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第5部
魔獣襲来・王都侵入
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「人のことはいい、まず自分が助かるんだ! 走れ!」
誘導する騎士たちの叫び声が群衆の中で反響し、子どもを抱えた母親が必死に走り出す。
若い男に手を引かれた老人が、足元の段差に躓きながらも前へ進もうとする。
だが、後方からは突撃型の魔獣の重い足音が刻々と迫っていた。
轟音とともに西門の防壁が崩れ落ち、土煙の向こうから黒い奔流が市街地へと雪崩れ込んできた。
魔獣たちの咆哮と蹄の音が地を震わせ、通りの石畳に衝撃が伝わってくる。
「来るぞ! 早く建物へ!」
第二騎士団の副隊長が声を張り上げる。だが、避難列は思うように進まない。
年老いた女性が腰を押さえて足を止め、幼い子を抱えた母親は息も絶え絶えだった。
人々の視線は背後から迫る魔獣へと釘付けになり、恐怖に足が重くなった。
「ワーレン! あの倉庫へ誘導しろ!」
若い従卒がうなずき、手近な石造りの倉庫へと避難民を導く。
頑丈な鉄扉を備えたその建物は、即席の避難所となった。
扉口では別の従卒が人々を一人ずつ押し込むように中へ入れていく。
「走れ! 泣くな、自分の命を守れ!」
少年の背を押す従卒の手には、剣ではなく必死の覚悟が宿っていた。
その間に第二騎士団の騎士たちは列を離れ、剣と槍を構えて魔獣の群れに立ちはだかる。
前列の二人が同時に盾を上げ、飛びかかってきた狼型の魔獣を受け止めた。
鉄と牙がぶつかる音が耳を裂き、火花が散る。
「押し返せ!」
槍の穂先が突き出され、一体二体と魔獣が倒れる。
しかし数は減らない。後方からは角を持つ大型種が迫り、通りの両脇の建物の壁を削りながら突進してきた。
――その瞬間だった。
通りの向こう、土煙を割って紺青の旗印が現れる。
それは、ケイレブの要請で統括騎士団に貸し出されていた第一騎士団第四隊、ケイレブも認める勇猛な部隊だった。
その先頭を駆けるのは、隊長エド・ラッケン。
日焼けした頬を引き締め、金の瞳がまっすぐ戦場を射抜く。
「第一騎士団・第四隊、援護に入る!」
エドの声は、獣の咆哮をも押し返すほどの迫力だった。
「突撃、槍列を維持しろ! 恐れるな、我らが壁となる!」
その一喝に、後方で怯んでいた兵たちの表情が一斉に変わる。
整然とした隊列が馬蹄の響きを揃え、槍を前に突き出して一斉に突撃した。
鋭い槍先が巨体を貫き、馬上から振るわれた長剣が一息に首を刎ねる。
その背後で、痩せた長身の男が冷静に地図を片手に通りを見渡していた。
副隊長、ジルだった。
「東側の路地に抜け道あり。二番小隊、そこを塞げ。三番小隊は背後から挟み込む!」
迅速な指示を飛ばす。戦場の混乱の中で、冷静さと判断力が際立つ男だった。
第二騎士団の騎士たちはその勢いに合わせて前進し、押し返された魔獣の波を食い止めた。
土と血と汗の匂いが入り混じる中、避難民の列はようやく安全圏へと押しやられていった。
だが西門の方向からは、なお暗黒の群れが唸り声を上げており、市街地の南側――商業区の大通りでは、群衆が行き場を失い、荷車や転倒した屋台が道を塞いでいた。
恐怖に駆られた人々の悲鳴が交錯し、泣き叫ぶ子どもの声がどこからともなく響く。
「落ち着け! 走るな、押すな!」
第二騎士団の隊士が声を枯らして叫ぶが、動揺した群衆は思うように動かない。
その時、北側の通りから蹄の音が轟いた。
「開けろ! 第一騎士団だ!」
紺青のマントを翻して現れた若い騎士が、馬上から声を張り上げる。
騎士の名はセルディアス。第一騎士団第三隊の副長で、エリナの直弟子でもある。
彼は馬を降りざま、剣を抜き、商業通りの角を突き破って出てきた獣型の魔獣に斬りかかった。
