37 / 98
それぞれの想い
ルーイの努力
しおりを挟む
外に出れば、避けたくてたまらなかった暑さが、体にまとわりつく。
ただ、避けたいからといって、閉じこもっているわけにはいかない。姫のことを少しでも知りたい、そのような焦りが私を突き動かした。
「ルーイ!今日は手伝っていかないのか?!」
「また店番やっておくれよ!」
「今日はちょっと用があるんだ!また今度ね。」
街ですれ違う人々がルーイに向かって声をかける。そのやり取りを聞きながら、ルーイの方に顔を向けると、いつもの様に得意げな顔を私に見せた。
「この街で人から話を聞くのにさ、色んなところに顔を出したんだ。そこら中に知り合いが増えちゃったよ。」
情報を得るために、手伝いや店番をしていたということか。私が姫の話をしたのはルーイにだけだ。姫の情報は、ステフには頼れない。ルーイは自力で情報を得ようとしたんだ。私のために……
「不慣れなことを、させたな。」
「そんなことないって。思ったよりも楽しかったよ。最初は怒鳴られてたけどね。」
「負担をかけさせた。すまない。」
「謝るなって。こっちは俺が受け持つって言ったろ?それに、アイシュタルトから任されたからな。」
「私から?」
「うん。アイシュタルトが俺にそんなこと言うなんて、珍しすぎて張り切っちゃったよ。」
「悪いことをした。」
「大丈夫、楽しかったって言ったろ?おかげで情報も、少しだけど金も稼いだ。どこかに定住するときの練習だよ。」
「定住するのか?」
旅に飽きたらと、ルーイがそう言っていたことを思い出す。ここで?ルーイの旅が終わるというのか?
「どうかな。まだ、考えてない。それに、まだアイシュタルトの笑顔見てねぇし。」
「お、大口を開けては笑わぬ。」
「そう?俺、そろそろだと思ってるけど。」
「そのようなこと!」
「ほら。会ったときよりも、ずっと人間らしい。ずっとつまんなそうな顔してるより良いよ。」
驚いた私の顔を指差して、ルーイがそう告げる。
「人間、らしい?」
「うん。何考えてるか、わかるようになった。今の方が良い。」
「私には、其方がわからぬ。」
「え?俺?」
「あぁ。いつも私が考えるよりも先を、深くを、考えているように思う。」
「俺、そんなこと考えてねぇよ?」
「いつも先回りして、動いているではないか。私には、どれも予想のできぬことばかりだ。」
「はぁ?俺が?そんなわけねぇって。俺のことかいかぶりすぎ。ただ俺はさ、自信のないことは口にしないだけ。」
「自信のないこと?」
「そう。自分が自信もって答えられることだけ、口にする。自信のないことは、言う必要ないだろ?」
「そうであったのか。」
「ただそれだけだよ。気にしすぎだって。ほら、着いた。」
ルーイが足を止めたのは、一軒の雑貨店の前であった。
「ここは?」
「ここの店の旦那がさ、去年まで旅商人だったんだって。今のことは聞けないけど、コーゼの姫のこと、色々知ってたんだ。」
「旅商人を辞めたってことか?」
「うん。ここの店の娘が旦那に惚れ込んで、何とか結婚してもらったんだってさ。」
通行証を返却して、カミュートに定住したのか。旅の楽しさよりも、自分に惚れた女と共に生きることを選ぶ。ステフの人生にも、そういう道があるのかもしれない。
「話を聞いてみたい。」
「あぁ。いつでも来いって言ってくれてる。俺も一通りのことは聞いたけどさ、俺は直接クリュスエント様を知ってるわけじゃない。アイシュタルトが話した方が良いだろうなって思ったんだよね。」
「すまない。助かる。」
「良いって!じゃあ、行こう。」
この店の旦那と知り合うまでに、どれほど苦労したのだろうか。どれだけの人間と会って話をしたのだろうか。たった半月で、このような人物に会うことが、私にはできるだろうか。
ルーイの努力と苦労に頭が下がる。
