バレンタインに両思いになったのに

涼に触れたい

「言ってみてよ。怒らないかもしれない。」

「でも……。」

「言わない？それとも、言えない？」

　トンッ。涼が僕の肩を後ろに押す。怯えて、力の入っていなかった僕はそのままベッドに倒された。

「やっ……」

　涼が僕の上に覆い被さってきて、まるで涼に押し倒されてるみたいだ。たしかに、誰かに見られるわけにはいかない。

「強情だな。」

「……やぁっ。んんっ。」

　涼が僕の唇に自分の唇を力任せに押しつけてきた。そしてそのまま、強引に口を開けさせられる。

　涼の舌が僕の口内を、我が物顔で縦横無尽に動き回り、僕の舌は僕の口の中で迷子の様に居場所を無くした。

「はぁっ。んふぅっ。」

　行き場をなくした空気と舌が、唇の隙間から出ていく度に、僕の口から甘い声が漏れる。

「ほら。俺に教えて。じゃないと、明の良いところ、もっと教えてもらうよ。」

「ひゃうっ。」

　涼がそう言うと、僕のトップスの裾から手を差し入れてきた。脇腹に涼の冷たい手が触れると、そのまま触り始める。

「んんっ。くぅっ。」

「くすぐったい？それとも、気持ちいい？」

「……ぼっ。ぼく、だってっ。」

「ん？」

　僕の口から出る、言葉らしきものに、涼が反応して手を止めた。

「僕だって……涼に……」

「俺に？」

「涼に、触れたいっ。」

　小さな声で、叫ぶ様に、僕はやっと自分のしたいことを口にした。

「は？」

　僕の言ったしたいことに、涼は驚いて固まってしまった。あぁ。やっぱり、僕が望んではいけなかったんだ。

　僕は言ってしまった後悔と、恥ずかしさで泣き出しそうだった。

「お、俺に？」

「……うん。」

　僕は顔を半分ベッドに押しつけて、もう、涼の顔も見ないようにする。

「俺に？触れたい？触りたい？」

　涼の声色がさっきまでとは変わった気がした。少し弾んでるような、楽しんでるような。何で？

「うん……触りたい。」

「いいよ。明から俺に、触れて？触って？」

　涼は僕の上から離れると、ベッドの上に横になる。無防備に横になる涼を見て、今度は僕が固まってしまった。

　触ってって、どうすればいい？いつも涼はどうしてくれてたっけ？

　付き合い始めて今日まで、僕から涼に触れたことはない。キスどころか、手を繋ごうとしたことさえない。

「明。手、貸して。」

　隣に座って固まったままの僕の手を取ると、涼は自分の頬に僕の手を当てた。

「好きに触っていい。」

　涼は僕の手を頬に当てると、そのまま添えた手を離し、目を瞑ってしまった。

　好きにって。僕の？僕は、どうしたかったんだろう。

　僕は自分の手で触れてる涼の頬を、顔を改めて見る。そして、初めて自分から涼にキスをした。

　一度してしまったら、もう止められなかった。何度も何度も、繰り返し唇を重ねる。

　涼に触れること、キスできること、それが嬉しくて仕方なかった。

　涼は目を瞑ったまま、僕が満足するのを待っていてくれるようだった。

　もう何度目かもわからないキスをすると、突然涼の目が開いて、起き上がった涼に抱きしめられた。

「もう、我慢できない。」

　そう涼の口から声が出たその時だった。

　トントンッ。部屋の扉がノックされた。

「「りょうーー！」」

　何人かの同級生が廊下で涼を呼んでる。

「はぁっ！」

　涼は大きい溜め息を一つつくと、扉まで歩いて行って、扉を開けた。

「もう、終わった？」

「鑑賞会だったんだろ？」

「でもさ、課題教えて欲しくて……」

　涼は迎えにきた同級生を連れて、部屋から出て行く。いつものように食堂での勉強会かな。

　僕は涼が出て行った扉の鍵をもう一度閉めた。

　途中で止めるのは、触ってる側も辛いんだって、初めて知った。