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おまけ2 清水さんと元宮さん 02
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「よくしゃべるんですね」
「あはっ、そうですね。営業職なので、コミュ力だけが取り柄なんですよ」
「ああ、なるほど。確かにそれっぽいです」
ふふっと優しげな笑い声を落として、男はスクリーン前に置かれた長ソファへと腰を下ろした。横には備えられた猫足テーブルから薄緑色のグレープを摘み、口へと運ぶ。その一挙一動に品があり、樹は彼の横に腰掛けながら興味深げに首を傾げた。
「玄野さんも営業ですか?」
「なぜそう思われたんですか?」
「話し方がすごく綺麗なので。発音とかもすごく聞き取りやすいです。コールセンターとか向いてるんじゃないですか?」
「おっしゃる通りで前職はカスタマーサポートで働いておりました」
「過去形?」
「ええ、面倒なお客様からの嫌がらせがエスカレートして収集がつかなくなったんです。SNSにあることないこと書かれて、しまいには名指しで本社に苦情入れられました」
「うわあ、酷いことする人いるんですね。きっといい死に方しないですよ、そいつ」
「そう願ってます、切実に」
言葉尻に強かな憤怒を滲ませようと、顔にはあまり出ない方なのか。男は物静かな様子で軽食に手を付け、涼しげな表情を浮かべている。
「思っていたより身長ありますね、元宮さんって」
「それ褒めてくれてます? 持ち上げてくれるのは嬉しいんですけど、たぶん玄野さんと同じか、ちょっと下ぐらいじゃないですか?」
「これでも調整したんです。さすがに三メートルだと身長差がエグいから」
「身長差? そうですね、たぶん三センチメートルぐらいですよ」
一瞬なにか聞き間違いをしてしまったような気もしないでもないが。おそらく彼も見知らぬ男と部屋に二人きりにされ、緊張しているのだろう。目が覚めたら異様な雰囲気の部屋に監禁されている。パニックに陥っても仕方がない状況だ。自分も過去に呼ばれた経験がなければきっと取り乱していた。そう考えると、あの悍ましい出来事も無駄ではなかったといる。
「……それで、元宮さん。ここが何をしないと出れない部屋か知ってます?」
そろそろ腹が膨れてきたころなのか、男は最後の一口を飲み込むと身を傾け、樹の方へと向き直った。薄く開かれた瞼から覗く二つの紫の瞳。バイオレットカラーの虹彩は世界的に珍しく、人口の一パーセント以下とされている。自然界では極めて稀で、赤みが強ければなおその希少性は増すらしい。恐ろしいほど整った顔に加えて宝石のような瞳が合わさり、どことなく作り物めいた印象を抱かせた。
言ってしまえば「人工的」。無論、そんな無礼をわざわざ口に出して伝えるわけもなく、樹はお決まりの笑顔を貼り付けて彼の手を握り締める。
「玄野さん、落ち着いて聞いてください……すごく言いにくいことなんですが、ここ『セックスかデスゲームしないと出れない部屋』なんです」
「それって」
「いや、わかりますよ! 流行ったのだいぶ前ですし、乗り遅れた感半端ないって思いますよね。俺もそう思います、企画考えた馬鹿の面を拝んでみたい」
やはり相当な衝撃を受けたのか。あれほど表情を崩さなかった顔がピクッと引き攣り、その動揺を映し出す。休日の午前に呼び出され、成人男性相手にセックスかデスゲームを強いられるなんて非道もいいところだ。驚きも狼狽も理解できるし、向かいどころのない怒りが湧いてきても当然のはず。
俺も同じ気持ちですと、まずは同調し、樹は憂慮に陰った男の頬をそっと撫でた。
「あはっ、そうですね。営業職なので、コミュ力だけが取り柄なんですよ」
「ああ、なるほど。確かにそれっぽいです」
ふふっと優しげな笑い声を落として、男はスクリーン前に置かれた長ソファへと腰を下ろした。横には備えられた猫足テーブルから薄緑色のグレープを摘み、口へと運ぶ。その一挙一動に品があり、樹は彼の横に腰掛けながら興味深げに首を傾げた。
「玄野さんも営業ですか?」
「なぜそう思われたんですか?」
「話し方がすごく綺麗なので。発音とかもすごく聞き取りやすいです。コールセンターとか向いてるんじゃないですか?」
「おっしゃる通りで前職はカスタマーサポートで働いておりました」
「過去形?」
「ええ、面倒なお客様からの嫌がらせがエスカレートして収集がつかなくなったんです。SNSにあることないこと書かれて、しまいには名指しで本社に苦情入れられました」
「うわあ、酷いことする人いるんですね。きっといい死に方しないですよ、そいつ」
「そう願ってます、切実に」
言葉尻に強かな憤怒を滲ませようと、顔にはあまり出ない方なのか。男は物静かな様子で軽食に手を付け、涼しげな表情を浮かべている。
「思っていたより身長ありますね、元宮さんって」
「それ褒めてくれてます? 持ち上げてくれるのは嬉しいんですけど、たぶん玄野さんと同じか、ちょっと下ぐらいじゃないですか?」
「これでも調整したんです。さすがに三メートルだと身長差がエグいから」
「身長差? そうですね、たぶん三センチメートルぐらいですよ」
一瞬なにか聞き間違いをしてしまったような気もしないでもないが。おそらく彼も見知らぬ男と部屋に二人きりにされ、緊張しているのだろう。目が覚めたら異様な雰囲気の部屋に監禁されている。パニックに陥っても仕方がない状況だ。自分も過去に呼ばれた経験がなければきっと取り乱していた。そう考えると、あの悍ましい出来事も無駄ではなかったといる。
「……それで、元宮さん。ここが何をしないと出れない部屋か知ってます?」
そろそろ腹が膨れてきたころなのか、男は最後の一口を飲み込むと身を傾け、樹の方へと向き直った。薄く開かれた瞼から覗く二つの紫の瞳。バイオレットカラーの虹彩は世界的に珍しく、人口の一パーセント以下とされている。自然界では極めて稀で、赤みが強ければなおその希少性は増すらしい。恐ろしいほど整った顔に加えて宝石のような瞳が合わさり、どことなく作り物めいた印象を抱かせた。
言ってしまえば「人工的」。無論、そんな無礼をわざわざ口に出して伝えるわけもなく、樹はお決まりの笑顔を貼り付けて彼の手を握り締める。
「玄野さん、落ち着いて聞いてください……すごく言いにくいことなんですが、ここ『セックスかデスゲームしないと出れない部屋』なんです」
「それって」
「いや、わかりますよ! 流行ったのだいぶ前ですし、乗り遅れた感半端ないって思いますよね。俺もそう思います、企画考えた馬鹿の面を拝んでみたい」
やはり相当な衝撃を受けたのか。あれほど表情を崩さなかった顔がピクッと引き攣り、その動揺を映し出す。休日の午前に呼び出され、成人男性相手にセックスかデスゲームを強いられるなんて非道もいいところだ。驚きも狼狽も理解できるし、向かいどころのない怒りが湧いてきても当然のはず。
俺も同じ気持ちですと、まずは同調し、樹は憂慮に陰った男の頬をそっと撫でた。
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