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第1部
自画自賛じゃなくて自作自演じゃないかしら
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「怖かったのに、気持ち悪かったのに……」
つい大声を出してしまったオルドジフだが、大泣きする梛央を見て、慌ててリングダールごと抱きしめる。
「それが正常な体のしくみなんだ。だから、反応したからと言っても、それは決して合意ではない。反応した方が悪い、は、間違いなんだ。されたら、そうなるんだよ。だからナオが自分を責めるのは間違いなんだ。ナオは綺麗なままだ。正常な反応をした自分の身体を責めて、心を傷つけるのは違うんだよ」
丁寧に、何度も、違うと繰り返すオルドジフに、梛央も泣きながら頷く。
「それに、ナオの頬には叩かれたあとがあった。頬が腫れていた。叩かれたんだね?」
顔をあげて、叩かれた時のことを思い出したのか怯えた目で頷く梛央。
その憐憫を誘う瞳をみた途端、オルドジフの中で何かが切れた。
「最初に暴力で心を縛って、体を奪うなんて、卑劣な奴だ! ドーさんはそいつを許さん! そいつを見つけたらドーさんが叩き返してやる。ナオが受けた痛みを思い知らせてやるからな!」
肩で息をしながら興奮して叫ぶオルドジフ。
聖職者でありながら叩くとか許さないとか、感情に任せて自分のために怒ってくれるオルドジフに、嬉しくてもっと泣いてしまう梛央だった。
大泣きした梛央を、我に返ってリングダールごと抱きしめるオルドジフ。
それをサイレント映画のように眺めているアイナとドリーンがいた。
「ねぇ、ドリーン。怒鳴って、怯えさせて、抱きしめる。あれは世で言う自画自賛なのかしら」
「アイナ、自画自賛じゃなくて自作自演じゃないかしら」
「そうだったわね、ドリーン。オルドジフ殿とナオ様。会話が聞こえていると微笑ましい親子みたいなのに、会話が聞こえないとどうして児童虐待に見えてしまうのかしら」
「言葉がないと真実が見えるのかしら」
小声で、わりとひどいことを真顔で呟きあうアイナとドリーンは、オルドジフに嫉妬するほど圧倒的にナオとの接触が足りていなかった。
オルドジフが何かを一方的に語り続け、梛央が泣きながら何度も頷く。
さらに何か言われた梛央は、怯えた目でオルドジフを見上げた。
するとまたオルドジフが激昂し、何かを叫ぶ。その様子に梛央はいっそう涙を流す。
「ナオ様があんなに怯えて……怖い目にあって体調も万全ではないナオ様になんてことを……」
やがてオルドジフが魔道具をしまうと、フォルシウスはクランツの制止を振り切ろうとした。
それを抱え込むようにして止めるクランツ。
2人は揉み合うようになり、押さえ込もうとしたクランツがフォルシウスを正面から抱き合う形になった。
思わず見つめあう2人。
間近にクランツの顔があることを意識してフォルシウスが目元を赤く染めながら視線を逸らす。
「アイナ、ドリーン。清拭したい」
寝台では、梛央がアイナとドリーンに向かって手を伸ばしていた。
「はい、ナオ様」
「はい、ナオ様」
2人は今までひどいことを呟いていたとは思えないくらい爽やかな笑顔で梛央に近づくが、
「私が運ぶから、アイナとドリーンは準備を始めて」
サリアンが梛央を抱き上げながら言った。
早足で浴室に向かうアイナとドリーンのあとを追いながら、
「テュコ、ナオ様の水分補給の準備を」
涙で失われた水分の補給をテュコに頼むサリアン。
「はい」
テュコも梛央の世話をすべく、動き出す。
後に残ったのは抱き合うクランツとフォルシウスと、オルドジフの3人だった。
「お前たち、何やってるんだ!」
梛央と話しをしていた時の怒りそのままにオルドジフが叫んだ。
その声で慌てて体を離すフォルシウス。
「あ、兄上こそ、何を怒ってらっしゃるんですか! なぜナオ様をそんな怖い顔で泣かせてるんですか! ナオ様は怯えていたじゃないですか! 見損ないましたよ!」
