そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

文字の大きさ
161 / 492
第2部

さすが愛し子……常識が通じない……

しおりを挟む
 「それで、勉強はここでやるのかい?」

 サリアンが尋ねる。

 「俺は、あいだにテーブルをはさまないほうがやりやすいから、ホールの方がいいです」

 「俺も一緒にいる。ナオ様を見ながらの方がインスピレーションがわきそうだ」

 エルの提案で一行はホールに場所を移す。

 エルは椅子の1つにアシェルナオを座らせると、自分もその前に座る。

 「今まで魔法を使ったことはありますか?」

 「ないです、エル先生。先生、普通に話してもいいよ?」

 「いえ、愛し子様に普通に話すのは……」

 「ナオ様がそれでいいと言うならいいんじゃない?」

 サリアンに言われ、

 「じゃあ。でもナオ様も先生をつけるのはやめてほしい。先生って呼ばれるのは初めてだし、本当にもう勘弁してくださいって感じだ」

 愛し子に先生と呼ばれるには人生経験が足りなすぎると自覚しているエル。

 「ん-? じゃあエルるん?」

 首をかしげるアシェルナオ。

 「おー、じゃあ俺はルルるん?」

 ルルが話に割り込む。

 「ケルるん」

 ルルに向かって笑顔を向けるアシェルナオ。

 「すげー可愛い」

 呼び方もアシェルナオも可愛すぎてもだえるルル。

 「では、ナオ様。魔法を使ったことは? あ、その前に属性は?」

 「ん-、夜以外?」

 アシェルナオは精霊たちに向かって問いかける。

 「え? じゃあ5つの属性持ち?」

 3つ持っているエルですらめずらしい方なのに、5つ?

 驚くエルだが、

 「愛し子だからな。夜も、今は使えないだけ、と考えていいはずだ」

 当然のような顔で答えるテュコ。
 
 「ああ……。魔法を使ったことはない?」

 「ないです。この前洗礼を受けたばかりだし」

 アシェルナオはテュコの顔を見る。

 「愛し子の魔法がどういうものなのか見当がつかないから、家庭教師がつくまでは魔法は使わないようにしていた」

 テュコの説明に、エルは頷く。

 「ナオ様、加護を受けたときに体に温かいものがはいったような気がしなかった?」

 「ん-、あたりが光ったような気がした」

 「ナオ様、すっごい光ってたよ」

 当時を思い出して言うサリアン。

 「光か。では体の中を魔力が回っていることを感じる?」

 「ん-、前ね、フォルに癒してもらった時に体の中をあたたかいものが流れている気がした」

 アシェルナオが言うと、

 『ナオによしよししたよ』

 『こわかったねぇ、って、僕たちもなぐさめたよ』

 精霊たちが反応する。

 「それも体の中を魔法を使うときの力、魔力が流れていたからだよ。その時のことを思い出しながら体の中に魔力を巡らせてみて」

 「はーい」

 元気に返事をして、フォルシウスに癒しを受けたときの感覚を思い出しながら体の中に魔力をめぐらせる。

 「体の中に巡らせながら人差し指の指先に火をイメージして」

 エルに言われるとおりにアシェルナオは手のひらに火をイメージする。

 「んー……んんー……んにゅー」

 可愛く力みながら火をイメージするアシェルナオに、

 「そんなにいきまなくても大丈夫だよ。むしろリラックスして」

 エルがアドバイスする。

 「なんだろう、全然できるイメージがわかない」

 しばらくやってみたが、何も得るものがなくて、アシェルナオは肩を落とす。

 「愛し子なんだよな?」

 無神経なルルの一言に、傷ついた顔をするアシェルナオ。

 「ルルは黙って。最初からうまくいかないことも多いよ。気長にやっていこう」

 エルが慰めの言葉をかける。

 「魔力のイメージがわかないのなら、血が体の中をめぐっているのを意識してみたら?」

 「血?」

 「魔力は血に宿るとも言われるんだ」

 若干ばかにしている感じで言うルルに、

 「血の流れは、体循環と肺循環があるんだよ。どっち?」

 首を傾げるナオ。

 医療系ドラマが好きだったアシェルナオは、医学の軽い知識なら頭にはいっていた。

 「は?」

 「心臓の左心室から送り出された血は大動脈、動脈を通って全身の臓器に運ばれるんだ。途中で静脈血になって静脈から大静脈を通って右心房に戻る。これが体循環ね。もう一つは右心室から肺動脈を通って肺に行って、そこから肺静脈になって左心房に戻るんだ。これが肺循環だよ。血の巡り、どっち?」

 エルとアシェルナオは見つめあっていたが、やがてエルは頭を抱えて何かを考え始めた。

 「ん?」

 「ナオ様やばいな。そんな知識持ってたら俺たち以上に他国に狙われちゃうじゃん」

 「やだ」

 アシェルナオは隣に置いているリングダールを抱き寄せる。

 「ナオ様を怖がらせるな、ルル」

 テュコがルルをいさめる。

 『ナオー』

 怯えるナオを慰めるように精霊たちが飛び回る。

 『ナオはめぐらせなくてもいいんだよ』

 『ナオは頭の中でイメージするだけでいいんだよ』

 『それで僕たちに言えばいいんだよ』

 『ナオは愛し子だから、この世界の道理にあわせなくてもいいんだよ』

 精霊たちが慰めるようにアシェルナオの周りを飛び回る。

 「そうか。そうだよね。科学の世界に生きてきた僕に魔法を使えるイメージはわかないもん」

 開き直って、ナオは人差し指を立てる。

 「ひぃ」

 『はーい』

 呼ばれたひぃはアシェルナオの指先に火をともす。

 「できたー」

 ほこらしげに胸を張るアシェルナオ。

 「さすが愛し子……」

 「常識が通じない……」

 エルとルルは自分たちが教える余地などないのではと思った。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。

ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と 主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り 狂いに狂ったダンスを踊ろう。 ▲▲▲ なんでも許せる方向けの物語り 人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...