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第二部 【第五話】
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「……人の番に手を出すとはいい度胸だな」
腹の底から吐き出された低音。確かな怒気を纏い現れた一冴は顳顬にど太い筋を浮かべ、エルドの胸ぐらを掴み上げる。
「自分の恋人に手を出すことが問題か?」
「誰が誰の恋人だって?」
「あはっ、見たらわかるだろ?」
へらっと薄気味悪い笑みを浮かべた男の視線は下へ動き、肌を赤くし身悶えるアウルへと落とされた。服を乱され、完全に勃ち上った男性器が解放を求める最中、なけなしの理性は血を滲ませて唇を噛み締めている。
「も、だめ……っ、出、ちゃう」
「我慢できるだろ、アウル? 挿れて欲しくないのか?」
「ん……っ、欲しい、……早く」
「まだ駄目だ、こいつが消えるまで少し待ってろ」
制する言葉も聞こえないのか。我慢ができず、自身の昂りに手を伸ばしたアウルを眼下に、エルドは口角を吊り上げた。あからさま見せつけ行為。まるでこうなることを予想していたかのような光景は、手際良く計画がなされていたのだろう。
一冴は表情を変えることなくエルドを押し退けると、強引な動作でアウルを抱き上げた。
「俺が二度も同じ手に騙されると思うか?」
「ああ、やっぱりお前か。それどういう仕組みで人間になってるんだ?」
さして驚く素振りも見せず、エルドは立ち上がる。同じ目線で向かい合った身体は逞しく、いくつもの戦場を潜り抜けてきた強靭さを悟らせた。磨き上げられた身体、そしてその奥に根を張る狡猾さ。
奪い返そうと伸ばされた手が不穏な光を指先に灯すと、なにかを察した一冴が素早く後ずさる。自身で口にしたように、同じ手を食うほど馬鹿ではない。しかし、けして情勢が有利であるとは言えず、この場に止まることが最善とは思えなかった。
「アウル、目覚せ」
「触るな、放せ……っ!」
「暴れるなって、大丈夫だからこっちを見ろ」
「い、やだ……やだっ! 母さん……っ! ライル、メイア……っ」
「アウル、どうした……?」
「……殺してやる! 人間の男なんて、皆んなぶっ殺してやる!」
ぼろぼろと大粒の涙を零し、アウルは酷い声を上げながら喚き散らかす。視線は上下左右へと向かい、目に映らない過去の情景を追っているように見えた。
「人を錯乱させる能力……それがお前の祝福か? こいつのトラウマまで引き出しやがって、どんだけ捻じ曲がってるんだ」
これが好意ある者への所業なのか。その神経を疑いたくなるような行い。どこまで人をおちょくれば気が済むのだろう。罪悪感など毛ほども感じず、エルドは朗らかな表情で笑いその愉悦をひけらかした。
「俺はお前みたいに緩くない、欲しいものはなにがなんでも手に入れる」
ふっと嘲笑を交えた威嚇。指先を滴る愛液の名残を舌で伝い、その余裕をたっぷりと見せつけてくる。
「アウルは俺のものだ……弱い雄は尻尾巻いて隠れてろ」
にやけた表情から読み取れたものは狂気か、それとも行き過ぎた愛の形か。どちらにしても、ここまで煽られて相手にならないわけにはいかない。そう意気込んで腕を振り上げたはずが、ぞわりとうなじあたりで覚えた不快感に身体は予想外の方へと傾いていく。
ぐぐぐっと身体が変化し、競り上がった羽が押し開けた天井の大穴。気が付けば塔の大部分を破壊してしまい、数日前に聞いたばかりの大臣の怒声が、どこからともなく聞こえてきた。
腹の底から吐き出された低音。確かな怒気を纏い現れた一冴は顳顬にど太い筋を浮かべ、エルドの胸ぐらを掴み上げる。
「自分の恋人に手を出すことが問題か?」
「誰が誰の恋人だって?」
「あはっ、見たらわかるだろ?」
へらっと薄気味悪い笑みを浮かべた男の視線は下へ動き、肌を赤くし身悶えるアウルへと落とされた。服を乱され、完全に勃ち上った男性器が解放を求める最中、なけなしの理性は血を滲ませて唇を噛み締めている。
「も、だめ……っ、出、ちゃう」
「我慢できるだろ、アウル? 挿れて欲しくないのか?」
「ん……っ、欲しい、……早く」
「まだ駄目だ、こいつが消えるまで少し待ってろ」
制する言葉も聞こえないのか。我慢ができず、自身の昂りに手を伸ばしたアウルを眼下に、エルドは口角を吊り上げた。あからさま見せつけ行為。まるでこうなることを予想していたかのような光景は、手際良く計画がなされていたのだろう。
一冴は表情を変えることなくエルドを押し退けると、強引な動作でアウルを抱き上げた。
「俺が二度も同じ手に騙されると思うか?」
「ああ、やっぱりお前か。それどういう仕組みで人間になってるんだ?」
さして驚く素振りも見せず、エルドは立ち上がる。同じ目線で向かい合った身体は逞しく、いくつもの戦場を潜り抜けてきた強靭さを悟らせた。磨き上げられた身体、そしてその奥に根を張る狡猾さ。
奪い返そうと伸ばされた手が不穏な光を指先に灯すと、なにかを察した一冴が素早く後ずさる。自身で口にしたように、同じ手を食うほど馬鹿ではない。しかし、けして情勢が有利であるとは言えず、この場に止まることが最善とは思えなかった。
「アウル、目覚せ」
「触るな、放せ……っ!」
「暴れるなって、大丈夫だからこっちを見ろ」
「い、やだ……やだっ! 母さん……っ! ライル、メイア……っ」
「アウル、どうした……?」
「……殺してやる! 人間の男なんて、皆んなぶっ殺してやる!」
ぼろぼろと大粒の涙を零し、アウルは酷い声を上げながら喚き散らかす。視線は上下左右へと向かい、目に映らない過去の情景を追っているように見えた。
「人を錯乱させる能力……それがお前の祝福か? こいつのトラウマまで引き出しやがって、どんだけ捻じ曲がってるんだ」
これが好意ある者への所業なのか。その神経を疑いたくなるような行い。どこまで人をおちょくれば気が済むのだろう。罪悪感など毛ほども感じず、エルドは朗らかな表情で笑いその愉悦をひけらかした。
「俺はお前みたいに緩くない、欲しいものはなにがなんでも手に入れる」
ふっと嘲笑を交えた威嚇。指先を滴る愛液の名残を舌で伝い、その余裕をたっぷりと見せつけてくる。
「アウルは俺のものだ……弱い雄は尻尾巻いて隠れてろ」
にやけた表情から読み取れたものは狂気か、それとも行き過ぎた愛の形か。どちらにしても、ここまで煽られて相手にならないわけにはいかない。そう意気込んで腕を振り上げたはずが、ぞわりとうなじあたりで覚えた不快感に身体は予想外の方へと傾いていく。
ぐぐぐっと身体が変化し、競り上がった羽が押し開けた天井の大穴。気が付けば塔の大部分を破壊してしまい、数日前に聞いたばかりの大臣の怒声が、どこからともなく聞こえてきた。
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🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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