そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第4部

色好みの内容は不要です

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 「それにしても、いくら三男とはいえベアールの領主一族がこれでは、領地運営は大丈夫ですか?」

 馬車の中にはアシェルナオ、マクシミリアンとモーガン、フォルシウスしかいない。

 憮然とした表情を隠さないテュコに、マクシミリアンは憂うように深い息を吐いた。

 「ベアールは由緒ある領地で、代々の領主様は領民思いの高潔な方だったのですが、領主が替わってからはすっかり様変わりをしてしまいました。今の領主は威圧的で傲慢。領主代理を務める夫人も、何かにつけ領主の言うことがきけないのか、という姿勢で。昔ながらの商人や職人はベアールからだんだんと姿を消していき、領主夫妻の気に入った者たちが幅をきかせる。暮らしにくい領になってしまいました」

 「それに、最近では年々税が重くなり、領民への締め付けが厳しいのです。精霊神殿に寄付をいただくどころか、逆に土地の使用料を取りたてられる始末です。さすがにそれは陛下と中央のグルンドライスト様からお叱りがいったようですが……。季節ごとに催されていた昔のよき風習がなくなり、そんなものに金を使う余裕があるなら領主に差し出せ、というありさまに、領民の不満は募るばかりです」

 モーガンの口からも自然と愚痴がこぼれていた。

 「精霊神殿の土地は国が管理しているものです。領主が貸しているものではありません。あきれてものが言えませんね」

 神殿騎士のフォルシウスは、呆れというより怒りを浮かべる。

 「あの」

 話を聞いていたアシェルナオは、向かい側に座るマクシミリアンに問いかける。

 「なんでしょう、愛し子様」

 「ベアール侯爵は領民に慕われていた領主だったんでしょう? どうして没落したの?」

 アシェルナオの質問に、マクシミリアンとモーガンは無言で視線を下げる。

 「聞いちゃいけないことだった?」

 その様子に、アシェルナオは隣に座るテュコを不安げに見上げる。

 「領には領の事情があるのですよ。今回の浄化にあたって陛下から各領主に、ナオ様に接触することを禁じるお触れが出されています。それは領主がナオ様を政治利用するのを防ぐためであると同時に、各領の経営についてナオ様が気にかけることを心配されたからです」

 「そうなんだ」

 それがベルンハルドの意向なら仕方ないと、アシェルナオは受け入れる。

 大人しく引き下がったアシェルナオを好ましいものを見る瞳で眺めながら、マクシミリアンは思い出話をするように穏やかに口を開いた。

 「先々王が即位したのは御年18歳の時でした。成人していたとはいえ国政の経験の浅かった先々王に、伯父の立場であった現当主であるヴィンケル侯爵の祖父が宰相として就任されました。時を同じくしてベアール領主の重大な罪が発覚し、領主一族は貴族籍を剥奪されて辺境に追放されました。領地は没収され、領地を持たなかったヴィンケル侯爵家にベアール領が下賜されたのです」

 「えぇ……」

 推理しなくても答えが出ているようなあからさまな展開に、アシェルナオは言葉を失くす。

 「先々王の時代には、よくあった話です。……ベアール領主の代替わりだけでなく、国政が腐っておりました。悪政は長く続きました。先々王の死後、先王の代になって国政の改革が強行され、長く溜まっていた膿が掻き出されました。ヴィンケル宰相は失脚し、宰相の座を奪われ……けれど、役職のない大臣に格下げになって息子に代替わりをしただけです。今はさらにその息子である現在の当主が大臣と領主を引き継いでいます。……ここだけが何も変わらないのです」

 静かな口調のマクシミリアンだが、静かな中に深い憤りが横たわっていた。

 「ラウフラージアに行った時に、イーハも言ってた。先々王が娼館を容認していて、治安が悪くなっていたって。それで…見返りに娼婦や男娼を王城に献上していた、って」

 「先々王の色好みの悪評は、隠しきれないものでしたから。それはもう……」

 「あー、色好みの内容は不要です」

 コホン、と咳をするテュコ。

 「なんか、大変だったんだね。ベルっちのお父さんが頑張ったんだね」

 「ええ。先々王の崩御後から政治改革に尽力されました。そのせいか、早くに崩御されて。しかし現王が先王の意志を引き継いでよい国政をされておられます。愛し子様がシルヴマルク王国に来られたのも、この国が平穏を取り戻してきたからでしょう」

 「うん。ベルっちがお父さんの跡を継いでいい王様で、ヴァルもいい子だったから、僕、この国に来たんだよ、きっと」

 辛い思いをして今があるアシェルナオがその発言を笑ってできることに、テュコもフォルシウスも胸が熱くなった。
 


 
 目的のカロン湖は高地にある湖だった。

 小さな町がまるまる入ってしまう広い湖はエメラルドグリーンだった。

 透明度が高く、湖面は穏やかで、湖底の石や水草がはっきりと見える。湖面は穏やかで、風が吹くとサワサワとさざ波が立ち、小さな波頭が太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。

 周囲の山々は山頂に雪をかぶっていて、雄大な景色を見せている。

 「綺麗な湖……だね」

 綺麗な湖を見ているというのに、アシェルナオは怒りと悲しみの混じった心境だった。

 「ベアール領自慢の風光明媚なカロン湖だ。春や夏はさらに美しい景色が広がる。実際、聖域の森、精霊の泉よりこの湖の方が綺麗なんじゃないかと思うよ。だからここに高級宿を建てるんだ。領主の別荘もその隣に建てる」

 アシェルナオの言葉を聞きつけて、イグナスは誇らしげな顔をする。だが誇らしげなのはイグナスだけで、他の者たちもアシェルナオと同様に怒りを感じていた。

 それは雄大な景色を見せる山々と湖を背にすると広がる景色、高級宿と領主の別荘を建てるという予定地にあった。

 そこには、高級宿と領主の別荘が建つにしては広大すぎる規模の森林が伐採され、辺り一帯に切り株だけになった荒地が広がっていた。

 『これは切りすぎ』

 『これは人間の思い上がり』

 『これは身勝手』

 『これは欲張り』

 『みんな悲しい。ナオも悲しい』

 精霊たちもアシェルナオの周りで怒りや嘆きを訴えていた。

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 お声がけ、エール、いいね、ありがとうございます。

 仕事を休めない時にかぎって風邪をひいてしまいました。しんどかった……(>_<)
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