「顔で泣かせたわけではない! 私が怒っていたのはナオ様を襲った輩に対してだ! 自分を責めるナオ様を説得していたんだ! ナオ様は納得して清拭を受け入れられた。それでどうしてお前たちが抱き合うんだ?」
「説得? 清拭?」
清拭をするのになぜあんなに怖い顔で怒らなければいけないのかわからなかったが、梛央が清拭に応じたからには、それが必要だったのだろう。ならば。
「なぜ私とお前は抱き合っていたんだ?」
フォルシウスはクランツに尋ねる。
「お互いが求めあってしまったのでしょうか、兄う……」
「言わせるか!」
「認めないぞ!」
真面目な顔で答えるクランツの言葉を、フォルシウスとオルドジフは最後まで言わせなかった。
梛央は湯浴み着を着せられて、湯浴み用の椅子に座りながらアイナとドリーンに体を拭かれていた。
お湯には浸かれないが、ハーブの香りのする、少し熱いタオルで体を拭かれると気持ちよかった。
「ナオ様、こんなに痩せてしまわれて」
「おいたわしいです」
涙ぐみながら梛央の身体を清めていくアイナとドリーン。
「さっきオルドジフ殿となんの話をしていたの?」
それを見守りながらサリアンが尋ねる。
「えと、閨教育?」
梛央の言葉に、サリアンだけでなくテュコ、アイナ、ドリーンの動きが止まる。
そして、
「ああっ」
思わず叫ぶテュコと、
「あーっ」
梛央が違う世界から来たということを失念していたサリアンの声が交差する。
「ナオ様が16歳だと聞いていて、すっかり見落としてました」
「年齢さえ聞いていなければ、ねぇ」
閨教育は12歳でほとんどの子供が済ませている。ましてや16歳なら済んでいて当然だった。違う世界から来ていなければ。
テュコもサリアンも、梛央の閨教育についてはすっかり失念していた。
「それで、オルドジフ殿に閨教育を受けて、清拭する気になれたんですね」
サリアンに言われて、頷く梛央。
「ナオ様がご入浴や清拭を嫌がられた時に気づくべきでした」
「まさかあんな怖い顔で閨教育をされていたとは……。がんばりましたね、ナオ様」
オルドジフが激昂するような卑劣なことをされて、健気に立ち直って清拭されている梛央が愛しくてたまらないアイナとドリーンだった。
つい大声を出してしまったオルドジフだが、大泣きする梛央を見て、慌ててリングダールごと抱きしめる。
「それが正常な体のしくみなんだ。だから、反応したからと言っても、それは決して合意ではない。反応した方が悪い、は、間違いなんだ。されたら、そうなるんだよ。だからナオが自分を責めるのは間違いなんだ。ナオは綺麗なままだ。正常な反応をした自分の身体を責めて、心を傷つけるのは違うんだよ」
丁寧に、何度も、違うと繰り返すオルドジフに、梛央も泣きながら頷く。
「それに、ナオの頬には叩かれたあとがあった。頬が腫れていた。叩かれたんだね?」
顔をあげて、叩かれた時のことを思い出したのか怯えた目で頷く梛央。
その憐憫を誘う瞳をみた途端、オルドジフの中で何かが切れた。
「最初に暴力で心を縛って、体を奪うなんて、卑劣な奴だ! ドーさんはそいつを許さん! そいつを見つけたらドーさんが叩き返してやる。ナオが受けた痛みを思い知らせてやるからな!」
肩で息をしながら興奮して叫ぶオルドジフ。
聖職者でありながら叩くとか許さないとか、感情に任せて自分のために怒ってくれるオルドジフに、嬉しくてもっと泣いてしまう梛央だった。
大泣きした梛央を、我に返ってリングダールごと抱きしめるオルドジフ。
それをサイレント映画のように眺めているアイナとドリーンがいた。
「ねぇ、ドリーン。怒鳴って、怯えさせて、抱きしめる。あれは世で言う自画自賛なのかしら」
「アイナ、自画自賛じゃなくて自作自演じゃないかしら」
「そうだったわね、ドリーン。オルドジフ殿とナオ様。会話が聞こえていると微笑ましい親子みたいなのに、会話が聞こえないとどうして児童虐待に見えてしまうのかしら」
「言葉がないと真実が見えるのかしら」
小声で、わりとひどいことを真顔で呟きあうアイナとドリーンは、オルドジフに嫉妬するほど圧倒的にナオとの接触が足りていなかった。
オルドジフが何かを一方的に語り続け、梛央が泣きながら何度も頷く。
さらに何か言われた梛央は、怯えた目でオルドジフを見上げた。
するとまたオルドジフが激昂し、何かを叫ぶ。その様子に梛央はいっそう涙を流す。
「ナオ様があんなに怯えて……怖い目にあって体調も万全ではないナオ様になんてことを……」
やがてオルドジフが魔道具をしまうと、フォルシウスはクランツの制止を振り切ろうとした。
それを抱え込むようにして止めるクランツ。
2人は揉み合うようになり、押さえ込もうとしたクランツがフォルシウスを正面から抱き合う形になった。
思わず見つめあう2人。
間近にクランツの顔があることを意識してフォルシウスが目元を赤く染めながら視線を逸らす。
「アイナ、ドリーン。清拭したい」
寝台では、梛央がアイナとドリーンに向かって手を伸ばしていた。
「はい、ナオ様」
「はい、ナオ様」
2人は今までひどいことを呟いていたとは思えないくらい爽やかな笑顔で梛央に近づくが、
「私が運ぶから、アイナとドリーンは準備を始めて」
サリアンが梛央を抱き上げながら言った。
早足で浴室に向かうアイナとドリーンのあとを追いながら、
「テュコ、ナオ様の水分補給の準備を」
涙で失われた水分の補給をテュコに頼むサリアン。
「はい」
テュコも梛央の世話をすべく、動き出す。
後に残ったのは抱き合うクランツとフォルシウスと、オルドジフの3人だった。
「お前たち、何やってるんだ!」
梛央と話しをしていた時の怒りそのままにオルドジフが叫んだ。
その声で慌てて体を離すフォルシウス。
「あ、兄上こそ、何を怒ってらっしゃるんですか! なぜナオ様をそんな怖い顔で泣かせてるんですか! ナオ様は怯えていたじゃないですか! 見損ないましたよ!」
「顔で泣かせたわけではない! 私が怒っていたのはナオ様を襲った輩に対してだ! 自分を責めるナオ様を説得していたんだ! ナオ様は納得して清拭を受け入れられた。それでどうしてお前たちが抱き合うんだ?」
「説得? 清拭?」
清拭をするのになぜあんなに怖い顔で怒らなければいけないのかわからなかったが、梛央が清拭に応じたからには、それが必要だったのだろう。ならば。
「なぜ私とお前は抱き合っていたんだ?」
フォルシウスはクランツに尋ねる。
「お互いが求めあってしまったのでしょうか、兄う……」
「言わせるか!」
「認めないぞ!」
真面目な顔で答えるクランツの言葉を、フォルシウスとオルドジフは最後まで言わせなかった。
梛央は湯浴み着を着せられて、湯浴み用の椅子に座りながらアイナとドリーンに体を拭かれていた。
お湯には浸かれないが、ハーブの香りのする、少し熱いタオルで体を拭かれると気持ちよかった。
「ナオ様、こんなに痩せてしまわれて」
「おいたわしいです」
涙ぐみながら梛央の身体を清めていくアイナとドリーン。
「さっきオルドジフ殿となんの話をしていたの?」
それを見守りながらサリアンが尋ねる。
「えと、閨教育?」
梛央の言葉に、サリアンだけでなくテュコ、アイナ、ドリーンの動きが止まる。
そして、
「ああっ」
思わず叫ぶテュコと、
「あーっ」
梛央が違う世界から来たということを失念していたサリアンの声が交差する。
「ナオ様が16歳だと聞いていて、すっかり見落としてました」
「年齢さえ聞いていなければ、ねぇ」
閨教育は12歳でほとんどの子供が済ませている。ましてや16歳なら済んでいて当然だった。違う世界から来ていなければ。
テュコもサリアンも、梛央の閨教育についてはすっかり失念していた。
「それで、オルドジフ殿に閨教育を受けて、清拭する気になれたんですね」
サリアンに言われて、頷く梛央。
「ナオ様がご入浴や清拭を嫌がられた時に気づくべきでした」
「まさかあんな怖い顔で閨教育をされていたとは……。がんばりましたね、ナオ様」
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