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第3部
顛末と邂逅
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王太子の婚約者のお披露目に立ち会うために、橋には大勢の者がつめかけていた。
混乱を避けるため、行きと帰りの者たちを分けるために橋には第二騎士団の騎士たちが等間隔で配置されていた。
お披露目前は入城する者が多いためその流れを幅広く取り、お披露目の後は帰る者たちの流れを幅広く取る予定だった。
「すごい人出ですね。一方通行にしたのはいい考えだと思います」
一方通行の流れをそばで見ながらマロシュは感心していた。
警備を担当する者や関係者は空いた通路を通れるように、許可証として揃いの腕章をつけており、王太子の執務室付きの人間としてマロシュも腕章をつけていた。
「ぶつかって転ぶ者や、混雑を狙って盗みを働くものがいる。流れを一つの方向にしてしまえば、おかしな行動をする者が見つけやすくなるんだ」
ブレンドレルは人の流れを目で追いながらブレンドレルが言う。
「おかしな動きをした者は?」
「王太子殿下の婚約者殿のお披露目が終わるまでは第二の駐屯地に拘留しておく」
「問題が起きるよりはそれがいいですね。そういえば、第二に拘留されて……保護されている双子の様子はどうですか?」
「昨日から街に行きたいと我儘を言っているらしい。当分は仕事場と第二との往復しか許さないとシーグフリード様に言われているから、どうしても行きたいなら第二の騎士の誰かと鎖でつないでならいいと言ってある」
真顔で答えるブレンドレルに、
「鎖ですか。犯罪者扱いですね」
反応に困ってマロシュは苦笑いを浮かべる。
「王都の賑わいに紛れて脱走劇を繰り広げられても困るからな。だが鎖つきでいいなら街に出てもいいんだ。あとは本人たちがどう選択するか、だ」
「それはそうですけど。そういえば、エクルンドから来た男たちはどうなったんですか?
「嘘をつかない、という契約魔法をかわして、シルヴマルク王国に潜伏している協力者たちのことを芋づる式に吐かせたところで強制送還にしたらしい」
「優しいというか、えげつないというか……。契約魔法、怖いですね」
「リーダーだけが協力者とつながっていたから吐いたが、他の者は知らなかったから吐けなかった。それが彼らの身の潔白になったから帰せたんだよ。同情すべきところはあったからな」
「そういえば、行方不明になった偉い人がいたんですよね?」
マロシュの問いに、ブレンドレルは人の流れを追っていた目線をマロシュに向ける。
「エクルンド公国に、男たちを強制送還することと、行方不明になっている者について正式な文書を送ったそうだが、エクルンド公国の答えは我が国は一切関与していない。行方不明になった公子などいない、だそうだ」
「見捨てたんですか?」
双子への思いを利用され、おそらくそれが理由で逃げ出した公子を見捨てた太公に、マロシュは怒りすら感じた。
「それが今の公国の方針なんだろう」
ブレンドレルも、やるせない思いで呟く。
「なんだったんでしょうね、この件は」
「さあな。だが、おおもとの双子の言動で、殿下の婚約者殿が危険な目に遭ったんだ。街に行きたいなら鎖でつながれるくらいどうってことないと思うがな」
ブレンドレルの言葉で、マロシュは子供だった頃にヴァレリラルドがただ1人連れて来た「お姉ちゃん」を思い出した。
後に愛し子だと聞かされた、綺麗で可愛い「お姉ちゃん」。
ヴァレリラルドが婚約するのは嬉しいが、『殿下、お姉ちゃんのことを吹っ切れたのかなぁ』と考えてしまうマロシュだった。
「お姉ちゃん」といる時のヴァレリラルドの笑顔は、嬉しくて楽しくて仕方ないといったあの輝きは、あれ以後見たことがなかった。
「私は警備の仕事でここを離れられない。マロシュはせっかくだから婚約式のお祝いムードにわく街を見てくるといい」
