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第3部
私のことが嫌いになりましたか?
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「ナオ様!」
愛馬マルテンで駆けつけたテュコは、大切な主人の名を呼びながら颯爽と馬上から飛び降りる。
「テュコ殿!」
絶体絶命のピンチに、天の助けのように現れたテュコは、キナクが言い知れぬ感動に浸るより早く、流れるような剣さばきで3人をあっという間に斬り捨てた。
瞬殺……。
俺もまだまだじゃん……。
危機を脱した安堵感に包まれながらも、己の未熟さへの自己嫌悪に苛まれながら、キナクは力尽きて石畳に座り込む。
「よく頑張った。休んでろ。すぐに応援が来る」
テュコは、決して軽くはない傷を負ったキナクを労わると、アシェルナオに駆け寄った。
「ナオ様! ナオ様しっかり!」
血のついた剣を石畳に無造作に置き、テュコはアシェルナオを抱き起す。
アシェルナオの顔は青ざめ、冷や汗が浮かんでいた。その手足は硬直しており呼吸の乱れもあり、テュコはすぐに過呼吸だと判断した。
「ナオ様、わかりますか? テュコですよ」
過呼吸を起こすほど精神的に追い詰められたアシェルナオの心に届くように、穏やかな声で、ゆっくりと呼びかける。
その呼びかけに、絶大な信頼を寄せるテュコの声に、アシェルナオは目を開けた。
「テュ……コ……」
「はい、テュコです。テュコが来たからにはもう大丈夫ですよ」
いつかの、ヒーローのように現れた時と同じ言葉を口にするテュコに、アシェルナオの瞳から涙がこぼれる。
「テュコ……」
何か言おうとして、言えなくて、唇を震わせる。
「ナオ様は過呼吸の発作を起こしています。気持ちを落ち着けて、ゆっくり息をしてください。さあ、吸って。吐いて。吐いて……。吸って、吐いて、吐いて……。そう、お上手ですよ。少し楽になってきましたか?」
テュコに合わせて呼吸を繰り返すうちに症状がよくなってきて、アシェルナオは泣きながら頷く。
「怖かったですね。お怪我はありませんか?」
アシェルナオの体の状態を確かめようとするテュコに、
「アシェルナオ様は馬車から、頭から落ちてます」
キナクの声が割って入る。
「頭?」
テュコは慎重にアシェルナオの頭をみるが、傷はなかった。
『ぼくが空気でうけとめたよー』
『ぐり、上手だったねー』
ぐりが得意げにアシェルナオの顔の前に姿を見せる。
「頭、痛くない。ぐりが、空気のクッションで受け止めてくれたから。ありがとう、ぐり」
目の前にいるぐりにお礼を言うと、
『ぼくたちもがんばったよー』
『がんばったー』
『がんばった。がんばったー』
精霊たちがアシェルナオの周りを、褒めて、褒めて、と言いたげに飛び回る。
「みんな、ありがとう」
精霊たちに和まされ、アシェルナオの表情が柔らかくなる。
テュコが何か言おうとした時、エルランデル騎士団の応援部隊とシーグフリードの乗った馬車が到着した。
「アシェルナオ!」
馬車が止まると同時にシーグフリードが飛び出してくる。
「兄様、ごめんなさい」
自分の前に駆けつけて、屈みこんで顔を覗いてくるシーグフリードに、嘘をついて家を飛び出してきたアシェルナオは、申し訳なさそうに頭を下げる。
「心配したよ。無事でよかった。だが……」
シーグフリードは辺りを見回す。
そこには血を流して倒れている5人の男と、負傷して座りこんでいるキナクの姿があった。
もしテュコが間に合わなかったらどうなっていたか。そう思うとシーグフリードは身が震える思いだった。
「キナクが頑張ってくれたようだが、テュコが来なければ無事ではなかったかもしれない。兄様はアシェルナオに、ちゃんとテュコに侍従の仕事をさせるように言ったはずだよ」
アシェルナオが心配だったからこそ、きつい言い方になるシーグフリードに、アシェルナオの顔が悲し気に歪む。
「ナオ様、私のことが嫌いになりましたか?」
そんな顔をさせてしまうほど嫌われたのかと、テュコは思い詰めた顔で尋ねる。
昨日からのアシェルナオの言動は、どう考えてもテュコを避けられているとしか考えられなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
