狂った勇者が望んだこと

夕露

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第四章 狂った勇者が望んだこと

236.あの日がくる

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転移した先はカナル国の関所だ。といっても前回ディオと通ったところじゃなくて、転移球を使ってカナル国に来た人専用の場所に飛んだ。石造りの広い部屋には私たち以外にもいて、受付と思しき場所に並んでいる。

転移球はその便利性と技術者が少ないことから価値が高く、一般の人は頻繁に使うものではないらしい。それを思えば、ここにいる人たちは一般じゃない人が多めじゃないんだろうか。フィラル王国に通じる人もいるかもしれないから、早く受付を済ませたいところだ。行列にはうんざりするけど外に比べたら短いし、大人しく列に並ぶしかない。


「言っとくけど古都シカムだって普通は転移してきたら関所に行くからな」


一応、周囲に気を配りながらこの世界の常識を私に説く大地はここぞとばかりに私にズルいと文句を言ってくる。
どうやらウシンたちと会うためにとった手段はどれもイレギュラーなものだったらしい。となるとまたこれも疑問が出てくる。国に転移したら関所に飛ばされるはずなのに、特殊な転移球を使えば関所以外に行けるのはどうやってるんだろう。転移で出ていくときに何もひっかからないのもおかしな話だ。

設定でどうにかなる問題なら私でも作れそうだけど、転移球がなくても黒い道を使えば行きたい場所にピンポイントで行けるんだから差し迫って必要なわけじゃないし後回しでもいいだろう。

そう結論づけていたら、考えを読んだ大地が受付を済ませるまでずっと隣で文句を言ってきた。
関所を出ても続くんだからよっぽどなんだろう。
通りに出た瞬間、人や音、熱にあふれて内緒話をするにはもってこいにはなったけれど、万が一のこともあるから私たちが話していることが周囲に聞こえないよう魔法をかけておく。その判断は正解で、待ち合わせ場所にしている食事処についたころには、大地は国の雰囲気にあてられたのか元気に明るく大きな声で好きなように話していた。


「こういうのチートっつうんだろ」
「チートって言ってもなあ。私だってできないことは多いし、ぜんぶできる訳じゃないから」
「じゃあアレだよ、アレ。お前できるか?火の魔法、鉄の棒を作る、ラシュラルの花を作る……俺が使えるやつ全部できんじゃねーか!ずる過ぎんだろ!」
「チートといえば久しぶりに検索でもしとこっかな」
「けんさくう?」
「なにそれ」


大地はともかくレオルドまで不思議そうな顔をするから簡単に説明しがてら実演する。


「今まで集めてきた本はすべてポーチの中に収納していて、欲しい本を探すときはキーワードで検索したら手元に出てくるようになってるんだ。例えば、歴史書」


歴史書で出てきたのは【オルヴェン】や【亡国の王女】、【ラミア建国記】に英雄伝とそれにまつわるものだ。以前と違い英雄伝関係が増えている。
大地は凄いだのチートだの騒ぎ立てるけど、やっぱり地道に本を読んで繋げるほうが早く正解にたどり着けそうな気がする。


「便利なのは間違いないけど、前と違って検索結果が変わってるからなあ。前はこの英雄伝でてこなかったし」
「でるだけすげーじゃん……?」
「それって君が英雄伝は歴史をなぞったものだって分かったから、その検索とやらで出てきたってこと?」
「たぶん、そういうことかな」
「よく分かんねえけど、それって俺にも使えんの?」
「え?やってみればいいんじゃない?」


やらないかぎり分からないだろう。そう思って答えたら、大地は私のポーチに顔を近づけると「河野ユキ」と口にした。
そして出てきたたくさんの本に、目が点になる。

古びた日記はディアルカさんやカリルさんにラスさんとリオさんのもので、【亡国の王女】、【大戦の記録】、【神木】、【レヴィカル】、【ドライオス】、【ラミア建国機】、【約束の地】、【守人】──紙の切れ端に至るまで次から次にでてきて机に並ぶ。

大地はでてきた本に素直に感動したかと思うと本を読んで「字ばっかりでつまんね」と投げ出してしまう。
そのあいだ私は思考停止状態だ。
自分の持ち物に検索をかけるのかと思えば、大地は私の持ち物に検索をかけた……私から言わせれば、大地のほうがよっぽどチートだ。
私は魔力を使っていない。それに、こんな魔法を使えばとんでもない魔力を消費するだろう。
なにせ大地は「河野ユキ」と言うだけで、自分がまったく知りえないものをだした。ポーチには本があるとは言ったけどどんなものか知らなかったくせに、キーワードにひっかかるものなら紙の切れ端さえ出してしまった。そのうえ調べてきた私さえ関連にあたりをつけていなかった【レヴィカル】などの本を取り出した。