ただ、避けたいからといって、閉じこもっているわけにはいかない。姫のことを少しでも知りたい、そのような焦りが私を突き動かした。
「ルーイ!今日は手伝っていかないのか?!」
「また店番やっておくれよ!」
「今日はちょっと用があるんだ!また今度ね。」
街ですれ違う人々がルーイに向かって声をかける。そのやり取りを聞きながら、ルーイの方に顔を向けると、いつもの様に得意げな顔を私に見せた。
「この街で人から話を聞くのにさ、色んなところに顔を出したんだ。そこら中に知り合いが増えちゃったよ。」
情報を得るために、手伝いや店番をしていたということか。私が姫の話をしたのはルーイにだけだ。姫の情報は、ステフには頼れない。ルーイは自力で情報を得ようとしたんだ。私のために……
「不慣れなことを、させたな。」
「そんなことないって。思ったよりも楽しかったよ。最初は怒鳴られてたけどね。」
「負担をかけさせた。すまない。」
「謝るなって。こっちは俺が受け持つって言ったろ?それに、アイシュタルトから任されたからな。」
「私から?」
「うん。アイシュタルトが俺にそんなこと言うなんて、珍しすぎて張り切っちゃったよ。」
「悪いことをした。」
「大丈夫、楽しかったって言ったろ?おかげで情報も、少しだけど金も稼いだ。どこかに定住するときの練習だよ。」
「定住するのか?」
旅に飽きたらと、ルーイがそう言っていたことを思い出す。ここで?ルーイの旅が終わるというのか?
「どうかな。まだ、考えてない。それに、まだアイシュタルトの笑顔見てねぇし。」
「お、大口を開けては笑わぬ。」
「そう?俺、そろそろだと思ってるけど。」
「そのようなこと!」
「ほら。会ったときよりも、ずっと人間らしい。ずっとつまんなそうな顔してるより良いよ。」
驚いた私の顔を指差して、ルーイがそう告げる。
「人間、らしい?」
「うん。何考えてるか、わかるようになった。今の方が良い。」
「私には、其方がわからぬ。」
「え?俺?」
「あぁ。いつも私が考えるよりも先を、深くを、考えているように思う。」
「俺、そんなこと考えてねぇよ?」
「いつも先回りして、動いているではないか。私には、どれも予想のできぬことばかりだ。」
「はぁ?俺が?そんなわけねぇって。俺のことかいかぶりすぎ。ただ俺はさ、自信のないことは口にしないだけ。」
「自信のないこと?」
「そう。自分が自信もって答えられることだけ、口にする。自信のないことは、言う必要ないだろ?」
「そうであったのか。」
「ただそれだけだよ。気にしすぎだって。ほら、着いた。」
ルーイが足を止めたのは、一軒の雑貨店の前であった。
「ここは?」
「ここの店の旦那がさ、去年まで旅商人だったんだって。今のことは聞けないけど、コーゼの姫のこと、色々知ってたんだ。」
「旅商人を辞めたってことか?」
「うん。ここの店の娘が旦那に惚れ込んで、何とか結婚してもらったんだってさ。」
通行証を返却して、カミュートに定住したのか。旅の楽しさよりも、自分に惚れた女と共に生きることを選ぶ。ステフの人生にも、そういう道があるのかもしれない。
「話を聞いてみたい。」
「あぁ。いつでも来いって言ってくれてる。俺も一通りのことは聞いたけどさ、俺は直接クリュスエント様を知ってるわけじゃない。アイシュタルトが話した方が良いだろうなって思ったんだよね。」
「すまない。助かる。」
「良いって!じゃあ、行こう。」
この店の旦那と知り合うまでに、どれほど苦労したのだろうか。どれだけの人間と会って話をしたのだろうか。たった半月で、このような人物に会うことが、私にはできるだろうか。
ルーイの努力と苦労に頭が下がる。
0
あなたにおすすめの小説
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる