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第一章 召還
56.「よい夜を」
しおりを挟むダンスホールへの転移に使った場所に向かうまでの道のりは声をかけられることもなくスムーズに帰れた。牽制が効いてなによりだ。
問題だったのは順番待ちとダンスホールにやってくる人の多さだ。ここに来たときには気がつかなかったけれど待合室のような個室にも兵士がいた。転移でやってくる人たちを案内し、一定時間が経ったあと転移待ちの人たちを送っている。まるで交通整理みたいな光景だ。転移場所を増やしたほうがいいんじゃないかと思う。
ようやく順番がまわってきて地下宿に戻れば転移待ちで並ぶ多くの女性を見つけた。最初見たときとは違って男性は数人しかいなくてほとんど女性だった。この光景を見ていたらこの世界に女性が少ないなんて思わない。
これはアルドさんの発言力が凄いのかジルドがモテるのか……まあ、おそらく両方だろう。列を並ぶ女性たちはジルドと話すことを心待ちにしているようで楽しそうに話を膨らませていた。
眺めながら歩いていたら、女性たちと目が合って声をかけられる。
「わ、あ!勇者様!魔物の討伐ありがとうございました!」
「あー、いえ。俺の力だけじゃないですよ」
「サク様とっても素敵です……。もう帰られてしまうのですか?」
「私たち勇者様とお話がしたいです」
元気ながらも控えめな女性たちにフィラル王国で働いていた一部のメイドを思い出す。クラスメイトの女子ともいう。顔も少し似ていて思わず顔が綻んだ。
お陰で列をはみ出そうな女性たちと私を交互に見たリーフはすっかり目がすわっている。腕をひかれるがもうちょっとだけ。
「すみません、ちょっと慣れない服で疲れて。これから着替えて地上の祭りを楽しむんだ」
「ええ!?分かりました!じゃあ私もすぐに祭りに行きますっ!」
「いや、折角のドレスなんだから男たちに見せびらかすべきだろ?……凄く似合ってますよ」
「わ、わああ。うわあ」
「奮発したかいがあった……っ」
「ジルド様とお話しできる機会ばかりかサク様にそんなことを言ってもらえるなんて……っ」
なにやら感動する彼女たちの前が少しあく。
列が進んだみたいだ。
「あともう少しですよ。それじゃあ楽しんで。よい夜を」
「あ、ありがとうございますっ!」
「サク様もよい夜をっ!」
明るい彼女たちに手を振って先を進もうとすれば、リーフが女性たちが並ぶ側に移動して私の腕に手を絡めた。
「あの女たちにきぃ許しすぎ。いつもの冷ややかな態度はどうしたんだよ」
「ああ、まー。懐かしい人たちを思い出してつい」
「ああいう女どもには全員てっきとーに返してりゃいいんだよ。丁寧に話す必要なんてないだろ。まあ男にはもっとてきとーでいいからな」
「はいはい」
部屋に戻ってからも続く小言に相槌を打ちながら堅苦しかったタキシードを脱ぐ。これからもっと堅苦しい服を着なきゃならないと思うと気が重い。
「そういやサク、ドレスはあんの?」
「いまから作る。ダンスホールにいた女性たちが着ていたドレスを参考にするかな。なるべく一般的な感じで……」
あそこでは魔法は使えないらしいけれど、最初から魔法で作ってしまえば問題ない。
物質を実体として完全に魔法で作れた場合物質はその姿を維持するのに魔力が要らない。錯覚や幻影じゃなくて完全に1つの物質になって存在している。
「ふーん?まあいいや。んじゃ、俺ちょっと気になることあるから部屋出とくぜ?その間に着替えといて」
「ん」
ドアが閉まったあと服をすべて脱いで化粧やワックスをとる。
パーティーに出るらしい女性たちの年齢は幅広くて10代後半から30代後半ぐらいだったものの、着ていたのはストラップレスのイブニングドレスが多かった。丈は長めが多かったかな?色はジルドの髪色に合わせたのか赤色ばかり。よし、決定。ストラップレスのイブニングドレスを作ろう。装飾はほとんどない地味なものにして丈はヒールがギリギリ隠れるぐらいのものだ。赤色は少し目立ちすぎる気もするからワントーン色をおとしてドレスの裾は広がらないようにしておく。
……まあ、なかなか悪くないと思う。
だけど案の定、この手の服は堅苦しい。さらしを巻く代わりにビスチェをつけるから胸の圧迫は変わらない。本当この世界の女性たちは凄い。こんな格好を日常でしてる人も多いんだからな。
姿見を見ながらヒールの高さを調整する。あまり高くしすぎて男バージョンのときと同じ身長になるのは避けたい。身長操作って結構騙せるからちゃんとしとかないと。
あとはこの髪だ。女性たちの髪色はいろんな色があったとはいえ、黒色が多かったからこのままでもいいだろうけれど、長さが問題だ。
姿見に映るのは最近切ってより短くなった髪。構成成分はタンパク質だったか?詳しいことは分からないけれどイメージするのにピッタリなものはすぐに思い浮かんだ。
市松人形だ。
「うわ、キモ」
徐々に伸びていった髪はついに私の背中ぐらいまでになった。髪はもともとの量を基盤に伸びたからバラバラな長さだけど、そこで止めた。髪の毛を作るには知識が足りなかったけれど足りない部分は余る魔力でゴリ押しして完成させる。
……こんなに髪が長いのはいつぶりだろう。確か幼稚園ぐらいじゃなかったか?
