【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

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開戦

贈りもの

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 翌日、私たちは再びシュルトに似た馬に会いに行くことになった。

「其方達、何を考えている?」

「何にも?馬に会いたいなぁってことだけ。」

「えぇ。何とかできないかと、考えてみたいだけです。」

 昨日の店に向かう道中、二人を追及しようにも、あっさりかわされてしまう。

 昨夜から、既に何度目だろうか。

 同様の会話を何度も交わしているが、その度に二人がニヤニヤと嫌な笑い顔を私に向ける。

 ステフまであのような顔をするとは。

 二人とのやり合いに少し嫌気がさした頃、昨日の店にたどり着いた。

「馬がいない?!」

 シュルトに似たあの馬は既に並べられていなかった。

「あー。売れちゃったか。」

「騎馬隊の募集がかかる話も出回っていますから。仕方ないのかもしれませんね。」

「そ、そうだな。」

 あの馬は他の誰かと共に戦に行くのだな。

 あぁ。手に入らないとわかって初めて、自分の気持ちに気づく。私はあの馬に乗りたかったのだ。

「旦那!もう迎えに来たんです?」

 昨日、ステフのことを追い返すようにあしらった店の主人が、一変させた態度でステフに話しかけてきた。

「いいや。見に来ただけだ。開戦まで、よろしく頼むよ。」

 ステフも何事もなかったように会話を繋げていく。

「えぇ。ちゃんと預かっておきます。ご安心ください。」

 昨日より謙った態度でステフに接してるように思うのは、私の気のせいだろうか。預かるとは、何のことだ?

「アイシュタルト、他の馬を見ますか?」

「いや、いい。」

「どうして?!馬に乗って、戦に行けよ。」

「歩きで、構わぬ。」

「早く都に向かわなくていいの?」

「それは……」

 コーゼの王宮まで出来る限り早く向かいたい。それは間違いない。そのためには、馬に乗るのが一番なのはわかっている。

 だが、もう私の乗りたかったあの馬はいない。

 別の誰かと戦に向かうのだから。

 もう少し早く手を伸ばすべきであった。その機は逃してはならなかったのだ。私の望みは、やはり叶わぬ。

「あの馬が良かったんだろ?」

「あぁ。昨日のうちに決断すべきであったな。」

「他の馬は?」

「他の馬に乗る気はない。歩きで構わぬ。」

「ははっ。」

「ふふ。」

 私の言葉に二人が笑い声をあげた。

「何だ?何かおかしいか?」

「ううん。もっと、はやく言えば良いのにって思っただけ。」

「アイシュタルトは自分の望みを口にはしないから、自信がなかったんです。」

「どういうことだ?何を言っている?」

「アイシュタルト、こちらへ来てください。」

 ステフが私の手を引いて、店の奥へと進んでいく。

 勝手に店の中に入られた主人は、その様子を止めることなく、笑顔を浮かべていた。

「ステフ?どこへ行くんだ?」

「こちらですよ。」

 ステフが私を連れて行った先に、あの馬がいた。

「何故?!」

「ふふ。驚きましたか?」

「驚くに決まっておろう?」

「僕と兄さんからです。これに乗って、戦に向かって下さい。」

 ステフがそう言って、馬の背中を撫でる。

 ステフとルーイから?何を言っているんだ?何が起きているんだ?

 私にはステフの話す言葉の意味が理解できなかった。

「アイシュタルトの驚いた顔も珍しいよなぁ。」

 後ろからルーイが私に声をかける。

「ルーイ。どういうことだ?」

「どういうって、今ステフが言っただろ?そいつに乗って、戦に行けよ。」

 そいつとは?この馬のことか?私がこの馬に乗って……戦に行く?

「……っ!!」

 ようやく頭の中の整理がついた。この馬は、二人から私へ贈られたものだというのか。

 私は恥ずかしさなのか、即座に理解できなかった気まずさか、このような贈りものをされた嬉しさか、顔に血が昇るのを抑えられなかった。

 私はまるで夕陽に当てられた様な赤い顔をしてるのだろう。顔全体が熱くて仕方がない。

 それを隠すように、馬の立髪に顔をうずめた。
 
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