262 / 492
第3部
16年目の真実
しおりを挟む
それは、カルバングくらい大きくて、全身が長い綺麗な毛に覆われたもふもふの生き物でした。
それは、森の中でひっそりと暮らしていましたが、ときどき村の近くに現れて、人々の暮らす家々や、栽培されている果物や野菜を眺めていました。
けれど、その姿は誰も目にしたことはありませんでした。もふもふは人間が苦手で、彼らに見られないように慎重に行動していたからです。
ある日、森の奥でお昼寝をしていたもふもふが目を覚ますと、小さな女の子が覗き込んでいました。
女の子は、森の奥に迷い込んでしまい、大きなもふもふを見つけたのでした。
女の子は、もふもふの綺麗な毛並みに心を奪われていました。
女の子は、自分の名前はマルルだと言いました。マルルはもふもふにも名前を聞きました。もふもふは、何のことを言っているのかわらなくて首を傾げました。
マルルは、もふもふに「リングダール」という名前をつけてあげました。リングダールは、自分の名前をリングダールだと思っていないので、マルルが自分に「リングダール」と呼びかけるのが不思議でした。
マルルは、名前をつけてあげたので、リングダールが自分の手下になったような気分でした。
マルルは、毎日リングダールに会いに森に行きました。マルルは、リングダールに色々なことを話して聞かせましたが、リングダールは人間の言葉が理解できないので黙っていました。
リングダールは、人間が苦手なので、マルルが毎日来るのが少し苦痛でした。そろそろ別の森に引っ越そうと思いました。
ある日、マルルの父親が、毎日出かけるマルルを不審に思って後をつけて来ました。そして、マルルのそばにいるリングダールを見つけました。
その頃、村では作物が何度も荒らされていて、村人たちはとても怒っていました。マルルの父親は、その大きさから、自分たちの作物を荒らしていたのはリングダールだと決めつけました。
父親は村に帰り、このことを村人たちに教えました。村人たちは、父親に案内されて森に入ってきました。村人たちは、自分たちが精魂込めて作った作物を荒らしているリングダールを、捕まえて殺すつもりでした。
マルルは、父親や村人たちに、止めてくれるように頼みました。マルルは、リングダールは優しい生き物で、悪いことをしていないと言いました。それにリングダールは自分の友達なのだと言いました。
しかし、村人たちはマルルの言葉を聞き入れませんでした。村人たちは、マルルを無理やり引き離して、リングダールに矢を放ちました。
リングダールーーーーー!
マルルは声をかぎりに叫びました。
リングダールは、マルルの叫び声を聞いて、悲しくなりました。やっぱりマルルが来なければよかったのだと思いました。早く引っ越しをすればよかったと思いました。
リングダールの体に矢がたくさん刺さりました。耐えられないような激痛が走りました。けれどリングダールには心のほうがもっと痛いと感じました。
リングダール、ごめんなさい。
リングダールの耳にマルルの声がとぎれとぎれに聞こえました。
けれど、人間の言葉がわからないリングダールには、マルルの言っていることが最後までわかりませんでした。
ただ、マルルの笑顔は可愛かった。そう思いました。リングダールの意識がだんだんと薄らいでいきました。
リングダールの体からたくさんの血が流れ、ゆっくりと力が抜けていきました。
リングダールぅぅ。
マルルは泣きながらリングダールに駆け寄りました。リングダールは最後の力を振り絞って口を開きました。
ガパァーッッ。
その口は耳が裂けるほど大きく開き、マルルを頭から一飲みにしました。
「えぇぇぇ……」
シーグフリードの寝台の中で、アシェルナオは兄の横に寝ながら、なんともいえない顔をした。
兄がしてくれる話を聞きながら、途中まではリングダールが可哀想だと感じていたアシェルナオだったが、最後の結末になんとも言えない顔をした。
「とある地方の伝承だよ。兄様が作ったものではないんだよ」
愛する弟に胡乱な目で見られ、シーグフリードは慌てて言い訳をした。
アシェルナオの部屋に制服を取りに行ったシーグフリードのメイドが、添い寝に必要だからとテュコに持たせられたいつものリングダールを抱きしめながら、アシェルナオは消化できないものを感じていた。
だが、結末はアレだったが、自分を慰めてくれるために話を聞かせてくれたシーグフリードに感謝した。
「僕のためにお話ししてくれてありがとう、兄様。リンちゃんのイメージが壊れそうになったけど、すごく興味深いお話でした。ね、リンちゃん」
アシェルナオはモフモフの長い毛並みに厚く覆われたリングダールの口らへんを手でさぐり、何気なく上下に開いてみた。
ガパァーッッ。
その口は耳が裂けるほど大きく開き、アシェルナオとシーグフリードの目が真ん丸になる。
アシェルナオはすぐにリングダールの口を閉じた。
「ぼ、僕、今日はちょっと疲れました。もう寝ます。おやすみなさい」
16年目の真実に、アシェルナオの目がうつろになる。
「あ、ああ、おやすみ。アシェルナオ」
本当に伝承されてきた話なのだが、まさか忠実に再現されているとは思っておらず、シーグフリードも少し心をざわつかせながら目を閉じた。
※※※※※※※※※
なんか、すみません。
次回からはシリアスに戻ります|ω·)
それは、森の中でひっそりと暮らしていましたが、ときどき村の近くに現れて、人々の暮らす家々や、栽培されている果物や野菜を眺めていました。