髪をすくって引っ張れば毛根が引っ張られて痛みを感じた。うん、ちょっと気色が悪い。ドレスを作る要領で髪の毛も作ってみたけれど、ホラーでしかない。
でもこれだけで結構印象は変わる。あとでリーフに整えてもらったら完璧だろう。
「あとは目の色……紺にするか」
流石に目の色を変えるのは止めてカラコンを作った。
髪の色をつけるのはヘアカラーとかでイメージがわいて簡単にできるけれど、目の色を変えるっていうのはイメージできない。魔力もかかりそうだし失敗しそうで危険だ。ついでに髪色と瞳が似てる人も多いし髪も真っ黒じゃなくて少し紺色混じらせておく。
「サク」
ドア越しにリーフの声が聞こえる。用事が終わったんだろうか。少し間をあけてからゆっくり開いていくドアを見て、リーフはこの姿を見て驚くかなとちょと悪戯心がわく。
部屋に入ったリーフと目が合う。文字通りリーフは固まって動かなくなった。
魔法をかけて部屋から出る私の姿と開くドアを見えないようにする。ありがたいことに廊下はダンスホールに向かう人や帰る人でいっぱいになっていた。
目の前を通り過ぎていく人のあいだを見計らって入り込み流れにのる。頃合いのいいところで私の姿は私を見る人が思う普通の人に、どこにでもいそうな人に見えるように魔法をかけておく。
転移待ちの列に並んでさっき見たときとは違って疲労を滲ませる兵士の案内を待った。
「次のかた、どうぞ」
転移してすぐ、魔法が強制的に消されたのが分かった。そして兵士がこちらを見てくる。
でも問題はないらしい。
部屋を出て情報収集をしてくれたリーフが言っていた。ダンスホールに魔法を使って入ってこようとしていたのを探知されてもあんまり問題はないそうだ。
既に何人もの女性が「もしかしたら大丈夫かもしれない」と美しく見せる魔法をかけて挑んできているらしい。一応、いまみたいに兵士が確認するみたいだけれど顔を見るだけだから問題ない。
転移模様が描かれている場所からおりようとしたら震える手が見えた。見れば交通整理をしていた兵士だ。段差があるからだろう。慣れないヒールだしありがたく支えてもらっておりる。
「ありがとうございます」
兵士の手を離して1度辺りを見渡してみればすぐに嫌なものを見つけた。さきほどリーフに声をかけていた男たちがまだいた。どうやらここにいる男どもは転移で現れた女性をチェックしているんだそうだ。ずいぶんご立派なことだ。
男どもがなにかを言ってくる前に個室を出る。
ダンスホールは人、女性であふれていた。6割ぐらいだろうか。
今回の魔物討伐にかこつけてのジルドの見合いパーティーにはいわゆるお偉いさんの娘だけじゃなくてこの国中の女性全員に権利があるそうだ。それで高嶺の花のジルドとの結婚を夢見て古都シカムに住む女性はもちろん、辺境の村に住む女性まで集まってきているらしい。
女性が少なく一妻多夫のこの世界で、これだけの女性がジルドの妻になりたくてやってくる。
ジルドって結構大変そうだな。
苛立ちに眉間のシワを深くするジルドを思い出して同情する。きっと挨拶は端的に終わらせてるんだろうがこれだけの数となると一苦労だろう。
合掌。
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