となりは異世界【本編完結】

夕露

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トラブルだらけの学園祭

62.後夜祭

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学園祭の閉会式は開会式のときと同じように運動場に集まって行われる。といっても各チームの催し物にあわせた恰好のままの人や私服の人、制服を着ている人と、みんないろんな恰好しているからまだ学園祭がこのまま続きそうに思えてしまう。
そうだったら面白いのに、なんて思ってしまうのは、色々なことがあったけど楽しかったから。これに尽きるからだと思う。
初日に波多くんと一緒に晴れ渡る空を憂鬱に眺めていたのが嘘のような変わり具合。運動場に出来上がっていたキャンプファイヤー場を見てもこの学校はどういう──とかじゃなくて、わー凄い豪華な閉会式になりそうーって思えたもんね。

「この学校やっぱ変だよな」
「波多くんは変わらないね」
「あ?」

キャンプファイヤーは閉会式終わり点火するらしく、火がついていない物足りない光景を校長先生の話をバックサウンドに流しながら見ているだけだ。あーだこーだ言いながらもキャンプファイヤーには興味があるらしく、波多くんの目はさっきからずっとロックオン状態。他の人たちもそうなのは一番前にいる校長先生が1番よく分かっているようで、毎年恒例のことだからか朗らかに笑って早々に挨拶を終わらせた。
流れたアナウンスによると順位発表が始まるらしい。今回の健闘を称える話が始まるけど皆あまり聞いていない。「どこが優勝だろ」とか「キャンプファイヤー楽しみ」とか「このあと」とかザワザワおしゃべりが広がる。

「なんだかんだいっても楽しかったね」
「あー」
「波多くんは皆と仲良くなれたしね」
「……」

無言で睨みつけてくるけど、あの借り物競争事件からことあるごとにチョコを貰って、そのたびに眉を寄せつつも幸せそうに食べてるのを私は知ってるんだからね。きっと来年のバレンタインは幸せなことになるに違いない。だから睨まれる筋合いはないはずだもんねー。
ニヤニヤしそうになるのをおさえて、にこにこ人畜無害な笑顔で波多くんの睨みに抵抗する。

「……まあ、悪くはなかった」
「あ、デレた」
「……」
「え、なんでいま小突いたの?」

猫好きだと猫みたいになってくるのか、歩み寄ってくれたかと思うとすぐに顔をそらしてしまった。周りにいる人も波多くんの性格がなんとなく分かってきたらしい。ふふふ、と微笑んでいい雰囲気だ。
運動会と文化祭をあわせた学園祭をなんで1学期にするのかと思ってたけど、こういういいところがあるからだろうなあ。いろんな人と話したり関わったりしてチーム優勝させるぞー!って頑張るから仲良くなりやすかった。それにイベントに熱をいれる学校だから、作業感覚で終わらせるものじゃなかったのもよかったんだろうなあ。
ぼんやりしているあいだに運動会での得点結果や各チームの催し物の得点が発表されていったらしい。ドッと悲鳴があがる。

「くあああああああ優勝逃したあああああっ!」
「これだと俺達1番かビーナスのどっちかが優勝だぞ!?」

相変わらず熱量すごすぎる人達が感情豊に叫んで学園祭を彩る。記録係の人の言葉を聞くとざわめきは大きくなって、呼ばれた2つのチームは息を飲みながらアナウンスを待っている。残念ながら私達のチーム決死隊は敗れてしまった可能性が高いらしい。はあっと溜め息をついて落ち込む人も多かったけど、よくやったよ楽しかったなと笑い合えるのはきっと一生懸命頑張ったし楽しんだからで、私も近くにいた人達とにへらと笑い合う。

「どっちが優勝だろう」
「俺達1番っていえば紫苑先輩がいるチームだよね」

そしてビーナスは美奈先輩のいるチームだ。
なんとなく、なんとなく美奈先輩を探してしまう。


「――優勝は、俺達1番!!!」


そしてお約束のように響き渡った発表に優勝した俺達1番チームが歓声をあげ、ビーナスチームは落ち込むよりもどよめき、結局最後は鳴り響く拍手に参加した。
きっと美奈先輩が倒れるかなにかオーバーなリアクションをしたんだろう。一際どよめきが大きかったほうから美奈先輩を慰める声が聞こえる。美奈先輩は愛されキャラだからね、うん。きっと近くで見てたら面白い顔が見れただろうなあ。
パチパチ拍手しながら壇上にあがっていく俺達1番チームの代表者を眺める。知らない人だけど凄く人望があるのが分かる。校長先生からもらった記念品をチームに向かって掲げたとたん、その人をさすだろう名前がいたるところから聞こえて盛り上がった。もういまの状況で手一杯だから出会いたいは思わないけど、まだまだこの学校には知らないだけで凄い人は多そうだ。
でも、大変さのピークであるはずの学園祭が終わったいま、もう私には怖いものはない。近藤の名前は知れ渡ったような気もするけど、風紀の仕事がしやすくなったと思えばよかったはずだし、もうすぐ夏休みだ。

「あのね、波多くん。学園祭楽しかったなーもうすぐ夏休みだなあって思ってこんなニッコニコしてるだけだからね?そんなヤバイもの見たって顔で私の顔見ないでくれませんかね」
「1人で笑い出したからやべえなって……つーか、夏休みの前にテストあんだろ」
「え?なに?ごめんいま何か言った??って、いた!だからなんで小突くの!暴力反対っ!」
「すげえ腹立つ顔してたから」