鉄が肉を裂く鈍い音。炎を纏った槍が続けざまに突き出され、獣が絶叫とともに崩れ落ちる。
「民は第二に任せる! 俺たちはこの通りを死守する!」
「了解!」
第一と第二――二つの騎士団の者たちが、王都を護るという大義のもとに一丸となった。
市街地の一角に、わずかながらも秩序が戻り始めていた。
「後衛、構えろ! 時間を稼ぐ!」
第二騎士団の隊長が声を張り上げ、盾を前に構えた騎士たちが路地口に並ぶ。
細い路地が天然の防壁となり、魔獣は一度に数体しか進入できない。
先頭の突撃型が角を振り回しながら突っ込むが、盾列が衝撃を受け止め、その隙に槍が脇腹を突いた。
黒い血が飛び散り、獣が怒りの唸り声を上げる。
「怯むな、押し返せ!」
エドの声が再び轟いた。
その声に呼応するように、第一騎士団の鋼鉄の陣列が前進し、盾と槍が火花を散らす。
ジルは冷静に戦場を見渡しながら、通信具に指を添えた。
「東通り、魔獣五体。迂回して背後を断て!」
「了解!」
短いやり取りの後、通りの向こうで剣閃が走り、獣の悲鳴が夜気を裂いた。
土煙と焦げた匂いが風に乗り、炎の光に石畳が赤く染まる。
その光の中を、母親が幼い子どもを抱えて駆け抜けていく。
彼女をかばうように、第二騎士団の一人がマントを広げて立ち止まった。
唸り声を上げながら襲いかかる魔獣を小型の盾で受け止めた瞬間、背後から槍が閃き、魔獣の胸を貫いた。
間一髪で駆けつけたヤルナッハだった。
「頑丈な建物に入れ!」
ジルの指示に応じ、避難民たちは次々に倉庫や石造りの建物へと吸い込まれていく。
泣き叫ぶ声が遠ざかるにつれ、戦場の喧噪がわずかに沈静した。
――その一瞬の静寂の中で、ヤルナッハは剣先を下ろし、焦げた風をまとい天を仰ぐ。
王都の上空を覆う黒い靄が、ゆらゆらと渦を巻きながら蠢いていた。
その中心に、何かがいる――。
ヘッダだった。
その嘲笑が、まだ戦いの始まったばかりの王都の空に、低く重く響いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
毎回読みに来ていただいてありがとうございます。おかげで頑張れます。
いよいよ完結の2文字が見えてきました。完結したくなくて、ゲームもエンド直前で放置してしまう私なので、ちょくちょく応援いただけると助かります。
誘導する騎士たちの叫び声が群衆の中で反響し、子どもを抱えた母親が必死に走り出す。
若い男に手を引かれた老人が、足元の段差に躓きながらも前へ進もうとする。
だが、後方からは突撃型の魔獣の重い足音が刻々と迫っていた。
轟音とともに西門の防壁が崩れ落ち、土煙の向こうから黒い奔流が市街地へと雪崩れ込んできた。
魔獣たちの咆哮と蹄の音が地を震わせ、通りの石畳に衝撃が伝わってくる。
「来るぞ! 早く建物へ!」
第二騎士団の副隊長が声を張り上げる。だが、避難列は思うように進まない。
年老いた女性が腰を押さえて足を止め、幼い子を抱えた母親は息も絶え絶えだった。
人々の視線は背後から迫る魔獣へと釘付けになり、恐怖に足が重くなった。
「ワーレン! あの倉庫へ誘導しろ!」
若い従卒がうなずき、手近な石造りの倉庫へと避難民を導く。
頑丈な鉄扉を備えたその建物は、即席の避難所となった。
扉口では別の従卒が人々を一人ずつ押し込むように中へ入れていく。
「走れ! 泣くな、自分の命を守れ!」
少年の背を押す従卒の手には、剣ではなく必死の覚悟が宿っていた。
その間に第二騎士団の騎士たちは列を離れ、剣と槍を構えて魔獣の群れに立ちはだかる。
前列の二人が同時に盾を上げ、飛びかかってきた狼型の魔獣を受け止めた。
鉄と牙がぶつかる音が耳を裂き、火花が散る。
「押し返せ!」
槍の穂先が突き出され、一体二体と魔獣が倒れる。
しかし数は減らない。後方からは角を持つ大型種が迫り、通りの両脇の建物の壁を削りながら突進してきた。
――その瞬間だった。
通りの向こう、土煙を割って紺青の旗印が現れる。
