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国のことは国王に任せておきましょう
王城で 4
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「それでは、ベルンハルト様に公爵の位を与えるべきだとお話になったのはお兄様ということですか?」
バルタザールとの謁見を終え客室に戻ったベルンハルトは、閉ざされた扉を前に、部屋の中から聞こえてくる会話に息を呑んだ。
部屋の中から聞こえてきたのはリーゼロッテの声。話の内容から、相手はエーリックに違いない。
「あぁ。だからそう言っているだろう」
まさか、エーリックが客室へ乗り込んでくるとは。王族を前にしては、アルベルトではどうしようもなかっただろう。
看過できないことが起これば、反逆罪を問われようとも、それなりの対処をする。
ベルンハルトは聞き耳をたてたまま、魔力石を手に握った。
「今さら何故ですか? そんなこと一言も……」
「王女である其方と結婚しておいて、伯爵のままだというのもおかしな話だろう。そもそも、ロイエンタール伯爵は辺境伯。侯爵と名乗っても良いだろうに」
「それは、確かにおかしいとは思いますけど」
「その件に関しては、それこそ今さらだ。だからこそ、今回のことで正すべきだと、それだけだ」
二人の会話はベルンハルトの爵位についてらしい。
結婚から二年も経過しての決断に、リーゼロッテはずっと納得していなかった。
「もう、二年も経ちますよ?」
「其方が王都に寄り付かないからだろう。この爵位は其方の存在があってこそだ。授与の場に其方が出席せずにどうする」
「ほ、本当にそれだけですか?」
「そうだ! いい加減しつこいぞ」
「ですが……」
「父様がどうお考えかはわからぬ。だが、ロイエンタール伯爵の存在は我が国にとってもかけがえのないものだと思う。それならば、それなりの待遇を用意するべきだ」
リーゼロッテの話では、バルタザールとだけではなく、兄であるエーリックとも仲はよくなかったと聞いた。
それなのに、この話はどういうことだろうか。
ベルンハルトに正式な爵位を与えようとしているのは、エーリックだというのは間違いではなかったようだ。
「お、お兄様はそうお考えだと?」
「あぁ。父様は本来あのような方ではないはずなのに、ロイエンタール伯爵のこととなると、どこか判断がおかしい。私が直せるところは直していきたいと思う」
「そうですか」
「もう少し早く気づくべきだったがな。王族として、正しい姿を見せていかねばならぬ。だから、今度の春は其方も城へ来い。わかったな」
エーリックの言葉を最後に、扉の前に立ち尽くすベルンハルトの耳に足音が近づいてくるのが聞こえる。
近くに身を隠すものもないこの場では、ベルンハルトが様子を伺っていたことは簡単にわかってしまうだろう。
どうしたものかと悩んでいるうちに、目の前の扉が開けられた。
「ロ、ロイエンタール伯爵、戻ってきていたのか」
「失礼しました。お話の最中でしたので、どうしたものかと」
何を言われるかわからず緊張を隠せないベルンハルトの手元に目を落としたエーリックは、その手に魔力石が握られていたことにも気がついただろう。
「ふっ。構わぬ。ロイエンタール伯爵はもう帰領するのだろう? 道中、気を付けろよ」
それでも何を咎めることもなくその場を立ち去っていくエーリックの後ろ姿を、ベルンハルトは頭を下げて見送った。
「ベルンハルト様っ」
「リーゼロッテ、そばにいてやれずすまなかった」
エーリックを見送り、そのまま部屋の中へと進んでいけば、困惑と安堵が混じり合ったような顔をしたリーゼロッテが出迎えてくれる。
部屋の中にはアルベルトが俯いたまま立ちすくんでおり、何を考えているのか手に取るようにわかる。
「アルベルト、頼んだとおりのこと、ご苦労だった」
「いえ。エーリック皇太子がお見えになって、私では何もできず。奥様には嫌な想いをさせてしまったかと。申し訳ありませんでした」
「あら、そんなことありません。アルベルトさんには感謝しております。あの部屋から出たわたくしをすぐに見つけ出して下さって、お兄様が来るまでずっとここで一緒にいてくれて」