読み返す時間がなくて、いつもより若干短めの更新になっています。
眠くて頭が果たらなくてすみません。
助けてマn・・・。
愛馬マルテンで駆けつけたテュコは、大切な主人の名を呼びながら颯爽と馬上から飛び降りる。
「テュコ殿!」
絶体絶命のピンチに、天の助けのように現れたテュコは、キナクが言い知れぬ感動に浸るより早く、流れるような剣さばきで3人をあっという間に斬り捨てた。
瞬殺……。
俺もまだまだじゃん……。
危機を脱した安堵感に包まれながらも、己の未熟さへの自己嫌悪に苛まれながら、キナクは力尽きて石畳に座り込む。
「よく頑張った。休んでろ。すぐに応援が来る」
テュコは、決して軽くはない傷を負ったキナクを労わると、アシェルナオに駆け寄った。
「ナオ様! ナオ様しっかり!」
血のついた剣を石畳に無造作に置き、テュコはアシェルナオを抱き起す。
アシェルナオの顔は青ざめ、冷や汗が浮かんでいた。その手足は硬直しており呼吸の乱れもあり、テュコはすぐに過呼吸だと判断した。
「ナオ様、わかりますか? テュコですよ」
過呼吸を起こすほど精神的に追い詰められたアシェルナオの心に届くように、穏やかな声で、ゆっくりと呼びかける。
その呼びかけに、絶大な信頼を寄せるテュコの声に、アシェルナオは目を開けた。
「テュ……コ……」
「はい、テュコです。テュコが来たからにはもう大丈夫ですよ」
いつかの、ヒーローのように現れた時と同じ言葉を口にするテュコに、アシェルナオの瞳から涙がこぼれる。
「テュコ……」
何か言おうとして、言えなくて、唇を震わせる。
「ナオ様は過呼吸の発作を起こしています。気持ちを落ち着けて、ゆっくり息をしてください。さあ、吸って。吐いて。吐いて……。吸って、吐いて、吐いて……。そう、お上手ですよ。少し楽になってきましたか?」
テュコに合わせて呼吸を繰り返すうちに症状がよくなってきて、アシェルナオは泣きながら頷く。
「怖かったですね。お怪我はありませんか?」
アシェルナオの体の状態を確かめようとするテュコに、
「アシェルナオ様は馬車から、頭から落ちてます」
キナクの声が割って入る。
「頭?」
テュコは慎重にアシェルナオの頭をみるが、傷はなかった。
『ぼくが空気でうけとめたよー』
『ぐり、上手だったねー』
ぐりが得意げにアシェルナオの顔の前に姿を見せる。
「頭、痛くない。ぐりが、空気のクッションで受け止めてくれたから。ありがとう、ぐり」
目の前にいるぐりにお礼を言うと、
『ぼくたちもがんばったよー』
『がんばったー』
『がんばった。がんばったー』
精霊たちがアシェルナオの周りを、褒めて、褒めて、と言いたげに飛び回る。
「みんな、ありがとう」
精霊たちに和まされ、アシェルナオの表情が柔らかくなる。
テュコが何か言おうとした時、エルランデル騎士団の応援部隊とシーグフリードの乗った馬車が到着した。
「アシェルナオ!」
馬車が止まると同時にシーグフリードが飛び出してくる。
「兄様、ごめんなさい」
自分の前に駆けつけて、屈みこんで顔を覗いてくるシーグフリードに、嘘をついて家を飛び出してきたアシェルナオは、申し訳なさそうに頭を下げる。
「心配したよ。無事でよかった。だが……」
シーグフリードは辺りを見回す。
そこには血を流して倒れている5人の男と、負傷して座りこんでいるキナクの姿があった。
もしテュコが間に合わなかったらどうなっていたか。そう思うとシーグフリードは身が震える思いだった。
「キナクが頑張ってくれたようだが、テュコが来なければ無事ではなかったかもしれない。兄様はアシェルナオに、ちゃんとテュコに侍従の仕事をさせるように言ったはずだよ」
アシェルナオが心配だったからこそ、きつい言い方になるシーグフリードに、アシェルナオの顔が悲し気に歪む。
「ナオ様、私のことが嫌いになりましたか?」
そんな顔をさせてしまうほど嫌われたのかと、テュコは思い詰めた顔で尋ねる。
昨日からのアシェルナオの言動は、どう考えてもテュコを避けられているとしか考えられなかった。
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眠くて頭が果たらなくてすみません。
助けてマn・・・。
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