愛がない異世界でも生きるしかない

夕露

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【閉ざされた、】

34.食い違い





温かい。
昨日布団のうえに毛布をかけたからだろうか。少し重たく感じるけれど身体を包む温かさが心地良い。
梓は居心地の良さに抱かれながらそのまま深い眠りに戻ろうとする──だが、どこか遠くのほうから音が聞こえてきてまた意識がはっきりとしてくる。ドン、ドンと規則的な音だ。きっとこの音がなければ数時間は起きることがなかっただろうに。

「ん……ん?」

五月蠅い音を消すために布団を握りしめて身体を丸くしようとしたところで、身体が動かしづらいことに気がつく。視界さえ暗く、違和感に目を開けてみても薄っすらとした視界。布団の中にいるからだ。梓は目を瞬かせたあとふっと思い出す。
昨日は布団に毛布をかけていない。それどころか昨日は四人で過ごす夜だったはずで、それから──


「わ、ぁ……ビックリした」


ゆっくり振り返る梓にあわせて身体に圧し掛かっていた重さも動く──フランだ。フランが背を向けていた梓を抱き込むような形で寝ていたらしい。眠りに脱力するフランの顔を間近に見てしまって梓の頬に赤みがさす。驚きと恥ずかしさ混ざる感情に狼狽えてしまうが問題はその身体をうまく支えきれないことだ。視界がフランの身体で狭められていく。

「フランさん、ちょっと待って」

寝ているので言っても意味はないのだが、梓はフランの身体を押し返すのに必死だ。なんとか起こさずにとも思うが先ほどから部屋に響く音が更に勢いを増していてそれは難しそうだ。
──なにもあんなに強く部屋のドアを叩かなくてもいいのに。
そう思ったところではっとする。誰かがこの部屋に入ろうとしている。ここに居るのを見られるのは、どうなのだろう。


「入るぞフラン!お前がここに居ることは分かって……!……誰だ」
「わっ」


思考に沈んだせいでフランを押す力が緩んでいたらしい。加えて突然開いたドアに驚いてしまったせいで梓はようやく起こしかけた身体をフランとともにベッドに横たわらせてしまった。
ドアを開けた人物は怒声を怪訝な声に変えてこちらを凝視しているようだ。恐らくそこから梓は見えないのだろうが、梓の驚く声を聞いて誰かがフランのベッドに居ることが分かったのだろう。
あのフランの部屋に誰かがいる。
それは信じられないことだった。それになぜフランはなにも言葉を発さない。いくらなんでもこんなに五月蠅ければ、そもそも五月蠅くなくても起きているはずだ。それなのに何も言わない。なぜ──そこまで考えて辿り着いた答えは恐ろしいものになる。たまらずその手には力がこもり足早になる。


「あ……ヴィラさん」
「……っ!……っ?」


そして見つけた梓に声を失った。
布団を剥ごうと伸びた手は止まって、眉は訝し気に寄る。動揺するヴィラの目に映るのは眠るフランに抱きこまれるようにしてベッドに横たわる梓。黒い髪が白いシーツに散らばり、小さな身体はフランの身体に隠れている。梓も動揺しているらしいがその頬は赤く染まっていて──

「邪魔を、した」
「え?!いやいや」

なにを勘違いしたのか驚いた顔が無表情になった瞬間、ヴィラは梓に背を向ける。これに慌てたのは梓だ。フランをどかしてもらわなければ動くに動けない。ここまできたらもう起こしたほうが話も早いがヴィラにはこの状況を見てしまったことを黙っていてほしかった。
話をする時間がほしくて焦る梓の必死の声がヴィラに届いたのだろう。ヴィラが振り返る。そして見たのは梓の肩にまわされた男の腕が力なく滑り落ちていく光景だ。梓の腰に落ち着いた腕はようやく騒がしさに目を覚ましつつあるのか、逃げようとする体温を抱き込み力を込める。梓の顔にかっと赤みがさした。

「……」
「え!?ヴィラさんちょっと待ってください!」

またもや背を向けるヴィラを梓の声が追いかけるが、反応を見せたのは違う人物だ。近くでクックッと笑う声が聞こえ、身体を抱く手が緩んでいく。目を瞬かせた梓ははっとしたあと恨めし気にフランを見下ろした。

「起きてたんですか」
「そりゃこんだけ五月蠅かったら起きるよ。ふは、はは」
「……」
「ヴィラのその顔!あははは!」
「手、どかしてくれますか?重たいです」
「えー?ひどいなあ。樹って抱き心地良いね」
「フランさんは悪かったですね」
「ひどいなー」

梓もヴィラと同じように眉を寄せているが顔を赤くしていることもあってまるで怖くない。フランは楽しそうに笑いながら梓から手を離して身体を起こした。梓も色んな感情を込めた溜息を吐いたあとすぐさまベッドからおりて背伸びひとつ。
──本当に面白いなあ。
フランは内心笑いながら、無防備な梓を見るヴィラをそれはそれは楽しそうな表情で観察する。流石にあからさまな視線に気がつかないヴィラではない。すぐさまヴィラからきつい視線が飛んできた。

「それで?編成の話だったっけ?ごめんね、見た通り寝坊した」
「……」
「樹、いったんあの部屋に戻ろうか?」
「え?はい、そうしましょう」
「ヴィラ、話はそれからでいい?」
「……」
「よかった。それじゃまた後で」

あっという間に進んでいく話を眺めながら梓はそういえば久しぶりに見るヴィラを見上げながらいつ話かけようか悩む。
ああでも別に釘をさす必要はない?だけど聖騎士の誰にも触れないはずがフランさんには大丈夫っていうのは、どうなのだろう。考えすぎだろうか。別にフランさんだけだったらいいのでは。でも、それならおかしいことはある。結局ヴィラさんにもテイルにも触れるようになったことがあるのに、無能な神子としての評価になっていた。なら、触れる対象者がいるということはどうでもいいこと?協力的な姿勢であれば無能な神子という評価じゃなかった?なにか食い違いがあるような気がする。


「何か用か」
「え、あっと……」


突然、黒い目が梓を映す。どきりとして思わず目を逸らしてしまったが視線は突き刺さったままだ。梓は諦めてヴィラを見た。


「お仕事お邪魔してすみません。すぐに出ますね」
「……問題ない」


結局口止めはできなかったがもういいだろう。なにせ朝から疲れてしまったし、これからまたあの部屋に戻るのだ。流石にもうしてはいないだろうが、情事のあとを見たいとも思わない。
さあ帰ろうとリュックに手を伸ばしたらまたしてもフランが軽く手に持ってしまう。大丈夫だと言おうとしたところでフランが顔をのぞきこんできた。

「樹、今日のこと内緒ね」
「内緒?」
「うん。俺の部屋で一緒に過ごしたこと」

改めて言葉にすると気恥ずかしい気持ちになるのはなぜだろう。梓がむくれたような困ったような顔をしながら頷けば、フランはいい子いい子と梓の頭を撫でる。

「ヴィラも内緒ね」
「……言われずとも」

そしてフランは自身を睨んでくるヴィラへ満面の笑顔を向けた。
梓は内心ほっとしていたが、このやりとりの裏を考えてしまって思考の海に沈んでしまう。

ヴィラの視線には気がつけれない。







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