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第1部
夜会からおはようまで
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翌朝、梛央は微かな頭痛とともに目を覚ました。
自分の横にはリングダール。もう見慣れた朝の風景。
「ん?」
だが何か違和感を感じた。
「おはようございます、ナオ様。体調はいかがですか?」
テュコが梛央が目覚めた気配を察して天蓋カーテンを開ける。
「おはよう、テュコ。夜会って、昨日だった?」
「昨夜は夜会でしたよ」
そう。確かに昨日は夜会だった。その記憶はちゃんとあるのだが、夜会の途中から、おはようまでの間の記憶がないのだ。
「僕、エレクと踊った後の記憶がないんだけど……」
梛央の言葉に、テュコは苦笑する。
「あのあとナオ様が召し上がった飲み物に、少しだけアルコールが入ってたようで、それに酔われたようですね」
「エレクが渡してくれたやつ? あれ、ヴァルが飲んでたのと同じだよ? 8歳の子供も飲めるもので? 記憶なくしちゃう? 僕、何もやらかしてないよね?」
梛央に尋ねられて、テュコは目をそらす。
「えぇぇぇ……自覚ないうちに初泥酔しちゃって、しかも初しでかしまでしてるなんて……」
頭を抱える梛央。
「テュコ様、ナオ様をいじめないでください」
「そうですよ。ナオ様は何もしでかしておられませんよ。素晴らしいヴァイオリンの演奏とダンスを披露してくださっただけです」
アイナとドリーンがテュコに抗議する。
「本当に素晴らしいものを見せていただきました。フォルシウス様なんか、感動しすぎて『キラキラ』と呟きながら号泣してました」
「そのあと急にお休みになられましたので、サミュエル殿がナオ様を抱えてここに運んでくださいました」
2人の説明に、梛央は頭を抱えた。
「やっぱりやらかしてる……もうお酒なんか飲まない。お酒じゃなかったけど、もう飲まない」
激しい羞恥と後悔に苛まれて、梛央はリングダールの毛の中に頭を突っ込む。
「もし二日酔いでなければご入浴しませんか? エンゲルブレクト殿下が洗浄の魔法をかけてくださいましたが、ご入浴のほうがお好きでしょう?」
「うん……洗い少なめで、浸かるの長めでお願い」
「ではお湯の温度をもう少しぬるくしましょうね」
梛央はアイナとドリーンに慰められるように浴室に連れていかれた。
入浴を済ませると、なんとなく気持ちが落ち着いてきたが、それでも食欲はなく、梛央は定番になったパン粥をあまり進まない様子で食べていた。
「ナオ様。おはようございます」
一礼してサミュエルが入ってくる。
梛央はスプーンを置くと、頭を下げた。
「サミュエル、きのうは迷惑をかけてごめんなさい。夜会、もうちょっと楽しみたかったんだけど……」
楽しみにしていた夜会が、記憶がないうちに終わってしまって、梛央は残念な気持ちだった。
「ナオ様には少々お気の毒なことになってしまいましたが、おかげで我々は素晴らしいものを見せていただきました。ナオ様が愛し子様の理由がわかりました。眼福でした」
「そんなこと言われても、自分が何をしたのか覚えてないんだ」
一体自分は何をしたんだろう。梛央は自分が怖くなった。
「ナオ様は素晴らしい演奏とダンスを自分がしたことを忘れている、というだけなのですよ。ナオ様が覚えていなくても、我々の心には一生刻まれています。ナオ様はただ、称賛をあびていればよろしいのです」
サミュエルに言われて、慰められた気持ちになった梛央だが、
「ところでナオ様」
サミュエルが少しあらたまった声を出したので首を傾げる。
「なに?」
「昨日、エンゲルブレクト殿下からプロポーズされたことを覚えておいでですか?」
「は? プロポーズって、僕に?」
まったく記憶にない梛央は激しく首を振る。
「はい。エンゲルブレクト王弟殿下が、ナオ様に、です」
「覚えてない。プロポーズって何? どうして? なぜそんな展開に? 昨日何があったの? えぇぇ、怖っ、自分がどう答えたのかを聞くのが怖い」
梛央は涙目でテュコを見る。
テュコも怖い顔になっていて、さらに梛央の恐怖が増した。
「大丈夫です。ナオ様は間髪入れずに『いや』と返事されました」
「よかったぁぁぁ。僕、えらい」
サミュエルの言葉に梛央は万歳をして自分を褒めた。
「ええ。ナオ様は偉かったです。しかし、なぜこんな重要なことを自分の気持ちだけで軽々しくしてしまうのか。自分の立場や愛し子様の立場をわかってしているのか。何を考えているんだ、あの殿下は」
苦々しい顔で吐き捨てるサミュエル。
「本当ですよ。もし正気じゃなかったナオ様が万が一承諾していたらと思うと、今でも腹わたが煮えくり返りそうです」
テュコも憤怒の感情を顕わにしている。
「いいですか、ナオ様。またエンゲルブレクト殿下にプロポーズされても、決して頷いてはいけませんよ」
「うん。エレクと結婚したくない。今後もし心が動いたらわからないけど、たぶんそんなことないだろうと思うし、今は全く好きじゃないので結婚しません」
