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それぞれの想い
黒髪の姫
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「んー。特徴、かなぁ。」
「特徴?性格のことか?見た目のことか?」
「見た目!」
「何故だ?」
「俺さ、コーゼのことについて、街で聞いてきたんだよね。もちろん旅商人とは違うから、大したことは聞けなかったんだけど、コーゼの王子に嫁いだ姫様、評判悪いんだよ。」
「何てことを!!」
ルーイの言葉に思わず声が大きくなる。姫の性格が悪いというのか。
「ち、違う。違う。落ち着けって。」
「落ち着いていられるか!」
「だから、俺、別人なんじゃないかって思って。」
「別人だと?」
「その、話に聞く姫様に、アイシュタルトが仕えるなんて思えないんだよね。いくら命令でもさ。アイシュタルトはやりたくないことをやらされそうだから、国を捨ててきただろう?」
「あぁ。」
「それなら、あの話の姫様に仕えさせられたら、アイシュタルトはもっと早く辞めてないのかなって。そう思えて仕方がない。」
「どういうことだ?」
「とんでもない性格だってこと。隣の国まで、その評判が聞こえてくるぐらいにさ。」
隣の国……カミュートに聞こえるほどの悪評だというのか。まさか、あの姫がその様なことになるとは思えぬ。
「その方の名前は?」
「それがさ、誰も知らねぇの。多分隠してるんだ。」
「何故。」
「わかんねぇ。だから、見た目の特徴しか判断できない。シャーノの姫ってどんな見た目?」
「き、金髪で、緑色の目をしていて……」
「やっぱりな。」
「どういうことだ?」
「俺が聞いてきた姫様は、黒髪なんだ。」
「黒髪?クリュスエント様は美しい金髪だ。」
「ク、クリュスエント様?それがシャーノの姫の名前?」
「あぁ。」
「そしたら、きっと別人なんだと思う。色々な言われ方をしてた姫様なんだけどさ、みんな『艶のある黒髪』だって言うんだ。いくら人伝いに聞いたとしても、金髪が黒髪になることはないだろ?」
黒髪の姫、誰だ?クリュスエント様はどうされた?私の心に不安と焦りが渦巻いていく。
姫は、本当にお幸せに暮らしているのだろうか。大切にされているのだろうか。
シャーノにいた時に、一通も送られてこなかった姫からの手紙。好戦的な王子。悪評の高い黒髪の姫。そのどれもが、私の心を揺さぶる。
「その悪評というのは、どのようなものだ?」
「黒髪の姫の?クリュスエント様とは別人だと思って聞けよ?」
「もちろんだ。」
「とにかく、性格がきついんだって。従者や下働きに対して酷い態度をとるらしい。もう何人も辞めて、辞めさせられて、それでも王子との仲は良いらしいから、誰も何も言えないって。これが、俺の聞いてきた黒髪の姫の話。」
「クリュスエント様ではない。あの方はその様な真似はなさらない。」
「うん。そう思った。アイシュタルトが仕えてて、今でも心配する程の姫様が、そんな人のはずがない。」
ルーイの顔が確信に変わっていた。別人、その様なことがありえるのだろうか。王子に嫁いだシャーノの姫、クリュスエント様には似ても似つかぬ黒髪の姫……まさか。
「側室ってやつかな。」
ルーイが私の考えを読んだ様にそう口にする。側室、それならばあり得ぬ話ではない。
では、何故姫の話は聞こえてこぬ?悪評だからか?確かに、悪評が広がるのは早いというが、それにしても側室の話であれば、当然正室の話も漏れてくるであろう。
「姫は、どこにいかれたんだ。」
誰かに問うような、一人で呟いたような、そんな言葉を口にする。
どこにも行けるわけはない。コーゼに嫁いだのは間違いない。手紙は送られてこぬとも、お体に何かあれば、連絡が入るはずだ。コーゼにはフェリスも共に移動している。
「街へ出て、他にも聞いてみるか?」
「あぁ。」
