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第3部
星と花とナオ
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ヴァル、ごめんね。
幻想的な光に照らされながら静かに詫びるアシェルナオがこのまま消えていなくなりそうで、ヴァレリラルドは思わず手を伸ばしてその手を取った。
「全部許すから、いなくならないで。もうどこにも行かないで。もう、ナオを失いたくない」
懇願するヴァレリラルドに、アシェルナオはゆっくりと首を振る。
「あの時、ヴァルは星の塔からこの景色を見て言ったんだ。『今日も地上の花と空の星が見える。ナオがいたら、綺麗だと思えるだろうけど、一人で見る花も星も、心を動かさない』って。僕は、僕のためにヴァルを助けた。でもヴァルは、僕に助けられて、自分のために僕が死んだと思って、辛かったよね……。ごめんね、ヴァル」
『恋』という気持ちを知った今、もしヴァレリラルドが自分のせいで死んでしまったら、感謝なんかしていられないと、アシェルナオは思う。自分を責めて、苦しんで、きっと何もかもが楽しくなくなるに違いなかった。
ヴァレリラルドが今までどんな気持ちで十数年間を過ごしていたかを思うと、アシェルナオの瞳から涙が零れ落ちる。
「今なら私にもわかるよ。花も星も綺麗なことが。心が動かされるくらい綺麗なことが。でも一番綺麗なのはナオだ。ナオが一番私の心を動かす。私は、ナオが私を庇ってくれたことより、また私に会いに生まれてきてくれたことが嬉しい。1人にしないでくれてありがとう。私のところに戻って来てくれてありがとう。ナオがいるなら、私はすべてのものに心を動かされる」
ヴァレリラルドは握っているアシェルナオの手を掲げ、自分の額に導く。
「ありがとう、ナオ」
「戻ってきたよ。遅くなってごめんね」
アシェルナオはヴァレリラルドの胸に飛び込んだ。
すらりとして見えるが、筋肉のついた固い体が、とても好きだと思った。
「待っていたよ。ずっと、叶わぬ夢だとわかっていても待ち続けていたんだ」
だから、もういなくならないでくれ、と、ヴァレリラルドもアシェルナオを抱きしめ、髪をなでる。
やっと本当の再会を果たせた2人に、頭上の星と地上の星が祝福するようにやわらかな光を放っていた。が。
ピーッ。
突然鳴った笛の音で咄嗟に2人は離れた。
「長すぎる抱擁もよろしくありません。と、エルランデル公爵より申しつかっています。それ以前に長く夜風にあたっては体に毒です。早く星の離宮へ向かいましょう」
笛を片手に、にこりと笑うテュコを、ヴァレリラルドは心の底から恨めしそうに見つめていた。
星の離宮の玄関の扉を開けると、
「おかえりなさいませ」
待ち受けていた執事のダリミルが、アシェルナオを見て深く頭を下げた。
アシェルナオがあの時の梛央だと知っていて、顔を見て間違いないと確信して、万感の思いをこめて頭を下げていた。
アシェルナオはヴァレリラルドの顔を見て、頷くのを見て、
「ただいま。長い間留守にしてごめんね」
ダリミルに声をかける。
「ええ……。とても長いご不在でしたが、いつでも帰ってきていただけるようにしていました。お待ちしていました」
ダリミルはゆっくりと頭をあげ、涙を浮かべた瞳で声を震わせる。
「まだここで暮らすと決まったわけではありません。アイナ、ドリーン。準備はできていますか?」
アシェルナオの後ろからテュコが顔をのぞかせた。
「はい、ご入浴の準備はできております」
「ナオ様のおやすみのお荷物も準備できています」
ダリミルの後ろからアイナとドリーンが笑顔で返事をする。
「相変わらずですね、あなたたちは。少しは感動の再会を見守る優しさはないんですか」
苛立つダリミル。
「ありませんね」
テュコは真顔で答えた。
「テュコ、お風呂の前にナオナオがみたい」
アシェルナオが振り向く。
「そうですね。ご入浴の前がよろしいでしょう。そこの王太子殿下、ご案内をお願いします」
不敬ととられようが、ヴァレリラルドを敬う気持ちが少しもないテュコがお願いという名目の指示を出す。
