424 / 492
第5部
僕は子供じゃないよ
しおりを挟む「ひぃさま、おいしいー」
「おいしいー」
「ひぃさま、おいしいです」
夕凪亭の庭先のテーブルを借りて、子供たちがえびかつバーガーにかぶりついていた。
「でしょう? みんなに手伝ってもらって作ったんだ」
アシェルナオも子供たちと同じテーブルに座り、一緒にえびかつバーガーを味わっていた。
子供たちは男の子4人と女の子2人の6人。
年長は10歳のアールト。それより2,3歳下のボブ、バーズ、ヘルベン、ヨプ。女の子はブルネットの巻き毛のナーナと、オレンジブラウンのおさげのエーベ。
ヨプはヘルベンに誘われて今日初めて遊びに来たが、初対面のアシェルナオをひぃさまと呼んで懐いていた。
子供の喜んでいる顔は何よりのごちそうで、アシェルナオは嬉しそうに眺めている。
えびかつバーガーは護衛騎士たちにも交代で振舞われ、彼らは初めての味と食感に密かに感動していた。
「ナオ様、昨日のテリトリバーガーも美味しかったけど、こっちも美味しい。ナオ様は料理の天才? それにその服、すごくカッコいい」
ご相伴にあずかっているマロシュが料理人としてのアシェルナオを称える。
「天才じゃないよ? 知識があるだけだよ? これはスウェット。パーカーだよ。運動するときに着る服なんだ」
子供たちと遊ぶために選んだ今日の服装は、アルテアンに作ってもらったグレーのスウェットパーカーに、濃紺のスウェットパンツだった。遊ぶ前の今は、防寒用に外套を着ているが。
同じ理由でアシェルナオの今日の髪型は、アイナによって可愛く編み込みされている。
「ねぇねぇ、ひぃさま。それ、ぬいぐるみ?」
「ひぃさまのぬいぐるみ?」
ナーナとエーベはアシェルナオの肩にちょこんと乗っているふよりんを見つめている。
「これはふよりん。ふよりんは僕のお友達だよ」
「キュィキュィ」
アシェルナオに紹介されて、ふよりんもご挨拶をする。
「かわいい!」
「ひぃさまいいなぁ」
「じゃあ、遊ぼう!」
えびかつバーガーを食べ終えた男の子たちが、ぴょん、と椅子から飛び降りた。
「あそぶ!」
「わたしもー」
それにつられてナーナとエーベも椅子からおりる。
「じゃあお隣に移ろう」
男の子たちは軽々と柵を乗り越えたが、ナーナとエーベは柵より身長が低いので乗り越えられない。
「はい、お嬢さんがた」
クランツがナーナの、キナクはエーベの脇を掴んでヒョイと柵を越えさせ、自分たちもヒラリと柵を飛び越える。
ナーナとエーベはきゃあきゃあと歓声をあげて喜び、テュコはアシェルナオに笑顔で両手を差し出した。
「僕は子供じゃないよ」
「残念ながら、わかっています」
アシェルナオを持ち上げて柵を越えさせたいという願望は果たせなかったが、かわりにポシェットを見せる。
「ん?」
「エルとルルの作った魔道具が入っています。何もない空間が開かれると、それを検知してアラームが鳴ります。私も持っていますが、念のためにナオ様も身に着けてください。検知するだけですので、鳴ったら逃げる。いいですか?」
「わかった」
了承するアシェルナオに、テュコはポシェットを斜めにかける。
つけてもらうとすぐに、アシェルナオは助走をつけてヒラリと柵を乗り越えた。
「ひぃ様かっこいい」
「ひぃ様、何して遊ぶ?」
子供たちがアシェルナオを取り囲んでいるうちに、護衛騎士たちも柵を乗り越えて来た。
「じゃあねぇ、『だるまさんがころんだ』をしよう」
「だるまさん?」
「だるまさんてなにー?」
「だるまさんを転がすの?」
「だるまさんて、人の名前だったかな? 1人が『鬼』になるんだ。鬼が『だるまさんがころんだ』って言うあいだにスタート地点から動いて鬼に近づくんだけど、鬼が『だるまさんがころんだ』って言い終わって振り向いたあとは動いちゃいけないんだよ? 動いたら『アウト』ね。アウトになったらこの枠の中にいてね。アウトにならずに鬼の背中に『タッチ』した人が次の鬼だよ?」
アシェルナオは言いながら地面にスタートラインとアウトになった者の待機場所を作った。
待機場所を作ったのは、アウトになった子供が自由に動き回らないようにという配慮だった。
「それだけ?」
「それ、何が楽しいの?」
「タッチした人が勝ちでしょ? なのに鬼になるの?」
男の子たちから不満の声があがる。
「鬼にタッチした人にはご褒美があるんだ。これ。食べてみて」
アシェルナオは保温袋にいれたものを1つずつ子供たちの口に入れていく。
「このお芋おいしい!」
「ほくほくしてる」
「フライドポテトだよ」
目を真ん丸にしている子供たちを見て、アシェルナオは胸を張る。フライドポテトを嫌いな人間はいないというのがアシェルナオの持論だった。
「ふらい? ぽてと?」
「おいしい!」
「鬼になった人はフライドポテトが食べられます! やる人?」
アシェルナオが子供たちを見回すと、子供たちが一斉に手をあげた。
「はーい」
マロシュも手をあげて、ブレンドレルが失笑している。
