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第5部
魔獣襲来・避難開始
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王都中央区の空に、重く荘厳な鐘の音が響いた。
中央統括神殿の大鐘楼《クリムベル》。
直系王族の祝い事には華やかに、弔事には悲哀に満ちた音色を奏でる鐘が、今、全ての街区に非常事態を告げていた。
広場にいた者たちは驚いて顔を見合わせ、建物の中にいた者たちは驚いて外に飛び出した。通りで遊んでいた子どもたちが不穏な空気を察して泣き声を上げた。
「どうした?」
「なんだなんだ?」
鳴り響く鐘の音とともに人々のざわめく声が波のように広がっていく。
それをかき分けるように石畳を蹴る蹄の響きが近づいてきた。
「王命だ! 魔獣の群れが王都に向かっている。頑丈な建物に避難しろ!」
怒号のような声を張り上げて、第二騎士団団長ヤルナッハが黒馬に跨り広場へと駆け込んだ。
続く副団長ニカイ、屈強なゴルドをはじめ、十数騎の部下たちが彼に続く。
胸当ての紺青が陽光を反射し、騎士たちの影が石畳に走った。
「団員は全班、通信機を常時開放! それぞれの持ち場を報告しろ!」
ヤルナッハの低く太い声が、通信機を通して各地へ響く。
『了解! メルナ通り、商人たちが避難を始めていますが、道幅が狭く渋滞しています!』
「メルナ通りは危険だ。通行を止めて、アルデン通りに回せ。広い通りを使え!」
『了解、誘導開始します!』
『広場西通り、露店を撤去中! 荷車の立ち往生多数!』
「露店は放棄させろ。荷車は横倒しでもいい、道を空けろ!」
ヤルナッハは通信機越しに怒鳴るように命じながら、広場に着くなり馬を降りた。
広場には、まだ避難しきれない人々が集まり、混乱していた。
泣き叫ぶ子ども、荷を抱えて動けない老人。
「何事ですか!」
「魔獣が来るって本当なのか!」
民の問いに、ヤルナッハは振り返りざま、地鳴りのような声を張り上げる。
「本当だ! 王太子殿下と各騎士団が防衛にあたっている! お前たちは命を守れ! 荷物を捨てて、指示に従え!」
副団長ニカイがすぐさま広場の中央へ進み出て、冷静に指示を出す。
「避難誘導、班ごとに分ける。ゴルド、中央神殿方面を頼む。群衆を一気に動かせ」
「了解っ!」
巨躯のゴルドが馬上で腕を振り下ろす。
「こっちだ! 慌てるな、母親と子どもを先に!」
従卒たちがそれに合わせて走り、人波を押し広げていった。
『こちらブレンドレル。下町区の避難誘導を開始。住民は中央統括神殿方面へ流れています。混乱はありますが概ね順調です』
通信機の向こうで、女性の声と少年の声が重なった。
ヤルナッハは即座に応じる。
「よし、そのまま北に向かって中央統括神殿まで誘導しろ。あそこは防御魔法が張られているから最も安全だ」
『了解』
ブレンドレルとの通信を終えると広場の空気が一瞬だけ静まり、代わりに遠雷のような音が響いた。
ズゥゥン……
地が震え、屋根瓦がわずかに揺れる。
「団長、西門の方角から煙が上がっています!」
周囲の騎士が叫ぶ。
ヤルナッハは空を仰いだ。黒い靄が、風に逆らうように蠢いている。
その瞬間、通信機がノイズを走らせた。
『……西門、エリナ。西門突破されました。……ロイ、あとを頼む』
声の主は第一騎士団副団長、エリナだった。
ヤルナッハは馬に飛び乗り、拳を掲げた。
「第二騎士団、即時防衛体制! 避難誘導を継続しながら、市街地の防衛に努めろ!」
「了解!」
ニカイが短く答え、団員たちに号令を飛ばす。
「西門が突破された! 魔獣が来る! 落ち着け、逃げ惑うな! 王都を護るとは、民と自分の命を守ることだ!」
その声が響くと同時に、遠くから地鳴りが迫る。
