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第3部
アネちゃん
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「父上、母上、アネシュカ。ナオです」
家族だけの晩餐に使われる、あえて小ぢんまりとした造りになっている食堂。
すでに顔を揃えていたベルンハルド、テレーシア、アネシュカだったが、アシェルナオの姿を見るとテレーシアはアネシュカを従えてその前に進み出て、跪いた。
「ナオ様」
テレーシアはアシェルナオの顔を見ると、胸の前で手を組み合わせる。
「久しぶりだね、テンちゃん。前みたいにナオでいいよ?」
「ナオ……本当にナオなのですね。その尊い命と引き換えにヴァレリラルドを救っていただき、ありがとうございました。本当に、本当に、ヴァレリラルドを失わずにすんだこと、どれだけ感謝しても足りない思いです」
最愛の我が子の命を助けてもらった感謝の気持ちはうまく言葉にはならなかったが、熱い涙になってテレーシアの頬を濡らしていた。
「いいよ、テンちゃん。お礼なら3年前にベルっちから聞いているから。それに、僕は僕のためにヴァルを護ったんだ。だからテンちゃんもベルっちも、もちろんヴァルも、申し訳ないとか思っちゃだめだよ?」
13歳にしては少し小さいが、将来が楽しみな綺麗な顔だちのアシェルナオは、ほわりと微笑む。
黒目黒髪が精霊の愛し子の証でもあるのだが、含みも何もない自然体の言葉と笑みを浮かべるアシェルナオは、女神のように尊かった。
「申し訳ないというより、感謝ばかりです。……アネシュカ、ナオは精霊の愛し子という身でありながら、あなたの兄を命と引き換えに護ってくれたのですよ」
初めてアシェルナオを見たアネシュカはテレーシアに促されるままに、跪いたまま深く頭を垂れた。
「初めまして、ナオ様。ヴァレリラルドの妹、アネシュカです。兄の事、本当にありがとうございました」
アネシュカは金髪碧眼で、ヴァレリラルドによく似た凛々しい美少女だった。
「アネちゃん? 初めまして。僕は秋葉梛央。いまはアシェルナオ・エルランデルと言います。エルランデル公爵家次男です。ナオって呼んでください。よろしくお願いします」
初めて会う者への挨拶をしてアシェルナオはぺこりと頭を下げる。
「アネちゃん? 私のことでしょうか?」
顔をあげてきょとんとするアネシュカ。
「ベルっち、テンちゃん、アネちゃんね?」
ね?と小首をかしげるアシェルナオ。
「ナオ……私の嫁にならないか?」
アシェルナオの可愛い仕草に胸を打ち抜かれたアネシュカは、速攻でプロポーズした。
「やらん。ナオは私の嫁だ」
そして、速攻で却下するヴァレリラルドだった。
ベルンハルドとテレーシア、アネシュカ、ヴァレリラルドとの晩餐は、なごやかに進んだ。
アネシュカは嫁に欲しいと言ったとおりにすっかりアシェルナオの可愛さのとりこになっており、アシェルナオが今晩は星の離宮に泊まると聞くと、自分も一緒に泊まると言い出してきかなかった。
「アネシュカ、ヴァレリラルドは14年近くも耐えてきたんだ。2人だけで話したいこともたくさんあるはずだ。今夜は遠慮しておくがいい。でないとアネシュカの初デートには私もついていくぞ?」
ベルンハルドの言葉でアネシュカはしぶしぶ諦めた。
「アネちゃんに悪いことしたね」
晩餐のあと、ヴァレリラルドとサネルマの花の咲き誇る庭園を歩きながら、残念そうな顔でおやすみの挨拶をしていたアネシュカを思い出していた。
「そうだが、今日は2人で過ごしたかったんだ」
「それは……僕もだよ」
夜の闇に浮かび上がる幻想的な花の中で、アシェルナオは立ち止まる。
「アシェルナオ?」
「……3年前、花の妖精さんに、歌のお礼にって、花弁をもらったんだ」
「花弁?」
「うん。2枚。1つは妖精さんがヴァルに渡して、1つは僕が持ってる」
「妖精から渡された覚えがないんだが……」
「妖精さん、うまくやるって言ってたから、ヴァルは気づかなかったのかも。でも、僕の持ってる花弁からは、ヴァルの声が聞こえてたよ。だからヴァルがボスカルバングに遭遇して怪我をしたことを知って、ヴァルを助けに行ったんだ」
「そうだったのか」
だからあのタイミングで雪うさぎが現れたのだと、ヴァレリラルドは納得した。
「その前に、ヴァルがエンロートに行く前に、星の塔で独り言を言ってたのを聞いたんだ」
「独り言……きっと、情けないことを言っていたんだろうな」
アシェルナオと再会するまでは、どんな難関にも立ち向かう強い意志を持っていた反面、どこかでは、いつ死んでもいいとも思っていたヴァレリラルドは弱かった自分を振り返る。
