狂った勇者が望んだこと

夕露

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第二章 旅

98.「逃げないで」

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熱がゆっくりと沈み込んできて、身体がベッドに縫いつけられる。
触れるだけで戸惑いを覚える肌がぴたりと密着して、お互いの肌を舐めるように動いた。指を絡めながら握られた手は逃がさないとでもいうように力を込められて動かない。

「……っ」

抗議の声は口内に沈み込まれ、グチュリクチュリと鳴く。お互いの呼吸を奪い合いながらするキスは快楽や怖さなんてものを消し去って頭をどろどろに溶かすようだ。
時折聞こえるベッドの軋む音や衣服の擦れる音が私を現実に戻そうとするけれど、生き物のような生温かい舌にすぐ忘れさせられる。
どちらのか分からない汗が唾液に混じってしょっぱい。

「う、あ」

レオルドが離れてようやくできたまともな呼吸にむせこめば腹に冷たい空気を感じた。高熱のときのように霞む視界のなか見上げれば、レオルドが笑ったのが見える。
だらしなくはだけた服。のぞく胸筋には前にも見た傷跡――手を伸ばし触れると、ぴくりと少しだけ動いた。そしてお返しとばかりに伸ばされた手が私の頭を何度か撫でて頬を覆う。髪がレオルドの指に絡んで、ゆっくり身体のラインを撫でながら梳かされる。
指先がからかうように、先を望むように妖しく触れて、最後に太ももを撫でる。


「逃げないで」


――ビクリと身体が震えたのをレオルドは気がついたようだった。
思わず背けた私の顔をレオルドはすぐに戻して、また、唇が重なる。ズボンどころか下着までひっかけた指はいつのまに紐を緩めたのか、簡単にずりおろされてしまう。そのまま確かめるように陰部に触れた指がなんなく身体の中に入るだけでも頭が沸騰ものなのに、それをわざわざ知らしめるように何度も、何度も弄られておかしくなりそうだ。
濡れた音が聞こえる。体の中をなぞる指の感触を追ってしまう。身体がひくついてこの先を探してしまう。


「気持ちいい?」


わざわざ顔を合わせて聞くレオルドを睨み上げても効果はなく、ただ煽るだけのものだったらしい。
反応を見ながら与えられる刺激は止まらなくて、ついに耐えきれず声が漏れ出てしまう。自分のものには思えない甲高い声が恥ずかしくて、信じられなくて、目を閉じる。
ちゅ、と小さなリップ音を鳴らして瞼にキスされたのは、その直後だった。
逃げようとしても逃げられない怖いほどの快楽はもうない。ゆっくり目を開ければ、金色の髪が目元をくすぐった。目を瞬かせば察したレオルドが笑いながらまた目に、そして鼻にキスをして離れていく。
蒼い瞳が見える。
最初見た嗤った顔とは違う笑顔も。
レオルドが自分の着ていた服を脱ぎ捨てる。明るすぎる部屋にレオルドはよく見えて……だから、テラリと光る指もすぐに見つけてしまった。それがなにかすぐに分かって、同時に足を閉じようとしたけれど、そこまでは止めてくれない。

「サク」
「な、……にっ」

私の様子を観察していたレオルドが、なにを思ったのか濡れた指を自身の唇にそわせ、味わうように舐めた。ゆっくりと官能的に動く赤い舌は愛液をすくいとり、飲み込む。
ゾクリ、と腹の内が震えた。

「……今日は見逃してあげる」

低い声が優しさなのかそうでないのか分からない、どこまでも上から目線の言葉を吐き出す。
もう、レオルドから目を離せない。レオルドが次なにをするのかが予想がつかなかった。
視線を逸らせないでいる私を見下ろす蒼い目が、弧を描いていく。
大きな手が私の手を捕まえた。そして私の人差し指と中指を合わせたかと思うと、濡れた唇に触れさせて――ぱくりと咥えられる。
赤い舌が今度は指の先まで這って、今度は私の指が唾液で濡れていく。生温かい、けれど柔らかくてぐにぐにしたレオルドの口は、……口の中は気持ちよくて。
解放された指が外気にヒヤリとしたのに気がついたのは、キスされたときだった。さっきの感覚が蘇る。


「かわいい」


熱に浮かれた声で何度も耳元で囁かれる言葉は馴染みのないものばかりで、否定しようにも言葉は掻き消される。レオルドの身体を押すために使っていた手はレオルドの背中にまわされて意味をなさない。
私なのか、レオルドなのか――余裕なく息を吐くのが聞こえた。
グチュリと濡れたソコに、指じゃないものを宛てがわれたのが分かって腰をひこうとしたものの圧しかかってきていた身体が許さなかった。容赦なく一気に貫かれて、感じる圧迫と衝撃に身体がのけぞる。身体を埋めたソレが分かる。全身が震えて、だけど耐えて、ああでも奥を撫でた先が──ああ。
呼吸さえ憚られる私を見下ろすレオルドは、自分だって余裕がなさそうなくせに笑った。
レオルドの額に浮かんでいた汗が頬を、肌を伝って私の汗と混じっていく。


「ぅあ、やめ」
「冗談でしょ?……もっと奥まで、俺を受け入れて」


律動に合わせて囁かれる言葉についに頭はパンク状態で、できる抵抗といえば顔を背けるぐらいだった。けれどもうレオルドは気にしないようで、代わりにがぶりと首を食んで離れない。おそらくまたキスマークをつけているだろうレオルドの身体を力ふり絞って押せば、今度は黙らせるようにキスがふってきて伝う魔力の濃さに冗談抜きでブラックアウトしそうになる。
まだ着ていた服からのぞいていたサラシがずりおろされ、胸をわしづかみにされる。加減されているとはいえ感じる痛みに眉をひそめれば、だらりと力を無くしつつあった左足が持ち上げられてさらに奥まで腰を進められた。息を失う衝撃に足は無様に怯えてしまう。出来たのは声を押し殺すこととシーツを握りしめるだけで――



「……可愛い俺のサク」



聞いてるこっちがむず痒くなりそうなほど幸せそうな声でレオルドが呟く。
シーツを握っていたはずの手がレオルドを抱きしめていたことを教えられたのは、再会してから2日後のことだった。





 
 
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