検索しては打ちのめされた私からすればこれは凄すぎることなんだけど、きっと大地には分からない。どう言えばいいか分からなくて口を開けていたら、レオルドと目があった。


「勇者を見る人がよくする顔だね」


確かに、こんなことを当たり前にする人がいたら、いろいろ思うことがあるだろう。
やってくれた大地は人の気も知らず頼んでいたご飯をうまいと食べて呑気なものだ。せっかくだ。セルジオたちと合流する前に今まででてきた重要な人物はもちろん、気になることすべて大地に検索をかけてもらおう。
最初は嫌そうにしてたけど、ご飯を奢るといえば調子よくやってくれる。なんて安い奴……。



「……リーシェ。これ、何事?」
「大地てめえ何してんだよ」
「騒ぎの中心を探したらリーシェさんがいるような気がしますよ、ハハハ」



困惑するセルジオと怒るリーフ、遠い目をするハースが現れたとき、私はようやく自分の状況に気がついた。
大地のチートさに我を失って、次から次にポーチから本を検索して出してと繰り返していたけど、これじゃあ魔法を使っていることが丸わかりだ。会話が聞こえないようにしていたのも悪手になった。
魔法が使える人がいても当たり前だけど頻繁に使える世の中じゃないことを考えたら、おかしいの一言に尽きる。大地が勇者なのかもと疑いを持つ人だっていただろう。
セルジオたちの声も周りに聞こえないようにするか悩んだけど、追加で魔法を使えばさらに憶測がとびかうだろう。

なにせカナル国の人たちは乱闘にトラブルいざこざが大好きな気質だ。それに私たちが知り合いかもしれないとあたりをつけた数人がセルジオたちに話しかけている。
そのうえ大地を指さしてなにか問い詰めてるんだから、流石に見て見ぬ振りもできない。


「別の場所に移動しよっか」


キラキラ目を輝かせながら身をのりだしてくる人たちは筋肉質なおっさんばかりだから視界も煩いし暑苦しい。騒ぎの原因を作ったのは私だし皆に提案すれば、外野がいろいろ騒ぎ立てる。
なんだなんだ?
その視線になにか嫌な予感を覚えたのは、一番近くにきて私の顔をのぞきこむおっさんの顔が面白そうなものでも見るように輝いたせいだろう。



「リーシェという名前か!お前さんだろう?!ダル殺しは!」



明るく快活に、ともすれば楽しそうにはっきりと公衆の面前で叫ぶおっさんを見ながら私は何度目かのフリーズを経験する。
ダルだけじゃ分からなかったと思うけど、殺しとなってくると浮かんだのはシルヴァリアを出たあと対峙したダルたちの最期だ。果たしてこの世界では人殺しはアウトなんだろうか。アウトでしょうね。人を殺したこともあると自覚していたけど、こんなところで晒されるようなことになるとは思わなかった。でも、そうだな。


「闇の者に殺されたのは見ましたが、私は殺してませんよ」


正直に答えれば、瞬く目。
けれど刺さるいくつもの視線は嘘を見逃さないように私から離れない。目の前のおっさんは更に身をのりだしたぐらいだ。おっさんは今更のように声をひそめて聞いてくる。


「となるとお前さんはレヴィカル覇者7位のダルと子分たちが敵わなかった闇の者がいる現場から女の身で見事逃げおおせたということだろう?」
「そうなりますかね」
「直接でなくとも見事返り討ちしたということだ!」
「ん?」


なにか雲行きがおかしくなってきて眉をひそめたら、周りに集まっていたおっさんたちは犯罪者を糾弾どころか、歯が見えるほど笑みをつりあげて愉快そうにジョッキを掲げた。



「「「ダル殺しのリーシェに乾杯!!!」」」



高らかに叫ぶ彼らはどう見ても祝っている。この世界にきて久しぶりのカルチャーショックを受けていたら、冷静に事情を聞いたハースが状況を教えてくれた。
曰く、ダルは力にものをいわせて犯罪やレイプを当たり前にしてきた男で追われていたが、レヴィカルは力を求めるものなら誰でも参加できるので犯罪者でも出場が約束され、出場している間は捕まえることもできなかったとのことだ。当然監視の目はあったが、毎年レヴィカルが終わると姿を消して近隣の村で女をさらってはまた次の年何食わぬ顔でレヴィカルに参加していたとのことだ。

