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1.本物の死神と偽物の死神
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あ。まただ……
背筋を辿る様に湧き上がる悪寒。
全身を震えさせるその寒気は、何度感じても慣れるものでもない。
たまには映画でも見ようと、地下鉄に乗って映画館のある駅に着いたところだった。
開場時間に間に合うように、時間を調べて逆算して、ちょうどいい時間に到着する。そのまま映画館まで真っ直ぐ。それが私の計画だったのに。
私、今日は急いでるんだけどな。
自分が上がってきた階段を振り返る。ほんの十段ぐらい下。おぼつかない足取りで階段を上ってくる おばあちゃん。
あの人か……
映画に遅れそうって、本来なら天秤にかけちゃいけないようなことを頭の中で秤にかけて、慌てて階段を駆け下りた。
「危ない!」
私がおばあちゃんの元に辿り着いたと同時ぐらいのタイミングで、おぼつかなかった足が階段を踏み外した。
私の全身でもって、その体を支えることができたのは、そのおばあちゃんが事故に遭うことをわかっていたから。
「ありがとうねぇ。おかげで命拾いしたよ」
助けたおばあちゃんが、私に何度も何度も頭を下げてお礼を口にしてくれる。
私のことを知らない人は、純粋にお礼を言ってくれるんだ。手を出して良かった。
一人で上らせるには不安の残るおばあちゃんの手を引いて、再び地上に辿り着く。
映画館へ急がなきゃ。
「また、お前か」
『また』はこっちのセリフなんだけど。
ダメダメ。今日は映画を見に行くって決めてここまで来たんだし。こんな人に構ってる暇はない。
「おい、無視するなよ」
声の主の方を見ることもなく、映画館に向けて一心不乱に歩き続ける私の後ろから、しつこく声が追いかけてくる。
「俺の仕事、邪魔するなって」
今日はしつこいなぁ。
私と違って彼は暇なのか。
「お前が邪魔するからさ、最近俺の成績落ち気味なんだけど」
暇なんだろうなぁ。私も寒気を感じてないし。
「おいって! ちょっと止まれよ!」
いやいや。映画に遅れちゃうし。こんな街中で一人で道路で立ち止まってたら、不審すぎる。
「俺、お前に触れねぇんだって。わかってるだろ?」
私が彼に背中を向けて歩き続ける限り、彼は私を物理的に足止めすることもできず。彼の声だけが私の後頭部に降り注いでくる。
私の後頭部。それも上方から。
いつもなら、そろそろどこかで呼ばれて、彼もそっちに向かって飛んでいくのに。
このまま映画館まで着いてこられたら、落ち着いて見ることもできないよ。
彼のしつこさに音を上げて、映画を諦めた私が向かった先はファーストフードショップ。ただでさえ騒がしい店内なら、私が一人でどうしてたって目立たないよね。
「あなたこそ、私の休日邪魔しないで欲しいんだけど」
喋ってるのがバレないように、コーヒーを口に運ぶフリして、彼に話しかけた。
「やっと返事した」
勝ち誇った様に、嫌味な笑顔を浮かべながら、彼が私の前に立つ。
立つ……とは少し違うかな。だって彼の足は地面に付いてない。
細身のスーツ、幅の薄い眼鏡、青っぽく見える髪色。まるで少し前のバンドマンの様な姿と、肩に乗せる大きな鎌。
死神と呼べる彼とは、もう数ヶ月前からの付き合いだ。
「学校、行きたくないな」
部屋の壁に吊られてる制服を見ながら、どうしようもない不満を口に出す。
熱もない、どこも痛くない、どこをどう見たって健康体の私が、仮病なんて使えそうにない。
今日は、寒気なんて感じませんように。
体が震える瞬間なんて、来ませんように。
毎朝毎朝繰り返すたった一つの願い。
誰もがみんな無事で、平和な世界でありますように。せめて、私の周りだけでも。
世界平和だなんて、そんなご立派な考えなんかじゃない。これは私のため。自分勝手な高校生の、役にも立たない祈り。
校門の前で、さっきの願いを強く繰り返した。
家から出て、電車に乗って、平和そのものだった道のり。ここでも、その時間が続けばいい。
「ねぇ、今日は死神来てるよ」
「本当だ。今日も、やるのかな」
私を追い抜きざまに、聞えよがしに繰り広げられる会話。
内緒話は内緒話らしく、聞こえないようにやりなよね。
そもそも、私だってやりたくてやってるわけじゃない。あんた達が勝手に危ない目に合うんじゃない。
本物の死神が来てるんだよ?