頭を下げたアルベルトを庇うように、リーゼロッテがまくし立てる。
「一緒に……か。それは少し、羨ましいな」
リーゼロッテと一緒にいるのは自分だったはずなのにと、心の奥で嫉妬心に小さな火がつく。
(私と『一緒に』と言わせたい)
小さかった火は少しずつその威力を増していき、その嫉妬心を解消しようと、リーゼロッテの頬に触れた。もう片方の手はリーゼロッテの細い手首を掴み、そのままもう一歩距離を縮める。
ベルンハルトにされるがままのリーゼロッテの顔が、目の前にこれ以上ないくらい近づいて、そのまま自分の胸元に押し付けるように抱きしめた。
「エーリック皇太子に、何を言われた?」
聞かねばならないことを、リーゼロッテの耳元で囁けば、その顔が照れた表情を見せてくれるのはわかってる。
思った通りの反応と、リーゼロッテを腕に抱くことのできる自分の立場に、ようやく嫉妬心が消えていった。
そのままアルベルトに視線をやれば、慌てたように部屋から出ていくのが見える。
(これで邪魔なく、リーゼの話を聞ける)
「つ、次の春はベルンハルト様が公爵の位を受けるので、わたくしも王城へ来いと」
「それだけか?」
「お兄様は、王族として正しいことをすると」
リーゼロッテが口にしたことは、扉の前でベルンハルトが聞いたことと変わらない。
「そうか」
「お兄様のあのような目を見たのは、久しぶりです」
「目?」
「はい。王城にいた時は、ずっとお父様のことしか見ていなかったように感じておりました」
「リーゼがここを出てから、もう二年が経つからな。その間に何かあったのかもしれない」
リーゼロッテとの話の内容も、ベルンハルトへの対応も、特に気にかかることはなかった。
仲が良くなかったという話が、疑わしいぐらい。
『王族として』エーリックが心を動かす出来事があったのかもしれない。
「もう、二年ですものね」
「あぁ。それでは、そろそろ帰るか。ロイスナーに戻ればまた、やるべきことがある」
「そうですね。帰りましょう」
「そ、その前に、市場に寄って行かないか?」
「え? ふふっ。そうですね。一緒に、行きましょう」
ベルンハルトから体を離したリーゼロッテが、微笑みながらベルンハルトの顔を覗き込んだ。
ロイスナーで待ち受ける日々の前に、もう少しだけ『一緒に』
バルタザールとの謁見を終え客室に戻ったベルンハルトは、閉ざされた扉を前に、部屋の中から聞こえてくる会話に息を呑んだ。
部屋の中から聞こえてきたのはリーゼロッテの声。話の内容から、相手はエーリックに違いない。
「あぁ。だからそう言っているだろう」
まさか、エーリックが客室へ乗り込んでくるとは。王族を前にしては、アルベルトではどうしようもなかっただろう。
看過できないことが起これば、反逆罪を問われようとも、それなりの対処をする。
ベルンハルトは聞き耳をたてたまま、魔力石を手に握った。
「今さら何故ですか? そんなこと一言も……」
「王女である其方と結婚しておいて、伯爵のままだというのもおかしな話だろう。そもそも、ロイエンタール伯爵は辺境伯。侯爵と名乗っても良いだろうに」
「それは、確かにおかしいとは思いますけど」
「その件に関しては、それこそ今さらだ。だからこそ、今回のことで正すべきだと、それだけだ」
二人の会話はベルンハルトの爵位についてらしい。
結婚から二年も経過しての決断に、リーゼロッテはずっと納得していなかった。
「もう、二年も経ちますよ?」
「其方が王都に寄り付かないからだろう。この爵位は其方の存在があってこそだ。授与の場に其方が出席せずにどうする」
「ほ、本当にそれだけですか?」
「そうだ! いい加減しつこいぞ」
「ですが……」
「父様がどうお考えかはわからぬ。だが、ロイエンタール伯爵の存在は我が国にとってもかけがえのないものだと思う。それならば、それなりの待遇を用意するべきだ」
リーゼロッテの話では、バルタザールとだけではなく、兄であるエーリックとも仲はよくなかったと聞いた。
それなのに、この話はどういうことだろうか。
ベルンハルトに正式な爵位を与えようとしているのは、エーリックだというのは間違いではなかったようだ。
