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第2部
兄さまと同じがいいです
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「そのことですが」
エルとルルの口調がだいぶ砕けたところでパウラが声のトーンを落とす。
「はい」
「はい」
パウラが大事な話をすることを察して背筋をただす双子。
「アシェルナオは正真正銘の愛し子です。10年前に王太子殿下を庇って死んでしまった愛し子の生まれ変わりです」
パウラが口にした衝撃の事実に続いて、
「愛し子です」
アシェルナオは両方の手のひら上に向ける。
そこには勢ぞろいした精霊たちがそれぞれポーズをとっているのだが、誰にも見えなかった。
「本物の愛し子様なんですか?」
「えぇ……それなら公表するはずでは……」
疑っているというより、アシェルナオの存在自体に戸惑っているエルとルル。
「アシェルナオはまだ小さい。まだ普通の生活を送らせてやりたい。他言したらお前たちを他国に売る」
年上相手にも冷ややかな目で釘をさすシーグフリードだった。
「そこで、ルルに依頼したいことがあります。これがあなたたちを高額な報酬込みで匿うことの対価になります」
パウラの言葉にごくりと唾をのむエルとルル。
「な、なんでしょう」
「で、できないことはできないです」
「アシェルナオの髪と瞳の色を変えることができる魔道具を作ってほしいの。黒目黒髪のままだとお出かけどころか学園生活が送れませんもの」
「髪の色と目の色を変える……認識障害じゃなくて、変える……」
依頼内容を聞いて頭の中でいろいろな設定を構築しているルル。
「変える? もとに戻る?」
黒目黒髪じゃないならヴァレリラルドが好きじゃなくなるかもしれない。そう思うとアシェルナオは少し焦った。
「魔道具ということは、それを装着、または発動していなければ色は変わらないということですよ」
テュコに言われてアシェルナオは胸をなでおろし、
「じゃあ、髪と目の色が黒じゃなかったら、屋敷の中を自由に歩いても、お出かけしても、普通に学園に通ってもいいってこと?」
途端に沸いてきた期待に興奮して尋ねる。
「そうよ」
屋敷の中も自由に出ることができなかったことに胸を痛めながらパウラが微笑む。
「それなら僕は兄さまと同じがいいです。兄さまと同じ、父さまの髪の毛の色で、母さまの瞳の色がいいです」
アシェルナオにとっての黒目黒髪は、好きという以上に、それが自分自身の証みたいなものだと思っている。
けれどもそれが家族の中での異質の理由で、もしそうでなければ本当の家族の一員になれるのではないかと思い悩んだ時期もあったのだ。
魔道具をつけている間だけだとしても、父や母、兄と同じ髪や瞳の色になれる。
そう思うと期待が大きすぎて、興奮しすぎて、アシェルナオは顔をくしゃくしゃにして涙を溢れさす。
「そうだね、一緒がいいね」
シーグフリードは席を立つとアシェルナオを抱き上げて、また自分の席に座り、労わるように背中を叩いた。
「いいわね? できるわよね?」
両親の色がいいと泣くアシェルナオが愛しすぎて、エルとルルを見るパウラの瞳は恐ろしいほどの威圧を発していた。
エルとルルもまた、家族の色になりたいと泣くアシェルナオのために力になりたいと思った。
「ナオ様」
サリアンがアシェルナオの部屋を訪れたのは翌朝のことだった。
「サリー、おはよう。今日から僕の護衛をしてくれるって聞いてるよ」
「今日から、またよろしくお願いしますね」
「僕は嬉しいけど、でもサリーは別の仕事をしていたんでしょう? ベルっちが強引に頼んだんじゃない? サリー、いやだったんじゃない?」
心配げに見上げてくる、我が子よりも小さいアシェルナオに、サリアンは目を細める。
「団を超えて、騎士たちの武術の指導をしていたんですよ。剣が使えないときの制圧法とかね。でもそれは護衛をしながらでもたまに指導に行けるから大丈夫だよ。その時はナオ様も見学に行く?」
「行きたい!」
「うん。それにね、ここの護衛はナオ様が起きて朝食をとってから、夕方までなんだ。その頃でフォルと交代できるから、私もスヴェンとの時間が増えるし、ありがたいんだ」
「スヴェン、早く会いたいなぁ。ここで友達ができるの始めてだからすごく楽しみ」
優人みたいになんでも話せる友達ができるといいなぁ、と、アシェルナオは少しばかりの感傷に浸る。
「ナオ様、家庭教師の先生を紹介してくれる?」
ホールで話をしていたサリアンは奥のダイニングテーブルに座る2人に目線を向けながら言った。
「うん。エル先生とルル先生だよ」
アシェルナオはサリアンを先導して2人のもとに向かう。
「ナオ様、先生は不要ですよ。エルとルルとお呼びください。双子の兄のオーケリエルム・アレクサンデションです」
「弟のオーケルルンド・アレクサンデションです」
エルとルルはサリアンに向けて頭を下げる。
「だめだよ。先生は先生だから」
異を唱えるアシェルナオ。
「本当に双子だ。ありていに言うと、不穏分子に狙われる2人を匿うことでナオ様に危険が及ばないようにするための護衛のサリアン・アールグレーンだ」
