そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第5部

僕は子供じゃないよ

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 「ひぃさま、おいしいー」

 「おいしいー」

 「ひぃさま、おいしいです」

 夕凪亭の庭先のテーブルを借りて、子供たちがえびかつバーガーにかぶりついていた。

 「でしょう? みんなに手伝ってもらって作ったんだ」

 アシェルナオも子供たちと同じテーブルに座り、一緒にえびかつバーガーを味わっていた。

 子供たちは男の子4人と女の子2人の6人。

 年長は10歳のアールト。それより2,3歳下のボブ、バーズ、ヘルベン、ヨプ。女の子はブルネットの巻き毛のナーナと、オレンジブラウンのおさげのエーベ。

 ヨプはヘルベンに誘われて今日初めて遊びに来たが、初対面のアシェルナオをひぃさまと呼んで懐いていた。

 子供の喜んでいる顔は何よりのごちそうで、アシェルナオは嬉しそうに眺めている。

 えびかつバーガーは護衛騎士たちにも交代で振舞われ、彼らは初めての味と食感に密かに感動していた。

 「ナオ様、昨日のテリトリバーガーも美味しかったけど、こっちも美味しい。ナオ様は料理の天才? それにその服、すごくカッコいい」

 ご相伴にあずかっているマロシュが料理人としてのアシェルナオを称える。

 「天才じゃないよ? 知識があるだけだよ? これはスウェット。パーカーだよ。運動するときに着る服なんだ」

 子供たちと遊ぶために選んだ今日の服装は、アルテアンに作ってもらったグレーのスウェットパーカーに、濃紺のスウェットパンツだった。遊ぶ前の今は、防寒用に外套を着ているが。

 同じ理由でアシェルナオの今日の髪型は、アイナによって可愛く編み込みされている。

 「ねぇねぇ、ひぃさま。それ、ぬいぐるみ?」

 「ひぃさまのぬいぐるみ?」

 ナーナとエーベはアシェルナオの肩にちょこんと乗っているふよりんを見つめている。

 「これはふよりん。ふよりんは僕のお友達だよ」

 「キュィキュィ」

 アシェルナオに紹介されて、ふよりんもご挨拶をする。

 「かわいい!」

 「ひぃさまいいなぁ」

 「じゃあ、遊ぼう!」

 えびかつバーガーを食べ終えた男の子たちが、ぴょん、と椅子から飛び降りた。

 「あそぶ!」

 「わたしもー」

 それにつられてナーナとエーベも椅子からおりる。

 「じゃあお隣に移ろう」

 男の子たちは軽々と柵を乗り越えたが、ナーナとエーベは柵より身長が低いので乗り越えられない。

 「はい、お嬢さんがた」

 クランツがナーナの、キナクはエーベの脇を掴んでヒョイと柵を越えさせ、自分たちもヒラリと柵を飛び越える。

 ナーナとエーベはきゃあきゃあと歓声をあげて喜び、テュコはアシェルナオに笑顔で両手を差し出した。

 「僕は子供じゃないよ」

 「残念ながら、わかっています」

 アシェルナオを持ち上げて柵を越えさせたいという願望は果たせなかったが、かわりにポシェットを見せる。

 「ん?」

 「エルとルルの作った魔道具が入っています。何もない空間が開かれると、それを検知してアラームが鳴ります。私も持っていますが、念のためにナオ様も身に着けてください。検知するだけですので、鳴ったら逃げる。いいですか?」

 「わかった」

 了承するアシェルナオに、テュコはポシェットを斜めにかける。

 つけてもらうとすぐに、アシェルナオは助走をつけてヒラリと柵を乗り越えた。

 「ひぃ様かっこいい」

 「ひぃ様、何して遊ぶ?」

 子供たちがアシェルナオを取り囲んでいるうちに、護衛騎士たちも柵を乗り越えて来た。

 「じゃあねぇ、『だるまさんがころんだ』をしよう」

 「だるまさん?」

 「だるまさんてなにー?」

 「だるまさんを転がすの?」

 「だるまさんて、人の名前だったかな? 1人が『鬼』になるんだ。鬼が『だるまさんがころんだ』って言うあいだにスタート地点から動いて鬼に近づくんだけど、鬼が『だるまさんがころんだ』って言い終わって振り向いたあとは動いちゃいけないんだよ? 動いたら『アウト』ね。アウトになったらこの枠の中にいてね。アウトにならずに鬼の背中に『タッチ』した人が次の鬼だよ?」

