34 / 209
【閉ざされた、】
34.食い違い
温かい。
昨日布団のうえに毛布をかけたからだろうか。少し重たく感じるけれど身体を包む温かさが心地良い。
梓は居心地の良さに抱かれながらそのまま深い眠りに戻ろうとする──だが、どこか遠くのほうから音が聞こえてきてまた意識がはっきりとしてくる。ドン、ドンと規則的な音だ。きっとこの音がなければ数時間は起きることがなかっただろうに。
「ん……ん?」
五月蠅い音を消すために布団を握りしめて身体を丸くしようとしたところで、身体が動かしづらいことに気がつく。視界さえ暗く、違和感に目を開けてみても薄っすらとした視界。布団の中にいるからだ。梓は目を瞬かせたあとふっと思い出す。
昨日は布団に毛布をかけていない。それどころか昨日は四人で過ごす夜だったはずで、それから──
「わ、ぁ……ビックリした」
ゆっくり振り返る梓にあわせて身体に圧し掛かっていた重さも動く──フランだ。フランが背を向けていた梓を抱き込むような形で寝ていたらしい。眠りに脱力するフランの顔を間近に見てしまって梓の頬に赤みがさす。驚きと恥ずかしさ混ざる感情に狼狽えてしまうが問題はその身体をうまく支えきれないことだ。視界がフランの身体で狭められていく。
「フランさん、ちょっと待って」
寝ているので言っても意味はないのだが、梓はフランの身体を押し返すのに必死だ。なんとか起こさずにとも思うが先ほどから部屋に響く音が更に勢いを増していてそれは難しそうだ。
──なにもあんなに強く部屋のドアを叩かなくてもいいのに。
そう思ったところではっとする。誰かがこの部屋に入ろうとしている。ここに居るのを見られるのは、どうなのだろう。
「入るぞフラン!お前がここに居ることは分かって……!……誰だ」
「わっ」
思考に沈んだせいでフランを押す力が緩んでいたらしい。加えて突然開いたドアに驚いてしまったせいで梓はようやく起こしかけた身体をフランとともにベッドに横たわらせてしまった。
ドアを開けた人物は怒声を怪訝な声に変えてこちらを凝視しているようだ。恐らくそこから梓は見えないのだろうが、梓の驚く声を聞いて誰かがフランのベッドに居ることが分かったのだろう。
あのフランの部屋に誰かがいる。
それは信じられないことだった。それになぜフランはなにも言葉を発さない。いくらなんでもこんなに五月蠅ければ、そもそも五月蠅くなくても起きているはずだ。それなのに何も言わない。なぜ──そこまで考えて辿り着いた答えは恐ろしいものになる。たまらずその手には力がこもり足早になる。
「あ……ヴィラさん」
「……っ!……っ?」
そして見つけた梓に声を失った。
布団を剥ごうと伸びた手は止まって、眉は訝し気に寄る。動揺するヴィラの目に映るのは眠るフランに抱きこまれるようにしてベッドに横たわる梓。黒い髪が白いシーツに散らばり、小さな身体はフランの身体に隠れている。梓も動揺しているらしいがその頬は赤く染まっていて──
「邪魔を、した」
「え?!いやいや」
なにを勘違いしたのか驚いた顔が無表情になった瞬間、ヴィラは梓に背を向ける。これに慌てたのは梓だ。フランをどかしてもらわなければ動くに動けない。ここまできたらもう起こしたほうが話も早いがヴィラにはこの状況を見てしまったことを黙っていてほしかった。
話をする時間がほしくて焦る梓の必死の声がヴィラに届いたのだろう。ヴィラが振り返る。そして見たのは梓の肩にまわされた男の腕が力なく滑り落ちていく光景だ。梓の腰に落ち着いた腕はようやく騒がしさに目を覚ましつつあるのか、逃げようとする体温を抱き込み力を込める。梓の顔にかっと赤みがさした。
「……」
「え!?ヴィラさんちょっと待ってください!」
またもや背を向けるヴィラを梓の声が追いかけるが、反応を見せたのは違う人物だ。近くでクックッと笑う声が聞こえ、身体を抱く手が緩んでいく。目を瞬かせた梓ははっとしたあと恨めし気にフランを見下ろした。
「起きてたんですか」
「そりゃこんだけ五月蠅かったら起きるよ。ふは、はは」
「……」
「ヴィラのその顔!あははは!」
「手、どかしてくれますか?重たいです」
「えー?ひどいなあ。樹って抱き心地良いね」
「フランさんは悪かったですね」
「ひどいなー」
梓もヴィラと同じように眉を寄せているが顔を赤くしていることもあってまるで怖くない。フランは楽しそうに笑いながら梓から手を離して身体を起こした。梓も色んな感情を込めた溜息を吐いたあとすぐさまベッドからおりて背伸びひとつ。
──本当に面白いなあ。
フランは内心笑いながら、無防備な梓を見るヴィラをそれはそれは楽しそうな表情で観察する。流石にあからさまな視線に気がつかないヴィラではない。すぐさまヴィラからきつい視線が飛んできた。
「それで?編成の話だったっけ?ごめんね、見た通り寝坊した」
「……」
「樹、いったんあの部屋に戻ろうか?」
「え?はい、そうしましょう」
「ヴィラ、話はそれからでいい?」
「……」
「よかった。それじゃまた後で」
あっという間に進んでいく話を眺めながら梓はそういえば久しぶりに見るヴィラを見上げながらいつ話かけようか悩む。
ああでも別に釘をさす必要はない?だけど聖騎士の誰にも触れないはずがフランさんには大丈夫っていうのは、どうなのだろう。考えすぎだろうか。別にフランさんだけだったらいいのでは。でも、それならおかしいことはある。結局ヴィラさんにもテイルにも触れるようになったことがあるのに、無能な神子としての評価になっていた。なら、触れる対象者がいるということはどうでもいいこと?協力的な姿勢であれば無能な神子という評価じゃなかった?なにか食い違いがあるような気がする。
「何か用か」
「え、あっと……」
突然、黒い目が梓を映す。どきりとして思わず目を逸らしてしまったが視線は突き刺さったままだ。梓は諦めてヴィラを見た。
「お仕事お邪魔してすみません。すぐに出ますね」
「……問題ない」
結局口止めはできなかったがもういいだろう。なにせ朝から疲れてしまったし、これからまたあの部屋に戻るのだ。流石にもうしてはいないだろうが、情事のあとを見たいとも思わない。
さあ帰ろうとリュックに手を伸ばしたらまたしてもフランが軽く手に持ってしまう。大丈夫だと言おうとしたところでフランが顔をのぞきこんできた。
「樹、今日のこと内緒ね」
「内緒?」
「うん。俺の部屋で一緒に過ごしたこと」
改めて言葉にすると気恥ずかしい気持ちになるのはなぜだろう。梓がむくれたような困ったような顔をしながら頷けば、フランはいい子いい子と梓の頭を撫でる。
「ヴィラも内緒ね」
「……言われずとも」
そしてフランは自身を睨んでくるヴィラへ満面の笑顔を向けた。
梓は内心ほっとしていたが、このやりとりの裏を考えてしまって思考の海に沈んでしまう。
ヴィラの視線には気がつけれない。
あなたにおすすめの小説
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」