理不尽なことをいう波多くんを小突き返してやるけど、眉をひそめられただけで終わってしまった。まるで効果がない、だと……!?く、くそう。筋トレしていつかその顔をびっくりさせてやる。
そんな憎しみを胸に抱いてしまったせいか、ドローンを使っての空撮のとき私の手は拳になっていた。集合写真は何枚か撮られるはずだから良い感じに映ってるのを買うことにしよう。


「――この日は今日だけしかない。ここでいまこの場所に集まれたことを感謝して、これからも繋げられるようにしよう」


蓮先輩が静かに話して松明に火をつける。赤く、オレンジに揺れる光。16時を過ぎているとはいえ、まだ太陽は沈んでいなくて明るいから火は小さく見える。それなのにみんな催眠状態にかけられたように静かになって見続けていた。

「思いがけない出会いがあっただろう。ありえないことだって起きる。それはきっと幸運で、チャンスで、普通のことで、奇跡だ。それをどうするか決めるのは自分で、いつだって世界を変えるのは自分だ。……きっとこの学園祭で実感した人は多いはずだろう。だからこの火に誓おう。今日この日のことを忘れない。この学園祭で得たものをこれからに繋げると」

松明がキャンプファイヤー場にかかげられ、チリッと火が移った瞬間、ゆっくりと燃え広がっていく。揺れる炎が体を大きくして、太陽に輝く空のした負けじと熱を発する。
思わず漏らした感動の声が広がるなか、それでも声を荒げて叫ばないのはいいこでちゃんと待てしてるからだ。蓮先輩を見るのは私だけじゃない。

「あー」

恥ずかしそうに咳払いをした蓮先輩が、一拍おいて笑う。


「いまこのときをもって学園祭は終了とする!後夜祭だ!」


かけ声とともに松明を火のなかに投げ捨てた蓮先輩にあわせて歓声があがる。そして待ってましたとばかりにクラッカーが鳴り響いた。目をパチクリとさせる1年生に先輩達は笑って、ノリのいい人達が笑いながらキャンプファイヤーを囲い出す。音楽さえ鳴って、ミスミスターで使われたテレビには学園祭の映像が流れ出した。どうやら学園祭は本当に終わらないらしい。ここまでくるともう笑うしかない。

「本日、完全下校時刻は18時30分となっています。それまでに各チーム責任を持って片付けをお願い致します。また、生徒会では有志による片付けを募集しております」

事務的なアナウンスを聞いている人はいるんだろうかと思ったけど、楽しそうに話す人たちのなかには受付に向かう人もいた。この学校だ。片付けまで楽しいんだろう。
私も片付けにまわろっかな?でも先にチームの片づけで手伝えることはないか見に行ってこよう。
チームの催し物をだすときちゃんと役割分担していたし、担当していたあいだ接客だろうが裏方だろうが片付けられるものは片付けていくように皆きをつけてたからやることは少ない。いま行っても余ってるお菓子がないか見に行くだけのようなものだけど、うん、だからこそ行く。

「帰んの?」
「ん?ううん、チームの片づけないかなーと思って」
「片付け担当じゃねえのにすげえな。じゃ」
「あとお菓子回収しようかなと」
「……まあ荷物も回収しときてえし、一応俺も行っとくか」
「うんうん」

分かりやすい波多くんを見てると「よくできたねーえらいねー」って頭撫でたくなる。絶対しないけど。

「あ、でも先に紫苑先輩に会っとかないと」
「紫苑先輩?」
「え?ほら、風紀の対象でああ、桜苑先輩のこと」
「あー」
「その反応本人の前でしたら傷つくやつだから注意しなきゃダメだよ」

どの口がと言われそうだけど、自分がしたからこその忠告だ。めんどくさそうな顔してる波多くんに注意してると、背後から小さい声が聞こえた。


「あの、ちょっといい……ですか?」


うっすら頬を赤くした女の子だ。たぶん同じチームの子だけど、ううう名前が分からない。でもそんなことよりもこれはお邪魔だ……っ!私かなりのお邪魔虫になってる……っ!

「そ、それじゃ私は風紀の仕事でもしにいこーっと」

朴念仁、波多くんは女の子が私に用事があると思っていたらしくぼおっと空を見ていたけど、私の行動に思い切り眉を寄せてガン飛ばしてきた。
なに言ってんだって顔してるけど本気か?……本気なんだろうなあ。
そしてきっといま女の子から話しかけられて状況理解できずクエスチョンマークを頭に生やし続けてることだろう。
そういえば3日目にするキャンプファイヤーで告白すると結ばれるっていうジンクスがあるんだっけ。いままさにこの時間だし、後夜祭始まってすぐこれだということは、紫苑先輩に声かけるどころじゃないかもしれない。なにせ場所を移動する人のなかにひときわ背が高い人を見つけた。藤宮くんだ。きっと今からお馴染みの場所で告白されるんだろう。刀くん曰く、紫苑先輩が髪を切った衝撃を誰よりも受け、驚きのあまりミスミスターが終わってすぐどこかへと姿を消したとのことだったけど、大丈夫なんだろうか。




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