつけばまたユーガが目の前に立っている。
「なあなあ、意識飛ばした感想はどうだ? ヒャハハハハハ!!」
「お前にはもっと苦しんでも……」
ぐしゃ
「え?」
異変はそこで起きた。
ユーガは上から降ってきた光の柱に押し潰されてしまっていた。
そして僕の体は不自然に光だす。
一瞬の内に右腕が再生した。拷問の傷すらも。余りの出来事に目を剥く。
気がつけばユーガを殺した光も消えていた。
「ぎゃぁ」「な、なんだこれは!?」「うわぁ」
続けざまに外から激しい悲鳴が聞こえてくる。
「ぐ、待って……いてくれッ!」
再生した右腕は拘束が無いことを利用し、直ぐ様拘束を急いで解いていく。
二、三分かけて漸く外に出ると、そこは地獄だった。
いつの間にか積もり始めていた雪に遺体があちらこちらに倒れている。
「なんなんだこれは……」
人気は全くなくなっていて、もう廃村のようだった。
もう悲鳴は聴こえなくなっていて。
「だ、誰か! 誰かいませんか!?」
そう叫んで、郷の奥へと走る。
走っても走っても、そこには遺体しかなくて、気が付けば神殿の前で息を切らして立っていた。
神殿に目を向けると、天井に穴が開いている。
「まさか……ッ!」
「せんせいッ!」
いつの間にか神父と言うのも忘れて、幼い頃の呼び名が口から飛び出る。
中に駆け込むと、老人は血を抑えて床に蹲っていた。
すぐに駆け寄り、その手を取る。
「よかった! まだ息がある! 先生! しっかりしてください!! お願いします! だからどうか……」
「げほっげほっ……そ、その名で呼ぶなと言っていたじゃろう…………」
「せ、せん……神夫様! ご無事ですかッ!」
「そんなことよりも……村は……全滅か?」
その問いに首を横に振る。
「そうか……やはり皆の神気では、あの女神様の神力に耐えることは出来なかったか……」
「神気? 神力? それは一体?」
「それよりも大事なことがある…………儂も長くは持たんだろう」
神夫は自分から流れ出た血の量を見て言った。
「やめてくださいッ! あなたに生きてもらわねば……どうすると言うのです!!」
「だが、紛れもない事実じゃ。時間が無い。要点だけ話そう。本当なら継承の儀の時に伝えようと思っていたのじゃがな…………。
この村に伝わる昔話……あれを覚えているじゃろう。忘れられてしまったと言われているが、あれは嘘じゃ。
その続きは……
******
そして彼女は暴走しました。
夫を亡くした哀しみと夫の愛した土地を離れてしまった悲しみを力に変えて。
天界の全てを破壊し、全てを消し去ろうとした直前。
何とか生き残った神の一柱が全力を注ぎこみ、彼女は封じられました。
最初は封印を打ち破ろうと激しく暴れていましたが、それも次第におさまり、遂には何の反応もしなくなってしまいました。
彼女が中で何をしているのかは彼女のみぞ知る。
*********
「そんな……」
余りにも聞いてきた話と違っていた。
「ショックではあろうが、続きを話そう。夫を亡くされた女神様は一つの力を使われたと言われている。その力は未来予知。そして……輪廻転生という言葉は聞いたことがあろう」
「ということは…………まさか……」
「女神様はずっと待っておられるのじゃ……自分の夫が生まれ変わり現れるのを。
女神様は封印されてからありったけの力を使い、この里へそう連絡を取ってきた。……その生まれ変わりは神夫から生まれるとのことじゃ。そして分かり次第直ぐに連絡を取るようにとも伝えてきた」
「まさか……本当に……」
「容姿は白に近い銀色に翡翠の眼」
「はぁはぁ……」
胸が苦しい。
「身体の線は細く、女顔で……」
「はぁはぁはぁ……」
それが本当なら……僕は……。
「名はミゼル……と」
「はぁはぁ……それは……僕のことなんでしょうか?」
「儂は昔からそう見ておった。げんに無傷なのはお前だけじゃ……。そしてこの村への攻撃は、お前の存在を教えなかったことへの罰なのだろうな……」
自嘲するように神夫はそう言った。
「それならばッ! 教えていればよかったでしょう!」
「それは出来んかった、教えていればお前は連れていかれ、何もすることが出来ず永遠に女神に取りつかれた人形になってしまっていただろう」
「それでもいいです! こんな皆が死ぬ必要なんて無かったッ!」
「そうじゃな……。儂の身勝手な行動のせいで皆を死なせてしまった。そのことには悔いが残る。……見つかる筈は無かったのじゃがなぁ……」
「それは……私のせいです。私が神に助けを求めてしまったから……ッ!」
「気にせんでいい……お前はよくやっていた。だからあまり自分を……なんじゃ!」
神殿の天井の穴から見える空には幾重もの光の矢がずらりと並んでいた。
「そんな……第二射!」
「女神様は我らに対して未だにお怒りのようだ……恐らくあの矢とお前の神気から鑑みるに、お前には効かんように出来とるのじゃろう……何をしておる」
僕は神夫を背負っていた。
「何って決まってるじゃないですか! 逃げるんですよ!」
「無茶するな……もうあれからは逃れられん。よくやった……」
そうこうしている内に空から矢が降り始めた。
「いいから行きます! おおおおおぉぉぉぉ!!」
上を見ながら、避けるように走る。
「あと……もう少し!」
もう矢の範囲から逃れられる。そう思った時。矢が鎖へと変化し、僕の手足を凄まじい速度で縛った。
「なッ!」
上空からさらに大きい鎖がこちらに舞い降りてきていた。
「いかん! 烈火砲!」
神夫はとてつもない覇気を纏い、エネルギーを上へ放出する。先ほどまでの死にかけていた様子とは正反対だ。でも、これが彼にとって限界を超えた最後の力であることを僕は感じていた。
「くぅぅ!」
力は拮抗していたが、やがて押され始める。
「もうやめてください!!」
そう叫んでもやめる事はなかった。
「まだだ! はぁぁぁぁ!!」
勢いを取り戻した、神夫の力は鎖を消し飛ばした。
しかし……、
「せん……せい?」
しわがれていて、雪と血に汚れたその身体はピクリとも動かなかった。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
僕は、いや俺は叫んだ。
「お前を絶対に許さない!! 女神メリアぁぁぁ!!!!」
*********
「ああ、ああ、やっと! やっと! あなたが! あなたがそこにいるのね! ミゼル! 何千年と待ち続けていたわ! ……あなたが生まれ変わるのを、ずっと…………」
「だからもう少し待っていてね! 直ぐに迎えに行くから! ……………………………今度こそは絶対に」
離さないから……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遅くなってしまって申し訳ありません。
これが改稿した第一話になります。
かなり情報を入れて組み込んだような気がします。(気づけば時数がすごいことに……)
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