テュコが自分に厳しいのは、アシェルナオの気持ちが自分にあるからだとわかっているヴァレリラルドは、余裕の笑みを浮かべて案内し、それを見てさらに不機嫌になるテュコだった。
幻想的な光に照らされながら静かに詫びるアシェルナオがこのまま消えていなくなりそうで、ヴァレリラルドは思わず手を伸ばしてその手を取った。
「全部許すから、いなくならないで。もうどこにも行かないで。もう、ナオを失いたくない」
懇願するヴァレリラルドに、アシェルナオはゆっくりと首を振る。
「あの時、ヴァルは星の塔からこの景色を見て言ったんだ。『今日も地上の花と空の星が見える。ナオがいたら、綺麗だと思えるだろうけど、一人で見る花も星も、心を動かさない』って。僕は、僕のためにヴァルを助けた。でもヴァルは、僕に助けられて、自分のために僕が死んだと思って、辛かったよね……。ごめんね、ヴァル」
『恋』という気持ちを知った今、もしヴァレリラルドが自分のせいで死んでしまったら、感謝なんかしていられないと、アシェルナオは思う。自分を責めて、苦しんで、きっと何もかもが楽しくなくなるに違いなかった。
ヴァレリラルドが今までどんな気持ちで十数年間を過ごしていたかを思うと、アシェルナオの瞳から涙が零れ落ちる。
「今なら私にもわかるよ。花も星も綺麗なことが。心が動かされるくらい綺麗なことが。でも一番綺麗なのはナオだ。ナオが一番私の心を動かす。私は、ナオが私を庇ってくれたことより、また私に会いに生まれてきてくれたことが嬉しい。1人にしないでくれてありがとう。私のところに戻って来てくれてありがとう。ナオがいるなら、私はすべてのものに心を動かされる」
ヴァレリラルドは握っているアシェルナオの手を掲げ、自分の額に導く。
「ありがとう、ナオ」
「戻ってきたよ。遅くなってごめんね」
アシェルナオはヴァレリラルドの胸に飛び込んだ。
すらりとして見えるが、筋肉のついた固い体が、とても好きだと思った。
「待っていたよ。ずっと、叶わぬ夢だとわかっていても待ち続けていたんだ」
だから、もういなくならないでくれ、と、ヴァレリラルドもアシェルナオを抱きしめ、髪をなでる。
やっと本当の再会を果たせた2人に、頭上の星と地上の星が祝福するようにやわらかな光を放っていた。が。
ピーッ。
突然鳴った笛の音で咄嗟に2人は離れた。
「長すぎる抱擁もよろしくありません。と、エルランデル公爵より申しつかっています。それ以前に長く夜風にあたっては体に毒です。早く星の離宮へ向かいましょう」
笛を片手に、にこりと笑うテュコを、ヴァレリラルドは心の底から恨めしそうに見つめていた。
星の離宮の玄関の扉を開けると、
「おかえりなさいませ」
待ち受けていた執事のダリミルが、アシェルナオを見て深く頭を下げた。
アシェルナオがあの時の梛央だと知っていて、顔を見て間違いないと確信して、万感の思いをこめて頭を下げていた。
アシェルナオはヴァレリラルドの顔を見て、頷くのを見て、
「ただいま。長い間留守にしてごめんね」
ダリミルに声をかける。
「ええ……。とても長いご不在でしたが、いつでも帰ってきていただけるようにしていました。お待ちしていました」
ダリミルはゆっくりと頭をあげ、涙を浮かべた瞳で声を震わせる。
「まだここで暮らすと決まったわけではありません。アイナ、ドリーン。準備はできていますか?」
アシェルナオの後ろからテュコが顔をのぞかせた。
「はい、ご入浴の準備はできております」
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苛立つダリミル。
「ありませんね」
テュコは真顔で答えた。
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「そうですね。ご入浴の前がよろしいでしょう。そこの王太子殿下、ご案内をお願いします」
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テュコが自分に厳しいのは、アシェルナオの気持ちが自分にあるからだとわかっているヴァレリラルドは、余裕の笑みを浮かべて案内し、それを見てさらに不機嫌になるテュコだった。
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