「ありていすぎる」
「狙われるのは俺たちのせいじゃない」
サリアンの言い方に抗議するエルとルルだった。
エルとルルの口調がだいぶ砕けたところでパウラが声のトーンを落とす。
「はい」
「はい」
パウラが大事な話をすることを察して背筋をただす双子。
「アシェルナオは正真正銘の愛し子です。10年前に王太子殿下を庇って死んでしまった愛し子の生まれ変わりです」
パウラが口にした衝撃の事実に続いて、
「愛し子です」
アシェルナオは両方の手のひら上に向ける。
そこには勢ぞろいした精霊たちがそれぞれポーズをとっているのだが、誰にも見えなかった。
「本物の愛し子様なんですか?」
「えぇ……それなら公表するはずでは……」
疑っているというより、アシェルナオの存在自体に戸惑っているエルとルル。
「アシェルナオはまだ小さい。まだ普通の生活を送らせてやりたい。他言したらお前たちを他国に売る」
年上相手にも冷ややかな目で釘をさすシーグフリードだった。
「そこで、ルルに依頼したいことがあります。これがあなたたちを高額な報酬込みで匿うことの対価になります」
パウラの言葉にごくりと唾をのむエルとルル。
「な、なんでしょう」
「で、できないことはできないです」
「アシェルナオの髪と瞳の色を変えることができる魔道具を作ってほしいの。黒目黒髪のままだとお出かけどころか学園生活が送れませんもの」
「髪の色と目の色を変える……認識障害じゃなくて、変える……」
依頼内容を聞いて頭の中でいろいろな設定を構築しているルル。
「変える? もとに戻る?」
黒目黒髪じゃないならヴァレリラルドが好きじゃなくなるかもしれない。そう思うとアシェルナオは少し焦った。
「魔道具ということは、それを装着、または発動していなければ色は変わらないということですよ」
テュコに言われてアシェルナオは胸をなでおろし、
「じゃあ、髪と目の色が黒じゃなかったら、屋敷の中を自由に歩いても、お出かけしても、普通に学園に通ってもいいってこと?」
途端に沸いてきた期待に興奮して尋ねる。
「そうよ」
屋敷の中も自由に出ることができなかったことに胸を痛めながらパウラが微笑む。
「それなら僕は兄さまと同じがいいです。兄さまと同じ、父さまの髪の毛の色で、母さまの瞳の色がいいです」
アシェルナオにとっての黒目黒髪は、好きという以上に、それが自分自身の証みたいなものだと思っている。
けれどもそれが家族の中での異質の理由で、もしそうでなければ本当の家族の一員になれるのではないかと思い悩んだ時期もあったのだ。
魔道具をつけている間だけだとしても、父や母、兄と同じ髪や瞳の色になれる。
そう思うと期待が大きすぎて、興奮しすぎて、アシェルナオは顔をくしゃくしゃにして涙を溢れさす。
「そうだね、一緒がいいね」
シーグフリードは席を立つとアシェルナオを抱き上げて、また自分の席に座り、労わるように背中を叩いた。
「いいわね? できるわよね?」
両親の色がいいと泣くアシェルナオが愛しすぎて、エルとルルを見るパウラの瞳は恐ろしいほどの威圧を発していた。
エルとルルもまた、家族の色になりたいと泣くアシェルナオのために力になりたいと思った。
「ナオ様」
サリアンがアシェルナオの部屋を訪れたのは翌朝のことだった。
「サリー、おはよう。今日から僕の護衛をしてくれるって聞いてるよ」
「今日から、またよろしくお願いしますね」
「僕は嬉しいけど、でもサリーは別の仕事をしていたんでしょう? ベルっちが強引に頼んだんじゃない? サリー、いやだったんじゃない?」
心配げに見上げてくる、我が子よりも小さいアシェルナオに、サリアンは目を細める。
「団を超えて、騎士たちの武術の指導をしていたんですよ。剣が使えないときの制圧法とかね。でもそれは護衛をしながらでもたまに指導に行けるから大丈夫だよ。その時はナオ様も見学に行く?」
「行きたい!」
「うん。それにね、ここの護衛はナオ様が起きて朝食をとってから、夕方までなんだ。その頃でフォルと交代できるから、私もスヴェンとの時間が増えるし、ありがたいんだ」
「スヴェン、早く会いたいなぁ。ここで友達ができるの始めてだからすごく楽しみ」
優人みたいになんでも話せる友達ができるといいなぁ、と、アシェルナオは少しばかりの感傷に浸る。
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「弟のオーケルルンド・アレクサンデションです」
エルとルルはサリアンに向けて頭を下げる。
「だめだよ。先生は先生だから」
異を唱えるアシェルナオ。
「本当に双子だ。ありていに言うと、不穏分子に狙われる2人を匿うことでナオ様に危険が及ばないようにするための護衛のサリアン・アールグレーンだ」
「ありていすぎる」
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サリアンの言い方に抗議するエルとルルだった。
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