放っておいたら、連れて行かれちゃうよ?
見て見ぬふり、できないじゃない。
だって、私にはわかっちゃうんだから。
なんの前触れもなく、私の背筋を走る悪寒。寒い冬だけじゃない、真夏にも感じる震えるほどの寒気。それを感じた直後、自分の周りで事故が起きるってことに、気がついたのはいつだったっけ。
誰にも言えない。言ったところで信じてもらえるはずもない出来事。
その寒気を頼りに、人助けばかりしていたら、ついたあだ名は『死神』
そりゃそうか。私の周りで事故起きすぎだもん。その度に助けてたら、ヒーローを自作自演してるって言われ出した。
でもね、本物の死神はもっとかっこいいよ。
テレビに出てくるミュージシャンみたい。
なんて、私の力以上に信じてもらえないか。
私が人助けしちゃうから、やることがなくなった本物が、その辺を浮遊してることにも気づいた。
他の人には見えてない。大きな鎌を振り回して、黒い翼で空中を飛ぶ。
漫画の死神みたいに、とんでもない容姿じゃなくて良かった。あんなものが現実に見えてたら、恐怖で腰を抜かしてる。
「今日は邪魔すんなよな」
こんな風に突然声をかけられて。いくらイケメンっていったって、大鎌に黒い翼。人間が空を飛んでたら、心臓がひっくり返るぐらいに驚いた。
「って、何でこんなところにいるの?」
一日、何とか平和に終わった学校生活。
学校生活ってさ、思った以上に危険が多い。
階段から落ちそうになって、野球ボールが頭に当たって。調理実習なんて、やめておきなよ。
寒気を感じなかったことに感謝して、私だけがビクビクしてることに、ほんの少し苛ついて。どうにもならない悪態をつきながら家に帰る真っ最中。
寒気を感じる前に現れた本物。
いつ見ても、その姿だけはかっこいい。
「今日は、割と暇でさ。遊びに来た」
遊びに? 私のところへ?
いくらひとりぼっちでも、死神に遊んでもらわなきゃいけないほどじゃないよ。
背筋を辿る様に湧き上がる悪寒。
全身を震えさせるその寒気は、何度感じても慣れるものでもない。
たまには映画でも見ようと、地下鉄に乗って映画館のある駅に着いたところだった。
開場時間に間に合うように、時間を調べて逆算して、ちょうどいい時間に到着する。そのまま映画館まで真っ直ぐ。それが私の計画だったのに。
私、今日は急いでるんだけどな。
自分が上がってきた階段を振り返る。ほんの十段ぐらい下。おぼつかない足取りで階段を上ってくる おばあちゃん。
あの人か……
映画に遅れそうって、本来なら天秤にかけちゃいけないようなことを頭の中で秤にかけて、慌てて階段を駆け下りた。
「危ない!」
私がおばあちゃんの元に辿り着いたと同時ぐらいのタイミングで、おぼつかなかった足が階段を踏み外した。
私の全身でもって、その体を支えることができたのは、そのおばあちゃんが事故に遭うことをわかっていたから。
「ありがとうねぇ。おかげで命拾いしたよ」
助けたおばあちゃんが、私に何度も何度も頭を下げてお礼を口にしてくれる。
私のことを知らない人は、純粋にお礼を言ってくれるんだ。手を出して良かった。
一人で上らせるには不安の残るおばあちゃんの手を引いて、再び地上に辿り着く。
映画館へ急がなきゃ。
「また、お前か」
『また』はこっちのセリフなんだけど。
ダメダメ。今日は映画を見に行くって決めてここまで来たんだし。こんな人に構ってる暇はない。
「おい、無視するなよ」
声の主の方を見ることもなく、映画館に向けて一心不乱に歩き続ける私の後ろから、しつこく声が追いかけてくる。
「俺の仕事、邪魔するなって」
今日はしつこいなぁ。
私と違って彼は暇なのか。
「お前が邪魔するからさ、最近俺の成績落ち気味なんだけど」
暇なんだろうなぁ。私も寒気を感じてないし。
「おいって! ちょっと止まれよ!」
いやいや。映画に遅れちゃうし。こんな街中で一人で道路で立ち止まってたら、不審すぎる。
「俺、お前に触れねぇんだって。わかってるだろ?」
私が彼に背中を向けて歩き続ける限り、彼は私を物理的に足止めすることもできず。彼の声だけが私の後頭部に降り注いでくる。
