狂った勇者が望んだこと

夕露

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第一章 召還

61.「サク。俺は君にこうやって触りたい」

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人に触られるのは苦手だ。
正直なんとなく怖いと思うし、そんなに日常で誰かに触られるってことはなかった。同性の梅にハグされるのだって最初は慣れなかったのに男となったら尚更だ。

「これは大事なことだからちゃんと覚えて?サク」

言葉を吹き込まれてぼおっとする頭を動かそうとしたけれどうまくできない。
レオルから離れようと動かした足はすぐに片手1つで抑えられた。くすぐるように私の耳を覆っている手は髪を絡ませて頭を支えている。

「君は魔力の枯渇に慣れすぎてる」

……触るのはもっと苦手だ。
触っていいものなのか、どこを触ればいいのかなんて分からない。置き場所のない手はただ抵抗のためにしか使えない。

「この世界の人間がそんな魔力の使いかたをしたら狂うよ。学者によっては魔力は寿命というぐらい魔力は精神や身体に深く結び付いてる」

止めてくれたキスに力が抜けてレオルにもたれかかれば抱きしめられて、外気で少し冷えていた肩が温かくなった。レオルはそのまま私をあやすように背中を撫でるだけで、おかしなことに、なんだかこれは嫌じゃないと思った。

「魔力は生きているものにしかない生命エネルギーだ。魂の容量で大きさは変わり魔法として使えるのは余剰分だけ。この世界でいう枯渇は余剰分をほとんど使いきった状態で、一歩間違えれば魂が壊れるところなんだよ」

促されて見えたレオルはいつものように危ない笑みのままでらしいと思う。こんな状況に私だけが戸惑って、平静を崩されてる。

「魂は壊れたら治らない」

流し込まれる魔力が身体を徐々に満たしていくのがわかる。血に熱が灯ったようで、ますます頭がくらくらして微熱がでたときのように身体がダルイ。

「じゃあ魔力で満たされたらどうなると思う?……この世界の人間なら普通、気力も体力も充実した状態になるだけだ。でも君の場合は違う。枯渇に慣れた人が逆に満たされ過ぎると“飢え”を覚える。この世界の人間でも余剰分を超える魔力を与え続けられると魔力に酔って耐えられなくなる。快楽を求めて戯れにする人もいるけど、一部の国じゃ禁止とまでされるぐらい強いものだ。麻薬のような快楽は──辛いでしょ」

耳たぶを食まれて身体がはねる。水音を響かせて動く舌に堪えきれなくて力を振り絞ってレオルの身体を押した。でもレオルはまったく動かなくて、もう恥ずかしくて苦しくてどうにかなりそうだった。
また、顔を戻される。

「っ、めろ」
「俺としてはこの状態でそうやって腰を動かしてくるのをやめてほしいんだけどね……安心して。噛みちぎったりしないから」

レオルの言っていることはもう半分も理解できない。分かるのはこれ以上レオルから魔力をもらうと危ないっていうことと、首元に吸いついてくる感触だけ。息がかかる。柔らかい髪が頬を掠めて、また熱がのぼるのが分かる。
ドレスが脱がされ外気にさらされた肌がヒヤリとした。

「……ちゃんと覚えて」

首をなぞった舌が私の反応を確かめるように見下ろす気配がした。じっと、私が目を開けるのを待っている気がする。それでも目を開けることはできなくて、ただ目を瞑りながらなけなしの力でレオルと距離をとろうとする。
できる抵抗なんてこんなことぐらいだった。情けない私をレオルは笑って、急に私を抱きながら立ち上がる。服の冷たい感触がした。驚いて目を開けてしまったら悪戯が成功したと笑う子供がキスしてきてどうしようもない。
シーツをめくる音が、ベッドが軋む音が、私を呼ぶ声に重なって身体に振動する。
大きな手が私の口を、頬を、首を、鎖骨を、肩を、胸を触る。私に感触を教え込むようなねっとりとした動きにもう抵抗らしいこともできなくなった。