鐘楼《クリムベル》の音が、地響きと交じりながら鳴り続けた。
地面が震え、屋根の上の瓦がぱらぱらと落ちた。遠くからこちらに迫って来る振動が石畳から人々の足に伝わってきた。
今さらながら、先ほどから響く鐘楼《クリムベル》の音が、現実の危機を告げているものだと悟った。人々は次々にパニックに陥った。
一気に人波が避難経路に押し寄せる。
「落ち着け! 押すな、走るな!」
騎士たちの怒号が飛び交い、従卒たちが両手を広げて人々をさばいていく。
だが「魔獣が来る」という恐怖に飲まれた人々の耳には届かない。
誰かが叫び、誰かが押し、誰かが転ぶ。
悲鳴と足音が渦を巻き、鐘の音をかき消すように街を満たした。
「家に戻らなきゃ、子どもが……!」
泣き叫ぶ女の声に群衆が引きずられ、老人が押し倒される。若い騎士が必死に手を伸ばし、転倒するのを防いだ。
「止まれ! その先は危険だ!」
その叫びは、混乱の中にかき消される。
瓦礫を越えて走り出す者、荷車を放り捨てて泣く子を抱く者。
避難列は形を崩し、空気がざらつくように騒然とした。
「団長! 先頭の魔獣がすぐ近くまで来ています!」
「第二騎士団、止まれ!」
ヤルナッハの怒号が空気を震わせた。
次の瞬間、城壁の向こうから土煙が吹き上がり、地平が黒く染まる。
焦げた臭いとともに、低く唸るような咆哮が街を包んだ。
避難列の最前にいた騎士たちが一斉に振り向く。
「……来るぞ!」
黒い奔流――魔獣の群れが、広場の石畳を蹴って迫ってきた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
毎回読みに来ていただいてありがとうございます。おかげで頑張れます。
読めますか? 読めていますか? しんどいです。しんどいですが、まだです。まだ続きます。これを乗り越えないと、なのです。引き続き、読みに来ていただき、応援いただければ幸いです。
乗り越えた先には……あぁぁ……それもどうかなぁ……
中央統括神殿の大鐘楼《クリムベル》。
直系王族の祝い事には華やかに、弔事には悲哀に満ちた音色を奏でる鐘が、今、全ての街区に非常事態を告げていた。
広場にいた者たちは驚いて顔を見合わせ、建物の中にいた者たちは驚いて外に飛び出した。通りで遊んでいた子どもたちが不穏な空気を察して泣き声を上げた。
「どうした?」
「なんだなんだ?」
鳴り響く鐘の音とともに人々のざわめく声が波のように広がっていく。
それをかき分けるように石畳を蹴る蹄の響きが近づいてきた。
「王命だ! 魔獣の群れが王都に向かっている。頑丈な建物に避難しろ!」
怒号のような声を張り上げて、第二騎士団団長ヤルナッハが黒馬に跨り広場へと駆け込んだ。
続く副団長ニカイ、屈強なゴルドをはじめ、十数騎の部下たちが彼に続く。
胸当ての紺青が陽光を反射し、騎士たちの影が石畳に走った。
「団員は全班、通信機を常時開放! それぞれの持ち場を報告しろ!」
ヤルナッハの低く太い声が、通信機を通して各地へ響く。
『了解! メルナ通り、商人たちが避難を始めていますが、道幅が狭く渋滞しています!』
「メルナ通りは危険だ。通行を止めて、アルデン通りに回せ。広い通りを使え!」
『了解、誘導開始します!』
『広場西通り、露店を撤去中! 荷車の立ち往生多数!』
「露店は放棄させろ。荷車は横倒しでもいい、道を空けろ!」
ヤルナッハは通信機越しに怒鳴るように命じながら、広場に着くなり馬を降りた。
広場には、まだ避難しきれない人々が集まり、混乱していた。
泣き叫ぶ子ども、荷を抱えて動けない老人。
「何事ですか!」
「魔獣が来るって本当なのか!」
民の問いに、ヤルナッハは振り返りざま、地鳴りのような声を張り上げる。