「そんなことないよ……。ヴァル、ごめんね」
アシェルナオは辛そうに顔を歪めた。
家族だけの晩餐に使われる、あえて小ぢんまりとした造りになっている食堂。
すでに顔を揃えていたベルンハルド、テレーシア、アネシュカだったが、アシェルナオの姿を見るとテレーシアはアネシュカを従えてその前に進み出て、跪いた。
「ナオ様」
テレーシアはアシェルナオの顔を見ると、胸の前で手を組み合わせる。
「久しぶりだね、テンちゃん。前みたいにナオでいいよ?」
「ナオ……本当にナオなのですね。その尊い命と引き換えにヴァレリラルドを救っていただき、ありがとうございました。本当に、本当に、ヴァレリラルドを失わずにすんだこと、どれだけ感謝しても足りない思いです」
最愛の我が子の命を助けてもらった感謝の気持ちはうまく言葉にはならなかったが、熱い涙になってテレーシアの頬を濡らしていた。
「いいよ、テンちゃん。お礼なら3年前にベルっちから聞いているから。それに、僕は僕のためにヴァルを護ったんだ。だからテンちゃんもベルっちも、もちろんヴァルも、申し訳ないとか思っちゃだめだよ?」
13歳にしては少し小さいが、将来が楽しみな綺麗な顔だちのアシェルナオは、ほわりと微笑む。
黒目黒髪が精霊の愛し子の証でもあるのだが、含みも何もない自然体の言葉と笑みを浮かべるアシェルナオは、女神のように尊かった。
「申し訳ないというより、感謝ばかりです。……アネシュカ、ナオは精霊の愛し子という身でありながら、あなたの兄を命と引き換えに護ってくれたのですよ」
初めてアシェルナオを見たアネシュカはテレーシアに促されるままに、跪いたまま深く頭を垂れた。
「初めまして、ナオ様。ヴァレリラルドの妹、アネシュカです。兄の事、本当にありがとうございました」
アネシュカは金髪碧眼で、ヴァレリラルドによく似た凛々しい美少女だった。
「アネちゃん? 初めまして。僕は秋葉梛央。いまはアシェルナオ・エルランデルと言います。エルランデル公爵家次男です。ナオって呼んでください。よろしくお願いします」
初めて会う者への挨拶をしてアシェルナオはぺこりと頭を下げる。
「アネちゃん? 私のことでしょうか?」
顔をあげてきょとんとするアネシュカ。
「ベルっち、テンちゃん、アネちゃんね?」
ね?と小首をかしげるアシェルナオ。
「ナオ……私の嫁にならないか?」
アシェルナオの可愛い仕草に胸を打ち抜かれたアネシュカは、速攻でプロポーズした。
「やらん。ナオは私の嫁だ」
そして、速攻で却下するヴァレリラルドだった。
ベルンハルドとテレーシア、アネシュカ、ヴァレリラルドとの晩餐は、なごやかに進んだ。
アネシュカは嫁に欲しいと言ったとおりにすっかりアシェルナオの可愛さのとりこになっており、アシェルナオが今晩は星の離宮に泊まると聞くと、自分も一緒に泊まると言い出してきかなかった。
「アネシュカ、ヴァレリラルドは14年近くも耐えてきたんだ。2人だけで話したいこともたくさんあるはずだ。今夜は遠慮しておくがいい。でないとアネシュカの初デートには私もついていくぞ?」
ベルンハルドの言葉でアネシュカはしぶしぶ諦めた。
「アネちゃんに悪いことしたね」
晩餐のあと、ヴァレリラルドとサネルマの花の咲き誇る庭園を歩きながら、残念そうな顔でおやすみの挨拶をしていたアネシュカを思い出していた。
「そうだが、今日は2人で過ごしたかったんだ」
「それは……僕もだよ」
夜の闇に浮かび上がる幻想的な花の中で、アシェルナオは立ち止まる。
「アシェルナオ?」
「……3年前、花の妖精さんに、歌のお礼にって、花弁をもらったんだ」
「花弁?」
「うん。2枚。1つは妖精さんがヴァルに渡して、1つは僕が持ってる」
「妖精から渡された覚えがないんだが……」
「妖精さん、うまくやるって言ってたから、ヴァルは気づかなかったのかも。でも、僕の持ってる花弁からは、ヴァルの声が聞こえてたよ。だからヴァルがボスカルバングに遭遇して怪我をしたことを知って、ヴァルを助けに行ったんだ」
「そうだったのか」
だからあのタイミングで雪うさぎが現れたのだと、ヴァレリラルドは納得した。
「その前に、ヴァルがエンロートに行く前に、星の塔で独り言を言ってたのを聞いたんだ」
「独り言……きっと、情けないことを言っていたんだろうな」
アシェルナオと再会するまでは、どんな難関にも立ち向かう強い意志を持っていた反面、どこかでは、いつ死んでもいいとも思っていたヴァレリラルドは弱かった自分を振り返る。
「そんなことないよ……。ヴァル、ごめんね」
アシェルナオは辛そうに顔を歪めた。
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