「お、お兄様はそうお考えだと?」
「あぁ。父様は本来あのような方ではないはずなのに、ロイエンタール伯爵のこととなると、どこか判断がおかしい。私が直せるところは直していきたいと思う」
「そうですか」
「もう少し早く気づくべきだったがな。王族として、正しい姿を見せていかねばならぬ。だから、今度の春は其方も城へ来い。わかったな」
エーリックの言葉を最後に、扉の前に立ち尽くすベルンハルトの耳に足音が近づいてくるのが聞こえる。
近くに身を隠すものもないこの場では、ベルンハルトが様子を伺っていたことは簡単にわかってしまうだろう。
どうしたものかと悩んでいるうちに、目の前の扉が開けられた。
「ロ、ロイエンタール伯爵、戻ってきていたのか」
「失礼しました。お話の最中でしたので、どうしたものかと」
何を言われるかわからず緊張を隠せないベルンハルトの手元に目を落としたエーリックは、その手に魔力石が握られていたことにも気がついただろう。
「ふっ。構わぬ。ロイエンタール伯爵はもう帰領するのだろう? 道中、気を付けろよ」
それでも何を咎めることもなくその場を立ち去っていくエーリックの後ろ姿を、ベルンハルトは頭を下げて見送った。
「ベルンハルト様っ」
「リーゼロッテ、そばにいてやれずすまなかった」
エーリックを見送り、そのまま部屋の中へと進んでいけば、困惑と安堵が混じり合ったような顔をしたリーゼロッテが出迎えてくれる。
部屋の中にはアルベルトが俯いたまま立ちすくんでおり、何を考えているのか手に取るようにわかる。
「アルベルト、頼んだとおりのこと、ご苦労だった」
「いえ。エーリック皇太子がお見えになって、私では何もできず。奥様には嫌な想いをさせてしまったかと。申し訳ありませんでした」
「あら、そんなことありません。アルベルトさんには感謝しております。あの部屋から出たわたくしをすぐに見つけ出して下さって、お兄様が来るまでずっとここで一緒にいてくれて」
頭を下げたアルベルトを庇うように、リーゼロッテがまくし立てる。
「一緒に……か。それは少し、羨ましいな」
リーゼロッテと一緒にいるのは自分だったはずなのにと、心の奥で嫉妬心に小さな火がつく。
(私と『一緒に』と言わせたい)
小さかった火は少しずつその威力を増していき、その嫉妬心を解消しようと、リーゼロッテの頬に触れた。もう片方の手はリーゼロッテの細い手首を掴み、そのままもう一歩距離を縮める。
ベルンハルトにされるがままのリーゼロッテの顔が、目の前にこれ以上ないくらい近づいて、そのまま自分の胸元に押し付けるように抱きしめた。
「エーリック皇太子に、何を言われた?」
聞かねばならないことを、リーゼロッテの耳元で囁けば、その顔が照れた表情を見せてくれるのはわかってる。
思った通りの反応と、リーゼロッテを腕に抱くことのできる自分の立場に、ようやく嫉妬心が消えていった。
そのままアルベルトに視線をやれば、慌てたように部屋から出ていくのが見える。
(これで邪魔なく、リーゼの話を聞ける)
「つ、次の春はベルンハルト様が公爵の位を受けるので、わたくしも王城へ来いと」
「それだけか?」
「お兄様は、王族として正しいことをすると」
リーゼロッテが口にしたことは、扉の前でベルンハルトが聞いたことと変わらない。
「そうか」
「お兄様のあのような目を見たのは、久しぶりです」
「目?」
「はい。王城にいた時は、ずっとお父様のことしか見ていなかったように感じておりました」
「リーゼがここを出てから、もう二年が経つからな。その間に何かあったのかもしれない」
リーゼロッテとの話の内容も、ベルンハルトへの対応も、特に気にかかることはなかった。
仲が良くなかったという話が、疑わしいぐらい。
『王族として』エーリックが心を動かす出来事があったのかもしれない。
「もう、二年ですものね」
「あぁ。それでは、そろそろ帰るか。ロイスナーに戻ればまた、やるべきことがある」
「そうですね。帰りましょう」
「そ、その前に、市場に寄って行かないか?」
「え? ふふっ。そうですね。一緒に、行きましょう」
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