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第2部
さすが愛し子……常識が通じない……
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「それで、勉強はここでやるのかい?」
サリアンが尋ねる。
「俺は、あいだにテーブルをはさまないほうがやりやすいから、ホールの方がいいです」
「俺も一緒にいる。ナオ様を見ながらの方がインスピレーションがわきそうだ」
エルの提案で一行はホールに場所を移す。
エルは椅子の1つにアシェルナオを座らせると、自分もその前に座る。
「今まで魔法を使ったことはありますか?」
「ないです、エル先生。先生、普通に話してもいいよ?」
「いえ、愛し子様に普通に話すのは……」
「ナオ様がそれでいいと言うならいいんじゃない?」
サリアンに言われ、
「じゃあ。でもナオ様も先生をつけるのはやめてほしい。先生って呼ばれるのは初めてだし、本当にもう勘弁してくださいって感じだ」
愛し子に先生と呼ばれるには人生経験が足りなすぎると自覚しているエル。
「ん-? じゃあエルるん?」
首をかしげるアシェルナオ。
「おー、じゃあ俺はルルるん?」
ルルが話に割り込む。
「ケルるん」
ルルに向かって笑顔を向けるアシェルナオ。
「すげー可愛い」
呼び方もアシェルナオも可愛すぎてもだえるルル。
「では、ナオ様。魔法を使ったことは? あ、その前に属性は?」
「ん-、夜以外?」
アシェルナオは精霊たちに向かって問いかける。
「え? じゃあ5つの属性持ち?」
3つ持っているエルですらめずらしい方なのに、5つ?
驚くエルだが、
「愛し子だからな。夜も、今は使えないだけ、と考えていいはずだ」
当然のような顔で答えるテュコ。
「ああ……。魔法を使ったことはない?」
「ないです。この前洗礼を受けたばかりだし」
アシェルナオはテュコの顔を見る。
「愛し子の魔法がどういうものなのか見当がつかないから、家庭教師がつくまでは魔法は使わないようにしていた」
テュコの説明に、エルは頷く。
「ナオ様、加護を受けたときに体に温かいものがはいったような気がしなかった?」
「ん-、あたりが光ったような気がした」
「ナオ様、すっごい光ってたよ」
当時を思い出して言うサリアン。
「光か。では体の中を魔力が回っていることを感じる?」
「ん-、前ね、フォルに癒してもらった時に体の中をあたたかいものが流れている気がした」
アシェルナオが言うと、
『ナオによしよししたよ』
『こわかったねぇ、って、僕たちもなぐさめたよ』
精霊たちが反応する。
「それも体の中を魔法を使うときの力、魔力が流れていたからだよ。その時のことを思い出しながら体の中に魔力を巡らせてみて」
「はーい」
元気に返事をして、フォルシウスに癒しを受けたときの感覚を思い出しながら体の中に魔力をめぐらせる。
「体の中に巡らせながら人差し指の指先に火をイメージして」
エルに言われるとおりにアシェルナオは手のひらに火をイメージする。
「んー……んんー……んにゅー」
可愛く力みながら火をイメージするアシェルナオに、
「そんなにいきまなくても大丈夫だよ。むしろリラックスして」
エルがアドバイスする。
「なんだろう、全然できるイメージがわかない」
しばらくやってみたが、何も得るものがなくて、アシェルナオは肩を落とす。
「愛し子なんだよな?」
無神経なルルの一言に、傷ついた顔をするアシェルナオ。
「ルルは黙って。最初からうまくいかないことも多いよ。気長にやっていこう」
エルが慰めの言葉をかける。
「魔力のイメージがわかないのなら、血が体の中をめぐっているのを意識してみたら?」
「血?」
「魔力は血に宿るとも言われるんだ」
若干ばかにしている感じで言うルルに、
「血の流れは、体循環と肺循環があるんだよ。どっち?」
首を傾げるナオ。
医療系ドラマが好きだったアシェルナオは、医学の軽い知識なら頭にはいっていた。
「は?」
「心臓の左心室から送り出された血は大動脈、動脈を通って全身の臓器に運ばれるんだ。途中で静脈血になって静脈から大静脈を通って右心房に戻る。これが体循環ね。もう一つは右心室から肺動脈を通って肺に行って、そこから肺静脈になって左心房に戻るんだ。これが肺循環だよ。血の巡り、どっち?」
エルとアシェルナオは見つめあっていたが、やがてエルは頭を抱えて何かを考え始めた。
「ん?」
「ナオ様やばいな。そんな知識持ってたら俺たち以上に他国に狙われちゃうじゃん」
「やだ」
アシェルナオは隣に置いているリングダールを抱き寄せる。
「ナオ様を怖がらせるな、ルル」
テュコがルルをいさめる。
『ナオー』
怯えるナオを慰めるように精霊たちが飛び回る。
『ナオはめぐらせなくてもいいんだよ』
『ナオは頭の中でイメージするだけでいいんだよ』
『それで僕たちに言えばいいんだよ』
『ナオは愛し子だから、この世界の道理にあわせなくてもいいんだよ』
精霊たちが慰めるようにアシェルナオの周りを飛び回る。
「そうか。そうだよね。科学の世界に生きてきた僕に魔法を使えるイメージはわかないもん」
開き直って、ナオは人差し指を立てる。
「ひぃ」
『はーい』
呼ばれたひぃはアシェルナオの指先に火をともす。
「できたー」
ほこらしげに胸を張るアシェルナオ。
「さすが愛し子……」
「常識が通じない……」
エルとルルは自分たちが教える余地などないのではと思った。
サリアンが尋ねる。
「俺は、あいだにテーブルをはさまないほうがやりやすいから、ホールの方がいいです」
「俺も一緒にいる。ナオ様を見ながらの方がインスピレーションがわきそうだ」
エルの提案で一行はホールに場所を移す。
エルは椅子の1つにアシェルナオを座らせると、自分もその前に座る。
「今まで魔法を使ったことはありますか?」
「ないです、エル先生。先生、普通に話してもいいよ?」
「いえ、愛し子様に普通に話すのは……」
「ナオ様がそれでいいと言うならいいんじゃない?」
サリアンに言われ、
「じゃあ。でもナオ様も先生をつけるのはやめてほしい。先生って呼ばれるのは初めてだし、本当にもう勘弁してくださいって感じだ」
愛し子に先生と呼ばれるには人生経験が足りなすぎると自覚しているエル。
「ん-? じゃあエルるん?」
首をかしげるアシェルナオ。
「おー、じゃあ俺はルルるん?」
ルルが話に割り込む。
「ケルるん」
ルルに向かって笑顔を向けるアシェルナオ。
「すげー可愛い」
呼び方もアシェルナオも可愛すぎてもだえるルル。
「では、ナオ様。魔法を使ったことは? あ、その前に属性は?」
「ん-、夜以外?」
アシェルナオは精霊たちに向かって問いかける。
「え? じゃあ5つの属性持ち?」
3つ持っているエルですらめずらしい方なのに、5つ?