けれど、その姿は誰も目にしたことはありませんでした。もふもふは人間が苦手で、彼らに見られないように慎重に行動していたからです。
ある日、森の奥でお昼寝をしていたもふもふが目を覚ますと、小さな女の子が覗き込んでいました。
女の子は、森の奥に迷い込んでしまい、大きなもふもふを見つけたのでした。
女の子は、もふもふの綺麗な毛並みに心を奪われていました。
女の子は、自分の名前はマルルだと言いました。マルルはもふもふにも名前を聞きました。もふもふは、何のことを言っているのかわらなくて首を傾げました。
マルルは、もふもふに「リングダール」という名前をつけてあげました。リングダールは、自分の名前をリングダールだと思っていないので、マルルが自分に「リングダール」と呼びかけるのが不思議でした。
マルルは、名前をつけてあげたので、リングダールが自分の手下になったような気分でした。
マルルは、毎日リングダールに会いに森に行きました。マルルは、リングダールに色々なことを話して聞かせましたが、リングダールは人間の言葉が理解できないので黙っていました。
リングダールは、人間が苦手なので、マルルが毎日来るのが少し苦痛でした。そろそろ別の森に引っ越そうと思いました。
ある日、マルルの父親が、毎日出かけるマルルを不審に思って後をつけて来ました。そして、マルルのそばにいるリングダールを見つけました。
その頃、村では作物が何度も荒らされていて、村人たちはとても怒っていました。マルルの父親は、その大きさから、自分たちの作物を荒らしていたのはリングダールだと決めつけました。
父親は村に帰り、このことを村人たちに教えました。村人たちは、父親に案内されて森に入ってきました。村人たちは、自分たちが精魂込めて作った作物を荒らしているリングダールを、捕まえて殺すつもりでした。
マルルは、父親や村人たちに、止めてくれるように頼みました。マルルは、リングダールは優しい生き物で、悪いことをしていないと言いました。それにリングダールは自分の友達なのだと言いました。
しかし、村人たちはマルルの言葉を聞き入れませんでした。村人たちは、マルルを無理やり引き離して、リングダールに矢を放ちました。
リングダールーーーーー!
マルルは声をかぎりに叫びました。
リングダールは、マルルの叫び声を聞いて、悲しくなりました。やっぱりマルルが来なければよかったのだと思いました。早く引っ越しをすればよかったと思いました。
リングダールの体に矢がたくさん刺さりました。耐えられないような激痛が走りました。けれどリングダールには心のほうがもっと痛いと感じました。
リングダール、ごめんなさい。
リングダールの耳にマルルの声がとぎれとぎれに聞こえました。
けれど、人間の言葉がわからないリングダールには、マルルの言っていることが最後までわかりませんでした。
ただ、マルルの笑顔は可愛かった。そう思いました。リングダールの意識がだんだんと薄らいでいきました。
リングダールの体からたくさんの血が流れ、ゆっくりと力が抜けていきました。
リングダールぅぅ。
マルルは泣きながらリングダールに駆け寄りました。リングダールは最後の力を振り絞って口を開きました。
ガパァーッッ。
その口は耳が裂けるほど大きく開き、マルルを頭から一飲みにしました。
「えぇぇぇ……」
シーグフリードの寝台の中で、アシェルナオは兄の横に寝ながら、なんともいえない顔をした。
兄がしてくれる話を聞きながら、途中まではリングダールが可哀想だと感じていたアシェルナオだったが、最後の結末になんとも言えない顔をした。
「とある地方の伝承だよ。兄様が作ったものではないんだよ」
愛する弟に胡乱な目で見られ、シーグフリードは慌てて言い訳をした。
アシェルナオの部屋に制服を取りに行ったシーグフリードのメイドが、添い寝に必要だからとテュコに持たせられたいつものリングダールを抱きしめながら、アシェルナオは消化できないものを感じていた。
だが、結末はアレだったが、自分を慰めてくれるために話を聞かせてくれたシーグフリードに感謝した。
「僕のためにお話ししてくれてありがとう、兄様。リンちゃんのイメージが壊れそうになったけど、すごく興味深いお話でした。ね、リンちゃん」
アシェルナオはモフモフの長い毛並みに厚く覆われたリングダールの口らへんを手でさぐり、何気なく上下に開いてみた。
ガパァーッッ。
その口は耳が裂けるほど大きく開き、アシェルナオとシーグフリードの目が真ん丸になる。
アシェルナオはすぐにリングダールの口を閉じた。
「ぼ、僕、今日はちょっと疲れました。もう寝ます。おやすみなさい」
16年目の真実に、アシェルナオの目がうつろになる。
「あ、ああ、おやすみ。アシェルナオ」
本当に伝承されてきた話なのだが、まさか忠実に再現されているとは思っておらず、シーグフリードも少し心をざわつかせながら目を閉じた。
※※※※※※※※※
なんか、すみません。
次回からはシリアスに戻ります|ω·)
92
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。
ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と
主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り
狂いに狂ったダンスを踊ろう。
▲▲▲
なんでも許せる方向けの物語り
人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる