そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第1部

ぐにゃっっとするよ(しない)

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 エンロートの古城にある転移陣の間。

 床に描かれた大きな転移陣の前で、梛央は少し緊張した面持ちでマフダルとショトラに向き合っていた。

 すでにヴァレリラルドの護衛騎士たちは王城に転移しており、次は梛央、オルドジフ、ヴァレリラルド、サリアン、ケイレブ、テュコ、が転移する番だった。

 「マフダル、ショトラ先生、今度こそ王城に行ってくるね」

 科学の世界で生きていた梛央は、転移陣というわけのわからないシステムで王城に行くのが少し怖くて、リングダールをしっかり抱きしめている。

 「はい、行ってらっしゃいませ」

 「体に不調を感じた時はすぐに周りに言うんですよ、過信と無理はだめです」

 「うん。大丈夫」

 今の状況はあまり大丈夫ではないが、自分に言い聞かせる梛央。

 「……心配です」

 リングダールを抱きしめて不安げに瞳を潤ませる梛央をサミュエルが見たら、きっと胸をときめかせるのだろうとマフダルは思た。

 サミュエルは王城にはいないが、王城で待つあの男も可愛いものが大好きなクチだ。もちろんあの方とあの方も。

 マフダルはテュコを見ながらひとりごちる。

 「僕も心配だから心配って言わないで。転移って、瞬間的に移動するってこと? 一度体が分子とか電子レベルになって、それが再構築されるの? その時に転移陣にハエが入ってたらハエ男になったりしないの?」

 科学の世界に生きてきたことと、フィクションな映画の知識が梛央を不安にさせていた。

 「心配はこっちの話です。申し訳ございません。再構築がなんなのかは分かりませんが、普通に使っているものですから転移陣は安全ですよ。殿下の護衛騎士たちもすでに到着しているはずです」

 「大丈夫だよ、ナオ。あっという間だから。痛いことも、気持ち悪いこともないから。一瞬暗くなってぐにゃっってするだけだから」

 真面目な顔でヴァレリラルドが言った。

 「一瞬暗くなるの? ぐにゃっってするって、なに? 怖いよ」

 お化け屋敷は苦手なタイプの梛央はしり込みする。

 「すぐ終わるから。心配なら手をつなごう?」

 「すぐ終わる? 本当? 早くして。早く」

 怖がる梛央と手をつなぎ、転移陣の中に移動するヴァレリラルド。すでに中で待機していたケイレブ、サリアン、オルドジフ、テュコは転移を怖がる梛央が可愛すぎてにやにやが止まらなかった。

 「早く転移させて!」

 ぎゅっ、と目を瞑りながら梛央が叫ぶ。


 「ナオ、もう目を開けていいよ」

 リングダールに顔を埋めるようにして目を瞑っていた梛央は、ヴァレリラルドの声で恐る恐る目を開く。

 そこは古城の転移陣の間ではなく、金の装飾を施された白い壁に囲まれた豪奢な部屋だった。

 「王城?」

 梛央があたりを見回すと、後方に先陣で転移していたヴァレリラルドの護衛騎士たちが控えていて、前方には背の高い、サミュエルと同年代の男性がいた。

 その髪の毛の色を見て、梛央は首を傾げる。

 「王城の、王族が使う転移陣の間だよ。ナオ、出るよ」

 ヴァレリラルドに手を引かれ、リングダールを体の前で抱きしめて、梛央は転移陣を出る。

 「ヴァル、ぐにゃっっとはしなかったよ? 目を瞑ってたから暗くなったかどうかはわからないけど」

 不安から解放された梛央の顔には笑顔が戻っていた。

 「怖がるナオが可愛くて嘘を吐いた。ごめん」

 転移陣を怖がる梛央が可愛くていたずら心を出したヴァレリラルドが笑いながら謝る。

 「えぇぇ。本当に怖かったんだよ」

 ちょっとだけむくれる様子も可愛くて、ヴァレリラルドはさらに笑みをこぼした。

 「愛し子様。ご出現からこのかた、ずっとお待ちしておりました。私はシルヴマルク王国で宰相を務めさせていただいておりますローセボームと申します」

 そんな梛央とヴァレリラルドの前に長身の男が進み出て臣下の礼を執る。

 「ローセボーム? 宰相さん? 初めまして、秋葉梛央です」

 梛央はローセボームの髪を見ながら頭をさげる。

 「殿下も。無事のご帰還を心よりお慶び申し上げます」

 「出迎えありがとう、ローセボーム。父上に挨拶をしたい」

 「ご案内いたします。陛下もお待ちでございます」

 ローセボームは恭しく立ち上がると、

 「ナオ様はお話にたがわず、お綺麗でお可愛らしいお方でいらっしゃいますね。ところでナオ様、うちの愚息はお役に立っておりますでしょうか」

 ローセボームは穏やかな口調で梛央の後ろを見る。

 「その髪の毛、やっぱりテュコのお父さん?」

 テュコと同じビスク色の髪の毛をしたローセボームに、そういえばテュコは自分もそれなりの家の出身だと言っていたことを思い出す梛央。

 「はい。私の三男です」

 「そうなんだ。テュコはね、僕がこの国に落ちてきて何もわからなくて、怖くて閉じこもっていたときにヒーローみたいに現れて僕を救ってくれたんだ。かっこよかったよ」

 梛央はその時のことを思い出して、少し興奮した口調になる。

 「ほう、テュコが」

 「父上、私のことはいいんです。早く陛下のもとにご案内ください」

 気恥ずかしいテュコが早口で言う。

 梛央の護衛騎士たちも転移陣で現れて準備が整うと、

 「では殿下、ナオ様、まいりましょう」

 ローセボームが先導して歩き出す。

 梛央とヴァレリラルドは手をつないでそのあとに続いた。
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