そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第2部

やることはや(言わせない)

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 「ナオ様、本日より護衛の任につきます。よろしくお願いします」

 夕方近くになってアシェルナオの部屋を訪れたのは予告通りフォルシウスだった。

 「フォル、今日からまたよろしくお願いします。でも、神殿騎士になっていたんだよね? 僕の護衛になってもよかったの?」

 心配そうに見上げてくるアシェルナオ。

 「もともと私が神殿騎士になったのは、ナオ様を失ったことで無力感を感じ、それを埋めるべく精霊を身近に感じられるところに行きたかったんです。今はナオ様の周りが一番精霊を感じられますから」

 アシェルナオの近くには精霊のキラキラが常にあって、フォルシウスは微笑む。

 「お、大人の美人だ……」

 エルとルルは元騎士とは思えない、しっとり美人のフォルシウスに見惚れている。

 「エル、ルル。私の方が美人だろう?」

 にっこり微笑むサリアンに、でも子持ちじゃん、口悪いじゃん、とそれぞれが呟いて、鋭い瞳で睨まれる双子。

 「それで、ナオ様にお詫びが……」

 歯切れの悪いフォルシウスに、アシェルナオは首を傾げる。

 「ん? なに?」

 「実は……」

 フォルシウスは一旦扉のところまで戻ると、扉を開けて一人の背の高い男性を連れてきた。

 「クランツ!」

 アシェルナオはかつての自分の護衛騎士を見つけて声をあげたが、あっ、と口を押えた。
 
 「本当にナオ様なのですね……」

 艶やかな黒髪と黒曜石の瞳を持つ、将来が楽しみな愛くるしい子供を前に、クランツは信じられない顔で立ち尽くす。

 10年前より小さく、幼くなっているが、綺麗な顔だちはまさしく梛央だった。

 クランツは我に返るとアシェルナオの前に進み出て臣下の礼を執る。

 「あの時はお護りしきれませんでした。許してくださいというのもおこがましい思いです。生き恥を晒すような日々でしたが、精霊のお導きでこうしてナオ様に再びお会いできたこと、これ以上の喜びはありません。よくぞ戻ってきてくださいました」

 そう言って深く頭を垂れるクランツ。

 「精霊の女神のおかげでエルランデル公爵家にアシェルナオとして生まれてきたよ。クランツ、会えてうれしい。でも、僕のことはヴァルにはまだ黙っていてほしいんだ」

 「フォルから聞いています。殿下の苦しい日が続いているのを側で見ているのは辛いですが、ナオ様のお気持ちもお察しします。それに、自分のために頑張られたナオ様もお辛いでしょう?」

 クランツの言葉に、アシェルナオの瞳が見開かれる。

 エンロートの温泉地で2人でサンノキに乗って話をしたことを、クランツがまだ覚えていてくれたことが嬉しかった。

 「うん。自分のために頑張ったよ。でも大人になったヴァルを見ると、子供の自分が悲しくて苦しくなる」

 アシェルナオの眦に涙がにじむ。

 「そか。ナオ様も殿下が好きになったんだね」
 
 サリアンに言われて、アシェルナオの顔が赤くなる。

 「な、なんでそんなこと言うの。僕、母さま以外に言って……、ああ、もう、サリーのばか」

 みんなの前で暴露されて慌てるアシェルナオが可愛くて、みんなは笑顔になるが、テュコだけは穏やかではなかった。

 「でも、だめじゃないか、フォル。ナオ様のことは絶対に口外してはいけないと陛下から言われなかった?」

 怖い顔になるサリアン。

 「私も言う気はなかったんですが、公爵家に部屋を与えられると聞いて、少し荷物をまとめて街を歩いていたんです。そしたらクランツが現れて、俺を捨ててどこに行くんだ、俺も一緒に行く。拒むならここで死んでやる。俺が死ぬのを見るか俺と結婚するか二つに一つだと街中で叫ぶものだから周りに野次馬の人だかりができて、もうやめてほしくて、つい」

 「結婚を承諾してもらいました」

 清々しい二枚目の顔で言い切るクランツ。

 「めちゃくちゃいい男なのに、すごく残念だな」

 呟くルルに、

 「十年以上思ってきたんだ。街中で、衆目の中でのプロポーズも悔いなし。むしろ大観衆の中で拍手と歓声をあびて承諾の返事をもらったことは我が人生の一生の宝。なので生涯の伴侶になったからにはフォルの秘密は夫である私の秘密。もちろん誰にも口外はしません」

 キリッとした顔のクランツに、サリアンも笑うしかなかった。

 「わかったよ。結婚おめでとう。くれぐれも殿下にも誰にも言うんじゃないよ」

 「もちろんです」

 そこは騎士としての覚悟を持って頷くクランツだった。

 「フォル、クランツ、結婚おめでとう。新婚さんなのにフォルは僕の護衛になっちゃっていいの?」

 信頼しているクランツとフォルシウスが結婚したことは喜ばしかったが、アシェルナオは変なことに気を回す。

 「やることはや・・」
 
 ってるから大丈夫です。そう言おうとしたクランツの口を、

 「それ以上言わせるか!」

 「ナオ様の前で下賤なことは言わせない!」

 両方から塞ぐフォルシウスとサリアン。

 「ナオ様の前でふしだらなことを言うのは許しません」

 「ナオ様の前では清いお付き合いでお願いします」

 側で見守っていたアイナとドリーンも、クランツとフォルシウスの前で仁王立ちになった。

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