何かを演奏したとか何かを踊ったとか、そんなことはもうどうでもよくなるくらいに衝撃を受けた梛央は、お酒を飲まないこと、プロポーズは断ることを固く心に誓った。
自分の横にはリングダール。もう見慣れた朝の風景。
「ん?」
だが何か違和感を感じた。
「おはようございます、ナオ様。体調はいかがですか?」
テュコが梛央が目覚めた気配を察して天蓋カーテンを開ける。
「おはよう、テュコ。夜会って、昨日だった?」
「昨夜は夜会でしたよ」
そう。確かに昨日は夜会だった。その記憶はちゃんとあるのだが、夜会の途中から、おはようまでの間の記憶がないのだ。
「僕、エレクと踊った後の記憶がないんだけど……」
梛央の言葉に、テュコは苦笑する。
「あのあとナオ様が召し上がった飲み物に、少しだけアルコールが入ってたようで、それに酔われたようですね」
「エレクが渡してくれたやつ? あれ、ヴァルが飲んでたのと同じだよ? 8歳の子供も飲めるもので? 記憶なくしちゃう? 僕、何もやらかしてないよね?」
梛央に尋ねられて、テュコは目をそらす。
「えぇぇぇ……自覚ないうちに初泥酔しちゃって、しかも初しでかしまでしてるなんて……」
頭を抱える梛央。
「テュコ様、ナオ様をいじめないでください」
「そうですよ。ナオ様は何もしでかしておられませんよ。素晴らしいヴァイオリンの演奏とダンスを披露してくださっただけです」
アイナとドリーンがテュコに抗議する。
「本当に素晴らしいものを見せていただきました。フォルシウス様なんか、感動しすぎて『キラキラ』と呟きながら号泣してました」
「そのあと急にお休みになられましたので、サミュエル殿がナオ様を抱えてここに運んでくださいました」
2人の説明に、梛央は頭を抱えた。
「やっぱりやらかしてる……もうお酒なんか飲まない。お酒じゃなかったけど、もう飲まない」
激しい羞恥と後悔に苛まれて、梛央はリングダールの毛の中に頭を突っ込む。
「もし二日酔いでなければご入浴しませんか? エンゲルブレクト殿下が洗浄の魔法をかけてくださいましたが、ご入浴のほうがお好きでしょう?」
「うん……洗い少なめで、浸かるの長めでお願い」
「ではお湯の温度をもう少しぬるくしましょうね」
梛央はアイナとドリーンに慰められるように浴室に連れていかれた。
入浴を済ませると、なんとなく気持ちが落ち着いてきたが、それでも食欲はなく、梛央は定番になったパン粥をあまり進まない様子で食べていた。
「ナオ様。おはようございます」
一礼してサミュエルが入ってくる。
梛央はスプーンを置くと、頭を下げた。
「サミュエル、きのうは迷惑をかけてごめんなさい。夜会、もうちょっと楽しみたかったんだけど……」
楽しみにしていた夜会が、記憶がないうちに終わってしまって、梛央は残念な気持ちだった。
「ナオ様には少々お気の毒なことになってしまいましたが、おかげで我々は素晴らしいものを見せていただきました。ナオ様が愛し子様の理由がわかりました。眼福でした」
「そんなこと言われても、自分が何をしたのか覚えてないんだ」
一体自分は何をしたんだろう。梛央は自分が怖くなった。
「ナオ様は素晴らしい演奏とダンスを自分がしたことを忘れている、というだけなのですよ。ナオ様が覚えていなくても、我々の心には一生刻まれています。ナオ様はただ、称賛をあびていればよろしいのです」
サミュエルに言われて、慰められた気持ちになった梛央だが、
「ところでナオ様」
サミュエルが少しあらたまった声を出したので首を傾げる。
「なに?」
「昨日、エンゲルブレクト殿下からプロポーズされたことを覚えておいでですか?」
「は? プロポーズって、僕に?」
まったく記憶にない梛央は激しく首を振る。
「はい。エンゲルブレクト王弟殿下が、ナオ様に、です」
「覚えてない。プロポーズって何? どうして? なぜそんな展開に? 昨日何があったの? えぇぇ、怖っ、自分がどう答えたのかを聞くのが怖い」
梛央は涙目でテュコを見る。
テュコも怖い顔になっていて、さらに梛央の恐怖が増した。
「大丈夫です。ナオ様は間髪入れずに『いや』と返事されました」
「よかったぁぁぁ。僕、えらい」
サミュエルの言葉に梛央は万歳をして自分を褒めた。
「ええ。ナオ様は偉かったです。しかし、なぜこんな重要なことを自分の気持ちだけで軽々しくしてしまうのか。自分の立場や愛し子様の立場をわかってしているのか。何を考えているんだ、あの殿下は」
苦々しい顔で吐き捨てるサミュエル。
「本当ですよ。もし正気じゃなかったナオ様が万が一承諾していたらと思うと、今でも腹わたが煮えくり返りそうです」
テュコも憤怒の感情を顕わにしている。
「いいですか、ナオ様。またエンゲルブレクト殿下にプロポーズされても、決して頷いてはいけませんよ」
「うん。エレクと結婚したくない。今後もし心が動いたらわからないけど、たぶんそんなことないだろうと思うし、今は全く好きじゃないので結婚しません」
何かを演奏したとか何かを踊ったとか、そんなことはもうどうでもよくなるくらいに衝撃を受けた梛央は、お酒を飲まないこと、プロポーズは断ることを固く心に誓った。
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