マロシュの顔が曇ったのを見て、ブレンドレルが気を回す。
「いいえ、俺も殿下の婚約者殿のお顔が見たいです」
見ないといけない。
マロシュはそう思った。
「確かにあの方は見る価値のある方だ」
ブレンドレルが頷いた時、
「あっ」
女性の声が聞こえた。
人の流れに目を向けると、神官姿の女性が人の波に押されて転倒していた。
「大丈夫ですか? チド様」
同伴していた長身の神官が助け起こそうとしたが、人の波に押されてうまく立ち上がらせることができないでいた。
ブレンドレルは機敏な動きで神官たちに駆け寄ると、片手で小柄な女性を担ぎ上げ、もう片方の手で長身の神官の腕を掴んで人の流れから抜け出した。
開けた所まで来ると、ブレンドレルはチドを下ろした。
「お怪我はありませんか?」
ブレンドレルが身を屈めて小柄なチドを覗き込む。
「ええ、おかげさまで。ありがとうございます、騎士様」
チドは指を組んでブレンドレルに感謝した。
「あの、ありがとうございます。僕ではうまく助けられなくて……すみません、チド様」
ウジェーヌはうなだれた。
あちこちに目を向けていて、人ごみの中でチドを気遣うことを怠った自分のせいだと責任を感じていた。
「ジルのせいではないですよ。後ろからぶつかられて、踏ん張り切れなかったのです」
「いいえ、僕が婚約者様が見たいと言ったばかりに……」
「大丈夫。怪我もしていないし、君のせいではない。そんな顔しなくても、お披露目には間に合うよ」
シュンとしてしまったウジェーヌを力づけるように、ブレンドレルが肩を叩く。
「騎士様」
ウジェーヌは、優しい言葉をかけるブレンドレルを見上げる。
「だが、この人ごみにチド様?と先を進むのは心細いだろう。マロシュ、私はここを動けないから2人を城内に案内してくれないか? 神官の方によく見える場所を確保してほしい。中の騎士に私の名前を出せば融通してくれるだろう」
「わかりました。さあ、お2人とも、俺のあとについてきてください」
マロシュはチドとウジェーヌを促した。
「騎士様、ありがとうございます」
ウジェーヌは深くお辞儀をしてブレンドレルに感謝の気持ちを伝える。
ブレンドレルは品のある青年神官を見送りながら、どことなく面映ゆい気持ちになっていた。
混乱を避けるため、行きと帰りの者たちを分けるために橋には第二騎士団の騎士たちが等間隔で配置されていた。
お披露目前は入城する者が多いためその流れを幅広く取り、お披露目の後は帰る者たちの流れを幅広く取る予定だった。
「すごい人出ですね。一方通行にしたのはいい考えだと思います」
一方通行の流れをそばで見ながらマロシュは感心していた。
警備を担当する者や関係者は空いた通路を通れるように、許可証として揃いの腕章をつけており、王太子の執務室付きの人間としてマロシュも腕章をつけていた。
「ぶつかって転ぶ者や、混雑を狙って盗みを働くものがいる。流れを一つの方向にしてしまえば、おかしな行動をする者が見つけやすくなるんだ」
ブレンドレルは人の流れを目で追いながらブレンドレルが言う。
「おかしな動きをした者は?」
「王太子殿下の婚約者殿のお披露目が終わるまでは第二の駐屯地に拘留しておく」
「問題が起きるよりはそれがいいですね。そういえば、第二に拘留されて……保護されている双子の様子はどうですか?」
「昨日から街に行きたいと我儘を言っているらしい。当分は仕事場と第二との往復しか許さないとシーグフリード様に言われているから、どうしても行きたいなら第二の騎士の誰かと鎖でつないでならいいと言ってある」
真顔で答えるブレンドレルに、
「鎖ですか。犯罪者扱いですね」
反応に困ってマロシュは苦笑いを浮かべる。
「王都の賑わいに紛れて脱走劇を繰り広げられても困るからな。だが鎖つきでいいなら街に出てもいいんだ。あとは本人たちがどう選択するか、だ」
「それはそうですけど。そういえば、エクルンドから来た男たちはどうなったんですか?
