【完結】【竜×人間の恋物語】竜を愛した軍人は異世界で甘やかされる【すれ違い溺愛・ギャグ多め】

桐ヶ谷るつ

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【第二十四話】

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 日が傾き始めた午後二時半。都内の一等地に立つビルの前で下ろされた後、出向いた先はとある広告代理店。昼休憩が終わり、人々が忙しなく行き来する中、一冴はお目当ての社員を見つけて引き止めた。

「啓、少しいいか?」
「一冴さん? お久しぶりですね。お元気にされていましたか」
「あはっ、見ればわかるだろ。お前も元気そうでなによりだな」

 自動販売機の前で上司と会話をしていた皇啓は一冴へと向き直り、爽やかな笑顔で会釈を返す。日本文化に削ぐわない明るい薄灰色の髪色。それに合わせて目を惹いたのはその身長だ。横に並んだ彼の上司が一般的な平均サイズであるのに対して、頭一つ分飛び抜けている。柔らかな物腰がなければなかなかの威圧感を与えるだろうなと、顔を見た瞬間にアウルは身を強張らせた。

「な……っ、なんでディオネの王子がここに……っ!」

 国の名を出すと共に僅かに歪められた目元。恐ろしく整ったその顔立ちはけして忘れられない。六年ほど前にヴィクトリア州南部の内乱で見かけた、過去最悪の祝福の保持者、ディオネの第一王子であるケイン・ブラッドフォードだった。

 彼が触れたものは音もなく風化し、いとも容易く命を奪っていく。能力の範囲は人だけではなく、銃器、食料、そして大地でさえ、彼は目に映るもの全てから「時間」を奪うことができた。ただ殺すだけではない。その者の生きた痕跡すら残さずに奪い去ってしまう。

 美しい顔に似合わず、エグい能力を使う男。そんな悪魔のような存在が、なぜ民間の一般企業に身を置いているのか。ごくりと生唾を飲んだアウルを見据え、啓は冷ややかな微笑を崩さずに手元の缶珈琲を口にした。

「啓……お前、身内に王子って呼ばせてんのか?」
「やめてくださいよ、譲さん。そんなマニア系プレイ、専門店でもしてくれませんって」
「そうだよな……悪い、ちょっと未開拓のジャンルで驚いただけだ」

 日中からなんの話をしているのかは、この際どうでもいいとして。問題は一冴と啓の関係性だった。一国の王子と対等、いや、むしろ敬語を使わせている。一体どんな縁があり交友関係が生まれたのか。じりっと身構えて睨め上げればその懸念を察したのだろう。一冴はそっとアウルの耳元に近付き、「従兄弟なんだ」と小さく囁く。

「この人、大丈夫か? 顔色最悪だぞ」
「たぶん外の暑さで頭ぶっ飛んでるんですよ。それに彼は身内じゃなくて、学生時代の友人……」
「ひいいぃっ……ち、近寄るな……っ、クソ野郎っ!」
「啓、大学でビビらせるようなことしてたのか?」
「まさか、呂律回ってないんできっと熱中症ですね」

 ひしっと一冴にしがみ付いたアウルは震えが抑えられず、十分な距離を取りながら逃走経路を探した。
 数ある能力の中でも、最も悍ましい死を与える時間の祝福。いくらなんでも相手が悪すぎると唾棄し、その視線は啓の手元へと落とされる。

「どうした、アウル?」
「こ……こいつ、手袋をつけてない」
「こっちの世界だとそれが普通なんだよ」

 通常、祝福の保持者は外出時に必ず手袋を着用する。それがマナーであり、闘争心がないことを示す意思表示でもあった。
 しかし現代の日本という国に置いて、手袋を着けて生活をするのは冬季のみ。ジュエリーを扱う店ならまだしも、広告代理店の社員であれば不必要だ。無論そんな常識を知るはずのないアウルとしては、凶器を晒しているようにしか見えず、青ざめた顔からは血の気が引いていくばかりだった。



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