驚くエルだが、
「愛し子だからな。夜も、今は使えないだけ、と考えていいはずだ」
当然のような顔で答えるテュコ。
「ああ……。魔法を使ったことはない?」
「ないです。この前洗礼を受けたばかりだし」
アシェルナオはテュコの顔を見る。
「愛し子の魔法がどういうものなのか見当がつかないから、家庭教師がつくまでは魔法は使わないようにしていた」
テュコの説明に、エルは頷く。
「ナオ様、加護を受けたときに体に温かいものがはいったような気がしなかった?」
「ん-、あたりが光ったような気がした」
「ナオ様、すっごい光ってたよ」
当時を思い出して言うサリアン。
「光か。では体の中を魔力が回っていることを感じる?」
「ん-、前ね、フォルに癒してもらった時に体の中をあたたかいものが流れている気がした」
アシェルナオが言うと、
『ナオによしよししたよ』
『こわかったねぇ、って、僕たちもなぐさめたよ』
精霊たちが反応する。
「それも体の中を魔法を使うときの力、魔力が流れていたからだよ。その時のことを思い出しながら体の中に魔力を巡らせてみて」
「はーい」
元気に返事をして、フォルシウスに癒しを受けたときの感覚を思い出しながら体の中に魔力をめぐらせる。
「体の中に巡らせながら人差し指の指先に火をイメージして」
エルに言われるとおりにアシェルナオは手のひらに火をイメージする。
「んー……んんー……んにゅー」
可愛く力みながら火をイメージするアシェルナオに、
「そんなにいきまなくても大丈夫だよ。むしろリラックスして」
エルがアドバイスする。
「なんだろう、全然できるイメージがわかない」
しばらくやってみたが、何も得るものがなくて、アシェルナオは肩を落とす。
「愛し子なんだよな?」
無神経なルルの一言に、傷ついた顔をするアシェルナオ。
「ルルは黙って。最初からうまくいかないことも多いよ。気長にやっていこう」
エルが慰めの言葉をかける。
「魔力のイメージがわかないのなら、血が体の中をめぐっているのを意識してみたら?」
「血?」
「魔力は血に宿るとも言われるんだ」
若干ばかにしている感じで言うルルに、
「血の流れは、体循環と肺循環があるんだよ。どっち?」
首を傾げるナオ。
医療系ドラマが好きだったアシェルナオは、医学の軽い知識なら頭にはいっていた。
「は?」
「心臓の左心室から送り出された血は大動脈、動脈を通って全身の臓器に運ばれるんだ。途中で静脈血になって静脈から大静脈を通って右心房に戻る。これが体循環ね。もう一つは右心室から肺動脈を通って肺に行って、そこから肺静脈になって左心房に戻るんだ。これが肺循環だよ。血の巡り、どっち?」
エルとアシェルナオは見つめあっていたが、やがてエルは頭を抱えて何かを考え始めた。
「ん?」
「ナオ様やばいな。そんな知識持ってたら俺たち以上に他国に狙われちゃうじゃん」
「やだ」
アシェルナオは隣に置いているリングダールを抱き寄せる。
「ナオ様を怖がらせるな、ルル」
テュコがルルをいさめる。
『ナオー』
怯えるナオを慰めるように精霊たちが飛び回る。
『ナオはめぐらせなくてもいいんだよ』
『ナオは頭の中でイメージするだけでいいんだよ』
『それで僕たちに言えばいいんだよ』
『ナオは愛し子だから、この世界の道理にあわせなくてもいいんだよ』
精霊たちが慰めるようにアシェルナオの周りを飛び回る。
「そうか。そうだよね。科学の世界に生きてきた僕に魔法を使えるイメージはわかないもん」
開き直って、ナオは人差し指を立てる。
「ひぃ」
『はーい』
呼ばれたひぃはアシェルナオの指先に火をともす。
「できたー」
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