「マロシュもブレンドレルも参加だよ。テュコもね」
「ナオ様、私もフライドポテトが食べたいです。さっきのえびかつバーガーもめちゃくちゃ美味しかったです」
キナクは今日のバーガーも気に入ったようだった。
「じゃあキナクも参加していいよ。1回やってみるね。最初は僕が鬼になるからね。みんな、スタートラインについて」
アシェルナオは老夫婦の住んでいた玄関ポーチの柱に肘を曲げた腕をつけると、そこに額をつけた。
「だーるーまーさんがー」
アシェルナオがゆっくり口にすると、男の子は駆け足で、ナーナとエーベはちょこちょこと、大人たちは様子見で慎重に鬼に近づく。
「こーろんだー」
言い終わるとアシェルナオがみんなを振り向く。
駆け足で進んでいたボブとヘルベンが止まり切れずに二、三歩前に進む。
「ボブとヘルベン、アウトねー」
アシェルナオが宣言すると、クランツが悔しがる2人を待機場所に誘導する。
「次ねー。だぁーーるぅぅーまぁぁぁさーんーが──────」
アシェルナオが次の詠唱を行うと、慎重に動いていたテュコとキナクも早足でアシェルナオとの距離を詰める。が、
「コロンダ」
早口で言い終って振り向くアシェルナオに体を制止できずに動いてしまった。
「はい、テュコとキナク、アウトねー」
アシェルナオが楽しそうに宣言すると、子供たちのみならず騎士たちからも笑い声があがる。
「待機場所へどうぞ」
クランツが苦笑しながら仏頂面のテュコとキナクを待機場所に誘導する。
「そのような技があるとは聞いていません」
憮然としながら抗議する姿も子供たちには面白いようで、一気に『だるまさんがころんだ』は白熱した。
子供たちはすぐに『だるまさんがころんだ』に順応した。
フライドポテトのほとんどが子供たちのお腹に入っていた。
「ナーナねー、かくれんぼしたいー」
ナーナがアシェルナオのパーカーの裾をつまむ。
「いいよ」
「じゃあ、おにいちゃんがおにー」
エーベはキナクをひっぱってくる。
「よーし、30数えるからねー、通りと、夕凪亭には行っちゃだめだからねー。夕凪亭と反対側にある雑木林もだめだよー」
おにいちゃんと呼ばれて嬉しそうに言うと、キナクは『だるまさんがころんだ』の時と同じく玄関ポーチの柱に腕をつけて、そこに額をつけてゆっくり数え始める。
アシェルナオはナーナとエーベに手を引かれて庭先を進んだ。
「バラバラに隠れたほうがよくない?」
「でもナーナ、ひぃさまといっしょがいい。それかわいいもん」
「エーベも。かわいいもん」
ナーナとエーベの視線はアシェルナオの肩にいるふよりんに向いていた。
「ふよりん、ちょっとだけナーナとエーベと一緒にいて?」
アシェルナオのお願いに、ふよりんはキュイと鳴くとエーベの肩に乗った。
「エーベ、いっしょにかくれよう?」
「ふよりんもいっしょね」
エーベとナーナは嬉しそうに手をつないで隠れ場所をさがしに走っていく。
アシェルナオもどこに隠れようかとあたりを見回す。
どこの草原?と言いたくなるほど背の高い草に覆われた庭は他に遮蔽物はなくて、結局はこのどこかに隠れるしかなかった。
アシェルナオはスウェットで来てよかった、と思いながらしゃがみこんだ。
「どこに隠れる?」
「そこらへん!」
男の子たちはまだ走り回っていて、アシェルナオは草の中に埋もれながらクスクス笑う。
前の世界でもここでも『弟』であるアシェルナオは、自分がお兄さんになって小さい子と遊ぶのが楽しかった。
正午過ぎから遊び始めて、早くも日は傾きはじめている。
のどかな空気、乾いた草の匂い、耳を澄ますと聞こえる運河の波の音。
今頃スヴェンたちはまだ学園にいるのかなぁ。そろそろおやつの時間だけど、子供たちはさっきポテト食べたからお腹いっぱいかな? でも甘いものは食べたいかも。ロザンネに相談しようかな。
アシェルナオがいろいろなことを考えていると、背後で草を踏む音がした。
テュコが一緒の場所に隠れに来たのかな?
そう思って音の方を振り向いたアシェルナオの瞳に馴染みのない男の顔と黒い闇が映った。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます(。uωu))ペコリ
だるまさんがころんだ。小さな女の子がいるので、はじめの一歩なし、捕虜なしバージョンです。
116
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。
ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と
主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り
狂いに狂ったダンスを踊ろう。
▲▲▲
なんでも許せる方向けの物語り
人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる