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第5部
魔獣襲来・直前
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重厚な扉の前で、騎士団上層部たちが次々に踵を返して敬礼し、会議の間を後にしようとしていた。
その背に、ケイレブの低く鋭い声がかかる。
「待て。最後に確認だ」
振り向いた団長たちの耳元には、それぞれ銀と黒の魔石がはめ込まれた通信具が光っている。
ケイレブは指先で自らの耳飾りを軽く叩き、魔力を流した。淡い青の光が石の奥で脈打ち、部屋の空気が微かに震えた。
「これが俺たちの命綱だ。――王都全域に展開している魔導通信網《リンク・システム》を使う。司令本部と各団長、副団長、殿下とウルリク、ベルトルドには、専用の回路を割り当ててある。互いの声は常に共有される。何か報告があれば、遠慮はいらん。都度、即座に伝えろ」
通信具の光が、まるでそれぞれの覚悟を映すように明滅した。
「了解」
ヴァレリラルドがうなずき、耳の通信機を指で押さえて短く答えると、他の者たちも頷く。
「俺たち上層部で共有するもの、各騎士団内で共有するもの、使い分けを間違えるな。同時に使う者が多ければ魔力干渉が起きてノイズも出る。人が多い市街地では通信が一時的に乱れることもある。報告は短く、要点だけを伝えろ」
リンクシステムはエルとルルが開発したものだが、同時に多くの者が交信しようとすると回線がつながりにくくなるという欠点があった。
「情報はスピードが命だ。遅れた報告は仲間の命を奪う。戦況が動いた瞬間、指先一つで全体が連動する。王都を護るのは剣だけじゃない。情報もまた、武器だ」
誰もが無言でうなずいた。
ヴァレリラルドが静かに前へ出る。
「ケイレブ、適切な指示を頼む。シグ、後方支援を頼む。お前たちもまた、私たちの命綱だ」
ヴァレリラルド、ウルリク、ベルトルド、各騎士団の団長副団長たちの視線を受けて、ケイレブとシーグフリードもしっかりとうなずく。
「頼むぞ、ラル」
「ああ」
王都を護るため、愛するアシェルナオを護るため、ヴァレリラルドは決意を新たにする。
ケイレブは一人ひとりの顔を見渡し、最後に扉の方をあごで示した。
「よし、持ち場につけ。通信は切るな。どんなに離れていても、俺たちは一つだ」
その言葉を合図に、団長たちは一斉に敬礼し、重い扉の向こうへと散っていった。
第一騎士団の団長ロイは王城の会議棟を出ると、石造りの回廊を抜け、王城北翼の中庭前にある出撃待機場へと急いだ。
中庭にはすでに団員たちが戦闘の支度を終えて整然とした列で埋め尽くされていた。
鎧の留め金を締める音、馬の嘶き、金属が打ち合う低い響き――。それらがひとつになって、戦の前の静寂を刻んでいた。
団員たちは全員、顔を上げ、団長の到着を待っていた。
ロイが姿を現すと、ざわめきが一瞬で止まり、数百の瞳が一斉に彼を見た。
彼はゆっくりと最前列に立ち、腰の剣の柄に手を添える。
「短時間でよく準備を整えられたな。日頃の訓練の賜物だ。時間がないからよく聞いてくれ。間もなく魔獣の群れが西門に到着する。第四隊と第七隊は統括騎士団に合流してくれ。残りを二つに分ける。一つは副団長エリナと共に西門の防衛に当たる。残りは俺とともに西門から王城までのあいだに布陣を敷く」
ロイは遠距離・魔法攻撃に長けた部隊と、接近戦を得意とする部隊に素早く振り分けた。前者をエリナ隊に、後者は自分が率いる部隊にした。
「エリナ隊はただちに西門に向かえ。俺たちは魔獣が王城に到着するまでになるだけ勢力を削ぐ。これより戦時通信を常時開放する。団長、副団長は優先回線を保持。各小隊長は下位回線で状況を報告しろ。報告は簡潔に、命令は明瞭に。いいな?」
《了解!》
各所から返る声が一斉に通信網を震わせ、微かな魔力のざわめきが空気を満たした。
ロイは頷き、隣にいるエリナに視線を向ける。
「エリナ、頼んだぞ!」
「頼まれてやるから、そっちもヘマするなよ」
長いアップルグリーンの髪を肩口で無造作に束ね、筋肉質な体は男性騎士の中でも見劣りしないエリナが笑みを浮かべると、左頬の浅い傷跡がわずかに動いた。
「任せろ。行ってこい! 引き際を見誤るなよ。西門は必ず突破される。避難する時間を稼いで、少しでも勢力を削いでくれ」
ロイの声を受けてエリナは騎乗し、先頭を切って王都市街地へ続く橋を渡る。
その背を頼もしく見送りながら、ロイは再び通信具を叩き、全騎士に向けて短く命じた。
「王都を護るのは、我ら第一騎士団だ! 剣を掲げよ、誇りを忘れるな!」
その声が魔力を伝って各隊の耳へと響き、整列した騎士たちの胸当てに、確かな鼓動を刻んだ。
戦いの幕が、いま上がろうとしていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
感想、エール、いいね、ありがとうございます(。uωu))ペコリ
こういう場面を書くのが苦手で、でも書かないと進まないので苦しんでいます。多少のぎこちなさはスルーして、応援いただけるとありがたいです。
