女狂いの夫が妹を第二夫人に据えようとしたので、破滅させることにしました

たると

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さようなら

エドワードの絶叫は、厚い絨毯に吸い込まれ、誰の同情も誘うことなく消えていった。
ナタリーは、自身の執務室へと続く静かな回廊を歩きながら、胸の内で重く、冷たく滞っていた何かが、さらさらと砂のように崩れ落ちていくのを感じていた。

「奥様、お疲れ様でございます」

廊下の影に控えていたマリエが、主人の顔色を窺いながら歩調を合わせる。
彼女の手には、すでに外出用の厚手のマントが用意されていた。

「マリエ。セシルは?」

「はい。予定通り、一時間前に裏門から馬車で出発いたしました。信頼できる騎士が二名、護衛についております。今頃は、王都の検問を抜け、北の隠れ家へと向かっているはずです」

「そう。それでいいわ。折を見て、あの子は実家に帰しましょう」

ナタリーは立ち止まり、窓の外を見下ろした。
屋敷の広大な庭園には、すでに異変が起きていた。
ナタリーが呼び寄せた司法省の査察官たちと、バロウ騎士団長が率いる私兵たちが、まるで精密な機械のように屋敷の各出入口を封鎖していく。
エドワードが「自分のもの」と信じて疑わなかった財産が、次々と赤い封印を貼られ、公的な管理下に置かれていく光景。
それは、彼が三年間ナタリーを蔑ろにし、享楽に溺れてきた対価としては、あまりに皮肉で、あまりに劇的な幕引きだった。

「これで、私がこの屋敷ですべきことはすべて終わったわ」

ナタリーは、左手の薬指に嵌められていた結婚指輪を、もう一度見つめた。
ラングレー家の家紋が刻まれた重厚な金のリング。
それは、かつて没落しかけた実家を救うために自ら嵌めた「奴隷の首輪」だった。
彼女はためらうことなくその指輪を外し、廊下にある大理石の花瓶の横へと無造作に置いた。
もはや、投げ捨てる価値さえない。

「行きましょう。ここにはもう、一分たりとも留まる理由はないわ」

二人は正面玄関へと向かった。
そこでは、呆然自失とした様子で客間から飛び出してきたエドワードが、査察官たちに囲まれていた。

「離せ! 私は伯爵だぞ! この国で私を捕らえられる者などいない! ナタリー! どこだナタリー! この女を呼べ! 何とか言わせろ!」

醜い。
その一言に尽きた。
かつて社交界を魅了した「彫刻のような美貌」は、恐怖と怒りで歪み、見るに堪えない惨めな貌へと成り果てていた。
彼はナタリーの姿を見つけると、獣のような形相で駆け寄ろうとしたが、バロウ騎士団長の無骨な腕に押さえ込まれた。

「ナタリー! 貴様、こんなことをして許されると思っているのか! 私がいなければ、お前はただの没落令嬢だ! 私が慈悲で拾ってやったんだぞ!」

ナタリーは、エドワードの数歩前で足を止めた。
彼女はマントの襟を整え、冷徹なまでに静かな眼差しで元夫を見下ろした。

「エドワード様。慈悲をかけていたのは、私の方ですわ。あなたが遊び歩いている間に、私がどれほどの不渡りを隠し、どれほどのスキャンダルを揉み消してきたか。あなたは一度でも考えたことがありましたか?」

「うるさい! 金だ! 金を返せ! 私の口座を開けろ!」

「残念ですが、そのお金はもう、あなたの借金返済と、不当に搾取された領民たちへの賠償金として分配されることが決まっています。あなたはこれから、その美しい体を使って、一生をかけて罪を償うのです。もっとも、労働という言葉があなたの辞書にあればの話ですが」

ナタリーは、冷たく微笑んだ。
その笑みは、エドワードが愛人たちに向けていた偽りの愛の囁きよりも、ずっと誠実で、死刑宣告に近いものだった。

「さらばです、エドワード・ラングレー。私の人生から、あなたが消えてくれることに、心からの感謝を」

「ナタリーーーーーッ!」

背後で響く絶叫を、冷たい冬の風が掻き消していく。
ナタリーは、迎えの馬車に乗り込んだ。
馬車が動き出し、ラングレー伯爵邸の黒い影が遠ざかっていく。
窓から見える景色は、昨日までと同じ灰色の王都だ。
だが、ナタリーの胸を吹き抜ける風は、驚くほど軽やかで、自由の香りに満ちていた。

「奥様……これから、どうなさいますか?」

マリエの問いに、ナタリーは手元の書類鞄を固く握りしめた。
そこには、彼女が三年間、密かに投資し、育て上げてきた「自分だけの財産」の目録が入っている。

「まずはセシルと合流するわ。それから……北の方へ向かいましょう。あそこには、まだ誰の手にも汚されていない、可能性という名の雪原が広がっているから」

ナタリーの瞳には、復讐を終えた虚脱感などなかった。
あるのは、一人の独立した人間として、自らの足で新しい大地を踏みしめる決意と、まだ見ぬ未来への静かな野心だった。
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