それは、ケイレブの要請で統括騎士団に貸し出されていた第一騎士団第四隊、ケイレブも認める勇猛な部隊だった。
その先頭を駆けるのは、隊長エド・ラッケン。
日焼けした頬を引き締め、金の瞳がまっすぐ戦場を射抜く。
「第一騎士団・第四隊、援護に入る!」
エドの声は、獣の咆哮をも押し返すほどの迫力だった。
「突撃、槍列を維持しろ! 恐れるな、我らが壁となる!」
その一喝に、後方で怯んでいた兵たちの表情が一斉に変わる。
整然とした隊列が馬蹄の響きを揃え、槍を前に突き出して一斉に突撃した。
鋭い槍先が巨体を貫き、馬上から振るわれた長剣が一息に首を刎ねる。
その背後で、痩せた長身の男が冷静に地図を片手に通りを見渡していた。
副隊長、ジルだった。
「東側の路地に抜け道あり。二番小隊、そこを塞げ。三番小隊は背後から挟み込む!」
迅速な指示を飛ばす。戦場の混乱の中で、冷静さと判断力が際立つ男だった。
第二騎士団の騎士たちはその勢いに合わせて前進し、押し返された魔獣の波を食い止めた。
土と血と汗の匂いが入り混じる中、避難民の列はようやく安全圏へと押しやられていった。
だが西門の方向からは、なお暗黒の群れが唸り声を上げており、市街地の南側――商業区の大通りでは、群衆が行き場を失い、荷車や転倒した屋台が道を塞いでいた。
恐怖に駆られた人々の悲鳴が交錯し、泣き叫ぶ子どもの声がどこからともなく響く。
「落ち着け! 走るな、押すな!」
第二騎士団の隊士が声を枯らして叫ぶが、動揺した群衆は思うように動かない。
その時、北側の通りから蹄の音が轟いた。
「開けろ! 第一騎士団だ!」
紺青のマントを翻して現れた若い騎士が、馬上から声を張り上げる。
騎士の名はセルディアス。第一騎士団第三隊の副長で、エリナの直弟子でもある。
彼は馬を降りざま、剣を抜き、商業通りの角を突き破って出てきた獣型の魔獣に斬りかかった。
鉄が肉を裂く鈍い音。炎を纏った槍が続けざまに突き出され、獣が絶叫とともに崩れ落ちる。
「民は第二に任せる! 俺たちはこの通りを死守する!」
「了解!」
第一と第二――二つの騎士団の者たちが、王都を護るという大義のもとに一丸となった。
市街地の一角に、わずかながらも秩序が戻り始めていた。
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細い路地が天然の防壁となり、魔獣は一度に数体しか進入できない。
先頭の突撃型が角を振り回しながら突っ込むが、盾列が衝撃を受け止め、その隙に槍が脇腹を突いた。
黒い血が飛び散り、獣が怒りの唸り声を上げる。
「怯むな、押し返せ!」
エドの声が再び轟いた。
その声に呼応するように、第一騎士団の鋼鉄の陣列が前進し、盾と槍が火花を散らす。
ジルは冷静に戦場を見渡しながら、通信具に指を添えた。
「東通り、魔獣五体。迂回して背後を断て!」
「了解!」
短いやり取りの後、通りの向こうで剣閃が走り、獣の悲鳴が夜気を裂いた。
土煙と焦げた匂いが風に乗り、炎の光に石畳が赤く染まる。
その光の中を、母親が幼い子どもを抱えて駆け抜けていく。
彼女をかばうように、第二騎士団の一人がマントを広げて立ち止まった。
唸り声を上げながら襲いかかる魔獣を小型の盾で受け止めた瞬間、背後から槍が閃き、魔獣の胸を貫いた。
間一髪で駆けつけたヤルナッハだった。
「頑丈な建物に入れ!」
ジルの指示に応じ、避難民たちは次々に倉庫や石造りの建物へと吸い込まれていく。
泣き叫ぶ声が遠ざかるにつれ、戦場の喧噪がわずかに沈静した。
――その一瞬の静寂の中で、ヤルナッハは剣先を下ろし、焦げた風をまとい天を仰ぐ。
王都の上空を覆う黒い靄が、ゆらゆらと渦を巻きながら蠢いていた。
その中心に、何かがいる――。
ヘッダだった。
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