私の後頭部。それも上方から。
いつもなら、そろそろどこかで呼ばれて、彼もそっちに向かって飛んでいくのに。
このまま映画館まで着いてこられたら、落ち着いて見ることもできないよ。
彼のしつこさに音を上げて、映画を諦めた私が向かった先はファーストフードショップ。ただでさえ騒がしい店内なら、私が一人でどうしてたって目立たないよね。
「あなたこそ、私の休日邪魔しないで欲しいんだけど」
喋ってるのがバレないように、コーヒーを口に運ぶフリして、彼に話しかけた。
「やっと返事した」
勝ち誇った様に、嫌味な笑顔を浮かべながら、彼が私の前に立つ。
立つ……とは少し違うかな。だって彼の足は地面に付いてない。
細身のスーツ、幅の薄い眼鏡、青っぽく見える髪色。まるで少し前のバンドマンの様な姿と、肩に乗せる大きな鎌。
死神と呼べる彼とは、もう数ヶ月前からの付き合いだ。
「学校、行きたくないな」
部屋の壁に吊られてる制服を見ながら、どうしようもない不満を口に出す。
熱もない、どこも痛くない、どこをどう見たって健康体の私が、仮病なんて使えそうにない。
今日は、寒気なんて感じませんように。
体が震える瞬間なんて、来ませんように。
毎朝毎朝繰り返すたった一つの願い。
誰もがみんな無事で、平和な世界でありますように。せめて、私の周りだけでも。
世界平和だなんて、そんなご立派な考えなんかじゃない。これは私のため。自分勝手な高校生の、役にも立たない祈り。
校門の前で、さっきの願いを強く繰り返した。
家から出て、電車に乗って、平和そのものだった道のり。ここでも、その時間が続けばいい。
「ねぇ、今日は死神来てるよ」
「本当だ。今日も、やるのかな」
私を追い抜きざまに、聞えよがしに繰り広げられる会話。
内緒話は内緒話らしく、聞こえないようにやりなよね。
そもそも、私だってやりたくてやってるわけじゃない。あんた達が勝手に危ない目に合うんじゃない。
本物の死神が来てるんだよ?
放っておいたら、連れて行かれちゃうよ?
見て見ぬふり、できないじゃない。
だって、私にはわかっちゃうんだから。
なんの前触れもなく、私の背筋を走る悪寒。寒い冬だけじゃない、真夏にも感じる震えるほどの寒気。それを感じた直後、自分の周りで事故が起きるってことに、気がついたのはいつだったっけ。
誰にも言えない。言ったところで信じてもらえるはずもない出来事。
その寒気を頼りに、人助けばかりしていたら、ついたあだ名は『死神』
そりゃそうか。私の周りで事故起きすぎだもん。その度に助けてたら、ヒーローを自作自演してるって言われ出した。
でもね、本物の死神はもっとかっこいいよ。
テレビに出てくるミュージシャンみたい。
なんて、私の力以上に信じてもらえないか。
私が人助けしちゃうから、やることがなくなった本物が、その辺を浮遊してることにも気づいた。
他の人には見えてない。大きな鎌を振り回して、黒い翼で空中を飛ぶ。
漫画の死神みたいに、とんでもない容姿じゃなくて良かった。あんなものが現実に見えてたら、恐怖で腰を抜かしてる。
「今日は邪魔すんなよな」
こんな風に突然声をかけられて。いくらイケメンっていったって、大鎌に黒い翼。人間が空を飛んでたら、心臓がひっくり返るぐらいに驚いた。
「って、何でこんなところにいるの?」
一日、何とか平和に終わった学校生活。
学校生活ってさ、思った以上に危険が多い。
階段から落ちそうになって、野球ボールが頭に当たって。調理実習なんて、やめておきなよ。
寒気を感じなかったことに感謝して、私だけがビクビクしてることに、ほんの少し苛ついて。どうにもならない悪態をつきながら家に帰る真っ最中。
寒気を感じる前に現れた本物。
いつ見ても、その姿だけはかっこいい。
「今日は、割と暇でさ。遊びに来た」
遊びに? 私のところへ?
いくらひとりぼっちでも、死神に遊んでもらわなきゃいけないほどじゃないよ。
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