 アシェルナオは言いながら地面にスタートラインとアウトになった者の待機場所を作った。

 待機場所を作ったのは、アウトになった子供が自由に動き回らないようにという配慮だった。

 「それだけ?」

 「それ、何が楽しいの?」

 「タッチした人が勝ちでしょ? なのに鬼になるの?」

 男の子たちから不満の声があがる。

 「鬼にタッチした人にはご褒美があるんだ。これ。食べてみて」

 アシェルナオは保温袋にいれたものを1つずつ子供たちの口に入れていく。

 「このお芋おいしい!」

 「ほくほくしてる」

 「フライドポテトだよ」

 目を真ん丸にしている子供たちを見て、アシェルナオは胸を張る。フライドポテトを嫌いな人間はいないというのがアシェルナオの持論だった。

 「ふらい? ぽてと?」

 「おいしい!」

 「鬼になった人はフライドポテトが食べられます! やる人?」

 アシェルナオが子供たちを見回すと、子供たちが一斉に手をあげた。

 「はーい」

 マロシュも手をあげて、ブレンドレルが失笑している。
 
 「マロシュもブレンドレルも参加だよ。テュコもね」

 「ナオ様、私もフライドポテトが食べたいです。さっきのえびかつバーガーもめちゃくちゃ美味しかったです」

 キナクは今日のバーガーも気に入ったようだった。

 「じゃあキナクも参加していいよ。1回やってみるね。最初は僕が鬼になるからね。みんな、スタートラインについて」

 アシェルナオは老夫婦の住んでいた玄関ポーチの柱に肘を曲げた腕をつけると、そこに額をつけた。

 「だーるーまーさんがー」

 アシェルナオがゆっくり口にすると、男の子は駆け足で、ナーナとエーベはちょこちょこと、大人たちは様子見で慎重に鬼に近づく。

 「こーろんだー」 

 言い終わるとアシェルナオがみんなを振り向く。

 駆け足で進んでいたボブとヘルベンが止まり切れずに二、三歩前に進む。

 「ボブとヘルベン、アウトねー」

 アシェルナオが宣言すると、クランツが悔しがる2人を待機場所に誘導する。

 「次ねー。だぁーーるぅぅーまぁぁぁさーんーが──────」

 アシェルナオが次の詠唱を行うと、慎重に動いていたテュコとキナクも早足でアシェルナオとの距離を詰める。が、

 「コロンダ」

 早口で言い終って振り向くアシェルナオに体を制止できずに動いてしまった。

 「はい、テュコとキナク、アウトねー」

 アシェルナオが楽しそうに宣言すると、子供たちのみならず騎士たちからも笑い声があがる。

 「待機場所へどうぞ」

 クランツが苦笑しながら仏頂面のテュコとキナクを待機場所に誘導する。

 「そのような技があるとは聞いていません」

 憮然としながら抗議する姿も子供たちには面白いようで、一気に『だるまさんがころんだ』は白熱した。
 


 子供たちはすぐに『だるまさんがころんだ』に順応した。

 フライドポテトのほとんどが子供たちのお腹に入っていた。

 「ナーナねー、かくれんぼしたいー」

 ナーナがアシェルナオのパーカーの裾をつまむ。

 「いいよ」

 「じゃあ、おにいちゃんがおにー」

 エーベはキナクをひっぱってくる。

 「よーし、30数えるからねー、通りと、夕凪亭には行っちゃだめだからねー。夕凪亭と反対側にある雑木林もだめだよー」

 おにいちゃんと呼ばれて嬉しそうに言うと、キナクは『だるまさんがころんだ』の時と同じく玄関ポーチの柱に腕をつけて、そこに額をつけてゆっくり数え始める。

 アシェルナオはナーナとエーベに手を引かれて庭先を進んだ。

 「バラバラに隠れたほうがよくない?」

 「でもナーナ、ひぃさまといっしょがいい。それかわいいもん」

 「エーベも。かわいいもん」

 ナーナとエーベの視線はアシェルナオの肩にいるふよりんに向いていた。

 「ふよりん、ちょっとだけナーナとエーベと一緒にいて?」

 アシェルナオのお願いに、ふよりんはキュイと鳴くとエーベの肩に乗った。

 「エーベ、いっしょにかくれよう?」

 「ふよりんもいっしょね」

 エーベとナーナは嬉しそうに手をつないで隠れ場所をさがしに走っていく。

 アシェルナオもどこに隠れようかとあたりを見回す。

 どこの草原?と言いたくなるほど背の高い草に覆われた庭は他に遮蔽物はなくて、結局はこのどこかに隠れるしかなかった。

 アシェルナオはスウェットで来てよかった、と思いながらしゃがみこんだ。
 
 「どこに隠れる?」

 「そこらへん!」

 男の子たちはまだ走り回っていて、アシェルナオは草の中に埋もれながらクスクス笑う。

 前の世界でもここでも『弟』であるアシェルナオは、自分がお兄さんになって小さい子と遊ぶのが楽しかった。

 正午過ぎから遊び始めて、早くも日は傾きはじめている。

 のどかな空気、乾いた草の匂い、耳を澄ますと聞こえる運河の波の音。

 今頃スヴェンたちはまだ学園にいるのかなぁ。そろそろおやつの時間だけど、子供たちはさっきポテト食べたからお腹いっぱいかな? でも甘いものは食べたいかも。ロザンネに相談しようかな。

 アシェルナオがいろいろなことを考えていると、背後で草を踏む音がした。

 テュコが一緒の場所に隠れに来たのかな?

 そう思って音の方を振り向いたアシェルナオの瞳に馴染みのない男の顔と黒い闇が映った。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 エール、いいね、ありがとうございます(。uωu))ペコリ

 だるまさんがころんだ。小さな女の子がいるので、はじめの一歩なし、捕虜なしバージョンです。


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