「嘘をつかない、という契約魔法をかわして、シルヴマルク王国に潜伏している協力者たちのことを芋づる式に吐かせたところで強制送還にしたらしい」
「優しいというか、えげつないというか……。契約魔法、怖いですね」
「リーダーだけが協力者とつながっていたから吐いたが、他の者は知らなかったから吐けなかった。それが彼らの身の潔白になったから帰せたんだよ。同情すべきところはあったからな」
「そういえば、行方不明になった偉い人がいたんですよね?」
マロシュの問いに、ブレンドレルは人の流れを追っていた目線をマロシュに向ける。
「エクルンド公国に、男たちを強制送還することと、行方不明になっている者について正式な文書を送ったそうだが、エクルンド公国の答えは我が国は一切関与していない。行方不明になった公子などいない、だそうだ」
「見捨てたんですか?」
双子への思いを利用され、おそらくそれが理由で逃げ出した公子を見捨てた太公に、マロシュは怒りすら感じた。
「それが今の公国の方針なんだろう」
ブレンドレルも、やるせない思いで呟く。
「なんだったんでしょうね、この件は」
「さあな。だが、おおもとの双子の言動で、殿下の婚約者殿が危険な目に遭ったんだ。街に行きたいなら鎖でつながれるくらいどうってことないと思うがな」
ブレンドレルの言葉で、マロシュは子供だった頃にヴァレリラルドがただ1人連れて来た「お姉ちゃん」を思い出した。
後に愛し子だと聞かされた、綺麗で可愛い「お姉ちゃん」。
ヴァレリラルドが婚約するのは嬉しいが、『殿下、お姉ちゃんのことを吹っ切れたのかなぁ』と考えてしまうマロシュだった。
「お姉ちゃん」といる時のヴァレリラルドの笑顔は、嬉しくて楽しくて仕方ないといったあの輝きは、あれ以後見たことがなかった。
「私は警備の仕事でここを離れられない。マロシュはせっかくだから婚約式のお祝いムードにわく街を見てくるといい」
マロシュの顔が曇ったのを見て、ブレンドレルが気を回す。
「いいえ、俺も殿下の婚約者殿のお顔が見たいです」
見ないといけない。
マロシュはそう思った。
「確かにあの方は見る価値のある方だ」
ブレンドレルが頷いた時、
「あっ」
女性の声が聞こえた。
人の流れに目を向けると、神官姿の女性が人の波に押されて転倒していた。
「大丈夫ですか? チド様」
同伴していた長身の神官が助け起こそうとしたが、人の波に押されてうまく立ち上がらせることができないでいた。
ブレンドレルは機敏な動きで神官たちに駆け寄ると、片手で小柄な女性を担ぎ上げ、もう片方の手で長身の神官の腕を掴んで人の流れから抜け出した。
開けた所まで来ると、ブレンドレルはチドを下ろした。
「お怪我はありませんか?」
ブレンドレルが身を屈めて小柄なチドを覗き込む。
「ええ、おかげさまで。ありがとうございます、騎士様」
チドは指を組んでブレンドレルに感謝した。
「あの、ありがとうございます。僕ではうまく助けられなくて……すみません、チド様」
ウジェーヌはうなだれた。
あちこちに目を向けていて、人ごみの中でチドを気遣うことを怠った自分のせいだと責任を感じていた。
「ジルのせいではないですよ。後ろからぶつかられて、踏ん張り切れなかったのです」
「いいえ、僕が婚約者様が見たいと言ったばかりに……」
「大丈夫。怪我もしていないし、君のせいではない。そんな顔しなくても、お披露目には間に合うよ」
シュンとしてしまったウジェーヌを力づけるように、ブレンドレルが肩を叩く。
「騎士様」
ウジェーヌは、優しい言葉をかけるブレンドレルを見上げる。
「だが、この人ごみにチド様?と先を進むのは心細いだろう。マロシュ、私はここを動けないから2人を城内に案内してくれないか? 神官の方によく見える場所を確保してほしい。中の騎士に私の名前を出せば融通してくれるだろう」
「わかりました。さあ、お2人とも、俺のあとについてきてください」
マロシュはチドとウジェーヌを促した。
「騎士様、ありがとうございます」
ウジェーヌは深くお辞儀をしてブレンドレルに感謝の気持ちを伝える。
ブレンドレルは品のある青年神官を見送りながら、どことなく面映ゆい気持ちになっていた。
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