「すごく嬉しいことにサクは俺のことを少なからず受け入れてるんだね。だから抵抗も難しいんだよ。受け入れた相手の魔力の抵抗は難しいでしょ?だからサクは飢えに慣れて。君が害されないよう、他の誰にも奪われないよう、君が――」
「……レオ、ル?」

言葉を止めたレオルが悲しそうに私を見る。
だけどそれも一瞬で、腰におかれていた手が私の足を持ち上げたかと思うとレオルは足の間に身体を滑り込ませてきた。ぴたりと身体がくっついて、不敵な笑みが顔を覗き込んでくる。


「へえ?感じてるの」


緩やかな律動にびくりと震えた身体をレオルが見逃すはずなくて舌なめずりする。
こいつ、変態だ……っ。
ドレスをたくして太ももを撫でる手がついでとばかりに腰を浮かせてさらにレオルとの距離が縮まった。

「分かる?これがさっき君が俺にしてたこと。あんな状態でこうやって腰を動かされると辛いっていうの、ちゃんと分かった?」

声もなく何度も頷けば、ようやくレオルが息を吐くように笑った。こっちは擦りつけられた部分が痺れるような感じがして気が狂いそうだ。それでもなくなった律動に安心したとき、ふいをついて優しく頭を撫でられて心臓がドクリとはねる。
幸いなことにレオルは気がつかなかったみたいで、私と目が合うと手を離してしまう。
……離してしまう?
驚いて、息が止まる。私はなにを考えたんだろう。こんな状況だって別に望んじゃいない。だろ?嫌なはずだろ?
なのになんでレオルが離れたことを寂しいだなんて思って――あ、れ。

「な、んで、服脱い、で」

レオルは上着を脱いで床に投げ捨てていた。私が聞いているあいだにもまた1枚服を脱いで、暗闇にレオルの肌が浮かび上がる。陰影をつける割れた腹筋がレオルが呼吸するたびに動く。どんな鍛え方をしてるんだか厚い胸板はこんな状況じゃなきゃ思わず触りたくなるもので。
そして唐突に、レオルが男だと思ってしまった。
レオルはシーツを握っていた私の手をとる。見るだけしかできない私を見下ろしながらレオルは私の掌に口づけながら笑った。

「サクだけ裸じゃフェアじゃないでしょ。なに?それともそういうのが好きなの?初心なのにマニアックだね」
「死ねよ。ほんと、もう」

負け惜しみのように強がって悪態つけばレオルは効かないとばかりに私の掌を舐めた。悔しい。レオルは余裕を顔にのせてる。でも時々こっちがゾクゾクするぐらい余裕のない表情を見せる。それがさらに私の余裕を奪うのを分かってるんだろうか。
色を含んだ吐息が掌にかかって、また惑わされる。

「サク。俺は君にこうやって触りたい」

思考を撹乱させるように腰で動いていた手がお腹を伝い胸に触れて止まる。輪郭をなぞるように動く指が少し空気を軽くするように悪戯に肌を滑った。


「君にも俺にこうやって触ってほしい」


レオルの唇を感じていた手がレオルの胸にあてられる。少しだけ毛の感触。触ると弾かれそうな筋肉は意外なことに触れてみたら柔らかくもあった。



「君の熱を感じたいし、君にも俺の熱を感じてほしい」



ぐっとかかった体重がさっきの痺れを思い出させて、言葉を出そうとした口がなにかを言おうとして失敗した。


「俺の名前を呼んでほしい。俺を欲しがってほしい」


額が合わさって当然のようにされたキスは、今までで一番ドロリとした熱を孕む魔力を運んでくる。
胸を触っていた手がちゃんと私が意識するようにか指だけになって背中に腰に、お腹に移る。際どい部分に触れながらお腹に触れた掌はもう私と同じぐらいの熱を持っている。

「俺を受け入れてほしい」

呆然とする私の唇に音を立ててキスしたレオルは私の耳を甘噛みして囁く。





「俺を感じて」





――その言葉を最後についに私は完全に気を失えた。
久しぶりに夢も見ず、ただただ温かい場所で。ときどき聞こえた喉の奥で押し殺すように笑う声がなんとなく私の身体の力を抜かせて、嫌いじゃないなと思った。





 
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