そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

文字の大きさ
227 / 492
第3部

ナオ、ナオナオに会いたい

しおりを挟む
 「……というわけだ。お前にはずっと隠していて本当にすまないと思う」

 梛央が消えた日に女神がエルランデル公爵夫妻の夢に現れたこと。宿った子供は愛し子の証を持つ黒目黒髪の子供で、アシェルナオと命名したこと。6歳の誕生日にテュコやオルドジフたちにはお披露目されていたこと。10歳の誕生日に洗礼を受け、秋葉梛央の記憶が戻ったこと。などを説明すると、ベルンハルドは我が子に頭をさげた。

 「事情はわかりました。私にだけ伏せられていたのはまだ心が動揺していますが、それでも3年前のスタンピードの際に父上が何か言いたげにしておられたことは覚えています」

 3年前のことを思い出しているヴァレリラルドの膝の上にはアシェルナオがちょこんと座っていた。

 ようやく会うことができた梛央の生まれ変わりであるアシェルナオを、ヴァレリラルドはひと時も離していたくないとばかりに後ろから手をのばして抱きしめていた。

 何かあればオルドジフやオリヴェル、シーグフリードの膝に座っていたアシェルナオは、この体勢を自然に受け入れて馴染んでいる。

 『よかったねー、ナオ』
 
 『いちゃいちゃだねー』

 『あの時は泣いていたよねー』

 『おめでとー』

 『ちゅっちゅー』

 色つきの精霊たちがアシェルナオの周りでくるくると踊っている。

 思えば精霊たちはヴァレリラルドの卒業式で自分の小ささに泣いていたアシェルナオを慰め、応援してくれていた。

 あの時に泣いていたナオが、今は笑って、思う相手と仲睦まじくしているのは精霊たちにも嬉しいことだった。 

 ありがとうね、とアシェルナオが言うと、精霊たちはますますくるくると踊りだす。

 「あの時は、万が一お前に何かあった場合、アシェルナオのことを言わないままでいいのかと悩んだんだ。だが、私はお前は絶対に生きて還ってくると信じることにした。だから言わなかったんだ」

 ベルンハルドの言葉に、ヴァレリラルドも頷く。

 「ナオが来てくれなければ危うかったです。実際、死を覚悟しました。……私を助けてくれたのは雪うさぎだと思っていたのですが、10歳のアシェルナオがボスカルバングに立ち向かったのかと思うと、嬉しい以上に、今更ながらに心臓がとまるような思いになります。ナオが成長するまで私と会わせないと決めたエルランデル公爵の心情もわかります」

 ヴァレリラルドはオリヴェルにもここにいる者たちにも、自分のためにアシェルナオが危険に身を投じたことを申し訳なく思った。

 「おわかりいただけて嬉しいですよ。本当は16歳の成人まで大切に隠しておきたかったのですが、シーグフリードが招待したのであれば」

 仕方ありません、という言葉を飲み込むオリヴェルは、隣に座るベルンハルドに視線を向けて「コホン」と咳をする。

 あからさまに『うちの可愛い天使をお膝抱っこできる権利はまだ公爵家にあるんだが』と言いたげなオリヴェルに、

 「ヴァレリラルドは雪うさぎを捕まえるのがうまいんだ。ナオナオも一度で捕獲したからな」

 『13年ぶりの再会なんだ。これくらいは大目に見てやれ』の眼差しでオリヴェルを見ながらベルンハルドが口を滑らす。

 「父上!」

 ヴァレリラルドが咎めるようにベルンハルドを見た。
 
 「ナオナオ?」

 アシェルナオは膝の上からヴァレリラルドを見上げる。

 「3年前のスタンピードのあとで母上とアネシュカも一緒に冬の離宮に静養に行ったんだ。そこで雪うさぎを見つけて……無性に愛しくなって、捕獲して飼っているんだ。当時は助けてくれたのが雪うさぎだと思っていたから、身近に置きたくて」

 自分を見上げてくるアシェルナオの可愛さに、ヴァレリラルドは抱きしめる手に力をこめる。

 「置いてるの? ナオナオって名前なの?」

 「……ナオって呼びかけていたら、いつの間にか」

 照れ笑いをするヴァレリラルドに、

 「雪うさぎにナオナオと名付けたと? どれだけうちのアシェルナオが好きなんだ」

 「うちの」を強調するシーグフリード。

 ヴァレリラルドにアシェルナオの正体を明かしはしたが、だからといってそう簡単には可愛い弟を手放す気はなかった。

 「雪うさぎ、ナオナオって言うんだ。かわいいねぇ。僕、本物の雪うさぎ見たことないよ? 本当に目は蒼いの? 寒くなくても大丈夫なの?」

 「雪うさぎナオが一番可愛いけどね、蒼いよ。ナオ、私はいま星の離宮に住んでいるんだ。そこにナオナオの温室もあるよ。お泊りに来るかい?」

 「ナオ様!」

 本日二度目のテュコの制止は、

 「えーと、うーん、いいよ? 修学旅行としてお泊り会した時以来だね」

 またもやアシェルナオの笑顔に打ち砕かれた。

 「あらあら。あなた、よろしいの?」

 さすがにプロポーズの相手とのお泊りはどうかと躊躇うパウラがオリヴェルの様子をうかがう。

 「いくらアシェルナオがまだ子供でも、年頃の王太子殿下とお泊りするのは……」

 眉間に皺を寄せてしぶるオリヴェル。

 「だめですか? 父様。僕、ナオナオに会いたいです」

 「だめです」

 おねだりするアシェルナオが可愛いあまりにオリヴェルがつい許してしまう前に、テュコが断言した。



しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。

ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と 主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り 狂いに狂ったダンスを踊ろう。 ▲▲▲ なんでも許せる方向けの物語り 人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...