カミュートでは何もできぬかもしれない。だが、何もせずにはいられない。ここで私にできることは、一体何であろうか。
「特徴?性格のことか?見た目のことか?」
「見た目!」
「何故だ?」
「俺さ、コーゼのことについて、街で聞いてきたんだよね。もちろん旅商人とは違うから、大したことは聞けなかったんだけど、コーゼの王子に嫁いだ姫様、評判悪いんだよ。」
「何てことを!!」
ルーイの言葉に思わず声が大きくなる。姫の性格が悪いというのか。
「ち、違う。違う。落ち着けって。」
「落ち着いていられるか!」
「だから、俺、別人なんじゃないかって思って。」
「別人だと?」
「その、話に聞く姫様に、アイシュタルトが仕えるなんて思えないんだよね。いくら命令でもさ。アイシュタルトはやりたくないことをやらされそうだから、国を捨ててきただろう?」
「あぁ。」
「それなら、あの話の姫様に仕えさせられたら、アイシュタルトはもっと早く辞めてないのかなって。そう思えて仕方がない。」
「どういうことだ?」
「とんでもない性格だってこと。隣の国まで、その評判が聞こえてくるぐらいにさ。」
隣の国……カミュートに聞こえるほどの悪評だというのか。まさか、あの姫がその様なことになるとは思えぬ。
「その方の名前は?」
「それがさ、誰も知らねぇの。多分隠してるんだ。」
「何故。」
「わかんねぇ。だから、見た目の特徴しか判断できない。シャーノの姫ってどんな見た目?」
「き、金髪で、緑色の目をしていて……」
「やっぱりな。」
「どういうことだ?」
「俺が聞いてきた姫様は、黒髪なんだ。」
「黒髪?クリュスエント様は美しい金髪だ。」
「ク、クリュスエント様?それがシャーノの姫の名前?」
「あぁ。」
「そしたら、きっと別人なんだと思う。色々な言われ方をしてた姫様なんだけどさ、みんな『艶のある黒髪』だって言うんだ。いくら人伝いに聞いたとしても、金髪が黒髪になることはないだろ?」
黒髪の姫、誰だ?クリュスエント様はどうされた?私の心に不安と焦りが渦巻いていく。
姫は、本当にお幸せに暮らしているのだろうか。大切にされているのだろうか。
シャーノにいた時に、一通も送られてこなかった姫からの手紙。好戦的な王子。悪評の高い黒髪の姫。そのどれもが、私の心を揺さぶる。
「その悪評というのは、どのようなものだ?」
「黒髪の姫の?クリュスエント様とは別人だと思って聞けよ?」
「もちろんだ。」
「とにかく、性格がきついんだって。従者や下働きに対して酷い態度をとるらしい。もう何人も辞めて、辞めさせられて、それでも王子との仲は良いらしいから、誰も何も言えないって。これが、俺の聞いてきた黒髪の姫の話。」
「クリュスエント様ではない。あの方はその様な真似はなさらない。」
「うん。そう思った。アイシュタルトが仕えてて、今でも心配する程の姫様が、そんな人のはずがない。」
ルーイの顔が確信に変わっていた。別人、その様なことがありえるのだろうか。王子に嫁いだシャーノの姫、クリュスエント様には似ても似つかぬ黒髪の姫……まさか。
「側室ってやつかな。」
ルーイが私の考えを読んだ様にそう口にする。側室、それならばあり得ぬ話ではない。
では、何故姫の話は聞こえてこぬ?悪評だからか?確かに、悪評が広がるのは早いというが、それにしても側室の話であれば、当然正室の話も漏れてくるであろう。
「姫は、どこにいかれたんだ。」
誰かに問うような、一人で呟いたような、そんな言葉を口にする。
どこにも行けるわけはない。コーゼに嫁いだのは間違いない。手紙は送られてこぬとも、お体に何かあれば、連絡が入るはずだ。コーゼにはフェリスも共に移動している。
「街へ出て、他にも聞いてみるか?」
「あぁ。」
カミュートでは何もできぬかもしれない。だが、何もせずにはいられない。ここで私にできることは、一体何であろうか。
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