「本当だ! 王太子殿下と各騎士団が防衛にあたっている! お前たちは命を守れ! 荷物を捨てて、指示に従え!」
副団長ニカイがすぐさま広場の中央へ進み出て、冷静に指示を出す。
「避難誘導、班ごとに分ける。ゴルド、中央神殿方面を頼む。群衆を一気に動かせ」
「了解っ!」
巨躯のゴルドが馬上で腕を振り下ろす。
「こっちだ! 慌てるな、母親と子どもを先に!」
従卒たちがそれに合わせて走り、人波を押し広げていった。
『こちらブレンドレル。下町区の避難誘導を開始。住民は中央統括神殿方面へ流れています。混乱はありますが概ね順調です』
通信機の向こうで、女性の声と少年の声が重なった。
ヤルナッハは即座に応じる。
「よし、そのまま北に向かって中央統括神殿まで誘導しろ。あそこは防御魔法が張られているから最も安全だ」
『了解』
ブレンドレルとの通信を終えると広場の空気が一瞬だけ静まり、代わりに遠雷のような音が響いた。
ズゥゥン……
地が震え、屋根瓦がわずかに揺れる。
「団長、西門の方角から煙が上がっています!」
周囲の騎士が叫ぶ。
ヤルナッハは空を仰いだ。黒い靄が、風に逆らうように蠢いている。
その瞬間、通信機がノイズを走らせた。
『……西門、エリナ。西門突破されました。……ロイ、あとを頼む』
声の主は第一騎士団副団長、エリナだった。
ヤルナッハは馬に飛び乗り、拳を掲げた。
「第二騎士団、即時防衛体制! 避難誘導を継続しながら、市街地の防衛に努めろ!」
「了解!」
ニカイが短く答え、団員たちに号令を飛ばす。
「西門が突破された! 魔獣が来る! 落ち着け、逃げ惑うな! 王都を護るとは、民と自分の命を守ることだ!」
その声が響くと同時に、遠くから地鳴りが迫る。
鐘楼《クリムベル》の音が、地響きと交じりながら鳴り続けた。
地面が震え、屋根の上の瓦がぱらぱらと落ちた。遠くからこちらに迫って来る振動が石畳から人々の足に伝わってきた。
今さらながら、先ほどから響く鐘楼《クリムベル》の音が、現実の危機を告げているものだと悟った。人々は次々にパニックに陥った。
一気に人波が避難経路に押し寄せる。
「落ち着け! 押すな、走るな!」
騎士たちの怒号が飛び交い、従卒たちが両手を広げて人々をさばいていく。
だが「魔獣が来る」という恐怖に飲まれた人々の耳には届かない。
誰かが叫び、誰かが押し、誰かが転ぶ。
悲鳴と足音が渦を巻き、鐘の音をかき消すように街を満たした。
「家に戻らなきゃ、子どもが……!」
泣き叫ぶ女の声に群衆が引きずられ、老人が押し倒される。若い騎士が必死に手を伸ばし、転倒するのを防いだ。
「止まれ! その先は危険だ!」
その叫びは、混乱の中にかき消される。
瓦礫を越えて走り出す者、荷車を放り捨てて泣く子を抱く者。
避難列は形を崩し、空気がざらつくように騒然とした。
「団長! 先頭の魔獣がすぐ近くまで来ています!」
「第二騎士団、止まれ!」
ヤルナッハの怒号が空気を震わせた。
次の瞬間、城壁の向こうから土煙が吹き上がり、地平が黒く染まる。
焦げた臭いとともに、低く唸るような咆哮が街を包んだ。
避難列の最前にいた騎士たちが一斉に振り向く。
「……来るぞ!」
黒い奔流――魔獣の群れが、広場の石畳を蹴って迫ってきた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
毎回読みに来ていただいてありがとうございます。おかげで頑張れます。
読めますか? 読めていますか? しんどいです。しんどいですが、まだです。まだ続きます。これを乗り越えないと、なのです。引き続き、読みに来ていただき、応援いただければ幸いです。
乗り越えた先には……あぁぁ……それもどうかなぁ……
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