陳謝)前回の話でケイレブが二つ師団を貸せといったのはレオニスではなくロイでした。すみません。訂正しています。
その背に、ケイレブの低く鋭い声がかかる。
「待て。最後に確認だ」
振り向いた団長たちの耳元には、それぞれ銀と黒の魔石がはめ込まれた通信具が光っている。
ケイレブは指先で自らの耳飾りを軽く叩き、魔力を流した。淡い青の光が石の奥で脈打ち、部屋の空気が微かに震えた。
「これが俺たちの命綱だ。――王都全域に展開している魔導通信網《リンク・システム》を使う。司令本部と各団長、副団長、殿下とウルリク、ベルトルドには、専用の回路を割り当ててある。互いの声は常に共有される。何か報告があれば、遠慮はいらん。都度、即座に伝えろ」
通信具の光が、まるでそれぞれの覚悟を映すように明滅した。
「了解」
ヴァレリラルドがうなずき、耳の通信機を指で押さえて短く答えると、他の者たちも頷く。
「俺たち上層部で共有するもの、各騎士団内で共有するもの、使い分けを間違えるな。同時に使う者が多ければ魔力干渉が起きてノイズも出る。人が多い市街地では通信が一時的に乱れることもある。報告は短く、要点だけを伝えろ」
リンクシステムはエルとルルが開発したものだが、同時に多くの者が交信しようとすると回線がつながりにくくなるという欠点があった。
「情報はスピードが命だ。遅れた報告は仲間の命を奪う。戦況が動いた瞬間、指先一つで全体が連動する。王都を護るのは剣だけじゃない。情報もまた、武器だ」
誰もが無言でうなずいた。
ヴァレリラルドが静かに前へ出る。
「ケイレブ、適切な指示を頼む。シグ、後方支援を頼む。お前たちもまた、私たちの命綱だ」
ヴァレリラルド、ウルリク、ベルトルド、各騎士団の団長副団長たちの視線を受けて、ケイレブとシーグフリードもしっかりとうなずく。
「頼むぞ、ラル」
「ああ」
王都を護るため、愛するアシェルナオを護るため、ヴァレリラルドは決意を新たにする。
ケイレブは一人ひとりの顔を見渡し、最後に扉の方をあごで示した。
「よし、持ち場につけ。通信は切るな。どんなに離れていても、俺たちは一つだ」
その言葉を合図に、団長たちは一斉に敬礼し、重い扉の向こうへと散っていった。
第一騎士団の団長ロイは王城の会議棟を出ると、石造りの回廊を抜け、王城北翼の中庭前にある出撃待機場へと急いだ。
中庭にはすでに団員たちが戦闘の支度を終えて整然とした列で埋め尽くされていた。
鎧の留め金を締める音、馬の嘶き、金属が打ち合う低い響き――。それらがひとつになって、戦の前の静寂を刻んでいた。
団員たちは全員、顔を上げ、団長の到着を待っていた。
ロイが姿を現すと、ざわめきが一瞬で止まり、数百の瞳が一斉に彼を見た。
彼はゆっくりと最前列に立ち、腰の剣の柄に手を添える。
「短時間でよく準備を整えられたな。日頃の訓練の賜物だ。時間がないからよく聞いてくれ。間もなく魔獣の群れが西門に到着する。第四隊と第七隊は統括騎士団に合流してくれ。残りを二つに分ける。一つは副団長エリナと共に西門の防衛に当たる。残りは俺とともに西門から王城までのあいだに布陣を敷く」
ロイは遠距離・魔法攻撃に長けた部隊と、接近戦を得意とする部隊に素早く振り分けた。前者をエリナ隊に、後者は自分が率いる部隊にした。
「エリナ隊はただちに西門に向かえ。俺たちは魔獣が王城に到着するまでになるだけ勢力を削ぐ。これより戦時通信を常時開放する。団長、副団長は優先回線を保持。各小隊長は下位回線で状況を報告しろ。報告は簡潔に、命令は明瞭に。いいな?」
《了解!》
各所から返る声が一斉に通信網を震わせ、微かな魔力のざわめきが空気を満たした。
ロイは頷き、隣にいるエリナに視線を向ける。
「エリナ、頼んだぞ!」
「頼まれてやるから、そっちもヘマするなよ」
長いアップルグリーンの髪を肩口で無造作に束ね、筋肉質な体は男性騎士の中でも見劣りしないエリナが笑みを浮かべると、左頬の浅い傷跡がわずかに動いた。
「任せろ。行ってこい! 引き際を見誤るなよ。西門は必ず突破される。避難する時間を稼いで、少しでも勢力を削いでくれ」
ロイの声を受けてエリナは騎乗し、先頭を切って王都市街地へ続く橋を渡る。
その背を頼もしく見送りながら、ロイは再び通信具を叩き、全騎士に向けて短く命じた。
「王都を護るのは、我ら第一騎士団だ! 剣を掲げよ、誇りを忘れるな!」
その声が魔力を伝って各隊の耳へと響き、整列した騎士たちの胸当てに、確かな鼓動を刻んだ。
戦いの幕が、いま上がろうとしていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
感想、エール、いいね、ありがとうございます(。uωu))ペコリ
こういう場面を書くのが苦手で、でも書かないと進まないので苦しんでいます。多少のぎこちなさはスルーして、応援いただけるとありがたいです。
陳謝)前回の話でケイレブが二つ師団を貸せといったのはレオニスではなくロイでした。すみません。訂正しています。
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