【完結】【竜×人間の恋物語】竜を愛した軍人は異世界で甘やかされる【すれ違い溺愛・ギャグ多め】

桐ヶ谷るつ

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【第十九話】

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 半壊した部屋の扉は開かず、アウルは代わりに崩れかけた壁の穴から押し入る。まず目に付いたのは天井までぶち撒かれた血液と肉片、そして奥から絶え間なく聞こえる銃の乱射音だった。

 銃を肩の位置で構えたまま足を進め、硝煙に曇った室内を抜ける。上空からの襲撃だったのだろうか。全面の窓ガラスは割れ、大きくひしゃげたフレームは反対側の壁に突き刺さっていた。どこをとっても人間業とは思えない。新型ドローンタイプの爆撃機か、はたまた祝福の保持者の仕業か。
 どちらにしても自動式拳銃では物足りないと、アウルは床からフルオートブローバックのサブマシンガンを拾い上げる。

 天井が吹き飛び、外気に晒されたことで開けたはずの視界は日蝕の影響で薄暗い。頬を擦る寸前のところを吹き飛んでいく頭部。歩みを進める度に踏み締める内臓の鮮度も抜群だ。惨憺たる有り様に感嘆し、血飛沫に汚れたゴーグルを荒く拭ったところで聞き慣れた声が降り注いだ。同時に視界を過った長い尾っぽは鱗を従え、艶のある美しさを保っている。
 振り返る間も無く背に鋭い爪が突き立てられ、アウルの身に痛みが走った。肉を割かれる激痛に声を上げるも、身体はそのまま持ち上げられ瓦礫の上に叩き付けられる。
 大きな爪の合間から覗き見たものは、あれほどまでに恋焦がれた番の顔。なぜ彼がここにいるのか、なぜ軍事基地を襲っているのか。理解できない状況に目が回り、彼の肌を伝う鮮血の量にアウルは声を失った。

 龍の皮膚は他のどの生物よりも硬くできている。弓矢を弾くほどと言われていたが、あくまでもそれは昔の話。近代の銃弾はボディーアーマーや軍用ヘルメットさえも貫く。中には体内に入って先端が割れ、深刻なダメージを与える特殊な弾もあった。
 ボタボタと鋭い歯の合間から滴る血液はアウルの頬を叩き、悲痛な声を上げてその痛みを伝えてくる。

「ニ、ルギル……俺だ、アウルだ」

 傷口に食い込む爪と押し潰される痛みで声が掠れる中、アウルは必死にその注意を引こうと身を捩らせる。声も、見た目も、目の色さえ違う自分を認識できるはずがない。そんなことはわかりきっていたが、他になにができただろう。
 変な意地を張らずに、さっさと秘密を打ち明けていればよかった。晴れの日も、雨の日も、彼を求める心に従いただ会いに行けばよかった。そんな後悔が今になって押し寄せ、頬を湿らせる。もっと素直になって、もっと彼に愛を伝えていればーー言葉にならない悔やみが涙となり、床を染め上げる血に混じる。

「ニルギル、俺だ……っ! やめろ……っ!」

 愛を囁いてくれた口と同じもので砕かれた骨。優しく髪を梳かした爪はナイフよりも鋭利な冷たさで皮膚を抉る。肺に突き刺さった骨が呼吸する度に肉を押し、なけなしの涙声は銃声に掻き消されてしまった。
 視界を埋める肉片の数は増える一方。赤に沈んだ世界を眼下に、黒い太陽はなにを思ったのだろう。月の影から現れては悪戯な微笑を滲ませ、酷薄な閃光を惜しみなく散乱した。

「もう、やめてくれ……っ、ニルギル」

 ざわっと総毛だった身体は愛しい者の手の中で変化し、その秘密を晒し出す。肌が焼かれる感覚と共に色付いた紫の虹彩。柔らかなボディーラインは擦り切れた軍服の中で開花し、白い肌を浮かび上がらせた。
 驚きに見開かれたヘーゼルの瞳。その胸中を表すように手の力が緩められる。




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