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それぞれの想い

ロイドの話

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「こんにちはー!」

「ルーイ!いらっしゃい。」

 ルーイが店の中に入って声をかけると、背の高い細身の男がルーイに向かって、店の奥から出てこようとしていた。

「旦那ー。この間聞いたコーゼの話、もう少し詳しく教えてくれない?その話を本当に知りたいやつ、連れてきたから。」

「コーゼ?あぁ。姫の話か。」

 男の呟いた声に、私の心臓が飛び跳ねる。姫の話、黒髪の姫か。それとも、クリュスエント様のことも知っているのだろうか。

「そうそう、それ!」

「あぁ。いいぞ……っと。この人か?」

 店内はあらゆるものが大量に積み上げられており、その隙間を通って男が近くまでやってきた。

「こんにちは。」

「ルーイの……友人?」

「はい。」

 ルーイの友人と言うにはあまりにも雰囲気の違う私のことを、男が品定めをするように見る。

「私はロイド。コーゼ出身の元旅商人なんだ。」

「私はアイシュタルトと申します。」

「アイシュ……そうか。」

「何でしょうか?」

「いや。余計な詮索はするものじゃない。話の中で必要になれば、いずれ。」

 ロイドは私の出立いでたちや名前から何かを読み取っているのだろう。旅商人というのは、そういう裏読みに優れていくものだ。

「ルーイ、少し店番を頼んで良いだろうか?アイシュタルトと奥に入ってくる。」

「いいよー。旦那、色々教えてやってよ。」

「仕方ないな。また今度手伝いにこいよ。」

 ルーイと軽いやり取りを済ませ、ロイドは私を店の奥へと誘う。

「狭くて申し訳ないね。そこに、座ってくれるかい?」

「はい。」

 店の奥には、テーブルとそれを挟んで椅子が二脚置かれていた。その椅子にそれぞれ腰を下ろす。

「それで、何が知りたい?私で話せることなら話してあげよう。ただ、コーゼを出てから、もう1年以上経つ。その頃のことまでしか知らないよ。」

「コーゼの、王子に嫁いだ、姫のことを。」

「王子の?ルーイにはすでに話したよ。艶のある黒髪の綺麗な姫だ。私が最後に見かけたのは、何の式典だったかな。王族と並んで、民へと手を振っていた。」

「間違いなく、黒髪ですか?!」

 私の声が、興奮で少し大きくなる。

「落ち着きなさい。姫は間違いなく真っ直ぐな黒髪だ。」

「そう、ですか。」

 クリュスエント様ではない。それではあの方はどこへ。

「君が知りたかったのは姫のことか?それとも、別の方のことか?」

 下を向いた私に、ロイドが言葉をかける。別の方?

「べ、別の方というのは?!」

「私がコーゼを出る半年ぐらい前の話だ。お一人、美しい姫が王宮に入られたと、そんな噂がコーゼの都で囁かれた。」

「その方は?その方のことが知りたいのです!」

「噂でしかないよ。私も見たことがないんだ。私どころか、誰も見たことがなくて、本当の話かどうかもわからない。」

「構いません。その方のことを教えて下さい。」

「くれぐれも、噂でしかない。それだけは頭に入れて聞いておいて。」

「はい。」

「噂の出どころは門番だ。彼らは城に出入りする全てを把握しなければならないからね。その門番が、馬車に乗ってきた一人の姫を見たと言うんだ。だが、その後誰もその姫を見ることはなくて、そのうちに見間違えだったのだろうと、言われていたよ。」

 確かに姫は馬車で移動された。

「その噂の姫はそれは美しい方だったそうだが、何せその後誰も見ることはなくて、王宮に入ったはずなのに、お披露目もない。黒髪の姫の時は、正室でもないのに、盛大な宴が催されたのにね。」

 黒髪の姫は、やはり。コーゼへは当然クリュスエント様が正室として、嫁がれているはず。

「それで結局、門番の見間違えだろうという話になったんだ。」

「その方の容姿は?」

「それが、美しい金髪だったと言う話だ。」

 姫だ。馬車に乗った金髪の姫。間違いない、クリュスエント様だ。

 私はロイドの話の中に、探していた姫を見つけた。
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