俺の選んだバレンタインチョコレートはその当日に同じものが返ってきた。

光城 朱純

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独占欲

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 そんな悪夢の日までもう間がない。そんな時だ。いつもより機嫌のいいおまえを見たのは。

「何かあったのか?」
「え?ううん。何でもないよ。」

 鼻唄まじりの声でそう返してきた。その機嫌の良さの理由を聞いてるんだが。

「いい事あったのか?」
「うん?あぁ。バレンタインだなって。」
「あぁ。またあの日か。」
「涼は嫌いだからね。僕は楽しみだよ。美味しいチョコも見つけたし。」

 美味しいチョコを見つけたことと、バレンタインが楽しみだということが、俺の頭では繋がらない。

「もらうあてでもできたか?」
「まさかぁ。僕は涼とは違うよ。」
「じゃあ、渡すのか?」
「えっっ!!そ、そんなこと……しないよ。」

 わかりやすく動揺したおまえを見ながらベッドに横になる。渡す?誰に??相手はどこの女だ?いや、女が相手ならわざわざあの日に渡さなくても良いんじゃないか?そしたら、まさか。

 自分で勝手に想像して、勝手にショックを受けた。チョコレートを渡すって、思いを伝えるってことか?それでうまくいってしまえば、おまえが誰かのものに?

 そんなこと、想像したくもなかった。おまえの笑顔を誰かが独占する?体に触れる?二人っきりで……。

 ぶるるっ。想像するだけで寒気がする。そんなこと、誰が相手だって許せるわけがない。
 
 おまえにとっていい友人の位置を、もう何年も独占してきた。中高一貫の寮生活。相部屋が同級生なら、それは最高6年間変わることもない。

 ルームメイトでクラスメイトで、誰よりも近くでおまえを見て、誰よりも近くで生活してきた。それなのに、その関係の中に他人が入る?そんなこと信じられるわけがない。

 誰にも渡さない。俺のその気持ちは恋心というよりもただの汚い独占欲だ。おまえとの心の距離なんて、俺がこの手で埋めてやる。誰かのものになる前に、俺のものにしてやるよ。
 
 無理やり関係を迫ることだってできた。都合のいいことに俺たちはルームメイトなんだから。なにが起きたって……そういうことだ。

 だが、おまえにおびえられるわけにはいかない。正攻法が最善策だ。

 おまえが誰かに気持ちを伝える前に、俺の気持ちを伝えてしまおう。優しいおまえは多分、無下に断るわけにもいかずに悩むだろう。今は悩ませれば良い。誰かに気持ちを伝えるのを防げばいいだけだ。

 
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