そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

文字の大きさ
229 / 502
第3部

ピーッ

しおりを挟む
 アシェルナオが王城を訪れたのは誕生日のお祝いから2日後の3の水だった。

 「3年ぶりだねぇ」

 アシェルナオは案内するイクセルの後ろを歩きながら懐かしそうにあたりを見回す。

 「3年ぶりなのはナオ様の中だけで、本当は14年近いんですよ」

 声を潜めて訂正するテュコ。

 アシェルナオもテュコも、顔がわからないようにベールを被っていたが、隠しきれないオーラが2人をただならぬ存在だと告げているようで、すれ違う者たちが思わず振り向いていた。

 「しかし、よくこの短期間で実現しましたね。エルランデル公爵やシーグフリード様、誰よりもテュコが反対するとばかり思っていましたが」

 「もちろん大反対ですが、いやなことは早くすませておくタイプなので」

 アシェルナオの閨教育をいやなことだと言い切るテュコに、イクセルは苦笑する。

 当時8歳のヴァレリラルドは梛央に一途な思いを寄せていたが、12歳だったテュコもまた、梛央を生涯ただ1人の主だと心酔していたのだ。

 やすやすとヴァレリラルドにアシェルナオを渡すわけにはいかないというテュコの気概は、昔のテュコを知っているだけにイクセルには不快ではなかった。

 「こちらでお待ちです」

 王城の、公的な場所と王族の居住区の境にある扉の前でイクセルは立ち止まる。

 そこには扉を護る衛兵が2人、両脇に立っており、イクセルの顔を見ると敬礼して扉の前から横に位置をずらした。

 「ご苦労」

 衛兵に声をかけて扉を開けると、アシェルナオとテュコを中へ通す。最後に自分も中へ入ると、イクセルは厳重な扉をしめた。

 そこから先は奥城と呼ばれる王族の居住区、プライベートな空間だった。

 「ナオ!」

 白いシャツと黒いトラウザーズというラフな姿で迎えに出たヴァレリラルドが駆け寄ってナオを抱き上げる。

 「お招きありがとう、ヴァル」

 「来てくれて嬉しいよ、ナオ。ベールをはずして、早く顔を見せて」

 「いいけど……僕、もう子供じゃないんだから、3年前より大きくなったんだから、降ろして?」

 アシェルナオが被っていたベールをはずすと、魔道具で隠していない黒目黒髪の綺麗な顔立ちが現れて、ヴァレリラルドは、間違いなく梛央が戻ってきたことを実感して胸が熱くなった。

 「確かに、3年前より大きくなったよ。あの時にナオだと気づけたら……」

 3年前の卒業式でもこうやって抱き上げたことを思い出して、ヴァレリラルドは後悔した。

 「気づかれないようにすることが、卒業式に連れて行ってもらえるための条件だったから。ヴァル、すごくかっこよかったよ。大きくなったヴァルを見て、すごくドキドキした」

 抱き上げられるとヴァレリラルドの顔が近くにあって、今もアシェルナオの鼓動は早くなっていた。

 「私もナオにドキドキしてるよ。8歳の頃から」

 ヴァレリラルドの言葉に、アシェルナオは少し俯く。

 「……母様にね、卒業式のヴァルを思い出して胸がドキドキして苦しくなったり、小さい自分が悲しくなるのは、ヴァルに恋してるからだって言われたとき、8歳のヴァルもこんな気持ちでいたのかなって思ったんだ。あの時はヴァルの気持ちにあまり真剣に向き合ってなくてごめんなさい」

 「あの時の私は間違いなく8歳の子供だったんだ。仕方ないよ。私は、ナオが戻って来てくれて、今こうして思いが通じているというだけで幸せだ」

 顔を間近で見合わせ、ヴァレリラルドとアシェルナオは言葉でなく目で思いを語り合う。

 ピーッ。

 突然笛の音が響き、2人は思わず顔を離した。

 「必要以上に顔を近づけないようにと、エルランデル公爵から申しつかっていますので」

 笛を手にしたテュコがにこりと笑う。 「それよりここで立ち止まったままでよろしいので?」

 「あ、ああ。ナオ、父上たちが待っている。行こうか」

 「うん。じゃあ降ろして? ……手をつないでいい?」

 恥ずかしそうにねだるアシェルナオに、ヴァレリラルドはすぐに降ろして手を差し出す。

 アシェルナオはその手に指を絡めた。

 「前も、ヴァルの手は剣士の手だと思ったけど、今はもっと大きくてごつごつしてる。僕がいない間も頑張ってたんだね。えらいね、ヴァル」

 澄んだ瞳で見上げるアシェルナオ。

 その一言で、梛央のいなかった14年近くの年月がすべて報われた気がした。

 「……っ……ナオ、愛してる」

 この愛しさをどうやったら伝えられるかわからなくて、嗚咽をこらえてヴァレリラルドは、ぎゅっ、とつないだ手に力をこめる。

 「……うん」

 アシェルナオはこそばゆそうに頷いた。




 
しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...