そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第1部

夕焼けのプロポーズ

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 「ナオ様。本格的に寝るのなら寝台に運ぶよ?」

 護衛騎士と交代して体を洗い、着替えてきたサリアンは、まだカウチで寝ていた梛央に声をかけた。

 「んー……起きる……」

 長時間のお昼寝は夜眠れなくなるとわかっている梛央は、返事をしたもののリングダールに埋もれてうごうごしている。

 「ナオ様、ヴァレリラルド殿下がお見えですが、どういたしましょう?」

 ドリーンに問われて、梛央は半分寝ぼけながら頷く。

 「いいよ……」

 リングダールから体を起こす梛央に、アイナがブランケットがわりに掛けていたガウンを着せる。

 ドリーンに案内されてヴァレリラルドがケイレブ、イクセル、クルームを伴って入室してきた。

 「ナオ、寝てた?」

 「うん……起きた……」

 「私が起こした?」

 「ううん……起きたから来た」

 寝ぼけまなこで、まだぼんやりしている頭で梛央が言った。

 「ナオ様、夕日がきれいですよ。ベランダでお茶を飲みながら眺めてみてはどうです?」

 そんな梛央に唐突にケイレブが提案する。

 「……うん。いい?」

 梛央はテュコに確認する。

 「日が落ちるまでですよ」

 仕方なく了承するテュコ。

 「わかった。ヴァル行こう」

 梛央はヴァレリラルドを誘ってベランダに出ると、そこに置かれた長椅子に座る。

 大きな太陽が海に沈もうとしていて、空がオレンジ色に染まっていた。海面もオレンジ色に染まっていて、

 「綺麗……。この世界でも太陽が1つで、色も普通でよかった」

 だんだん頭がはっきりしてきた梛央が言葉をもらす。

 もし緑の太陽の世界だったら、馴染むのに相当時間がかかっただろうな、と思った。
 
 「そうだね。太陽は1つで充分だね」
  
 梛央と触れるくらいの距離で座るヴァレリラルドは上の空で同意する。

 梛央が好きなら、ちゃんと告白した方がいい。エンゲルブレクトの件もあるから、将来の約束を取り付けておく方がいい。たとえ答えがノーであれ、意思表明が大事です。

 そうケイレブに背中を押されたヴァレリラルドは、梛央を前にして緊張していた。





 「は? プロポーズ?」

 ケイレブに耳打ちされたサリアンが思わず声をあげる。

 その声にテュコ、アイナ、ドリーン、クランツ、フォルシウスが一斉にケイレブとサリアンに注目した。

 「しっ」

 ベランダの梛央とヴァレリラルドに聞こえないように、ケイレブは声を潜める。

 「うちのナオ様になにしようとしてくれてるんですか」

 聞き逃せないテュコがケイレブに詰め寄る。

 「エンゲルブレクト殿下がプロポーズしただろう? ナオ様からの返事がどうであれ、うちの殿下も意思表明をしておくべきだと」

 「そそのかしたんですね」

 テュコは怒りに震える。

 「エンゲルブレクト殿下と同じ立場にもっていくべきだろ?」

 「ナオ様の愛し子としての認定やお披露目もまだのうちにするものですか? エンゲルブレクト殿下だけなら、エンゲルブレクト殿下の暴走で片付けられるでしょうに」

 「愛し子とか王太子とか、そんなの関係ないさ。俺は純粋に殿下の初恋を応援したいんだ」

 「黙って見守っていればいいでしょう」

 怒りがおさまらないテュコ。

 「テュコ様、とりあえず様子をみましょう。まずはお茶をお出しします」

 アイナに言われて、テュコも近くで待機すべくベランダに出た。梛央の護衛のサリアン、クランツ、フォルシウスも少し離れたところで待機し、ヴァレリラルドの護衛のケイレブ、イクセル、クルームも2人の声の聞こえる位置で待機した。





 「ヴァルはお昼寝しなかったの?」

 「私は体がべたついたついでに剣の稽古をしてから体を洗ったんだ」

 「そうなんだ。ヴァルはもういっぱしの剣士みたいだね」

 「私はまだまだだよ。これからもっと強くなって、大事な人を護っていきたいんだ」

 「ヴァルのそういうところ、えらいと思うよ」

 梛央としてはお兄さんのつもりで言っているのだが、ヴァレリラルドとしては、王太子だからではなく普通の人間として扱ってくれる梛央が好ましかった。

 「ナオ、聞いてほしいことがある」

 ヴァレリラルドは小さく息を吸い込むと、決意して梛央に切り出した。


 


 いよいよだ。がんばれ、殿下。

 ケイレブをはじめ、イクセルとクルームも息を飲む。

 がんばらなくてもいいですよ、殿下。

 テュコをはじめ、アイナ、ドリーン、それに梛央の護衛と護衛騎士も息を飲む。

 「なに?」

 夕日を浴びて梛央の黒髪がオレンジ色に輝いている。

 「私が大きくなったら、私と……」

 その髪を見ながら言葉を紡ぎだしたヴァレリラルドを、梛央はすっくと立ちあがって制した。

 「ヴァル。ヴァルはきっと大きくなる。絶対に大きくなる。だから今は慌てないで。元気の地があるなら、成長の地もあるんだ。ゆっくり育って。しっかり大きくなって。決して慌てないで。ね?」

 少しでもヴァレリラルドが自分の身長を追い越す日が遅くなることを願っている梛央は祈るように言った。

 その気持ちが伝わってきて、けれどそれは自分の言いたいこととは違っていて、ヴァレリラルドは笑い出した。

 ちょっとずれているけれど、まっすぐな心根の梛央がヴァレリラルドは大好きなのだ。

 今は梛央の言う通り、しっかりゆっくり大きくなろうと思った。

 「そうするよ、ナオ。だから将来、ゆっくり時間をかけてしっかり大きくなったら……」

 「なったら?」

 首を傾げる梛央。

 「私とダンスを踊ってください」

 ヴァレリラルドは跪いて梛央に手を差し出す。

 鈍い梛央だが、ヴァレリラルドの行動には何かしらの意味があることはわかった。

 ヴァレリラルドの手は子供のものながら剣だこのできている硬そうな手だった。

 王太子という立場ながら村人と親しく接し、子どもたちに慕われ、梛央を気遣って手袋を貸す優しさを持つヴァレリラルド。

 そんなヴァレリラルドはとても好ましかったし、自分もヴァレリラルドを喜ばせることがしたいと思った。

 それはきっと、ヴァレリラルドを子供ではなく1人の人間として扱う事だと、梛央は思った。

 梛央は少しの間を置いて、ヴァレリラルドの手の上に自分の手を重ねた。

 「うん。喜んで」

 梛央の返事にヴァレリラルドが嬉しそうに笑う。

 その表情を見て梛央も嬉しくなって微笑んだ。

 夕焼けのオレンジ色を背景にした2人のシルエットは感動的で、イクセルとクルームは思わず手を叩いていた。

 敵に塩を送るつもりはないが、ヴァレリラルドの決意の固さや紳士的な振る舞いに共感して、クランツとフォルシウスも手を叩いていた。

 湧きおこる拍手の中、これくらいなら大目に見てやろう、そう思うテュコだった。





 
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