ああ、もしかしたらシルヴァリアでダルを殴ったあとできた行列は私を案じてできたものだったのかも──いや、それはいいようにものを見すぎかな。あいつら絶対素で楽しがってた。

ともあれそんな経緯でダルたちは賞金首だったため、殺したとしても殺人者にならず討伐者として報奨金まで貰えるとのことだ。
犯罪者として追われないことに安心したけど、スリャ村の件を思い出して苦い気持ちになる。ハースも賞金首でよかったと頭を抱えて私以上に安心している。やっぱりハースって苦労性だなあ。


「俺の知り合いも奴に挑んだんだけどよお、返り討ちにあっちまったんだよ。俺の奢りだ!お前さんも飲んでくれ!」
「あ、お酒は禁止されてるんで」
「なんだお前さん下戸か!ますますレイシアに似ているなあ!」
「レイシア?」


渡されたお酒はそのまま大地に流したら、大地は快く受け取っておっさんと乾杯した。ほんと、大地はどこでもやっていけそうだな。おっさんも気をよくしたのか進んで答えてくれる。


「知らねえのか!じゃあお前さんはカナル出身じゃないんだな……そうか、いや、いいんだ。レイシアもそうだったみたいだしな。レイシアはなあ、昔開催されていた女性の部のレヴィカルで見事優勝した女だ。黒髪に緑色の瞳、剣を握れるのかさえ疑わしい手が息もつがせぬ猛攻で勝利を掴む。血濡れのフランベルジュは大戦のときにも使われたらしい」
「大戦」
「そうさ!どこからともなく現れた彗星!レヴィカルの覇者をことごとく打ちのめし1番に上り詰めた女……この目で見たかったもんだぜ」


話を聞く限り黒髪しか近い部分がなかったけど、おっさんたちはご機嫌だから適当に流しておく。その流れで席を立とうとしたら「リーシェ」と名前を呼ばれて手を握られた。リーフとセルジオだ。
おっさんたちと同じように目を輝かせる2人は、おっさんたちが乗り移ったのか同じことを口にする。



「「そのレヴィカルの大会で3位になっていたのがユキだった!」」



その戦いが見たかった。目の保養だっただろうなあ、なんておっさんの言葉が飛び交うなか、セルジオたちがレヴィカルの大会記録を取り出す。古語で書かれたもので読めなかったけど、リガルさんの助力で日本語で書き直した紙を見れば確かにユキと──それに、晃とディアルカ。知った名前を見つけた。

『またレヴィカルで戦いたいね』

ディアルカさんの日記で出ていたあの子はユキさんだ。大地の検索で出てきたことも頷ける。
戦争前か戦争中の出来事だろう日記によればユキさんは怪我をしたみたいだった。それにアイツって?
疑問が次から次にでてきて黙っているうちに、周りは大戦について大盛り上がりしていた。誰かが歌いだしたらしく【約束の地】の詩が聞こえてくる。


「あの日がくる!忘れるなその日は来る!私たちが望むのだっ!!」


大声で叫びだすおっさんたちの騒ぎに呼ばれたらしく、私たちを中心に大勢の人たちが集まってきていた。そのなかには子供もいて、楽し気に腕をつきあげてこのお祭りに参加している。


「大戦を生き残った我らは何度でもすべてを受け入れよう!気に入らないものはこの力で踏みつぶすっ!私たちが望んだのだ!!」


大喝采が聞こえる。
口笛、音楽、笑う声──耳をおさえたくなるほどの音の洪水だ。エネルギーに満ちた人たちに押されるように心が震えて、不本意とはいえ非日常なこの空間が面白くさえ感じて──そんな高ぶった感情が、すっと消えてなくなる。


人混みに見え隠れする人影。


最初は気のせいだったと思うソイツがいた場所から、人が散り散りになっていく。異様な空気。それに気がついた人が1人また1人と道を開け、ソイツの姿がはっきりと目に映る。




「ほんと呑気なもんだよね、アンタって」




──翔太だ。

私を一瞥したあと大地を見て忌々し気に舌打ちした翔太は、大地が自分を見るや鼻で嗤った。









 
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